プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【ハードコアパンク】 G.I.S.M.(日本)

DETERMINATION

DETERMINATION


(1st『DETESTation』フル音源)'83

(3rd『SoniCRIME TheRapy』フル音源)'02
(リンク先の'95という表記は誤りです)

日本が世界に誇る最強のハードコアバンド。優れた音楽性と存在感により、世界中のバンドに絶大な影響を与えています。
(他ジャンルのファンはピンと来ないかもしれませんが、ハードコアの世界においては、日本はアメリカやイギリスに並ぶ音楽大国です。)

まずは上記1stの音源を聴いてみてください。'83年といえばMETALLICAの1st『Kill'em All』が発表された年ですが、その時点で既に「初期BATHORY(1stは'84年)+デスヴォイス+流麗なリードギター」的なスタイルが実現されています。スラッシュメタルのシーンが形成される前に欧州型スラッシュの最高レベル以上の作品を提示し、そればかりかPOSSESSED(1stは'85年)のような“元祖デスヴォイス”を上回る激しいボーカルスタイルをも確立しているのです。実際、Lee Dorrian(NAPALM DEATH〜CATHEDRAL)なども「絶大な影響を受けた」と公言していますし、上記1stの冒頭を飾る名曲「Endless Blockads for The Pussyfooter」をカバーしたPOISON IDEA(アメリカ)など、楽曲構造の面で影響を受けたバンドも数え切れないくらい存在します。「早すぎたメロディックデスメタル」と言われるのも頷ける、強力な先駆者なのです。
(なお、G.I.S.M.の音遣いは90年代後半以降の定型的な「メロディックデスメタル」とは一線を画します。また、80年代当時はG.I.S.M.のような“メタル色の強い(渋い)ハードコア”が「メタルコア」と呼ばれていましたが、それは現在言うところの(90年代的なメロディックデスメタルの後継である)「メタルコア」とは別物です。)

G.I.S.M.の音楽性のベースにあるのはDISCHARGEで、そのスタイルをわりとはっきりなぞっています。(アートワークなどの姿勢面においてはCRASSを意識しています。)その上で、英国ハードロック〜ヘヴィメタルの要素を曲解したメロディセンスを加えることにより、極めて個性的な音進行を生んでいるのです。ギター担当のランディ内田という渾名が示すように、Randy Rhoads周辺からの影響は大きいのですが、もともと個性的なRandyの音遣い感覚が更にねじ曲げられ、歌謡曲的な湿り気と異様な暗黒浮遊感が加わっています。4曲目「Nightmare」などはその好例。自分の技術レベルを超えた難解なフレーズを弾ききろうとする強引な気迫も作用し、独特の凄まじい勢いが生まれています。
こうした楽曲構造の興味深さに加え、G.I.S.M.の音楽を何より特別なものにしているのが、横山Sakevi(サケビ)の強力なボーカルワークでしょう。先述のような“元祖デスヴォイス”スタイルを効果的に押し出しつつ、真っ直ぐに突き進むだけでない多彩な力加減を使い分けてみせる歌い回しには、初期パンク的な“ふてぶてしいへらへら感”が備わっています。これはDISCHARGE以降のハードコアにおいては損なわれがちな要素で、剛直一本槍にならない巧みな“搦手”により、音楽全体の陰翳が大きく深められています。また、Sakevi氏はノイズミュージックからの影響も公言しており(SPKなど:そもそもCRASSにもそちら方面に通じる感覚がある)、そういう音楽特有の音響感覚、そして“長いスパンでダラダラ流れていく”“なかなか解決しない”気の長い時間感覚は、G.I.S.M.の演奏や作編曲のセンスに特別な味わいを加えていると考えられるのです。
(そうした要素は、3rdアルバムやSakevi氏のソロプロジェクトにおいて特にはっきり表れています。)

以上のようなことを考えると、G.I.S.M.というバンドは、「ハードロック〜ヘヴィメタル」「初期パンク〜ハードコア」そして「インダストリアル〜ノイズミュージック」など、様々なヘヴィ・ロックが変遷し新たなスタイルを生み出していった80年代初頭における、そうしたものの多くにとっての結節点、歴史的分岐点と言うことができるのです。横山氏が1st・2ndアルバムの再発を拒み続けるために“知る人ぞ知る存在”に留まっているのは本当に残念。この世界の音楽史にとって重要なバンドです。

なお、(上記のような事情もあって)ハードコア・シーンに興味のない方からは知られていないバンドですが、そこに関わる人からは今なお崇拝され続けている存在でもあります。この稿で言えばMESHUGGAHなど。各メンバーが様々なインタビューで絶賛していますし、2008年の来日時も、渋谷の立ち飲み屋で「日本のバンドで好きなのいる?」と聞かれたJensとTomasは「G.I.S.M.だね」と即答していました。

ここで挙げた1stは現物の入手が困難で(中古に出会うこと自体は難しくないけれどもだいたい1万数千円ついている)、紹介しておきながら申し訳ないのですが、あまり強くおすすめすることはできません。どうしてもフィジカルメディアで作品を買いたいという方には、最終作である3rd『SoniCRIME TheRapy』('02年発表:内田氏の亡くなった'01年以前に録られていたもの)をおすすめします。1stに比べ構成はすっきりしていませんが、演奏も音遣いのセンスも格段に成長し、なんとも凄まじい傑作になっているのです。特に横山氏の“Lee DorrianとKing Diamondの二重唱を強化した感じ”のボーカル・オーケストレーションは圧巻。聴く価値十分です。

〈2015.4.28追記〉
横山氏のレーベルBeast Artsから、'15年の4/29にリマスター・ベスト『DETERMINATION』が発売されました。
(流通を担当しているディスクユニオンの商品ページ:http://diskunion.net/sp/punk/detail/1006668719
このアルバムは「リマスタを施したベスト盤」という体裁の再発盤なのですが、1st『DETESTation』の全曲が(曲順は変えられていますが)余さず収録されています。このリマスタの出来は本当に凄いです。オリジナルのCD版と比べると、プリミティブ・ブラックメタル的な“シャーシャーいう摩擦感覚”が分厚く前面に押し出され、“首根っこ掴んで振り回す”暴力的な勢いが何倍にも増幅されています。現代の強力なメタル・ハードコアバンドと比べても数段上の“体感的な激しさ”が生まれていて、旧盤を数百回聴き込んだ方であっても「こんなに凄いバンドだったのか!」という衝撃を受けること必至の仕上がりなのです。コンピレーション盤としての曲順も結構良く、一枚モノとしても楽しめる作品になっていると思います。手に入るうちに是非買われることをおすすめします。
歴史的名盤の素晴らしい再発を、心よりお喜び申し上げます。

〈2015.11.23追記〉
オランダで毎年開催されている音楽フェスティバル「Roadburn Festival」の公式ホームページにおいて、「2016年の4/15(Lee Dorrianがバンド選定を担当する日)にG.I.S.M.が出演する」ことが突如発表されました。これを機に、2002年2月の「永久凍結」(実質上の解散)が解除され、G.I.S.M.としての活動が再開されることになると考えられます。
こちらの記事
では、その公式発表も含め、G.I.S.M.関連の英語記事のリンクを集めた上で、その内容を和訳しています。あわせてご参照頂けると幸いです。