プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【ブラックメタル出身】 ENSLAVED(ノルウェー)

リーティール

リーティール


(2nd『Frost』フル音源)'94

(10th『Vertebrae』フル音源プレイリスト)'08

(11th『Axioma Ethica Odini』フル音源プレイリスト)'10

(13th『In Times』フル音源)'14

ノルウェー・シーンを代表する現役最強バンドのひとつ。北欧神話を題材とした歌詞もあって「ヴァイキング・メタル」の枠で語られることが多いのですが、一般的な「ヴァイキング・メタル」の定型的なスタイル(勇壮で扇情的な“クサメロ”の多用など)とは一線を画す、個性的な音楽性を持っています。豊かな音楽要素を親しみやすく融合させる作編曲・演奏表現力は素晴らしく、アルバム毎に最高到達点を更新し続ける“バンドとしての地力”も驚異的。現代ヘヴィ・メタルシーンにおけるトップランナーのひとつと言える存在です。

ENSLAVEDのバックグラウンドとなっているのは、70年代のハードロック〜プログレッシヴ・ロック(両者が不可分だった時期の名バンド)、そして、活動を始めた頃('90年頃)から聴いている様々なエクストリームメタルです。
具体的な名前を挙げれば、
前者:初期のGENESISPINK FLOYD(『Sauserful of Secrets』など)、VAN DER GRAAF GENERATOR、RUSH、KING CRIMSON
後者:DARKTHRONE、MAYHEM、AUTOPSY、CARCASS、BATHORY、CELTIC FROST、MASTER'S HAMMER、ROTTING CHRIST(特に1st)
など。
(全てインタビューで言及されたものです。)
この他にも、THE BEACH BOYSやジャズ、クラシック、実験音楽(ヨーロッパや日本のもの)、EARTHのようなドローン寄りの音楽なども沢山聴いているようで、そうした雑多で豊かな音楽要素を、「他のものからの影響は歓迎する」という姿勢のもと、積極的に取り込み続けているとのことです。
このようにして生まれる音楽は、いうなれば“影響の坩堝”であり、そのうちどれかの安易なコピーにはなりません。大量の影響源が原型を留めないくらいに消化・吸収され、エッセンスのレベルで溶け合わされることにより、このバンドにしか作れない形に再構成されていく。実際、ENSLAVEDの音楽は、上に挙げたような“偉大なオリジネイター”に勝るとも劣らない“混沌とした豊かさ”を持っています。そしてそれが、解きほぐされた明晰な語り口によって提示されることにより、複雑だけど親しみやすい、“聴きやすく興味深い”印象を与えるものになっているのです。
このような“器の大きさ”“構成力”のある作編曲はOPETHなどにも通じるもので(両者の“仕上がり”は異なります)、現代のシーン全体をみても最も優れたものの一つなのではないかと思います。

ENSLAVED('91年結成)は2015年の時点で13枚のアルバムを発表しています。その中から幾つか選ぶのであれば、上に挙げた4枚が良いのではないかと思います。

2nd『Frost』('94年発表)はバンド自身が「最初の到達点」と認める傑作です。'90年頃から演奏していたデスメタルに飽き(トレンディになりすぎたからとのこと)、CELTIC FROSTやBATHORYのようなプリミティブな方向に立ち戻ろうとする一方で、70年代のロックからも影響を受け始めた、という時期の作品で、後につながる“混沌とした豊かさ”が萌芽し始めています。
(このあたりの流れはGrutle Kjellsonの2015年インタビュー:http://crypticrock.com/interview-grutle-kjellson-of-enslaved/に詳しいです。)
ノルウェーの初期シーンに特有の“薄暗く湿った”薫り高い空気感に満ちている(ULVERやEMPERORの1stに通じる雰囲気がある)一方で、ブラックメタルの文脈からは大きく外れる音遣いが既に生まれており、雰囲気表現・音楽ともに得難く特別な味わいがある作品です。後にEMPERORで名をあげる超絶ドラマーTrymの比較的ストレートな演奏も好ましく、ブラックメタルファンには最もおすすめできる作品なのではないかと思います。

この後、3rd『Eld』('97年発表)あたりから70年代プログレッシヴ・ロックのエッセンスが前面に出始め、7th『Below The Lights』('03年発表)から現在につながる方向性が固まることになります。10th『Vertebrae』('08年発表)はそうした試行錯誤が一定の結実をみせた記念碑的傑作で、(バンド自身は「主要な影響源ではない」と言っていますが)PINK FLOYDに通じる“淡白に潤う”深い叙情が前面に出ています。8th『Isa』('04年発表)で揃った現ラインナップの役割分担も素晴らしく、オリジナルメンバーの2人(作編曲の大部分を担当するギタリストIvar Bjørnsonと作詞面のリーダーであるベース・ボーカル(がなり声)Grutle Kjellson)はもちろん、素晴らしいクリーン・ボーカル(落ち着きと苛立ちを同時に感じさせるジェントルな声質)でバンドの顔となる鍵盤奏者Herbrand Larsen、リードギターを担当するIce Dale、小気味よい機動力と“ロックらしいドタバタ感”を両立するドラマーCato Bekkevoldなど、優れたメンバーが見事なアンサンブルを確立しています。バンドに「ミキシング作業というものの大事さに気付かされた」と言わしめたJoe Barresiのミックスも素晴らしく、音作りの面でも申し分のない仕上がり。優れた内容を快適に聴き込める良い作品になっています。

続く11th『Axioma Ethica Odini』('10年発表)・12th『Riitiir』('13年発表)・13th『In Times』('15年発表)はいずれも甲乙つけ難い大傑作で、このバンドが“全盛期”に入っていることを示してくれる素晴らしい作品揃いです。再びミキサーに起用しようとしたJoe Barresiとはスケジュールが合わなかったため、OPETHの作品(『Ghost Reveries』『Watershed』)で見事な成果を挙げたJens Bogrenが(OPETHのMikaelの紹介を経て)起用されているのですが、そのどれもが大変優れた仕上がりで、ENSLAVEDの“静かに荒れ狂う”“大自然の突き放した包容力を感じさせる”音楽性が、柔らかめなメタル・サウンドにより巧みに強化されています。
この時期になると、11thの3曲目「Waruun」
のように、同郷のIHSAHNやEXTOLと共通する(MESHUGGAHの音遣いをノルウェー流に解釈したような)“オーロラが不機嫌に瞬く”仄暗い浮遊感のある音進行が生まれはじめており、独特の音遣い感覚がより高度で魅力的なものに熟成されているように感じられます。どのアルバムも、作編曲・構成ともに素晴らしいものばかりで、どこから入っても楽しめるのではないかと思います。個人的には13th『In Times』が最高傑作なのではないかと思っていますが、全て聴いてみることをおすすめしたいです。

ENSLAVEDの音楽は、メタルシーンに限らず、ノイズやプログレ、ジャズ方面にもファンがいるとのことです。奥行きが深く高度で親しみやすい音楽性をみれば、確かに頷ける話です。
(12th発表後のインタビューhttp://venia-mag.net/interview/a-i/enslaved-ivar-i-grutle/?lang=enで「ノルウェーのオールタイム・5大メタルバンドは」と問われ、TNT・MAYHEM・Høst・ULVER・ENSLAVEDの名を挙げているのですが、それが過剰な自画自賛に感じられないくらいの実力があります。)
バンドとしての実力”も、聴きやすく聴き込みがいのある作品にも、現代ヘヴィ・メタルシーン全体を代表すべき傑出したものがあります。ぜひ聴いてみてほしいバンドです。