プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【初期デスメタル】 CARBONIZED(スウェーデン)

Screaming Machines

Screaming Machines


(1st『For The Security』フル音源)'91

(2nd『Disharmonization』フル音源)'93

(3rd『Screaming Machines』フル音源)'96

'88年結成。スウェーデンのシーンを代表する「プログレッシヴ」「アヴァンギャルド」なバンドで、グラインドコア寄りデスメタルにKING CRIMSON〜VOIVOD的な要素を加えて独自のスタイルを生み出すことに成功しました。残した3枚のアルバムはどれも非常に個性的で、このジャンル全体をみても屈指の傑作と言えるものばかりです。

CARBONIZEDの音楽性は「どこから来たのか」分析するのが難しい部分があります。'88年から'90年にかけて発表されたデモ『Au-To-Daf』『Promo』『No Canonization』『Recarbonization』と、その後に発表された1stフルアルバム『For The Security』以後とでは、ギタリストが交代しており(Jonas DeroucheからChristofer Johnsson('88年に結成したTHERIONの中心メンバー)へ)、デモ音源収録曲を(10曲中5曲)引き継いで作成された1stアルバムでは、その変化の継ぎ目が見えづらくなっています。たまたま似た音楽性を持つメンバーを迎え入れたのか、それとも前任者の残した素材を後任者が巧みに料理したということなのか。複雑な味わいをもつ魅力的な音楽性ということもあり、そのあたりの興味も尽きません。

その1stアルバムでは、NAPALM DEATH〜CARCASSラインの音遣いにVOIVOD(のKING CRIMSON的要素)やMORBID ANGELのような風味を加えたグラインドコア寄りデスメタルをやっており、音遣いの成り立ちの性格もあってか、どこかDISCORDANCE AXISあたりを連想させる色合いが生まれています。直線的な勢いと複雑な味わいを両立した音楽性が素晴らしく、この手のスタイルにおいても最上級の優れた仕上がりになっていると思います。このバンドの作品の中でも最も評価の高い一枚で、スウェーデンの初期デスメタルシーンを代表するカルト名盤として(オリジナル盤は)高額で取引されています。

続く2nd『Disharmonization』はいわゆる問題作で、雑多でとりとめのない構成もあってか、1stを好むファンの多くからは酷評されています。1stのプログレッシヴ・グラインドコア路線から大きく転換し、チェンバー・ロック的な展開を導入しようと試みた感じの作風で、VOIVODの『Nothingface』に欧州のゴシック感覚を加えたのはいいけれど同様の完成度は得られなかった、という趣のスカムな仕上がり。(水木しげるの作品で例えるなら、VOIVODがメジャーデビュー後、CARBONIZEDが貸本初期といったところでしょうか。)慣れないと“余計なことを考えず”没入するのが難しい出来なのですが、落ち着きなく痙攣するようなアンサンブルも興味深く(グラインドコア的な速く直線的なリズムは上手くても、遅めのテンポでじっくり間をもたせるのはまだ下手という感じ)、非常に個性的で味わい深い内容ではあります。

これとは対照的に、最終作となった3rd『Screaming Machines』は素晴らしい仕上がりになっています。2ndアルバムで実験していた諸要素が高度な音遣い感覚のもとで活かされ、独特の不穏な“間合い”を持った演奏もうまくまとまり、全体として見事な調和をみせているのです。前作から多用されるようになったKING CRIMSON的要素も、“そのまま引用”するのでない個性的な解釈が見事で、この点ではVOIVODを上回っているのではないかと思います。全曲がここでしか聴けない音楽構造と雰囲気をもっていて、“フリ”ではないナチュラルな変態としての魅力にも溢れている。「初期デスメタル」だけでなく「プログレッシヴ・デスメタル」の枠においても屈指の傑作として評価されるべきアルバムです。

以上のように、CARBONIZEDの発表したアルバムは個性的な傑作揃いで、強くおすすめできるものばかりなのですが、1stの後が大コケ扱いされていることもあり、現物の入手は極めて難しい状況にあります。'03年に再発されたロシア盤も現在は入手困難。近年のスウェーデン・シーン再評価の波に乗って、なんとか再発が進むことを望みます。