プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【初期デスメタル】 DEATH(アメリカ)

Individual Thought Patterns-Reissue

Individual Thought Patterns-Reissue


(4th『Human』フル音源プレイリスト)'91

(5th『Individual Thought Patterns』フル音源プレイリスト)'93

(6th『Symbolic』フル音源プレイリスト)'95

デスメタルというジャンルの草分けにして「テクニカル(プログレッシヴ)・デスメタル」の立役者。天才Chuck Shuldiner(2001年没)の実質ワンマンプロジェクトで、数多くの名プレイヤーを世に知らしめる広告塔の役目も果たしました。達人を集め育成する“梁山泊”の主催者であり、その意味ではMiles DavisFrank Zappaなどに通じるものがあります。

DEATHのファン層は大きく二つに分かれます。初期('84年デモ『Death by Metal』〜'88年2nd『Leprosy』)の“初期デスメタル”路線と、後期('91年4th『Human』〜'98年最終作7th『The Sound of Perseverance』)の“テクニカルデスメタル”路線。そのどちらか一方を愛好し、もう一方にはそれほどのめり込めない、という人がかなりいるようです。

初期のファンはスラッシュメタル〜初期デスメタルのコアな愛好者が多く、後期の作品を「凄く上手いのは認めるけどピンとこない」と評すことが多いです。一方、後期のファンは、初期の作品を「勢いは凄いけどグチャドロでよくわからない」と感じることが多いようです。初期の作品では“なりふりかまわず突っ走る”勢いが前面に出ているのですが、「達人を集めて高品質の作品をつくる」プロジェクト志向が固まった3rd〜4th以降では、高度で整った(ある種サーカス的な)技術が前面に出ています。そのため、初期のファンは後期に対し「技術は凄いけどストレートな勢いという点ではちょっと…」と感じ、逆に後期のファンは、達人の極上の演奏表現力を求めているために、初期の未洗練な荒々しさに有り難みを見出せない、ということなのではないかと思います。

また、このように好みが分かれる背景には、作編曲における音進行の違いも関係しているのではないかと思われます。初期の「SLAYERやPOSSESSEDを少しだけNWOBHM寄りにした」感じの“正統派”デスメタル路線に対し、後期では、独特の浮遊感をもつフレーズをコード付けせずに並べた、他の何かと比較しにくい渋みをもつ音遣いが多用されています。こうした音遣いは伝統的なヘヴィメタルの感覚から少し離れたもので、後期DEATHの作品そのものに繰り返し慣れ親しまないと巧く嚙み分けることができません。また、後期のみに慣れ親しんだファンからしてみれば、初期の“正統派”寄りの音遣いはやはり嚙み分けにくいもので、高度な技術に惹かれて(メタル一般はあまり聴かないのにこのバンドだけを)聴いている場合は特に、ピンとこずに聴き流してしまう。ということなのだと思われます。

しかし、以上のように大きな変遷を遂げたように見えるDEATHの音楽も、音遣いの核の部分に関しては一貫しています。後期の作品で剥き出しになった独特の音遣いは(Chuck本人のギターソロにおいては)実は1stで既に披露されていて、作品を経るほどに定着し深化していきました。DEATHの音楽活動は、様々な伝統的ヘヴィメタルスラッシュメタルから獲得した滋養を独自のやり方で(リフ・リード両方の)単線のフレーズに落とし込もうとする試みでもあったのだと言えます。こうした意味で、ChuckのフレージングセンスはDISCHARGEやCELTIC FROSTなどと並ぶ“滋味深い灰汁”(複雑な奥行きを持つモノトーンの音遣い)であり、聴き込み吟味する価値の高いものなのです。実際、こうした感覚を学んだ上で独自の高度な音楽を作りあげてしまったバンドも存在します。(MARTYRなど。)先に述べた「達人の見本市」としての役割だけでなく、音楽そのものの味わいの面でも、DEATHの功績は大きいのではないかと思います。

上に挙げた3枚のアルバムは、ここで述べたような「達人の見本市」としての性格や「独特のフレーズ感覚」がわかりやすく示された時期の作品であり、「テクニカル・デスメタル」「プログレッシヴ・デスメタル」のシーンにおいて最も重要な作品群でもあります。それ以前は「過激なだけで見るべき所がない」「こんなの音楽じゃない」と言われていたデスメタルというジャンルが、実は音楽的に非常に高度で奥深いものなのだ、ということを知らしめるきっかけにもなったもので(一般的な意味での「デスメタル」とは異なるスタイルではあるのですが)、シーンへの貢献度の大きさは測り知れません。

その第一弾となった4th『Human』には、CYNICの中心人物2人(Paul Masvidal・Sean Reinert)と超絶フレットレスベーシストのSteve DiGiorgio(SADUSほか)が参加しています。Chuckを含む全てのパートが驚異的な演奏技術を発揮しており、シーンの優れたミュージシャンに大きな衝撃を与えました。なかでも特筆すべきはSeanのドラムスでしょう。超高速のフレーズを余裕でこなしつつ繊細な表現力まで生み出してしまうスタイルは当時の常識を超えたもので、Gene HoglaneやFlo Mounier(CRYPTOPSY)のような超一流にも絶大な影響を与えました。(「シンバルの使い方に圧倒された」と言う人が多いようです。)Paulの方はあまり目立った活躍の場を与えられませんでしたが(ソロはChuckの方が多い)、それでも要所で凄まじい技術を示しており、フルアルバム発表前だったCYNICの名をシーンに轟かせるきっかけを得たのでした。また、作編曲の面でも、「Lack of Comprehension」のイントロやインスト曲「Cosmic Sea」で独特の高度な世界を描き、MESHUGGAHの2ndなどに影響を与えています。(MESHUGGAHの2ndのブックレットで言及あり。)

続く5thはDEATHの作品中最も有名な一枚でしょう。MTVの人気ワルノリアニメ『Beavis & Butt-head』で主人公からこき下ろされる対象に起用され(この作品は何でもこき下ろすので“悪い意味での”悪意はないはずです)、最大手メタル雑誌「Kerrang!」でも非常に高い評価を得たことで、DEATHの名前と優れた音楽性が広く認知されることになりました。本作のラインナップはChuckに加えSteve DiGiorgio(ベース)・Gene Hoglane(ドラムス)・Andy LaRocque(ギター)。奇数拍子を美しくアレンジするリズム構成はRUSHをよりテクニカルに強化したような仕上がりで、ドラムス・ベースの信じ難いくらい素晴らしいアンサンブルもあって、この系統の音楽における一つの頂点を示しています。鋭く滑らかなリズムギター・サウンドも絶品。演奏表現力の深さ豊かさでは本作がベストだと思います。

6thアルバムでは、前2作での“剥き出し”な単旋律に改めて多彩なコード付けをしようという試みがなされており、しかもそれが見事に成功しています。ChuckとGene Hoglane以外のメンバーは無名の若手に交代していて、前作までの達人たちに比べるとさすがに見劣りしてしまいますが、それでも十分優れた技術をもって作品世界の構築に貢献しています。このアルバムの楽曲はどれも“歌モノ”としてよく解きほぐされた構造を持っていて、変拍子が控えめなこともあり聴きやすくなっています。作編曲の面で一つの頂点を示した作品ですし、独特の音遣い感覚を理解するための素材としても取っ付きやすいものでもあります。初めて聴くのであればこの6thが一番無難なのではないかと思います。

このような変遷を遂げたDEATHの作品群に“ブレた”感じがないのは、作品そのものの出来がどれも良いというのもありますが、Chuckが素晴らしいプレイヤーだったことも大きいのではないかと思います。上で述べたような個性的な音遣いを滑らかに表現するギターはもちろん、ボーカルが本当に素晴らしい。強靭な発声と豊かで個性的な声質、そして、どんなに音楽的に成熟しても“日和った”感じが全く現れない、気迫に満ちた歌い回し。こうしたボーカル・ギターはともに「一音聴けばその人とわかる」もので、偉大な“オリジナル”として多くのミュージシャンに影響を与えています。達人を贅沢に従えながらそれに見劣りすることがなかったのも、強力な個性を持つChuckの“格”のなせるわざだったのではないかと思います。
DEATHの遺した7枚のアルバムは全て音楽史に残るべき名作です。このシーンの流れを追う意味でもとても重要な作品群なので、ぜひ聴いてみることをおすすめします。