プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【プログレッシヴ・デスメタル】 EXTOL〜LENGSEL〜MANTRIC(ノルウェー)

Blueprint

Blueprint


(EXTOLの2nd『Undeceived』フル音源プレイリスト)'01

(EXTOLの4th『The Blueprint Dives』フル音源プレイリスト)'05

(LENGSELの2nd『The Kiss, The Hope』1曲目)'06

(MANTRIC『The Descent』フル音源プレイリスト)'10

(5th『Extol』フル音源プレイリスト)'13

'93年結成、'07年に一度解散。「プログレッシヴ・デスメタル」の枠で語られるバンドですが、構成員のバックグラウンドはそうしたもの一般のそれとは大きく異なります。ハードコアやブラックミュージックの音遣い感覚をクラシカルなコードワークで発展させた音楽性はありそうでないもので、優れた演奏表現力とあわせて唯一無二の境地に達しています。広く注目されるべきバンドです。

EXTOLは現時点で5枚のフルアルバムを発表していますが、構成メンバーの人脈は大きく3つに分かれます。具体的にはこちらのサイト
が詳しいのですが、加入・脱退の流れが少々入り組んでいるので、ここで簡単にまとめておきたいと思います。

EXTOLの構成メンバーは以下の3組に分けることができます。

《1:創設期からのメンバー》
David Husvik(ドラムス)
Peter Espevoll(ボーカル)
Christer Espevoll(ギター)

《2:初期と現在の音楽的リーダー》
Ole Borud(ドラムス以外)

《3:LENGSEL人脈》
Tor Magne Glidje(ベース→ギター)
John Robert Mjåland(ベース)
Ole Halvard Sveen(ギター)

こちらのインタビュー(2003年・Christer Espevoll:http://www.metal-rules.com/interviews/Extol-Dec2003.htm)などによると、メンバー構成は以下のように変遷していったようです。
(ここは読み流していただいて大丈夫です。)

・David HusvikとChrister Espevollにより'93年に結成。
・'94年にPeter Espevoll(Christerの2歳下の弟)がフロントマンとして参加。その後Eystein Holm(ベース)が参加し、直後の'94年春に初ライヴを行う。
・'95年にEmil Nikolaisen(ギター)が参加。
・'96年にはコンピ用に3曲を録音、スウェーデンストックホルムで公演。その数ヶ月後、Emilが脱退し、かわりにOle Borudが加入する。
・'97年夏に1st『Burial』を録音し、その後Endtime Productionsと契約して、アメリカでライヴを行い、アメリカと日本でのアルバム発売契約を結ぶ。
・'98年にはHolmが脱退、かわりにTor Magne Gridjeが加入する。
・'99年12月に2nd『Undeceived』を録音した数ヶ月後、Ole Borudが脱退し、Torがギターに転向、John Robert Mjålandがベースとして加入。その後Torは一度脱退する。
・'02年にはEndtime Productionsとの契約が満了、Century Mediaとの契約を結ぶ。
・'03年にはOle Borudが復帰。3rd『Synergy』を発表する。
・'04年にはOle BorudとChrister Espevollが脱退。Torが復帰し、Ole Halvard Sveenがギターとして加入する。(LENGSELの3人が揃う。)このメンバーで'05年に5th『The Blueprint Dives』を発表する。
・'06年にはPeterが結婚し、EXTOLの活動がほぼ停止する。その間LENGSELはスタジオ活動に入り、2nd『The Kiss, The Hope』を製作する。
・'07年にはDavid HusvikとPeter Espevoll(創設期からのメンバー)が個人的な事情によりEXTOLを脱退。ただ、その頃LENGSELの3人はEXTOLとしての新曲を楽しんで製作しており、脱退した2人とともにデモ音源も数曲録音していた。残された3人はその素材を受け継ぎ、バンド名をMANTRICに変更した上で音楽性を引き継ぐことを決意。Kim Akerholdt(ドラムス)とAnders Lidel(キーボード)を加入させ、'10年に1st『The Descent』を発表する。
・'12年にはDavid Husvik・Peter Espevoll・Ole Borudの3人でEXTOLが再結成。翌'13年には5th『Extol』を発表する。Peterは持病である耳鳴りもあってステージ上の爆音に耐えられなくなっており、そのためライヴをすることは難しいのだが、レコーディング・ユニットとしては継続している模様。

作品ごとのメンバー構成でみると、
1st:《1・2》
2nd〜3rd:《1》+《2から3へ徐々に主導権が推移》
4th:《1・3》
5th:《1・2》(Christer Espevollは不参加)
というふうに編成が変わっていったことになります。
こうした変遷がありながらEXTOLの作品群は共通する音楽的特徴を持ち続けているのですが、それぞれの仕上がりはメンバーの編成に対応して変化しています。基本的には《2》または《3》のメンバーが作曲の主軸となり、《1》も加えてアレンジを作り込むというかたちで作編曲が完成されるため、《2》《3》のどちらが在籍しているかによって作品の傾向が変わってくるのです。

《2》Ole Borudは音楽一家に育ち、ゴスペル・コーラスグループに所属していたこともある超絶マルチミュージシャンで、うるさめのメタルに通じながらも、そのバックグラウンドは70年代付近のプログレやジャズ、STEELY DANStevie Wonderのような高度なAORソウルミュージックなど多岐に渡ります。
一方、《3》LENGSEL人脈はブラックメタル〜ハードコアパンク寄りの嗜好を持っており、Ole Borudに比べ北欧のアンダーグラウンドシーンにより深く入り込んだ活動をしているようです。
従って、《2》が主軸になった1st・2nd・5thと《3》が主軸になった4thは音楽性の毛色がかなり異なります。前者は複合拍子を多用する入り組んだ展開が目立つ“いわゆるプログレメタル”寄りのスタイル。対して後者は、変拍子を用いながらもわりかしストレートに整理された構成で突き進む“激情ハードコア”寄りのスタイルになっているのです。3rdはその両者の間に位置するスタイルで、入り組んだリズム構成を残しながらも勢いよく突っ走る、スラッシュメタル的な質感が前面に出ています。

バンドとして影響を受けたとされるのは、各種インタビューで言及されたものを並べると、
・BELIEVER、TOURNIQUET(初期)、MORTIFICATION(初期)、SEVENTH ANGELなどのクリスチャン・メタルバン
ノルウェー自体がキリスト教国ということもあり、EXTOLは全メンバーがクリスチャンで、そのことを公表しています)
・KING'S X(バンド自身は否定しましたが、初期はクリスチャンロックと言われていました)
・RUSH、GENESIS、YES、古い教会音楽(讃歌)、ジャズ(Chris Potterなど)、初期デスメタル(DEATHやPESTILENCEなど)、GALACTIC COWBOYS、MESHUGGAH
など。こうしたものの要素を巧みに消化した音遣い感覚は独自の高度なもので、特に“ハードコアのルート進行感をジャズ的なコードワークで料理した”“MESHUGGAHの音遣いをノルウェー流に解釈した”ような音進行は、同郷のIHSAHNやENSLAVEDにも通じる素晴らしい味を持っています。このような音遣い感覚をベースに上記のような変遷をみせていった作品はどれも素晴らしい傑作で、LENGSEL・MANTRICの諸作も含め全て聴き込む価値があります。

そうした関連作の中から何か聴いてみるのであれば、はじめに挙げた5枚のうちのどれかが良いのではないかと思います。

EXTOLの2nd『Undeceived』('00年発表)はバンドの代表作といわれることも多い傑作で、複雑ながらとても印象的なメロディが北欧の仄暗い空気感を絶妙に伝えてくれる逸品です。まどろっこしい複合拍子(7+8など)を多用しながらも強力な勢いが損なわれていない演奏も見事で、この点では後期DEATHに通じる“気迫”が感じられます。PAIN OF SALVATIONのような文学的深みのある雰囲気を好む方や、いわゆるメロディックデスメタルのようなわかりやすい音進行を好む方にもアピールする部分が多いのではないかと思います。(いわゆるメロデスのような“ワンパターンでつまらない”ものではないです。)上に挙げた5枚の中では最もメタル色の強い作品なので、ハードコアに慣れていない方などはここから入るのが良いかもしれません。

EXTOLの4th『The Blueprint Dives』(もしくは単に『Blueprint』:'06年発表)はバンドの作品中最もハードコア色が強い作品ですが、音進行にそちら方面特有の生硬さはありません。激情ハードコア的な音遣いがEXTOLの3rdまでに連なる滑らかなコードワークで巧みに解きほぐされており、辛口の美しいメロディがストレートに突き刺さる仕上がりになっています。そしてこのアルバムはとにかく演奏・音作りが素晴らしい。繊細な音色変化と硬い肌触りを両立した出音は他に類をみないもので、個人的には、全てのロック関連音楽の中で最高の表現力をもつものの一つだと思います。先述の“MESHUGGAHの音遣い感覚をノルウェー流に解釈した”音進行とハードコア寄りブラックメタルを融合させたようなパートも見事で(最後の2曲など)、音楽的コンセプトと“伝わる力”の両面において稀有の高みに達している作品と言えます。一般的にはあまり高く評価されていないようですが、このバンドの関連作中では最高傑作の一つです。ぜひ聴いてみてほしいアルバムです。

時期的にはこの直後に制作されたLENGSELの2nd『The Kiss, The Hope』(’06年発表)も驚異的な傑作です。「HIS HERO IS GONEやCONVERGEのような激情ハードコア〜カオティックハードコアをアンビエントブラックメタルで料理した」感じの音楽性で、比較的すっきりした進行感があった『Blueprint』と比べ、(アメリカの)ブルース的な“濁った引っ掛かり”が増しています。抽象的で謎に満ちた情景描写が続くアルバムで、少し聴いただけではピンとこないものかもしれませんが、一枚通してのまとまりの良さや独特の鎮静感のある雰囲気は他に類を見ないもので、代替不可能な音楽体験を提供してくれます。極めて知名度が低く、Metal Archivesのレビューなどでもまともな点数が付いていない作品ですが、そんなことは無視してぜひ聴いてみてほしい大傑作です。

EXTOLの『Blueprint』に続く作品として製作されたMANTRICのフルアルバム『The Descent』('10年発表)は、『Blueprint』と『The Kiss, The Hope』の両方に通じる激情ハードコア的なスタイルをベースにしながらも、Allan HoldsworthやCYNICなどに通じる仄かに明るい・暖かい暗黒浮遊感覚が加わった作品で(80年代のハードコアに近づいた感じでしょうか)、先の2作品とはまた異なる豊かな音楽性が興味深い作品です。EXTOL関連作の中では最もメタル色の薄いアルバムですが、ジャズ寄りのプログレデスが好きな方などには、音遣いの面では最もアピールする一枚かもしれません。インタビュー(http://www.metalsucks.net/2010/07/14/exclusive-interview-with-mantrics-ole-halvard-sveen-ex-extol/)でメンバーが答えているように、聴き込むことでどんどん“育つ”作品です。機会があればぜひ聴いてみてほしい傑作です。

現時点('15年)での最新作である5th『EXTOL』は、タイトルが示すように、これまでのEXTOLの音楽性を一通り意識した上で非常によい形でまとめ上げた傑作です。複合拍子(13拍子のメインリフなど)も頻出するのですが、それら全てが過去作に比べ格段に滑らかに用いられており、曲展開が過剰にまどろっこしく感じられるということがありません。ドラムスと歪みボーカル以外のほぼ全パートを担当したOle Borudの演奏も素晴らしく、クリーンボーカルとリードギターの両面で卓越した表現力を発揮してくれています。上に挙げた諸作ほどの“切実な勢い”はありませんが、歌モノとして多くのメタルファン〜ポップ・ミュージックファンに訴えかける力ではこれがベストでしょう。入門編としても最適な傑作だと思います。

以上、EXTOLと関連バンドの人脈・作品について簡単に概説してみました。複雑に変遷するメンバー構成や、一般的なメタルからは少々離れた音楽性もあって、なかなか具体的に語られることのないバンドなのですが、関わったメンバーは素晴らしい才能の持ち主ばかりです。こうした人脈全体に注目が集まり、今後の活動をサポートしてくれる人が増えることを、切に願う次第です。

【テクニカル・スラッシュメタル】 DECISION D(オランダ)



(1st『Razon De La Muerte』フル音源)'92

'86年結成、'95年に一度解散。「欧州を代表するクリスチャン・メタル・バンド」と言われたこともあるようですが、ネット上には殆ど情報がなく、その真偽を調べることは困難です。

このDECISION D、殆ど無名のバンドなのですが、本稿で扱うものの中でも屈指の傑作を残した実力者集団です。後期CORONERやMORBID ANGELをスピード・メタル化したような音遣いは他の何かと比較しづらいもので、淡白な印象を保ちながらとても表情豊かに変化していきます。過剰にメロディアスにならず、それでいてモノトーンにもなりきらない。感情を揺らしすぎずに潤いを与えてくれるさじ加減が絶妙で、居心地の良さと得体の知れない深みを両立しています。また、演奏も非常に強力です。全パートが個性と技術を兼ね備えた実力者で、リーダーであるEdwin Ogenioのボーカル(HOLY TERRORのKeith DeenとSABBATのMartin Walkyierを足して強化したような感じで、テクニカルスラッシュ系のボーカリストでは群を抜いてうまい個性派です)も圧倒的に凄い。あらゆる面において他では聴けない素晴らしい珍味を提供してくれるのです。

本活動中に発表した3枚のアルバムはどれも超強力ですが、まとまりやとっつきの良さでは1st『Razon De La Muerte』がベストでしょう。あからさまに“ただならぬ”色合いを前面に出してはいませんが、CORONERやTOXIKの作品にも劣らない格をもつ傑作です。キリスト教をテーマにした歌詞も、ボーカルが淡々と演技過多な歌い回しをし続けることもあって不思議と鼻につきません。ひねりの効いたリズム構成をすっきり聴かせてしまうアレンジなども見事で、聴き込むほどに興味深く楽しめるようになります。機会があればぜひ聴いてみてほしいアルバムです。

'95年の解散後、Edwin Ogenioは牧師をやっているようですが(担当の教会があるとのこと)、'09年には自分以外の全メンバーを入れ替えてDECISION Dを再結成しているようです。「新作を製作中」というアナウンスも確認されているものの、やはり目立った情報はなく、現在何をしているかは殆ど伝わってきません。極めて優れた作品を残していながら無名のままという何とも惜しいポジションにいるバンドなので、なんとか新譜を発表していただいて、注目と再評価の機会を得てほしいものです。

【テクニカル・スラッシュメタル】 OVERTHROW(カナダ)

Within Suffering (Definitive Edition)

Within Suffering (Definitive Edition)


(『Within Suffering』フル音源)'90

カナダのテクニカル・スラッシュメタルバンド。同郷の名バンドと比べると知名度は低いですが、独自の路線のもと、そうしたバンドに勝るとも劣らない傑作を残しました。

活動中に発表した作品はデモ『Bodily Domination』('89年発表)とフルアルバム『Within Suffering』('90年発表)のみで、これは後者の再発盤でまとめて聴くことができます。欧州スラッシュメタルに微妙にハードコア〜クロスオーバースラッシュを加えたようなテクニカルスラッシュメタル路線で、硬く跳ねる演奏にはどこかインダストリアルメタル的な質感も備わっています。
(中心人物Nick Sagiasの2010年インタビュー
では、バンド全体としてはジャーマン・スラッシュ(DESTRUCTION、SODOM、KREATOR、HOLY MOSES、KREATOR)、ベイエリアのバンド(POSSESSED、VIO-LENCE)、カナダのバンド(SACRIFICE、VOIVOD)、SLAYERなどの影響が大きく、Nick個人としてはインダストリアル寄り音楽(SWANS、Einstuerzende Neubauten、MINISTRYなど)の影響もある、と表明されています。)
随所に“字余り”複合拍子を仕込みながら勢いよく走り回る演奏は素晴らしく、名サイト「Thrash or Die!」などでも「超極上の作品であり、バイブルクラスのthrash album!」と評されています。
(こちらのページhttp://www.geocities.co.jp/MusicStar/4935/re.O.htmlの最下段参照)
勢いを全開にしながらも常に不思議な落ち着きが伴う“冷徹な熱さ”はカナダ特有のもので、DBCや初期OBLIVEONなどに通じる味わいもあります。抽象的で目まぐるしく変化する曲構成は(こういうスタイルに慣れていないと)はじめは戸惑わされるものかもしれませんが、慣れて勘所を掴むと素晴らしい“効き目”に酔いしれることができます。POSSESSEDやMORBID ANGELのパンク的な部分が好きな方などにもおすすめできる傑作です。

この『Within Suffering』を発表した後、中心人物であるNick(ベース・ボーカル)がPESTILENCEへの加入(『Consuming Impulse』発表後に脱退したMartinの代役)を決めたことをきっかけに、OVERTHROWは解散することになります。
(それ以前から「OBITUARYなどの遅いデスメタル志向とSLAYERやMEGADETHなどのスタイルにならう志向」「チューニングを下げるか否か」「ボーカルスタイルをスラッシュ寄りのままにするかデスメタル寄りのものに変えるか」など、音楽的方向性の違いために新曲の製作が進まなかったことも解散の原因になったようで、同様の理由から、再結成の可能性は殆どないとのことです。)

ちなみに、NickはPESTILENCEと4曲入りのデモ『Out of The Body』を録音し、デスメタル制作スタジオの名門として名を馳せたMorrisound Studioで録音された3rdアルバムにも関わる予定だったのですが、テクニカル志向から雰囲気表現志向に移りつつあった自身の音楽的方向性のもと、PESTILENCEからの脱退を決定。ちょうど当時Morrisoundで2ndアルバムの録音作業に入っていたATHEISTのベーシストTony Choyを紹介し、その結果、TonyがPESTILENCEの3rdに参加することになったようです。
(上記のインタビューでその経緯が語られています。)

OVERTHROWの音楽には一見地味なところもありますが、演奏の凄さも音楽性の興味深さも“ありそうでない”ポジションをついていて、とても味わい深く聴き込むことができます。このジャンルが好きで意識的に掘り下げていきたいという方にはぜひ聴いてみてほしいバンドです。

【テクニカル・スラッシュメタル(便宜上)】 DOOM(日本)

illegal soul (イリーガル・ソウル)

illegal soul (イリーガル・ソウル)


(1st『No More Pain』フル音源プレイリスト)'87

(EP『Killing Field』フル音源)'88

(2nd『Complicated Mind』1曲目)'88

(3rd『Incompetent…』1曲目)'89

(4th『Human Noise』フル音源プレイリスト)'91

(QUARTERGATE『Quartergate』フル音源)'92

(5th『Illegal Soul』フル音源プレイリスト)'92

日本のアンダーグラウンド・ヘヴィ・ロック・シーンを代表する実力者。70〜80年代の膨大な音楽要素を闇鍋状に掛け合わせた独特のスタイルと、著しく高度で個性的な演奏表現力により、同時代以降の日本のミュージシャンに大きな衝撃を与えました。所属したシーンや音楽的な特徴もあって“スラッシュメタル”の枠で語られることが多いですが、そうしたジャンルからの影響は実は少なく、「共通するルーツから新たなものを構築した結果たまたま似てしまった」ということのようです。スラッシュメタルの「技術と勢いの両方を大事にする気風」に倣いながら、既存の何かのコピーに終始せず、独自の個性的なものを生み出してしまう。そういった意味では【テクニカル・スラッシュメタル】の名バンドにも引けを取らない実力者。広く再評価されるべき存在です。

DOOMの音楽性は、非常に簡単に言うと
「VENOM+KING CRIMSON(第3期)+ニューウェーブ(ゴシック・ロック寄り)を超絶テクニカルなMOTORHEADが演奏している」
という感じです。

(メンバーの音楽的背景はこのページhttp://www.geocities.co.jp/Broadway/1331/doom/doom1.htmlでだいたい網羅されていますが、それに加え、
雑誌『ヘドバン』Vol.5(シンコー・ミュージック・2014年10月刊)で、リーダーの藤田タカシさんが
NWOBHMなどもチェックしてはいたが、SEX PISTOLSやDISCHARGEのようなパンクのアプローチ(音の壁)にやられた」
「“爆発”“プラス志向”を求める一方で、KILLING JOKEやBAUHAUSのようなニューウェーブの“自虐”“マイナス志向”にもやられた」
「当時の日本の、グランギニョルやグンジョーガクレヨン、灰野敬二さんや裸のラリーズリザードのモモヨさんなど、“秘めてるんだけど、爆発する”というようなもの、隠れた怖さがあるものに惹かれる。単純に威圧感があって怖いんじゃなくて、謎めいていて、何かを秘めていて、そこに食い込むと爆発する、みたいな」
という言及をされています。)

70年代のハードロック〜プログレッシヴロック、MC5やSTOOGESからMOTORHEADやハードコアに連なる荒々しいガレージロック〜パンク、JAPAN・POLICE・KILLING JOKE・BAUHAUSのような高度で個性的なニューウェーブなど。そうした要素を、「メタル版Jaco Pastorius」と呼ばれた諸田コウ氏(ベース:'99年に逝去)をはじめとする達人の演奏力により、圧倒的な“うつむき加減に爆発する勢い”をもって統合する。先述のような「VENOM+KING CRIMSONニューウェーブ」という印象はあくまで前面に出ている要素の形容で、それを肉付けする“背景”の部分では、膨大な滋養が複雑に溶け合い、他では聴けない独自の構造を形作っています。そして、その成り立ちは作品単位で様々に変化し、統一感あるイメージを保ちながらも決してワンパターンなものにはなりません。こうした奥深く得体の知れない味わいがハイパーなヘヴィ・ロックスタイルで提示される音楽性は理屈抜きに“ガツンと来る”もので、小難しいことを考えず“豊かな混沌”に浸らせてくれます。諸田氏が亡くなる前(“本活動”期)に発表された作品はいずれも圧倒的な傑作で、こうしたスタイルが比較的受け入れられるようになってきた今だからこそ聴かれるべきものばかりです。

最初のEP『Go Mad Yourself!』('86年発表)と『No More Pain』('87年発表)ではかなりストレートな疾走感が前面に出ていて、スラッシュメタルという枠で言えば最もそれに近い仕上がりになっていると思います。ボーカルの声質などもあってVENOM(〜初期BATHORY)的な印象もありますが、音進行(〈Ⅰ→Ⅰ#→Ⅰ〉なども多用)はDISCHARGEの方に近く、同じくそれをベースに複雑な進化をしたVOIVODに似た雰囲気が漂っています。(DOOMの方がニューウェーブ成分が多い感じ。)音作りはあまり良いとは言えませんが、音楽全体のアングラ感を絶妙に高めている面もありますし、慣れれば肯定的に受け入れられる要素なのではないかと思います。プリミティブ・テクニカル・スラッシュメタルの傑作とも言える2枚で、(権利関係の問題などにより長く廃盤であり続けているため)再発が待たれる作品です。
(こちらのインタビューhttp://www.metallization.jp/columns/198によれば、再発の可能性は低くないようです。)
(2015.10.15追記:12/16に2枚組(LPミックスとCDミックスの両方収録+EP&ソノシート音源)で再発されることが決定しました。)

続くEP『Killing Field』から4th『Human Noise』まではメジャーレーベルに所属していた時期の作品で、日和らない個性的な音楽性と比較的良好なプロダクションがうまく両立されています。'07年に全て再発されたこともあり、現在でもそこまで入手は難しくありません。どれか一つ聴いてみるのであれば、この中から選ぶのがよいのではないかと思います。

EP『Killing Field』('88年発表)では、これ以前の2枚における比較的直線的なリズム構成から一転し、よく“躓く”変拍子(7拍子など)が沢山導入されています。音遣いの面ではゴシック・ロック寄りニューウェーブの要素が増え、それがハードロック〜プログレッシヴロック的な整った音進行によりうまく解きほぐされ、欧州のアンダーグラウンドなメタル(例えばAT THE GATESのゴシカルな部分)にも通じる興味深い味わいが生まれています。メジャーだからといって妙な配慮をすることもない演奏の勢いも素晴らしく、5曲28分という比較的コンパクトな仕上がりではありますが、とても密度が濃く楽しめる内容になっています。
(個人的には、メジャー期の作品ではこれが一番気に入っています。)

この次に製作された2ndフルアルバム『Complicated Mind』('88年発表)は、一般的に代表作とされる傑作です。全編にわたって第3期KING CRIMSONの要素が導入されており(本稿の【ルーツ】で触れた2曲「Lament」「Fracture」の音進行が殆どそのまま骨格になっています)、個人的にはちょっと“やりすぎ”“素直すぎる”と感じてしまいますが、こうした音遣いのもつ神秘的な暗黒浮遊感がガレージ・パンク的な荒い勢いのもとで実に効果的に提示されており、こうした要素に抵抗のない人を強く惹きつける魅力を勝ち得ていると思います。リズム構成も、変拍子(7拍子や5拍子など)を多用しながらもとてもうまくまとめられたものになっており、聴き手を小難しく振り回す印象はありません。DOOMの作品では最も滑らかな構成がなされている一枚で、入門編としても聴きやすくて良いアルバムなのではないかと思います。VOIVODが好きな方などは特に必聴です。
(VOIVODと比べると、ロックンロール〜ブルース的な引っ掛かり感覚がだいぶ強めに残っています。)

2ndに引き続きアメリカで製作された3rd『Incompetent…』('89年発表)では、スタイルを絞りすぎたきらいのある前作とは対照的に、70年代のハードロックや80年代頭のニューウェーブなど、雑多な要素が様々なかたちで前面に出てきています。そのぶんアルバムとしては(ストレートで滑らかという意味での)締まった構成がなされていない感があるのですが、慣れてくればこれはこれでゆったり浸れる良いものになっています。音作り的には最も(海外の)テクニカル・スラッシュメタル一般のそれに近い仕上がりで、ガレージロック的なプロダクションが苦手な方はここから聴く方がしっくりくるかもしれません。DOOMの作品の中では最も地味な印象がある一枚ですが、非常に充実した作品です。

4th『Human Noise』('91年発表)は、前作までのドラマー廣川錠一氏が脱退し、代わりにPAZZ氏(GASTUNKなどで活躍)が加入して製作された作品で、PAZZ氏のジャズ〜ハードコアパンク的な“重く締まった”タッチもあって、硬く弾け飛ぶアタック感の強い一枚になっています。
(錠一氏の“一打一打の踏み込みが比較的浅く、軽くラフな感じがある”タッチに対し、PAZZ氏は“きっちり芯を打ち抜き、手数と重さを両立する”タッチになっています。技術的にはPAZZ氏の方が上だと思いますが、諸田さんのベースサウンドが映える(響きの隙間をうまく残す)という点では、錠一氏のスタイルの方が相性が良かったのではないかと思います。)
このアルバムでは、ストレートに走るパートとフリージャズ的に暴れまわる“捻り”あるパートが交互に繰り出される展開が多く、PAZZ氏のタイトで瞬発力あるドラムスがそれを非常に滑らかに融合させています。“こもっているのが気になる”と言われる音作りも、よく聴けば細部まで非常に緻密に作り込まれたもので、隠微な潤いに満ちた独特の雰囲気を効果的に盛り立てていると思います。再びKING CRIMSON的なフレーズ遣いが前面に出てきた音進行など好みが分かれる部分もありますが、アルバム全体としての完成度はDOOMの作品中随一の仕上がりだと思います。これを代表作とみる人も多い傑作です。

DOOMは『Human Noise』発表後に再びインディーズに戻ることになり、'92年に2枚の関連作を製作しています。ひとつはBAKI(GASTUNKなど)との合体バンドQUARTERGATE唯一のアルバム『Quartergate』(1月発表)。そしてもうひとつはDOOMの5thフルアルバム『Illegal Soul』(11月発表)です。この2枚は長く廃盤になっており、中古でも高めの価格で取引されていることもあってなかなか聴かれる機会がないのですが、『Human Noise』までの作品で少し固まりつつあったスタイルを見直して一気に“化けた”作品で、既存のものの影が見えづらい強力なオリジナリティが確立されています。

『Quartergate』では、これまでの作品の多くに濃厚に漂っていたKING CRIMSON色がほぼ完全に排除され、ニューウェーブ(東南アジア〜中近東寄り)と70年代ハードロックの要素を高度に統合した音遣いが展開されています。その上で、BAKI由来と思しき歌謡曲寄りフォークの要素がとてもうまく溶け合わされており、DEAD ENDやPINKといった同系統の名バンドをも上回る興味深い個性が生まれているのです。これ以前のDOOMの作品に(「過剰なKING CRIMSON色に抵抗を感じる」などの理由から)のめり込めなかった人はぜひ聴いてみてほしい傑作です。

そして、これとほぼ同時期に製作されたと思われる『Illegal Soul』は、KING CRIMSON的な音進行が再び全面的に用いられているのにも関わらず「KC色が強すぎて気になる」という感想を抱かせないものになっています。KC的な音遣いを完全に自分のものにした上で独自のやり方で活用できるようになっており、(諸田氏由来と思われるインド音楽的な要素などの)他の音楽要素が絶妙なバランスで組み合わされています。どこかLED ZEPPELIN『Presence』に通じる大陸的なおおらかさが加わっているのも好ましく(これまでの隠微な湿り気も損なわれていません)、前任者に寄せた感のある軽やかなドラム・サウンドのせいもあってか、怪しく神秘的な雰囲気と風通しの良い空間感覚が両立されています。5曲目「Those Who Race Toward Death」などはDISHARMONIC ORCHESTRAの3rd『Pleasuredome』('94年発表)に通じる味がありますし、そのようなテクニカルスラッシュ〜プログレデスの名バンドと並べても全く見劣りしない格を持った作品です。個人的にはDOOMの最高傑作だと思っています。再発は難しいようですが、なんとか実現してほしい一枚です。

この後DOOMは諸田コウ氏の休止〜脱退('94年)を経て凍結状態に入り、諸田氏が亡くなった'99年にインダストリアルメタル寄りの音楽性になった『Where Your Life Lies!?』(DOOMの従来の音遣い感覚がついに独自の個性として完成した大傑作で、CORONER『Grin』やAPOLLYON SUNが好きな方は必聴です)を発表したりするなどの動きはありましたが、長く沈黙状態にありました。しかし、'14年5月に亡くなったUNITEDの横山明裕氏への追悼イベントとして開かれたYOKO Fest The Final「ヨコちゃん逝ったよ〜全員集合!!」@川崎Club Citta('14年9月12日にオールナイト開催:40組が15分ずつ休みなく演奏し続ける)への出演を機に再結成し、翌年1月のイベントVIOLENT ATTITUDEのトリを飾るフルセット・ライヴで完全復活。諸田氏の後任として加入した古平氏も含め、素晴らしいパフォーマンスをみせてくれました。今後の活動に期待が高まります。
(ちなみに、このイベントの転換BGMではKING CRIMSONの『Red』『Lizard』『Starless And Bibleblack』がこの順でかかり、KCへの熱烈な思い入れが表明されていました。詳しくはこちらをご参照ください。

DOOMは、人脈(例えばリーダー藤田タカシ氏のJなどへのサポート)や音楽的バックグラウンドの広さなどもあって、80年代の日本のメタル・ハードコアやヴィジュアル系(外からは軽く見られがちですが素晴らしく豊かな世界です)のシーンに大きな影響を与えています。作品だけみても圧倒的に優れたものばかりですし、再結成が実現した今だからこそ再び評価されなければならないバンドです。ぜひ聴いてみることをおすすめします。

【初期デスメタル】 SEPTIC FLESH

Great Mass

Great Mass


(2nd『Esoptron』フル音源)'95

(3rd『Ophidian Wheel』フル音源)'97

(7th『Communion』フル音源)'08

(8th『The Great Mass』フル音源)'11

'90年結成。いわゆる「シンフォニック・デスメタル」「ゴシックデス」の代表格とされますが、そう呼ばれるものの中では突き抜けて高度な音楽性を持ったバンドです。80〜90年代エクストリーム・メタルの豊かな音楽的語彙が、正規の音楽教育によって培われたオーケストラ・アレンジの技法により個性的に強化される。作編曲能力も演奏表現力も圧倒的で、全ての面において極めて充実した音楽を聴かせてくれます。現在のメタルシーンにおいて最も優れたバンドのひとつです。

SEPTICFLESH('90〜'03年はSEPTIC FLESH名義、一度解散して再始動した'07年からは2単語をつなげてSEPTICFLESH名義になりました)の音楽的ルーツは、様々なインタビューでかなりはっきり示されています。
・IRON MAIDEN、MORBID ANGEL、CELTIC FROST、DEATH、PARADISE LOST
(この日本語インタビューhttp://www.hmv.co.jp/news/article/1406300071/だけでなく、どんな国での取材でも上記の5バンドを影響源の筆頭として挙げています)
・Paderewski、Stravinsky、Xenakisなどの近現代クラシックや、Elliot Goldenthal、Hans Zimmerなどの映画音楽
オーケストレーション担当のChristos Antoniouの影響源)
など。
こうしたものに加え、ギリシャ〜地中海音楽(9〜15世紀に発展したビザンティン音楽ほか、歴史的に重要な作品の宝庫)の要素も端々にみられます。
以上のような複雑な音楽的滋味が、当地特有の“歌謡”感覚・空気感(もしくは、地下室の天窓から強い陽がさしてきて光と影のコントラストができるような明暗のバランス)をもつ渋くメロディアスなかたちに整えられる。混沌とした豊かさを明晰に語りきる作編曲により、聴きやすさと奥深さが両立されているのです。

SEPTICFLESHの中心メンバーは
Sotiris Vayanas(ギター・クリーンボーカル)
Christos Antoniou(ギター)
Spiros Antoniou(ベース・リードボーカル
の3名。SpirosとChristosは実の兄弟です。
この3名がともに作曲に関与し
(Christosによれば「各人がアイデアを出し合うスタイルが絶妙なバランスで機能している」とのこと)、
その上で
・Christosがオーケストラパートのアレンジを全て担当
・曲ができたらそれをもとにSotirisが作詞
ギリシャやエジプトの神話、ラヴクラフト神話体系、夢の話など:殆どの場合「曲先」とのこと)
・アルバムジャケットなどのアートワークは全てSpirosが担当
PARADISE LOSTやNILE、MOONSPELLなど、数多くのエクストリーム・メタルバンドのそれを担当:こんな感じの作品ですhttp://photo.net/photos/SethSiroAnton
というふうにして、バンドメンバーだけであらゆる要素をまかなっていきます。そしてその全てが極めて高い品質を保っているのです。このような運営ができているという点でもとても興味深いバンドです。

SEPTICFLESHの発表した作品はその全てが他に類を見ない傑作ですが、とりあえず聴いてみるものとしては、上の4枚のうちのどれかがいいのではないかと思います。

2nd『Eσοπτρον』(英語表記では『Esoptron』(ギリシャ語で“Inner Mirror”というような意味とのこと):95年発表)は、Christosがロンドンの音楽大学に作曲を学びに行き('99年に学士・'00年に修士を取得)、ギリシャに残った2人だけで制作することになった作品です。Sotirisが作編曲と作詞の全てを手掛けた一枚で、後の壮麗なオーケストラ・アレンジとは異なる(アングラ感の強めな)仕上がりになっているのですが、それが非常にうまく機能していて、噛めば噛むほど味が出てくる素晴らしい“歌モノ”揃いのアルバムになっています。全体の流れまとまりも申し分なく、バンドの代表作と言える傑作の一つです。
これ以降は再びChristosが復帰し、大学の作曲科で学んだアレンジの技法を巧みに活かし始めます。3rd『Ophidian Wheel』('97年発表)は、そういう編曲技法と初期のアングラ感が絶妙なバランスで両立されている傑作です。IRON MAIDENのような“正統派”のスタイルを荘厳に熟成させたような音遣いも見事で、いわゆる“クサメロ”にならない渋いメロディを満喫することができます。NWOBHMゴシックメタルを混ぜて地中海風に料理したような仕上がりはありそうでないもので、その両ジャンルのファンにアピールするものなのではないかと思います。
ちなみに、1st〜4thでは、クレジットのドラムスの所に「Kostas(session)」という名前が載っていますが、実はこれ、人間ではなくドラムマシンです。予算の関係からほぼ全編に渡ってマシンが活用されているのですが、他のパートの完璧なアンサンブルにより、人力のドラムスに全く見劣りしない(というかそれ以上の)レベルで巧く活かされているのです。言われなければわからないくらい自然に使われていて、聴いていて違和感を感じる場面はありません。そういう点においても非常に興味深い作品群です。

この後バンドは6th『Sumerian Daemons』('03年)の発表直後に一度解散することになります。
その理由としては
・所属レーベルからの資金援助が不十分で、継続が難しかった
・Christosが作曲家の仕事でロンドンに行かなければならなかった
・Spirosもアートワークの仕事で多忙になっていた
ということなどが大きかったようです。こうしてSEPTIC FLESHはしばらく凍結されることになったのですが、その間もファンの「復活してくれ」という要望は鳴り止みませんでした。それに応えるかたちでバンドは'07年に復活。新しいレーベルからのサポートもあって、以前は殆どできなかった海外ツアーも頻繁に行えるようになり(Sotirisは銀行員の仕事のため長期ツアーには出られず、海外公演では代役を立てています)、メンバーの意識としてはここで初めて「バンドが始動した」ということのようです。

7th『Communion』('08年発表)はそうした流れで作られた傑作で、活動停止前では資金的な問題で使えなかったフルオーケストラが全編に渡って導入されています。Christosの入念なリサーチによって選ばれたのはFilmharmonic Orchestra of Prague
プラハのオーケストラで、映画やテレビ、ゲーム音楽などの録音に多数参加している:RHAPSODY OF FIREやDIMMU BORGIRなどシンフォニックなメタルバンドにも起用され、後者とはWackenのステージでも共演している)
で、SEPTICFLESHの作品としては群を抜いてリフ・オリエンテッドで攻撃的なスタイルに、不穏な柔らかさと奥行きを加えています。このアルバムの曲は印象的な上に聴き飽きにくいものばかりで、コンパクトに押し切る思い切りのいい構成もあって、バンドのスタイルに慣れていない人からすれば最もとっつきやすいものなのではないかと思います。入門編としてもおすすめできる一枚です。
続く8th『The Great Mass』('11年発表)と9th『Titan』('14年発表)においても同オーケストラが参加しており、複雑に洗練された作編曲を絶妙に盛り立てています。
(ロックやメタルにありがちな「オケの演奏はてきとうで“曲にそぐう歌い方をしていない”」というパターンとは一線を画します。)
どちらも大変優れた作品で、聴き込む価値は高いです。アルバム全体の流れまとまりの良さでは『Titan』、音作りと演奏の強力さでは『The Great Mass』というところでしょうか。個人的には『Titan』の音作りは「響きの美味しい所を削りすぎて色合いが乏しくなってしまっている」と感じられていまいちのめり込めないのですが(100回ほど聴き通した上での感想です)、それも好みの問題ですし、他の要素は申し分なく完璧です。聴いて損することはないと思います。

ここで触れなかったアルバムも優れた作品揃いで、メタルはおろか他のジャンルでも聴けない“混沌とした豊かさ”に触れることができるものばかりです。個性的な深みと聴きやすさを両立した極上のバンド。ぜひ聴いてみることをおすすめします。

【ブラックメタル出身】 ENSLAVED(ノルウェー)

リーティール

リーティール


(2nd『Frost』フル音源)'94

(10th『Vertebrae』フル音源プレイリスト)'08

(11th『Axioma Ethica Odini』フル音源プレイリスト)'10

(13th『In Times』フル音源)'14

ノルウェー・シーンを代表する現役最強バンドのひとつ。北欧神話を題材とした歌詞もあって「ヴァイキング・メタル」の枠で語られることが多いのですが、一般的な「ヴァイキング・メタル」の定型的なスタイル(勇壮で扇情的な“クサメロ”の多用など)とは一線を画す、個性的な音楽性を持っています。豊かな音楽要素を親しみやすく融合させる作編曲・演奏表現力は素晴らしく、アルバム毎に最高到達点を更新し続ける“バンドとしての地力”も驚異的。現代ヘヴィ・メタルシーンにおけるトップランナーのひとつと言える存在です。

ENSLAVEDのバックグラウンドとなっているのは、70年代のハードロック〜プログレッシヴ・ロック(両者が不可分だった時期の名バンド)、そして、活動を始めた頃('90年頃)から聴いている様々なエクストリームメタルです。
具体的な名前を挙げれば、
前者:初期のGENESISPINK FLOYD(『Sauserful of Secrets』など)、VAN DER GRAAF GENERATOR、RUSH、KING CRIMSON
後者:DARKTHRONE、MAYHEM、AUTOPSY、CARCASS、BATHORY、CELTIC FROST、MASTER'S HAMMER、ROTTING CHRIST(特に1st)
など。
(全てインタビューで言及されたものです。)
この他にも、THE BEACH BOYSやジャズ、クラシック、実験音楽(ヨーロッパや日本のもの)、EARTHのようなドローン寄りの音楽なども沢山聴いているようで、そうした雑多で豊かな音楽要素を、「他のものからの影響は歓迎する」という姿勢のもと、積極的に取り込み続けているとのことです。
このようにして生まれる音楽は、いうなれば“影響の坩堝”であり、そのうちどれかの安易なコピーにはなりません。大量の影響源が原型を留めないくらいに消化・吸収され、エッセンスのレベルで溶け合わされることにより、このバンドにしか作れない形に再構成されていく。実際、ENSLAVEDの音楽は、上に挙げたような“偉大なオリジネイター”に勝るとも劣らない“混沌とした豊かさ”を持っています。そしてそれが、解きほぐされた明晰な語り口によって提示されることにより、複雑だけど親しみやすい、“聴きやすく興味深い”印象を与えるものになっているのです。
このような“器の大きさ”“構成力”のある作編曲はOPETHなどにも通じるもので(両者の“仕上がり”は異なります)、現代のシーン全体をみても最も優れたものの一つなのではないかと思います。

ENSLAVED('91年結成)は2015年の時点で13枚のアルバムを発表しています。その中から幾つか選ぶのであれば、上に挙げた4枚が良いのではないかと思います。

2nd『Frost』('94年発表)はバンド自身が「最初の到達点」と認める傑作です。'90年頃から演奏していたデスメタルに飽き(トレンディになりすぎたからとのこと)、CELTIC FROSTやBATHORYのようなプリミティブな方向に立ち戻ろうとする一方で、70年代のロックからも影響を受け始めた、という時期の作品で、後につながる“混沌とした豊かさ”が萌芽し始めています。
(このあたりの流れはGrutle Kjellsonの2015年インタビュー:http://crypticrock.com/interview-grutle-kjellson-of-enslaved/に詳しいです。)
ノルウェーの初期シーンに特有の“薄暗く湿った”薫り高い空気感に満ちている(ULVERやEMPERORの1stに通じる雰囲気がある)一方で、ブラックメタルの文脈からは大きく外れる音遣いが既に生まれており、雰囲気表現・音楽ともに得難く特別な味わいがある作品です。後にEMPERORで名をあげる超絶ドラマーTrymの比較的ストレートな演奏も好ましく、ブラックメタルファンには最もおすすめできる作品なのではないかと思います。

この後、3rd『Eld』('97年発表)あたりから70年代プログレッシヴ・ロックのエッセンスが前面に出始め、7th『Below The Lights』('03年発表)から現在につながる方向性が固まることになります。10th『Vertebrae』('08年発表)はそうした試行錯誤が一定の結実をみせた記念碑的傑作で、(バンド自身は「主要な影響源ではない」と言っていますが)PINK FLOYDに通じる“淡白に潤う”深い叙情が前面に出ています。8th『Isa』('04年発表)で揃った現ラインナップの役割分担も素晴らしく、オリジナルメンバーの2人(作編曲の大部分を担当するギタリストIvar Bjørnsonと作詞面のリーダーであるベース・ボーカル(がなり声)Grutle Kjellson)はもちろん、素晴らしいクリーン・ボーカル(落ち着きと苛立ちを同時に感じさせるジェントルな声質)でバンドの顔となる鍵盤奏者Herbrand Larsen、リードギターを担当するIce Dale、小気味よい機動力と“ロックらしいドタバタ感”を両立するドラマーCato Bekkevoldなど、優れたメンバーが見事なアンサンブルを確立しています。バンドに「ミキシング作業というものの大事さに気付かされた」と言わしめたJoe Barresiのミックスも素晴らしく、音作りの面でも申し分のない仕上がり。優れた内容を快適に聴き込める良い作品になっています。

続く11th『Axioma Ethica Odini』('10年発表)・12th『Riitiir』('13年発表)・13th『In Times』('15年発表)はいずれも甲乙つけ難い大傑作で、このバンドが“全盛期”に入っていることを示してくれる素晴らしい作品揃いです。再びミキサーに起用しようとしたJoe Barresiとはスケジュールが合わなかったため、OPETHの作品(『Ghost Reveries』『Watershed』)で見事な成果を挙げたJens Bogrenが(OPETHのMikaelの紹介を経て)起用されているのですが、そのどれもが大変優れた仕上がりで、ENSLAVEDの“静かに荒れ狂う”“大自然の突き放した包容力を感じさせる”音楽性が、柔らかめなメタル・サウンドにより巧みに強化されています。
この時期になると、11thの3曲目「Waruun」
のように、同郷のIHSAHNやEXTOLと共通する(MESHUGGAHの音遣いをノルウェー流に解釈したような)“オーロラが不機嫌に瞬く”仄暗い浮遊感のある音進行が生まれはじめており、独特の音遣い感覚がより高度で魅力的なものに熟成されているように感じられます。どのアルバムも、作編曲・構成ともに素晴らしいものばかりで、どこから入っても楽しめるのではないかと思います。個人的には13th『In Times』が最高傑作なのではないかと思っていますが、全て聴いてみることをおすすめしたいです。

ENSLAVEDの音楽は、メタルシーンに限らず、ノイズやプログレ、ジャズ方面にもファンがいるとのことです。奥行きが深く高度で親しみやすい音楽性をみれば、確かに頷ける話です。
(12th発表後のインタビューhttp://venia-mag.net/interview/a-i/enslaved-ivar-i-grutle/?lang=enで「ノルウェーのオールタイム・5大メタルバンドは」と問われ、TNT・MAYHEM・Høst・ULVER・ENSLAVEDの名を挙げているのですが、それが過剰な自画自賛に感じられないくらいの実力があります。)
バンドとしての実力”も、聴きやすく聴き込みがいのある作品にも、現代ヘヴィ・メタルシーン全体を代表すべき傑出したものがあります。ぜひ聴いてみてほしいバンドです。

【初期デスメタル】 PESTILENCE(オランダ)

Doctrine

Doctrine


(2nd『Consuming Impulse』フル音源)'89

(5th『Resurrection Macabre』フル音源)'09

(6th『Doctrine』フル音源)'11

初期デスメタルを代表する実力者にして、「プログレッシヴ・デスメタル」のオリジネイターの一つでもある名バンド。ジャズ〜フュージョン方面の高度な音遣い&演奏技術を巧みに取り込んだ音楽性により、後の「プログレデス」「テクニカルデスメタル」バンドの多くに大きな影響を与えました。現役「プログレデス」バンドの中では最も興味深い音楽性をもつものの一つです。

PESTILENCEは、実質的にはPatrick Mameli(ギター・ボーカル)のワンマンバンドです。「議論を好まず、自分のヴィジョンをほぼそのまま形にしてくれることを望む」
(こちらのインタビュー:http://www.radiometal.com/en/article/pestilence-patrick-mameli-makes-no-compromise,130568ではっきり表明されています)
Patrickの意向に従い、達人メンバーが統制の取れた超絶技巧を発揮する。こうした体制はやはりなかなか維持が難しいようで、アルバムごとにラインナップは大きく変化します。
(ギターのPatrick Uterwijkのみ例外的にウマが合うらしく、活動期間のほぼ全期に渡って在籍しています。)上に挙げた3枚の作品でもメンバーは殆ど入れ替わっていますが、音遣いや演奏(卓越したリードギターやボーカルなど)の醸し出す印象には共通するものがあり、他では聴けない「PESTILENCEの音楽」としての存在感をしっかり維持しています。この点DEATHに通じるところもあり、しかもそれに勝るとも劣らない(総合的には上回っているかもしれない)実力を持っているバンドなのです。

PESTILENCEの作品から“入門編”として何枚か選ぶなら、上に挙げた3作品が良いのではないかと思います。

2nd『Consuming Impulse』('89年発表)は全ての「初期デスメタル」作品の中でも屈指の大傑作で、「初期DEATHやPOSSESSEDなどに影響を受けつつ独自のものを作ろうとした」
試みが最高の結実をみせた作品です。DEATHやPOSSESSEDの個性的なリフ構成がさらに彫りの深く高度なものに鍛えあげられており、その上でジャズ〜近現代クラシック的なコード付けがうまくキマっています。
(MORBID ANGELと似た方向性の音遣いで、POSSESSEDをベースに発展するとこうなる、という好例にも思えます。そういう意味で、POSSESSEDの“いろんなものを盛り込む器”としての凄さが実感される良い例です。)
後にASPHYXに参加するボーカルMartin van Drunen(最も優れたデスメタル・ボーカリストの一人)による“暴れ回る泣き声”も素晴らしく、高度な音楽性と荒々しい勢いとが見事に両立されています。アルバムとしての構成も申し分なく良く、全ての面において突き抜けた作品になっています。デスメタルに興味のある方は必ず聴かなければならない傑作です。

5th『Resurrection Macabre』('09年発表:'94年に解散し'08年に再結成した後の第一作)も素晴らしい作品です。Tony Choy(ベース:ATHEIST / ex.CYNIC)とPeter Wildoer(ドラムス:DARKANE / ex.James LaBrie)というシーン最高レベルの達人を雇ったブルデス寄りプログレデスの傑作で、前作『Spheres』(4th・'93年発表)の煮え切らない仕上がりを反省し、複雑な音進行をストレートな展開で畳み掛けるとても“聴きやすく興味深い”仕上がりになっています。
(『Spheres』に関しては、上のインタビューで「ATHEISTやCYNICの“ジャズを導入したスタイル”についていくために、自分達は後からそれを聴き始めた」「シンセギターの用法を誤り、ソフトすぎる音を作ってしまった」と言っていますが、Allan Holdsworth寄りフュージョンのコードワークが巧みに活かされた傑作であり、聴き込む価値のある個性的な作品と言えます。)
2人のゲストに全く引けを取らないPatrickのリードギターはもちろん、Chuck Shuldinerの影響を独自に消化した奇妙なボーカルも良いもので、エキセントリックな味わいをとても洗練された語り口で示してくれる良いアルバムになっています。「はじめに聴く一枚」としてはこれがベストなのではないかと思います。

この次に発表された6th『Doctrine』('11年発表)は、上の2枚に比べるとややとっつきにくい仕上がりなのですが、このバンドならではの音遣いとアブノーマルな雰囲気がさらに高度に完成されていて、個人的には最も面白く聴ける作品になっていると思います。Ibanezの8弦ギターを導入し、それについて「MESHUGGAHはこれをリズム楽器として用いているが、自分達はコードワークの可能性を拡張するものとして用いている」と語った発言が示すように、最新の機材によって、他では聴けない個性的な音遣いが一層興味深いものに鍛え上げられているのです。復帰したPatrick Uterwijkをはじめとする「オランダ人のみで構成されたため意思の疎通がしやすくなった」バンドのアンサンブルも見事なもので、前作に勝るとも劣らない演奏表現力が発揮されています。独特の抑えた力加減が少々とっつきづらく感じられることもあるかもしれませんが、ぜひ聴いてみてほしい傑作です。

上のインタビューにもあるように、Patrick Mameliは「影響を受けるのがイヤだから他の音楽は(youtubeでプレイヤーを探すなどの場合を除いて)聴かない」と言い張り、音楽的なルーツや構成成分を自分から明かしてくれることは殆どありません。従って、この個性的な音楽性がどうやって生まれたものなのか具体的に分析するのは難しいです。しかし、そんなことをしなくても楽しめる“わかりやすい個性”に満ちた音楽ですし、その上で興味をかきたてられ、“読み解く”楽しみを味わわせてくれるものでもあります。「プログレデス」シーンの流れを追うにあたっても、単純に優れた音楽としても、触れる価値の高いバンドだと思います。ぜひ聴いてみることをおすすめします。