プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【テクニカル・スラッシュメタル(便宜上)】 PSYCHOTIC WALTZ

A Social Grace/...

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(2nd『Into The Everflow』フル音源)'90

'86年に結成('85年より活動していたASLANから改名)し、'97年に一度解散。その後'10年に再結成し、現在も活動を継続しているようです。
シーン的には「テクニカル・スラッシュメタル」ではなく「プログレッシヴ・メタル」の創成期に属するバンドなのですが(QUEENSRYCHE(前身は'81結成)やFATES WARNING(前身は'82結成)などの方が近い)、
演奏スタイルや本稿の構成の問題から、ここに区分しています。
DREAM THEATERと共演したことなどで知られているほかは殆ど無名のバンド。しかし、そうしたことが信じられないくらい素晴らしい作品を残しています。アメリカの地下シーンが生み出した音楽としては、あらゆるジャンルにおいて最も素晴らしいもののうちの一つです。

PSYCHOTIC WALTZの音楽はアメリカン・ゴシックの精髄です。欧州のゴシカルな音楽に影響を受け、音楽構造や雰囲気を真似しながらも、それらをアメリカからしか生まれない独自のかたちに変えてしまう。
NWOBHMを“エピック・メタル”に変容させたMANILLA ROADや、中〜後期BLACK SABBATHJimi Hendrixのモード感覚などを混ぜて独自のかたちに発展させたBLOOD FARMERS、同じくBLACK SABBATHの初期スタイルを暗黒フォークやハードコアの要素を通して再構成してしまったSLEEPなど。“アメリカ人による欧州音楽の再解釈”は、欧州からは生まれない“土臭い薫り”をもつ神秘的な作品を生んできました。PSYCHOTIC WALTZの作品はその系統に位置付けられるものであり、その中でも最高レベルの達成と言えるものなのです。

本稿で扱うバンドの中で最も近い音楽性を持っているのはMAUDLIN OF THE WELLでしょう。(人脈的な繋がりはおそらくありませんし、直接影響関係があるかもわかりませんが。)あそこで展開されている“風通しの良い暗黒浮遊感”が、ジャズ的な“尖った感じ”を減らして欧州メタル的なまろやかさを増したような感じで表現されているのです。作編曲も演奏も抜群に素晴らしく(演奏技術はMAUDLIN OF THE WELLより遥かに上でしょう)、この「テクニカル・スラッシュメタル」の項で扱っている他のバンドと比べても全く遜色ありません。なにより特徴的なのが卓越したボーカルで、独特の“アウト感”に満ちた極めて個性的な歌メロを滑らかに歌いこなすスタイルは、他の音楽では殆ど聴けないものです。
(歌メロは、それだけ抜き出して見ればそこまで異常なものではないのかもしれませんが、バッキングとのぶつかり / はずし具合が独特で(均等に・特定のコンセプトのもとで“はずして”いるのかもしれない)、奇妙な美学をもって音楽全体の顔になっています。CONFESSORの歌メロを合理的に整え表情豊かにしたような感じと言っていいかもしれません。)
このボーカルアレンジを受け継いだバンドは殆ど存在しませんが、後のテクニカル・メタルシーンで名を馳せたSPIRAL ARCHITECTなどは、ボーカルの声質まで含めてこのスタイルをほぼそのまま借用しています。聴き比べると面白いです。

上に挙げた2nd『Into The Everflow』はバンドの代表作で、必要十分に整った曲の良さとアルバム全体の“成り立ち”の美しさもあって、最も聴きやすい一枚と言うことができます。これは本当に驚異的な作品で、唯一無二の個性を非常にわかりやすく提示できているという点でも極めて魅力的なアルバムです。これほどのものを生み出したバンドが無名のままでいるという現状もあわせて、思わず溜息が出てしまうような傑作。中古なら捨て値で手に入るので(そちらの方がDL販売より安いことも多い)、見つけたらぜひ手にとってみて頂きたいと願います。

本稿で扱っているバンドとの関係を言えば、先に挙げたMAUDLIN OF THE WELLは音楽性の面で共通点が多いですし、SPIRAL ARCHITECTは非常に大きな影響を受けていると思われます。ATROXの4thなどにもPSYCHOTIC WALTZ的な要素が感じられますが、こちらはおそらくSPIRAL ARCHITECTから間接的に学んだものなのでしょう。そのあたりの比較をするにあたっても興味深いバンドです。