プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【プログレッシヴ・デスメタル】 MARTYR

Feeding the Abscess

Feeding the Abscess


(2nd『Warp Zone』フル音源)'00

(3rd『Feeding The Abscess』フル音源)'06

'94年結成。後期DEATHやCYNICに影響を受けた「プログレッシヴ・デスメタルの第二世代」と言えるバンドで、第一世代のバンドに勝るとも劣らない傑作を残しました。('12年から休止中。)複雑かつ明晰な作編曲により激情を表現する音楽性は圧巻で、メンバー全員が音楽学校で学んだ楽理・技術が完全に“道具”として使いこなされています。音楽的必然性のある“知的に感情的な”作品は多くの「テクニカル・デスメタル」「ブルータル・デスメタル」と一線を画すもので、そうしたバンドが陥りがちな“考えオチ”感や“アスリート的な味気なさ”とは無縁なのです。高度な技術と只ならぬ表現意欲を両立した、稀有の実力者と言えるバンドです。

音楽性を一言でいえば、「後期DEATH〜PESTILENCEのコード感をジャズや近現代クラシック(バルトークなど)で強化した音遣い+WATCHTOWER〜BLOTTED SCIENCEタイプのリズム構成」というところでしょうか。(CYNICとよく比較されますが、音遣いの質は異なると思います。)3枚のスタジオアルバムはそれぞれ仕上がりが異なり、そのいずれにおいても優れた音楽的成果が示されています。メンバーは超一流のプレイヤー揃いで、中心人物であるDaniel(弟・ギター / ボーカル)&Francois(兄・ベース / ボーカル)のMongrain兄弟をはじめ、全てのパートが圧倒的な技術と個性を両立。特にDanielは「プログレッシヴ・デスメタル」「テクニカル・デスメタル」シーン屈指の天才で、現在正式メンバーであるVOIVOD(13th『Target Earth』)だけでなく、GORGUTS(4th『From Wisdom to Hate』)やCRYPTOPSYなど、同郷を代表する優れたバンドの数々に客演しています。そうした達人たちが“教科書通りの手癖”に頼らず発想の限りを尽くす音楽性は本当に凄まじく、他では聴けない興味深い滋味に満ちているのです。

3枚のスタジオアルバムと1枚のライヴアルバムは全て傑作で、どれを聴いても楽しめますが、その中から“入門編”を一枚選ぶのなら、2nd『Warp Zone』が良いのではないかと思います。上記の音楽性をよりジャズ寄りにした感じの仕上がりで、暗くロマンティックなリードフレーズは美しく印象的なものばかり。リズム構成もやさしめで、一つ一つの場面が無理なく印象に残るように整理されています。(CYNICと強引に比較するならこの2ndが一番近いと思います。)「勢いを出すためにクリック(ヘッドホンから聴くカウント:メトロノームのようなもの)を使わず生のビート感を活かす」録音手法が採られており、アンサンブルに微細な“行き違い”が感じられる箇所はありますが、そういうところも含め強烈な攻撃力が生まれていて良いです。
これに関連して、もし手に入るならばぜひ聴いてほしいのが、'01年のライヴアルバム『Extracting The Core』です。1stから3曲・2ndから6曲の計9曲が収録されたライヴ録音作で、スタジオ版を上回る演奏クオリティと完璧にこなれたアンサンブルは驚異的というほかありません。録音も素晴らしく、生の(同じ場所で全員が音を出す)環境でなければ得られない“響きの干渉”が見事に捉えられています。選曲・曲順もとても良く、個人的には1stや2ndを上回る傑作だと思っています。先にスタジオ版を聴く方がいいとは思いますが、曲の“完成形”はむしろこちらのテイクだと言うこともできるので、(youtubeに音源がないので難しいとは思いますが)可能ならばぜひ触れてみてほしい作品です。
最高傑作と言えるのが3rd『Feeding The Abscess』でしょう。コードワークはジャズよりもクラシック寄りになっていて、後期EMPERORにあやしげな暗黒浮遊感を加えたような色合いが出ています。(それが結果的に「MESHUGGAHを正統派デスメタル寄りにした」感じになっているところもあります。)また、リズム構成は一気に複雑になり、WATCHTOWER〜BLOTTED SCIENCEを難解にしたような高速のキメを多用しています。したがって、フレーズをときほぐし展開を把握するにはかなりの聴き込みが必要になるのですが、無駄にこねくり回して“考えオチ”になっているところはなく、“美しい畸形”としての仕上がりが実に見事です。演奏・アンサンブルの出来も本作が一番。他の作品に慣れた上でぜひ聴いてみてほしい作品です。

MARTYRは、本稿で扱っている全てのバンドの中でも最高レベルの実力者です。表現力・作編曲・演奏技術の全ての面で一流の音楽。聴く価値は極めて高いと思います。

参考:名HP「Thrash or Die!」の管理人さんによる日本語ファンサイト