プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【ブラックメタル出身】 VIRUS(ノルウェー)

Black Flux (Dig)

Black Flux (Dig)


(2nd『The Black Flux』フル音源)'08

(EP『Oblivion Clock』フル音源)'12

ノルウェー・シーンを代表する奇才Czral(Carl-Michael Eide)のリーダー・バンド。VED BUENS ENDEの後継ユニットとされるバンドで、Czralはギターとボーカルを担当しています。アヴァンギャルドな音遣いをお洒落に聴かせてしまう歌モノスタイルなのですが、そこで表現される重い空気はVED BUENS ENDE以上に凶悪です。ブラックメタルのシーンから生み出された音楽の中では最も強力なものの一つでしょう。

VIRUSの音楽的コンセプトはかなりハッキリしています。Czral本人が「TALKING HEADS+VOIVODと言われることが多い」と述べているのに近いスタイルで、「KING CRIMSON〜VOIVODラインの音遣いを濃いめのブルース感覚に溶かしこみ、ジャズ的なエッセンスを振りかけた上で、ディスコやレゲエ方面のテクニカルなベースラインを加えた」ような音楽性が、曲によって様々に配合を変えながら表現されていきます。よく動くベースと余計なことをしないタイトなドラムス、そして複雑なコードをかき鳴らし続けるギターの対比は、「FRICTIONやSONIC YOUTHのようなノーウェーブ寄りバンドをブラックメタル化した」ような感じもあり、そちら方面の“オルタナ”ファンも楽しめるものなのではないかと思います。
(実際、Czral自身も「VIRUSは“avant-grade heavy rock”であり、ブラックメタルとは繋げて考えたくない。(そもそも何かの一部として扱われたくない。)メタルファンにもオルタナファンにもアピールし得る音楽性だと考えている」と発言しています。
:'08年のインタビューhttp://www.avantgarde-metal.com/content/stories2.php?id=88より。網羅的で興味深い内容です。)

こうした音楽性は、様々な映画(Andreï Tarkovsky、Federico Fellini、Peter Greenaway(『コックと泥棒、その妻と愛人』)、David Lynchなど)に影響を受けたものでもあるようです。上記のような瞬発力溢れる演奏スタイルが、重く停滞するアンビエントな空気感のもとで展開される。このようにして表現される雰囲気は、VED BUENS ENDEに含まれる無自覚の毒性を抽出し濃縮したものでもあり、社交的に洗練された殺人的ユーモア感覚を漂わせることもあって、さながら「精製された呪詛」というような趣すらあります。“第3期”KING CRIMSONの独特の暗黒浮遊感とノルウェーブラックメタルを掛け合わせ、アメリカ寄りのブルース感覚でずぶ濡れにしてしまった、という感じの味わいは何ともタチの悪いもので、それが歌モノの聴きやすい形で提供されることにより、聴き手を手際よく中毒症状に陥れる“効き目”を獲得しているのです。

このような音楽性は、VED BUENS ENDEの要素をはっきり受け継いではいるものの、構成要素のバランスに関して言えば異なる部分も多いです。KING CRIMSONになぞらえるならば、VED BUENS ENDEが1st『In The Court of The Crimson King』、VIRUSが“第3期”と“第4期”の中間というところでしょうか。リーダー格のメンバーが複数集まることにより複雑な配合が生まれた1stと、一名のリーダーがはっきりしたコンセプトをもって先導していった“第3期”以降とでは、混沌とした豊かさが(無自覚に)活かされる度合いがどうしても異なります。VED BUENS ENDEとVIRUSの関係は概ねこんな感じに対比できるもので、そうした“成り立ち”の違いを踏まえて聴くと、とても興味深く読み込めるようになっているように思います。

VIRUSの作品から1枚だけ選ぶなら、2nd『The Black Flux』('08年発表)が良いと思われます。Czralの転落事故('05.5.26:ビルの4階から落ちたことで足の自由を失い、ドラマーとしてはリタイアすることになった)以後の初作品で、そうしたことにも関連する心境が反映された「世界の終わりのような音(アーマゲドンのようなものではなくもっと個人的なもの)」という仕上がりになっています。1st('03年発表)で提示された諸要素を洗練して上記のようなスタイルを完成させた作品でもあり、淡々とした暗い雰囲気のもとで勢いよく突き進む演奏は圧巻。再結成VED BUENS ENDE('06年:アルバム制作中に決裂)のために書かれた素材からなる曲が多いという点でも非常に興味深い作品です。
ただ、個人的な感覚で選ぶならば、3rd('11)の翌年に発表された『Oblivion Clock』('12)が最も好ましく思えます。同年制作のEP(新録4曲)と未発表だった3曲を合わせた7曲入りで、新曲であるタイトルトラックは再結成VED BUENS ENDEのセッションで部分的に録音されていた素材から作られているとのことです。ここに収められた新録4曲では、KING CRIMSON〜VOIVOD的な音遣いの使用が幾分控えられていて、ノルウェーブラックメタル寄りの“薄くこびりつく”エッセンスが(VIRUSの作品の中では例外的に)すっきりした形で活かされています。こちらの方が“他の何かを連想させる”雑味が少ないぶんCzral本来の持ち味が出ていると感じますし、先述のようなアンビエント感覚がより純度の高い形で示されているという点でも、現時点での到達点を表しているのではないかと思います。非常に優れた作品です。

VIRUSの音楽はどうしても(音楽性はもちろんそれ以上に雰囲気表現の面で)マニアックと言わざるを得ないものですし、広い認知を得られないのも無理もない面はあります。しかし、そうしたマニアックな要素をとても伝わりやすい形で示すことができているものでもあります。VED BUENS ENDEと併せ、ぜひ聴いてみてほしいバンドです。