プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【初期デスメタル】 CARCASS(イギリス)

Necrotism - Descanting The Insalubre

Necrotism - Descanting The Insalubre


(2nd『Symphonies of Sickness』フル音源)'89

(3rd『Necroticism - Descanting The Insalubrious』フル音源)'91

(4th『Heartwork』フル音源)'93

初期デスメタルを代表する名バンド。作編曲と演奏の両方で卓越した個性を発揮し、多くのバンドに絶大な影響を与えました。発表した作品の多くは歴史的名盤で、そこから幾つものジャンルが生まれています。'90年代以降のアンダーグラウンド・ロックシーンをみるにあたって最も重要なバンドの一つです。

CARCASSの音楽は、イギリス〜ヨーロッパにおけるメタルとハードコアのクロスオーバーです。 70年代のハードロックから80年代のNWOBHMに至るメタルの流れ、そしてDISCHARGEに端を発しクラストコアやスピードコアを経てグラインドコアにつながるハードコアの流れ。当時のシーンではこうした2つの流れが互いに影響を及ぼしあっていて、両方のシーンに属するミュージシャンも多数存在していました。CARCASSの音楽性を主導するギタリストBill Steerはその筆頭です。メタル寄りのバックグラウンドを持ちつつハードコアにも慣れ親しんでいたBillは、CARCASSを結成した'87年には初期のNAPALM DEATHグラインドコアを代表するバンド)にも参加し('89年まで在籍)、歴史的名盤である1st(後半)と2ndの製作に深く関わっています。また、ベース・リードボーカルのJeff WalkerとドラムスのKen Owenはハードコア出身で、その上でメタルも分け隔てなく楽しめる嗜好の持ち主でした。こうしたメンバーが集まり、メタル・ハードコアそれぞれの豊かな要素を無節操に組み合わせることで、それまでにはなかった強力な音楽的雑種が生まれます。CARCASSの活動は、「アクティブな音楽マニアが伝統を全く新しいかたちで活かそうとする」試みの歴史と言えるのです。

こうしたことに加え、CARCASSは、このバンドにしかない音楽要素を2つ持っています。一つはBill Steerによる音遣いの“暗黒浮遊感”。そしてもう一つは、Ken Owenを土台とした個性的に“弾け飛ぶ”アンサンブルの質感です。

まずBillの音遣い。これはNAPALM DEATHの1st・2ndにも言えることなのですが、Billの作るフレーズには、それまでのメタルやハードコアにはない(少なくとも前面に出てはいない)不思議な浮遊感があります。DISCHARGEやクラストコア(AMEBIXやDOOM(イギリス)など)のシンプルながら妙にねじ曲がったフレーズを、NWOBHM的なフレーズ〜コード感覚で肉付けしたらこうなる、ということなのでしょうか。CARCASSにおけるそれは初期NAPALM DEATHのものより幾分メロディアスで、安易な“泣き”に陥らない(“解決”しない)感覚を保ちつつ表情豊かに動き回る音進行になっているためか、独特の暗黒浮遊感が大きく増幅されています。CARCASSの作編曲スタイルはアルバム単位で大きく変化していきましたが、こうした音遣い感覚はその全てにおいて維持されていて、他では聴けない薫り高い魅力を持ち続けているのです。

そしてアンサンブルの質感です。ギター・ベースまわりの「欧州ハードコア特有の“水気を含んでぶよぶよ膨れる”質感が、メタル的な締まった量感と組み合わされることで生まれる、“マッシヴなアタック感”」も個性的ですが、それ以上にKen Owenの図太くヨレるドラムスが凄いのです。速いフレーズの一つ一つを全力で叩き切ろうとする無謀なスタイルで、リズムが崩れることを気にせず突っ込む様子は、後のテクニカルなデスメタル・ドラマーからすれば「効率の悪い叩き方に終始するただのヘタクソ」としか思えないでしょう。しかし、この独特のヨレ方とそこから生まれるスリリングな起伏は他では聴けないもので、ギター・ベースの“マッシヴなアタック感”を何倍にも増幅しつつ、バンドサウンドに豊かな表情を付け加えています。このようなアンサンブルはそれ自体が唯一無二の魅力を持っていて、同時代以降の他のバンドに絶大な影響を与えました。CARCASSの作品においては、それまでのメタルやハードコアには存在しなかった(両者を組み合わせて生まれた)興味深いリズムアイデアが多数編み出されており、それらの全てがこの特徴的なアンサンブルによって形にされています。その結果、音遣いだけでなく、リズム〜グルーヴの面でも他では聴けない魅力が生まれているのです。

CARCASSは、以上のような魅力を保ちながら全ての作品で異なるスタイルを提示し、世界各地のシーンに絶大な影響を与えました。それぞれの作品が新たなジャンルを生み、各々のシーンのオリジネイターとしての評価を得ています。そうしたシーンからの新たな広がりまで考えれば、CARCASSが直接・間接的に及ぼした影響は甚大です。アンダーグラウンドな世界に留まらず、ポップスの音作りなどにも参照されている部分があるのです。
(「Isobel」のリミックスを部分的に依頼したBjörkが代表的ですが、低音の扱い方を極端なかたちで洗練させていったデスメタルというジャンルの影響力(SLIPKNOTや種々の“ラウドロック”を経由したもの)までみれば、CARCASSの作品に端を発するアイデアは測り知れない広がりをみせていると言えます。)

まず重要なのが1stデモ『Flesh Ripping Sonic
Torment』('87年発表:現在は1stアルバムの再発盤に収録)です。
NAPALM DEATHに通じるグラインドコアパートを含む一方、ミドルテンポ寄りの“腰だめに走る”爆走パートも絡める作風で、後者の特徴的な演奏感覚は(AUTOPSYとともに)北欧の初期デスメタルに絶大な影響を与えました。
(特に「Regurgitation of Giblets」や「Malignant Defecation」、「Pungent Excruciation」などのブラストビートでないところ。)
NIHILIST(ENTOMBEDの前身)やNIRVANA 2002といったスウェーデンを代表するバンドはこうした演奏感覚をほぼそのまま受け継ぎ、その上で独自の解釈を加え、「デス&ロール」と言われる魅力的なスタイルを生み出しました。

また、その次に発表された2ndデモ『Symphonies of Sickness』('88年発表:2ndフルアルバムの雛形)では、グラインドコア寄りの短い曲が多かった1stデモと比べ長めの曲が増えていて、遅めのテンポでじっくり聞かせるパートではドゥーミーな感覚も生まれています。
XYSMAやDISGRACEといったフィンランドバンドは、こうした演奏感覚に大胆に初期パンク〜ロックンロールの要素を加えたり、当地特有のドゥーミーな感覚を加えて重苦しい雰囲気を強化してしまうなど、やはり独特で興味深いかたちに発展させています。
(『1990』というコンピレーションアルバムで聴けるDISGRACEのデモ2枚はCARCASS影響下デスメタルの大傑作で、ある意味本家を超える圧倒的な作品です。)

以上に続いて発表された1stアルバム『Reek of Putrifaction』は、同時期に録音されたNAPALM DEATHの2nd『From Enslavement to Obliteration』の影響もあってか、1stデモよりもグラインドコアの“痙攣的に地面に張り付く”高速パートが増えています。強烈にこもったサウンドプロダクションは(一般的な感覚から言えば)劣悪で、ミキシングの失敗もあってバランスを欠いたものになってしまっているのですが、そうした音作りは音楽全体の暴力的なアングラ感を増強していて、高速で痙攣する演奏とあいまって凄まじい勢いを生み出しています。こうした要素はアルバムの過激なコンセプト(死体写真のコラージュと医学用語を多用した歌詞:メンバーの多くはベジタリアンで、そうした立場からの攻撃的な意思表明)と強力な相乗効果を発揮し、多くのレコード店から取り扱いを拒否される一方で、一定の層に熱狂的に受け入れられました。「ゴアグラインド」と呼ばれるジャンルはCARCASSのこの1stフルアルバムの路線を強く意識したもので、上記のようなアルバムアートワークと歌詞のコンセプトをそのまま受け継いだバンドをいまだに量産し続けています。
(ある意味DISCHARGEとD-Beatバンドの関係に通じるものがあります。)

翌年('89年)に発表された2ndアルバム『Symphonies of Sickness』では、先に述べた2ndデモと同じく長めの構築的な展開が増えていて、NWOBHM〜欧州クサレメタル的なメロディアスなフレーズがやや遅めのパートを絡めてじっくり披露されています。いわゆる“正統派”デスメタルに接近した作風で、本作から5thアルバムまでのプロデュースを担当するColin Richardsonの貢献によって、深いアングラ感とそれなりの聴きやすさがうまく両立された仕上がりになっています。“初期デスメタル”的にはこのアルバムが最高傑作で、北欧のシーンだけでなく世界中の同時期のバンドに多大な影響を与えています。このあたりからリズムパターンが多様になり、Ken Owenの個性的なドラム・グルーヴが素晴らしく映えるようになっていきます。

3rdアルバム『Necroticism - Descanting The Insalubrious』('91年発表)では、スウェーデンの初期デスメタルバンドCARNAGEに所属していたギタリストMichael Amott(後にARCH ENEMYやSPIRITUAL BEGGARSを結成)が加入。前作までの「低域で蠢くドロドロしたデスメタル」スタイルから一転、複雑にひねられたリフ構成とメロディアスなリードギターを前面に押し出した“メジャー”な作りになっています。このあたりからバンドのNWOBHM〜正統派ヘヴィメタル志向が強まっていたようで(「本作はKING DIAMONDの名盤『Abigail』『Them』を意識したものだ」という発言があります)、個性的なリードフレーズと独特の“暗黒浮遊感”溢れるコードワークの魅力はここにきて一気に花開くことになりました。こうした音遣いは他では聴けない高度な個性を確立していて、「プログレデス」的な観点でも楽しめる素晴らしい仕上がりになっています。本稿的には最もおすすめできる作品です。

続く4th『Heartwork』('93年発表)はCARCASSの作品中最も有名な一枚でしょう。いわゆる「メロディックデスメタル」の始祖として扱われることもある名盤で、前作における正統派ヘヴィメタル志向が徹底的に洗練されたかたちで提示されています。前作においては(Billの個性的な音遣い感覚の上で)微妙に浮き気味だったMichaelのストレートなメロディ進行がわりとしっくり収まるようなアレンジが出来ていて、その上で初期作品に連なる独特の暗黒浮遊感もしっかり受け継がれているのです。
('90年代中期以降の(初期デスメタルとは質の異なる)「メロディックデスメタル」とは、Michaelのギターフレーズだけみれば共通する部分が確かにあるのですが(アルバムラストの「Death Certificate」とARCH ENEMYの3rd『BURNING BRIDGES』1曲目とでは同じフレーズが使われています)、そうした「メロデス」におけるわかりやすくワンパターンな“泣き”の進行と、本作の(グラインドコア要素もある)複雑な音進行は別物で、同じ文脈で語られることが多いものの、やはり分けてみるべきなのではないかと思います。)
本作は、これまでのCARCASS作品が持つ個性的な旨みを損なわずに聴きやすく整理することに成功した作品で、ジャンルを問わず最も広い層にアピールする一枚なのではないかと思います。6曲目「This Mortal Coil」イントロの〈7+8+7+10(=32=8×4)〉フレーズなど、すっきり流れていく展開の中でヒネリを効かせる箇所も多く、聴き込む楽しさもしっかり備わっています。ここまでの4作の中では最も入りやすい一枚なのではないかと思います。

4thアルバムの発売後、Michael Amottの脱退・Carlo Regadasの加入を経て、CARCASSは北米での発売元であるColumbiaレコードと契約を締結。その上で新作の録音を行ったのですが、Columbiaは完成したアルバムのリリースを拒否。バンドとレコード会社の関係は次第に悪化し、新作が発売されない状況に耐えられなくなったBillはバンドを脱退してしまいます。これにより活動を継続できなくなったCARCASSはColumbiaからの契約を破棄され、Earacheレーベルに戻った後に5thアルバム『Swansong』を発表('96年)。一度解散することになりました。
この5thアルバムでは前作までのNWOBHM〜'70年代ハードロック志向がさらに推し進められていて、その上でこのバンド特有のひねられたアレンジや演奏感覚もしっかり発揮されており、CARCASSに先んじて「グラインドロック」路線に転換したENTOMBEDやXYSMAなどとはまた異なる仕上がりになっています。このバンドの作品の中では“刺さる”力が若干弱いものの、非常に興味深く聴き込める内容で、他のアルバムを一通り聴いた上で手を出す価値は充分あります。

こうして一度は解散したCARCASSですが、'07年には再結成してライヴ活動を開始。Ken Owenは'99年に患った脳出血のため本格的に参加することができませんでしたが、後任に優れたドラマーを加入させ、'13年には傑作6th『Surgical Steel』で見事な復活を遂げました。
(日本のメタル雑誌『Burrn!』の年間ベストアルバムを獲得するなど、作品だけでなくバンドとしても一気に評価されるようになった感があります。)
本作では「4th・5thアルバムの中間」と言える路線が圧倒的な勢いをもって追求されており、HOLY TERRORのような超一流のスピードメタルにも勝るとも劣らない素晴らしい内容になっています。だいぶNWOBHM色の強まった音遣いは4th以前のものとは一見毛色が異なりますが、独特の浮遊感あるヒネリは健在で、Bill Steerにしか出せない固有の感覚はより味わい深く熟成されています。過去作からは少し離れた作風なのでここから入るのは微妙な気もしますが、作品単体でみれば最も入門に適した一枚なのではないかと思います。

以上のように、CARCASSの音楽は70〜80年代の「ハードロック〜ヘヴィメタル」「ハードコア〜グラインドコア」全般の素晴らしいハイブリッドで、それを他にない音遣い感覚と個性的な演奏感覚により独自の高みに引き上げてしまったものなのだと言えます。その影響は絶大で、たとえば昨今のアメリカのハードコアが北欧の初期デスメタルシーンから多大な影響を受けていることを考えても(初期ENTOMBEDや初期DISMEMBERをそのままなぞったようなBLACK BREATHの諸作などが好例)、直接・間接的に及ぼした影響には測り知れないものがあります。こうした流れを俯瞰するにあたっては最も重要なバンドの一つですし、このシーンが生み出した最高の音楽成果の一つとして理屈抜きに楽しめるものでもあります。ぜひ(入りやすい所から)聴いてみることをおすすめします。