プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【初期デスメタル】 PESTILENCE(オランダ)

Doctrine

Doctrine


(2nd『Consuming Impulse』フル音源)'89

(5th『Resurrection Macabre』フル音源)'09

(6th『Doctrine』フル音源)'11

初期デスメタルを代表する実力者にして、「プログレッシヴ・デスメタル」のオリジネイターの一つでもある名バンド。ジャズ〜フュージョン方面の高度な音遣い&演奏技術を巧みに取り込んだ音楽性により、後の「プログレデス」「テクニカルデスメタル」バンドの多くに大きな影響を与えました。現役「プログレデス」バンドの中では最も興味深い音楽性をもつものの一つです。

PESTILENCEは、実質的にはPatrick Mameli(ギター・ボーカル)のワンマンバンドです。「議論を好まず、自分のヴィジョンをほぼそのまま形にしてくれることを望む」
(こちらのインタビュー:http://www.radiometal.com/en/article/pestilence-patrick-mameli-makes-no-compromise,130568ではっきり表明されています)
Patrickの意向に従い、達人メンバーが統制の取れた超絶技巧を発揮する。こうした体制はやはりなかなか維持が難しいようで、アルバムごとにラインナップは大きく変化します。
(ギターのPatrick Uterwijkのみ例外的にウマが合うらしく、活動期間のほぼ全期に渡って在籍しています。)上に挙げた3枚の作品でもメンバーは殆ど入れ替わっていますが、音遣いや演奏(卓越したリードギターやボーカルなど)の醸し出す印象には共通するものがあり、他では聴けない「PESTILENCEの音楽」としての存在感をしっかり維持しています。この点DEATHに通じるところもあり、しかもそれに勝るとも劣らない(総合的には上回っているかもしれない)実力を持っているバンドなのです。

PESTILENCEの作品から“入門編”として何枚か選ぶなら、上に挙げた3作品が良いのではないかと思います。

2nd『Consuming Impulse』('89年発表)は全ての「初期デスメタル」作品の中でも屈指の大傑作で、「初期DEATHやPOSSESSEDなどに影響を受けつつ独自のものを作ろうとした」
試みが最高の結実をみせた作品です。DEATHやPOSSESSEDの個性的なリフ構成がさらに彫りの深く高度なものに鍛えあげられており、その上でジャズ〜近現代クラシック的なコード付けがうまくキマっています。
(MORBID ANGELと似た方向性の音遣いで、POSSESSEDをベースに発展するとこうなる、という好例にも思えます。そういう意味で、POSSESSEDの“いろんなものを盛り込む器”としての凄さが実感される良い例です。)
後にASPHYXに参加するボーカルMartin van Drunen(最も優れたデスメタル・ボーカリストの一人)による“暴れ回る泣き声”も素晴らしく、高度な音楽性と荒々しい勢いとが見事に両立されています。アルバムとしての構成も申し分なく良く、全ての面において突き抜けた作品になっています。デスメタルに興味のある方は必ず聴かなければならない傑作です。

5th『Resurrection Macabre』('09年発表:'94年に解散し'08年に再結成した後の第一作)も素晴らしい作品です。Tony Choy(ベース:ATHEIST / ex.CYNIC)とPeter Wildoer(ドラムス:DARKANE / ex.James LaBrie)というシーン最高レベルの達人を雇ったブルデス寄りプログレデスの傑作で、前作『Spheres』(4th・'93年発表)の煮え切らない仕上がりを反省し、複雑な音進行をストレートな展開で畳み掛けるとても“聴きやすく興味深い”仕上がりになっています。
(『Spheres』に関しては、上のインタビューで「ATHEISTやCYNICの“ジャズを導入したスタイル”についていくために、自分達は後からそれを聴き始めた」「シンセギターの用法を誤り、ソフトすぎる音を作ってしまった」と言っていますが、Allan Holdsworth寄りフュージョンのコードワークが巧みに活かされた傑作であり、聴き込む価値のある個性的な作品と言えます。)
2人のゲストに全く引けを取らないPatrickのリードギターはもちろん、Chuck Shuldinerの影響を独自に消化した奇妙なボーカルも良いもので、エキセントリックな味わいをとても洗練された語り口で示してくれる良いアルバムになっています。「はじめに聴く一枚」としてはこれがベストなのではないかと思います。

この次に発表された6th『Doctrine』('11年発表)は、上の2枚に比べるとややとっつきにくい仕上がりなのですが、このバンドならではの音遣いとアブノーマルな雰囲気がさらに高度に完成されていて、個人的には最も面白く聴ける作品になっていると思います。Ibanezの8弦ギターを導入し、それについて「MESHUGGAHはこれをリズム楽器として用いているが、自分達はコードワークの可能性を拡張するものとして用いている」と語った発言が示すように、最新の機材によって、他では聴けない個性的な音遣いが一層興味深いものに鍛え上げられているのです。復帰したPatrick Uterwijkをはじめとする「オランダ人のみで構成されたため意思の疎通がしやすくなった」バンドのアンサンブルも見事なもので、前作に勝るとも劣らない演奏表現力が発揮されています。独特の抑えた力加減が少々とっつきづらく感じられることもあるかもしれませんが、ぜひ聴いてみてほしい傑作です。

上のインタビューにもあるように、Patrick Mameliは「影響を受けるのがイヤだから他の音楽は(youtubeでプレイヤーを探すなどの場合を除いて)聴かない」と言い張り、音楽的なルーツや構成成分を自分から明かしてくれることは殆どありません。従って、この個性的な音楽性がどうやって生まれたものなのか具体的に分析するのは難しいです。しかし、そんなことをしなくても楽しめる“わかりやすい個性”に満ちた音楽ですし、その上で興味をかきたてられ、“読み解く”楽しみを味わわせてくれるものでもあります。「プログレデス」シーンの流れを追うにあたっても、単純に優れた音楽としても、触れる価値の高いバンドだと思います。ぜひ聴いてみることをおすすめします。