プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【初期デスメタル】 CRYPTOPSY(カナダ)

None So Vile -Reissue-

None So Vile -Reissue-


(2nd『None So Vile』フル音源)'96

(4th『And Then You'll Beg』フル音源)'00

いわゆる「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」を代表するバンド。そうした路線の先駆けとされるSUFFOCATIONなどを参考にしつつ、複雑な構成を超高速で演奏するスタイルを推し進め、多くのミュージシャンに大きな影響を与えました。この【初期デスメタル】の項で扱うものの中では現在の主流に最も近いバンドで、そうした意味でも、シーンの傾向が変化していくさまを体現していた存在と言えます。

「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」は、「初期デスメタル」がより“extreme”で“brutal”なインパクトを目指し、“速く”“重たい”体感的側面を強調していくことで生まれたスタイルです。速く細かいフレーズを完璧に滑らかに同期させ、極端に低音を厚くした音作りで手応えを与える。そうした方向性は、抽象的で得体の知れない雰囲気よりもわかりやすい刺激を求めるもので、精神に訴えかけることよりも(数値で計測できるような)肉体的なインパクトを生み出すことを重視しています。例えば、CARCASSのKen Owen(ドラムス)のような“なりふりかまわず暴れる”崩れた演奏よりも、その倍の音数を完璧に整ったフォームでこなすような、ストレートに滑らかな演奏を目指す、という感じです。こうした傾向は、メタル・シーンにおけるメカニカルな意味での技術水準を大きく引き上げることに貢献しました。(特にドラムス。)しかしその一方で、先のKen Owenのようなやり方でなければ表現できない“衝動”や“切迫感”はないがしろにされ、淡白に整った“スポーティな”演奏が注目される風潮を生むことにもなったのです。
このような傾向は、「初期デスメタル」の混沌とした豊かさ(そしてブラックメタルなどにも通じる“精神に訴えかける何か”)を愛するファンからは全く歓迎されないもので、“複雑にすることそれ自体が目的になっている”ような曲作り(雰囲気表現のための素材というよりも演奏の難度のみを意識した、“運指の練習”の域を出ないような、“考えオチ”感の強いフレーズなど)もあわせ、そうしたファンから避けられる大きな理由になっています。また、その一方で、わかりやすいインパクトに欠けたり、“こもった”“rawな”音質のためにとっつきづらくなっていたりする「初期デスメタル」も、はっきりした刺激を求める「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」のファンからは敬遠されることが多く、両者の間にはある種の溝が生まれています。
(こうした関係はジャズの世界における「モダンジャズ」と「フュージョン」の関係になぞらえられるものです。)
現在のデスメタルシーンは、このような「テクニカル」「ブルータル」寄りのバンドが大勢を占めつつ、そうしたスタイルの“味のなさ”を嫌って「初期」に回帰しようとする「初期デスメタルリバイバル」のバンドが増えてきている状況にあります。一時期は前者のスタイルが持て囃され、“インパクトはあるが淡白”な作品ばかりが目立っていましたが、「初期デスメタル」の混沌とした豊かさを意識しつつ独自の路線を切り拓くバンドや、両方のスタイルをあわせて個性的な傑作を生み出すバンドも増えてきており、作品そのものの“深み”を意識する方へ揺り戻しが起きているようです。個人的にはとても良い傾向だと思います。

CRYPTOPSYは、「初期デスメタル」と「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」の間に位置する(前者から後者を生み出していった)バンドの代表格です。フィジカルなインパクトを重視する傾向はありますが、メンタルに訴えかける姿勢もある程度は残っています。
2nd『None So Vile』('96年発表)はそうした方向性が完璧なバランスをもって結実した大傑作で、複雑ながらすっきりまとめられた作編曲も、圧倒的な技術をもって凄まじい勢いを描き出す演奏表現力も、最高の仕上がりと言っていいのではないかと思います。シーンを代表する「ハイスピード&ハードヒット」の達人ドラマーFlo Mounierだけでなく全メンバーが素晴らしく、特にボーカルLord Wormの異常なパフォーマンスは、単体ではやや淡白なところもある楽曲に良い感じに猟奇的な雰囲気を加えています。(SLAYERの『Reign in Blood』と同じような意味で)このジャンルの歴史的名盤と言える作品なのではないかと思います。
4th『And Then You'll Beg』('00年発表)は、複雑化する音楽性が明晰な語り口によってうまくまとめられたアルバムで、無味乾燥になっていない「テクニカルデスメタル」の範疇では最高位に位置すべき作品です。「デスメタルに限らず様々な音楽を聴く」「デスメタルにつきまとう悪魔崇拝とか血みどろのイメージには辟易している」というメンバーの“純粋に勢いのあるものを求める”姿勢が、デスメタルのサウンドスタイルを援用しつつ見事に発揮された作品で、密度の濃さと爽快な聴き味とが見事に両立されています。3rdから加入したボーカルMlke DiSalvoのハードコア〜グラインドコア寄りの歌い回しも好ましく、様々な意味でクリーンになってきた音楽性によく合っていると思います。聴き込む価値のある作品です。

(3rd発表前の'98年4月に行われたJon Levasseur(ギター)のインタビューhttp://www.chroniclesofchaos.com/articles.aspx?id=1-162では、そういう姿勢が表明されているほか、音楽的な影響源が具体的に示されています。
'92年の結成当時はメンバー全員がデスメタルの大ファンで、NAPALM DEATH、SUFFOCATION、CANNIBAL CORPSE、MORBID ANGEL、ENTOMBED、DISMEMBER、特にMALEVOLENT CREATIONなどに影響を受けていたようです。
(Jonは、SUFFOCATION『Effigy of The Forgotten』(1st・'91)とMALEVOLENT CREATION『Retribution』(2nd・'92)を2大ベストアルバムに挙げ、INTERNAL BLEEDINGやDYING FETUS、AUTUMN LEAVESなどの「テクニカルデスメタルバンドがSUFFOCATIONの1stに影響を受けていないと言っているのは「信じられない」と語っています。)
また、それ以後は様々な音楽を聴くようになり、DREAM THEATERやPRIMUS、DEAD CAN DANCEのようなバンドはメンバー全員が大好きだということです。
他のインタビューも、「4thまでの作品では一切クリック・トラック(ヘッドホンから聴くメトロノームのようなもの)を使っていない」「Floが特に影響を受けたドラマーはDennis ChambersやDave Weckelsだ」ということなど、興味深い情報が満載です。一読の価値があるものが多いです。)

この4thアルバム以降、CRYPTOPSYは少々迷走することになりますが(Flo以外の全メンバーが交代したり、音楽性に賛否両論が起きたり)、個性的で強力な演奏表現力や、独特の妄念を感じさせる豊かな音楽性という点では、相変わらず他になかなかない魅力を保ち続けています。
「初期デスメタル」から「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」が生まれていくシーンの流れをみるにあたっても良い資料になるバンドですし、その両方のファンから受け入れられる音楽性を持っているという点でも、意外と稀なポジションにある存在と言えます。一聴の価値があるバンドです。