プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【プレ・テクニカル・スラッシュメタル】 METALLICA(アメリカ)

Master of Puppets

Master of Puppets


(3rd『Master of Puppets』フル音源)'86

スラッシュメタルの尖った音進行と交響曲的な構成力の融合。この3rdアルバムでは、楽理を学んだCliff Burton(ベース)が編曲に貢献し、高度なオーケストレーションと荒削りな勢いを見事に両立しています。メタルシーン屈指の名盤であり、現代クラシックやヒップホップなど、他ジャンルにも愛好家の存在する大傑作です。

このアルバムは、それまでの多くのメタルとは異なる「気の長い時間感覚」を持っています。リフを繋げて押す場面でも、音進行が“解決”するスパンには(コンパクトに駆け抜けるスラッシュメタルなどよりも)クラシック音楽の大曲などに近い「長さ」があります。
その意味で、同年に発表されたSLAYERの『Reign in Blood』(スラッシュメタルの歴史的名盤)などよりも、SLEEPの『Dopesmoker』やアンビエント寄り音楽の方に近いものがあり、実際、後者を聴く感覚で接した方がしっくりくるはずです。

名曲揃いの本作の中でも、このジャンルにおいて特に重要なのが、一見地味な「The Thing That Should Not Be」(3曲目)でしょう。

MORBID ANGELなどは多くの曲で似た音進行を用いていますし(『F』『G』アルバムなどは特にそう)、キレのある刻みを絡めながら(ドゥーミーと言えるくらい遅いテンポで)ねっとり押していくリズム感覚も、後のデスメタルに大きな影響を与えていると思われます。
また、MESHUGGAHのMårten Hagström(リズムギター担当:このバンドの名曲の半分を作った陰のメインソングライター)も、インタビューで「生まれ変わったなら書いてみたいこの1曲」に挙げています。

他の曲も優れたものばかり。随所で組み込まれる“字余り”変拍子(例えば2曲目「Master of Puppets」メインリフの8+8+8+5拍子)や、4曲目「Welcome Home(Sanitarium)」イントロの美しい5(10)拍子など、リズムアレンジの面でも後続に大きな影響を与えています。