プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【初期デスメタル】 PAN.THY.MONIUM(スウェーデン)

III Khaooohs & Kon-Fus [Analog]

III Khaooohs & Kon-Fus [Analog]


(EP『Dream Ⅱ』フル音源)'91

(1st『Dawn of Dreams』フル音源)'92

(2nd『Khaooos』フル音源)'93

(3rd『Khaooohs & Kon-Fus-Ion』フル音源)'96

'90年結成、'96年解散。当時のスウェーデンにおいて最も特異な音楽性を持ったバンドの一つで、初期デスメタルシーン特有の“なんでもありの混沌とした豊かさ”を最高度に体現する作品を残しました。長尺の不可思議な展開をすっきり聴かせる作編曲とダイナミックな演奏表現力はともに圧倒的で、変なものが好きな方には即座にアピールしうる魅力があります。無名なのが勿体ない実力者集団です。

PAN.THY.MONIUMは、スウェーデンを代表するプロデューサー〜マルチプレイヤーDan Swanö(このバンドではDay DiSyaah名義・ベース)により結成された録音プロジェクトで、DanのメインバンドだったEDGE OF SANITYにはそぐわない奇妙なアイデアを試すための場だったようです。当初はライヴで再現可能なシンプルなスタイルだったのが、Robert Ivarsson(Mourning名義・リズムギター)と「BOLT THROWER『World Eater』のパクリのようなリフをジャムしていた」時から方向性が変わり、「CELTIC FROSTやHELLHAMMERのようなスラッジーなものを好む」Benny Larsson(Winter名義・ドラムス:EDGE OF SANITYでのDanの同僚)が加入して、後の複雑な音楽性が育っていったとのことです。
(2011年のDanのインタビュー
より。)
バンド全体としてはBOLT THROWERやNOCTURNUSの影響が大きかったようですが、Danが「ちょうどプログレデスメタル両方に一番のめり込んでいた時期だった」こともあり、曲想はどんどん長く複雑なものになっていきました。
3枚のフルアルバムにおいては、
「70年代プログレ〜ハードロックに中東風の音遣いを加えたような神秘的な長尺曲を、CARCASSをスラッジコア化したようなマッシヴなグルーヴで演奏する」
というような音楽が繰り広げられています。もう少し具体的に例えるなら
「アラビア風KING CRIMSONをCATHEDRALが演奏している」
ような感じでしょうか。しかしそうしたバンドよりも演奏力は格段に上で、グラインドデスメタル津波のようなグルーヴと、ドゥームメタルのどっしりした重たいグルーヴとが、滑らかに解きほぐされた美しいアンサンブルにより、汗臭くも整然と両立されています。(少し趣は異なりますが)OPETHをダイナミックにしたような感じもあり、土着的で薫り高い暗黒浮遊感が素晴らしい。ぜひ体験してみてほしい強力なバンドです。

上に挙げたインタビューにはPAN.THY.MONIUMの全作品についてDan Swanö自身の自己評価(5点満点)が掲載されています。
それによると
『…Dawn』(デモ・'90):4点
『Dream Ⅱ』(EP・'91):5点
『Dawn of Dreams」(1st・'92):3.5点
『Khaooos』(2nd・'93):2点
『Khaooos & Kon-Fus-Ion』(3rd・'96):3.7点
とのことで、大曲志向が強まったフルアルバムについては点が辛くなる傾向があるようです。しかし、一枚モノとしての完成度や演奏表現力の深さなどは後期に近づくほど増していきますし、こうした評価を気にせず聴いて頂けるのがいいと思います。
個人的には3rd『Khaooos & Kon-Fus-Ion』('96年発表)が最もわかりやすく・深く“刺さる”力を持っていると思います。2015年にLP再発されており、フィジカルメディアでは最も入手しやすい作品でもあります。
(デモ以外は過去に全てCDで発売されていますが、現在は廃盤で入手困難です。ただ、デジタルデータならば全フルアルバムをiTunesなどで購入可能です。)
1st『Dawn of Dreams』('92年発表)はもちろん、上で失敗作扱いされている2nd『Khaooos』('93年発表)も素晴らしい内容で、ハードロック〜ストーナーロック的な味わいを好む方には最もお薦めできる配合になっています。全ての作品に聴く価値があると思います。

PAN.THY.MONIUMというバンド名には「place of all evil」の意味があり、扱うテーマは「Raagoonshinnah(闇の神)とAmaraah(光の神)との戦い」だということです。ただ、ボーカルから歌詞を聴き取ることはほぼ不可能で、そもそも具体的な歌詞自体存在しないのではないかとも言われています。(メンバー自身が「歌詞に大した意味はない」と答えています。)こういう“神秘的に見せようとする”姿勢も含め、どうしてもカルトな印象がつきまとってしまうバンドなのですが、こじんまりした感じ(B級感)とか取っつきづらい雰囲気は不思議とありません。妖しくも親しみやすい、得体の知れない魅力に満ちた音楽で、複雑な成り立ちを気軽に呑み込ませてしまう妙な“聴きやすさ”があります。機会があればぜひ触れてみてほしいバンドです。