プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【プログレッシヴ・デスメタル】 EXTOL〜LENGSEL〜MANTRIC(ノルウェー)

Blueprint

Blueprint


(EXTOLの2nd『Undeceived』フル音源プレイリスト)'01

(EXTOLの4th『The Blueprint Dives』フル音源プレイリスト)'05

(LENGSELの2nd『The Kiss, The Hope』1曲目)'06

(MANTRIC『The Descent』フル音源プレイリスト)'10

(5th『Extol』フル音源プレイリスト)'13

'93年結成、'07年に一度解散。「プログレッシヴ・デスメタル」の枠で語られるバンドですが、構成員のバックグラウンドはそうしたもの一般のそれとは大きく異なります。ハードコアやブラックミュージックの音遣い感覚をクラシカルなコードワークで発展させた音楽性はありそうでないもので、優れた演奏表現力とあわせて唯一無二の境地に達しています。広く注目されるべきバンドです。

EXTOLは現時点で5枚のフルアルバムを発表していますが、構成メンバーの人脈は大きく3つに分かれます。具体的にはこちらのサイト
が詳しいのですが、加入・脱退の流れが少々入り組んでいるので、ここで簡単にまとめておきたいと思います。

EXTOLの構成メンバーは以下の3組に分けることができます。

《1:創設期からのメンバー》
David Husvik(ドラムス)
Peter Espevoll(ボーカル)
Christer Espevoll(ギター)

《2:初期と現在の音楽的リーダー》
Ole Borud(ドラムス以外)

《3:LENGSEL人脈》
Tor Magne Glidje(ベース→ギター)
John Robert Mjåland(ベース)
Ole Halvard Sveen(ギター)

こちらのインタビュー(2003年・Christer Espevoll:http://www.metal-rules.com/interviews/Extol-Dec2003.htm)などによると、メンバー構成は以下のように変遷していったようです。
(ここは読み流していただいて大丈夫です。)

・David HusvikとChrister Espevollにより'93年に結成。
・'94年にPeter Espevoll(Christerの2歳下の弟)がフロントマンとして参加。その後Eystein Holm(ベース)が参加し、直後の'94年春に初ライヴを行う。
・'95年にEmil Nikolaisen(ギター)が参加。
・'96年にはコンピ用に3曲を録音、スウェーデンストックホルムで公演。その数ヶ月後、Emilが脱退し、かわりにOle Borudが加入する。
・'97年夏に1st『Burial』を録音し、その後Endtime Productionsと契約して、アメリカでライヴを行い、アメリカと日本でのアルバム発売契約を結ぶ。
・'98年にはHolmが脱退、かわりにTor Magne Gridjeが加入する。
・'99年12月に2nd『Undeceived』を録音した数ヶ月後、Ole Borudが脱退し、Torがギターに転向、John Robert Mjålandがベースとして加入。その後Torは一度脱退する。
・'02年にはEndtime Productionsとの契約が満了、Century Mediaとの契約を結ぶ。
・'03年にはOle Borudが復帰。3rd『Synergy』を発表する。
・'04年にはOle BorudとChrister Espevollが脱退。Torが復帰し、Ole Halvard Sveenがギターとして加入する。(LENGSELの3人が揃う。)このメンバーで'05年に4th『The Blueprint Dives』を発表する。
・'06年にはPeterが結婚し、EXTOLの活動がほぼ停止する。その間LENGSELはスタジオ活動に入り、2nd『The Kiss, The Hope』を製作する。
・'07年にはDavid HusvikとPeter Espevoll(創設期からのメンバー)が個人的な事情によりEXTOLを脱退。ただ、その頃LENGSELの3人はEXTOLとしての新曲を楽しんで製作しており、脱退した2人とともにデモ音源も数曲録音していた。残された3人はその素材を受け継ぎ、バンド名をMANTRICに変更した上で音楽性を引き継ぐことを決意。Kim Akerholdt(ドラムス)とAnders Lidel(キーボード)を加入させ、'10年に1st『The Descent』を発表する。
・'12年にはDavid Husvik・Peter Espevoll・Ole Borudの3人でEXTOLが再結成。翌'13年には5th『Extol』を発表する。Peterは持病である耳鳴りもあってステージ上の爆音に耐えられなくなっており、そのためライヴをすることは難しいのだが、レコーディング・ユニットとしては継続している模様。

作品ごとのメンバー構成でみると、
1st:《1・2》
2nd〜3rd:《1》+《2から3へ徐々に主導権が推移》
4th:《1・3》
5th:《1・2》(Christer Espevollは不参加)
というふうに編成が変わっていったことになります。
こうした変遷がありながらEXTOLの作品群は共通する音楽的特徴を持ち続けているのですが、それぞれの仕上がりはメンバーの編成に対応して変化しています。基本的には《2》または《3》のメンバーが作曲の主軸となり、《1》も加えてアレンジを作り込むというかたちで作編曲が完成されるため、《2》《3》のどちらが在籍しているかによって作品の傾向が変わってくるのです。

《2》Ole Borudは音楽一家に育ち、ゴスペル・コーラスグループに所属していたこともある超絶マルチミュージシャンで、うるさめのメタルに通じながらも、そのバックグラウンドは70年代付近のプログレやジャズ、STEELY DANStevie Wonderのような高度なAORソウルミュージックなど多岐に渡ります。
一方、《3》LENGSEL人脈はブラックメタルハードコアパンク寄りの嗜好を持っており、Ole Borudに比べ北欧のアンダーグラウンドシーンにより深く入り込んだ活動をしているようです。
従って、《2》が主軸になった1st・2nd・5thと《3》が主軸になった4thは音楽性の毛色がかなり異なります。前者は複合拍子を多用する入り組んだ展開が目立つ“いわゆるプログレメタル”寄りのスタイル。対して後者は、変拍子を用いながらもわりかしストレートに整理された構成で突き進む“激情ハードコア”寄りのスタイルになっているのです。3rdはその両者の間に位置するスタイルで、入り組んだリズム構成を残しながらも勢いよく突っ走る、スラッシュメタル的な質感が前面に出ています。

バンドとして影響を受けたとされるのは、各種インタビューで言及されたものを並べると、
・BELIEVER、TOURNIQUET(初期)、MORTIFICATION(初期)、SEVENTH ANGELなどのクリスチャン・メタルバンド
ノルウェー自体がキリスト教国ということもあり、EXTOLは全メンバーがクリスチャンで、そのことを公表しています)
・KING'S X(バンド自身は否定しましたが、初期はクリスチャンロックと言われていました)
・RUSH、GENESIS、YES、古い教会音楽(讃歌)、ジャズ(Chris Potterなど)、初期デスメタル(DEATHやPESTILENCEなど)、GALACTIC COWBOYS、MESHUGGAH
など。こうしたものの要素を巧みに消化した音遣い感覚は独自の高度なもので、特に“ハードコアのルート進行感をジャズ的なコードワークで料理した”“MESHUGGAHの音遣いをノルウェー流に解釈した”ような音進行は、同郷のIHSAHNやENSLAVEDにも通じる素晴らしい味を持っています。このような音遣い感覚をベースに上記のような変遷をみせていった作品はどれも素晴らしい傑作で、LENGSEL・MANTRICの諸作も含め全て聴き込む価値があります。

そうした関連作の中から何か聴いてみるのであれば、はじめに挙げた5枚のうちのどれかが良いのではないかと思います。

EXTOLの2nd『Undeceived』('00年発表)はバンドの代表作といわれることも多い傑作で、複雑ながらとても印象的なメロディが北欧の仄暗い空気感を絶妙に伝えてくれる逸品です。まどろっこしい複合拍子(7+8など)を多用しながらも強力な勢いが損なわれていない演奏も見事で、この点では後期DEATHに通じる“気迫”が感じられます。PAIN OF SALVATIONのような文学的深みのある雰囲気を好む方や、いわゆるメロディック・デスメタルのようなわかりやすい音進行を好む方にもアピールする部分が多いのではないかと思います。(いわゆるメロデスのような“ワンパターンでつまらない”ものではないです。)上に挙げた5枚の中では最もメタル色の強い作品なので、ハードコアに慣れていない方などはここから入るのが良いかもしれません。

EXTOLの4th『The Blueprint Dives』(もしくは単に『Blueprint』:'06年発表)はバンドの作品中最もハードコア色が強い作品ですが、音進行にそちら方面特有の生硬さはありません。激情ハードコア的な音遣いがEXTOLの3rdまでに連なる滑らかなコードワークで巧みに解きほぐされており、辛口の美しいメロディがストレートに突き刺さる仕上がりになっています。そしてこのアルバムはとにかく演奏・音作りが素晴らしい。繊細な音色変化と硬い肌触りを両立した出音は他に類をみないもので、個人的には、全てのロック関連音楽の中で最高の表現力をもつものの一つだと思います。先述の“MESHUGGAHの音遣い感覚をノルウェー流に解釈した”音進行とハードコア寄りブラックメタルを融合させたようなパートも見事で(最後の2曲など)、音楽的コンセプトと“伝わる力”の両面において稀有の高みに達している作品と言えます。一般的にはあまり高く評価されていないようですが、このバンドの関連作中では最高傑作の一つです。ぜひ聴いてみてほしいアルバムです。

時期的にはこの直後に制作されたLENGSELの2nd『The Kiss, The Hope』(’06年発表)も驚異的な傑作です。「HIS HERO IS GONEやCONVERGEのような激情ハードコア〜カオティックハードコアをアンビエントブラックメタルで料理した」感じの音楽性で、比較的すっきりした進行感があった『Blueprint』と比べ、(アメリカの)ブルース的な“濁った引っ掛かり”が増しています。抽象的で謎に満ちた情景描写が続くアルバムで、少し聴いただけではピンとこないものかもしれませんが、一枚通してのまとまりの良さや独特の鎮静感のある雰囲気は他に類を見ないもので、代替不可能な音楽体験を提供してくれます。極めて知名度が低く、Metal Archivesのレビューなどでもまともな点数が付いていない作品ですが、そんなことは無視してぜひ聴いてみてほしい大傑作です。

EXTOLの『Blueprint』に続く作品として製作されたMANTRICのフルアルバム『The Descent』('10年発表)は、『Blueprint』と『The Kiss, The Hope』の両方に通じる激情ハードコア的なスタイルをベースにしながらも、Allan HoldsworthやCYNICなどに通じる仄かに明るい・暖かい暗黒浮遊感覚が加わった作品で(80年代のハードコアに近づいた感じでしょうか)、先の2作品とはまた異なる豊かな音楽性が興味深い作品です。EXTOL関連作の中では最もメタル色の薄いアルバムですが、ジャズ寄りのプログレデスが好きな方などには、音遣いの面では最もアピールする一枚かもしれません。インタビュー(http://www.metalsucks.net/2010/07/14/exclusive-interview-with-mantrics-ole-halvard-sveen-ex-extol/)でメンバーが答えているように、聴き込むことでどんどん“育つ”作品です。機会があればぜひ聴いてみてほしい傑作です。

現時点('15年)での最新作である5th『EXTOL』は、タイトルが示すように、これまでのEXTOLの音楽性を一通り意識した上で非常によい形でまとめ上げた傑作です。複合拍子(13拍子のメインリフなど)も頻出するのですが、それら全てが過去作に比べ格段に滑らかに用いられており、曲展開が過剰にまどろっこしく感じられるということがありません。ドラムスと歪みボーカル以外のほぼ全パートを担当したOle Borudの演奏も素晴らしく、クリーンボーカルとリードギターの両面で卓越した表現力を発揮してくれています。上に挙げた諸作ほどの“切実な勢い”はありませんが、歌モノとして多くのメタルファン〜ポップ・ミュージックファンに訴えかける力ではこれがベストでしょう。入門編としても最適な傑作だと思います。

以上、EXTOLと関連バンドの人脈・作品について簡単に概説してみました。複雑に変遷するメンバー構成や、一般的なメタルからは少々離れた音楽性もあって、なかなか具体的に語られることのないバンドなのですが、関わったメンバーは素晴らしい才能の持ち主ばかりです。こうした人脈全体に注目が集まり、今後の活動をサポートしてくれる人が増えることを、切に願う次第です。