プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【ルーツ】 RUSH(カナダ)

Permanent Waves

Permanent Waves


(8th『Permanent Waves』フル音源)'80

(9th『Moving Pictures』フル音源プレイリスト)'81

あらゆるジャンルにおいてカナダを代表するバンドのひとつであり、いわゆるプログレ・ハード(プログレ寄りハードロック)の代表格とされるバンドでもあります。複雑なアイデアをすっきり聴かせてしまう作編曲と卓越した演奏力、そして味わい深い歌詞。商業的成果と音楽的影響力を高いレベルで両立した、極めて稀な存在です。

後続に最も大きな影響を与えたのが独特の“キャッチーな変拍子”でしょう。7拍子や5拍子をストレートに反復して突き進むだけでなく、「8+7」「5+6」「6+7」というような「A+A'」タイプの複合拍子も多用する。そして、その構成が実に滑らかなのです。ただ単に変拍子(4拍子や3拍子以外の拍子)を使っているというだけでなく、その枠内でのアクセント移動など、“引っ掛かり”“繋がり”の作り方が非常にうまい。フレーズの音進行も印象的なものばかりなのですが、その上でこうした巧みなリズムアレンジが“フック”になり、聴き手の耳に残る力を大きく増しています。そして、それをかたちにする各メンバーの演奏も素晴らしい。特にドラムスのNeil Peartによる“硬く打ち抜く”響きは絶品で、キレよく小気味よいタッチやパターン豊かなフレージングもあわせ、最高の生理的快感を与えてくれます。こうした演奏が巧みなリズムアレンジの上で反復されることにより得られる手応えは、他に替えようのない極上の珍味と言えます。代表曲として名高い「YYZ」(『Moving Pictures』3曲目)のイントロなどは、世界一格好良い5(10)拍子パートのひとつです。

また、RUSHは、以上のようなリズム構成に加え、音遣いの面でも多くのバンドに影響を与えています。たとえば『Permanent Waves』の最後を飾る組曲「Natural Sience」。冒頭の“静かな水のなかでまどろむ”感覚や、そこに陰がさして“ぼんやりした不安感に包まれる”ような音遣い感覚は、WATCHTOWERやSIEGES EVENといったテクニカル・スラッシュメタルの強豪にかなりはっきり受け継がれています。(後者は特に大きな影響を受けています。)後期DEATHのフレーズなどにもRUSHの影が感じられる箇所があり(6th『Symbolic』1曲目のアウトロなど)、こうしたテクニカルなバンドの成り立ちを解析するにあたっては、外して考えることのできない存在だと言えます。

加えて、このバンドは作詞の面でも大きな影響を与えています。Neil Peartの歌詞はダブル・トリプルミーニングをも多用した興味深いもので、知的な内容を親しみやすく提示する手管の面でも高い評価を得ています。MESHUGGAHの歌詞を主に担当するTomas Haakeは影響源の筆頭に挙げていますし、テクニカルスラッシュ〜プログレデスなどのバンドが哲学方面の話題を歌詞に用いることが多いのも、RUSH(Neil Peart)からの影響が非常に大きいのではないかと思われます。

以上のように、音楽的にも歌詞の面でも、このジャンルを考える際には外すことのできない偉大なバンドと言えます。また、そんなことを考えなくても単純に楽しめてしまう素晴らしい“ポップ・アクト”でもあります。変拍子への対応力を気軽に身につけるための素材としても最適なので、ぜひ聴いてみることをおすすめします。