プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【ハードフュージョン・djent以降】 ANIMALS AS LEADERS(アメリカ)

Joy of Motion

Joy of Motion


(1st『Animals As Leaders』フル音源)'09
(3rd『The Joy of Motion』フル音源プレイリスト)'14

'09年活動開始。ナイジェリア系アメリカ人ギタリストTosin Abasiのソロ(インスト)プロジェクトで、現存するあらゆる「プログレメタル」バンドの中でも突出して優れた音楽性を誇るグループです。このジャンルは「プログレ」を謳いながらも同じようなスタイルに収まってしまうバンドが多く、影響源も一定のものに限られる傾向があるのですが、Tosinはそうしたものだけでなくジャズ〜ポップス〜R&Bなど様々な領域における超一流どころも参照し、定型に縛られない独自の音楽を作ることに成功しています。並べて語られることが多いdjent(ジェント)のバンドらとは音進行・リズム構成の両面で一線を画しており、高度で複雑な音遣いを親しみやすい“歌モノ”にまとめあげる作編曲能力も抜群。「8弦ギター&ドラムス」による(低域を分厚く塗り潰すベースを抜いてギターの軽めな音色で低音をカバーする)ヌケのよいサウンドも、卓越した機動力と開放感を非常に良い形で味わわせてくれます。現代のメタルシーンを代表する達人集団として注目されるべきグループです。

このバンドについては
Tosin AbasiのWikipedia
Tosin Abasiの選ぶ10枚のギター・アルバム(2014.5.31)
の3つの記事が非常に充実しており、影響源・奏法・理論面などを詳細に知ることができます。ここではそこから特に注目すべき部分を抄訳するに留めますが、興味をお持ちの方は直接全文読むことをお勧めします。

ANIMALS AS LEADERSは、メタルコアバンドREFLUXに所属していたTosin AbasiにProsthelic Recordsが注目し、ソロアーティストとしての契約を申し出たことから生まれたプロジェクト・グループです。Tosinはその申し出を一度は断り、Atlanta Institute of Musicに入学したのですが、卒業後に自分から「これから契約することは可能か」持ちかけることになります。これを機に誕生したのがANIMALS AS LEADERS(小説『Ishmael』からとった名前)なのでした。

1stアルバム『Animals As Leaders』('09年発表)は、他メンバーの名前もクレジットされていますが、基本的にはTosinとMisha Mansoor(PERIPHERY)の2人だけで製作されています。
(Tosinがギターを弾き、Mishaがドラム・プログラミングと全体のプロデュースを担当。)
Wikipediaで挙げられている影響源(Steve VaiAllan Holdsworth、Fredrik Thordendal、RADIOHEADのThom Yorke、APHEX TWINSQUAREPUSHER、MESHUGGAH、DREAM THEATERなど)、そしてYngwie MalmsteenやGreg Howeなどからの影響を巧みに消化した音遣いは非常にメロディアスで、捻りのある暗黒浮遊感の中で艶めかしく輝くリード・フレーズは、奇数拍子を連発する複雑なリズム構造(Ron JarzombekのBLOTTED SCIENCEなどをさらに入り組ませ整えた感じ)を親しみやすく聴かせることに成功しています。静と動の緩急構成もとてもはっきりしており、難しいことがわからなくても楽しめてしまうダイナミックな“わかりやすさ”がある一枚で、発表当時は大きな驚きを持って歓迎されました。現在でも代表作とされるアルバムで、「とりあえず聴いてみる」価値は高いと思われます。

この1stアルバム製作後、ツアー要員として起用されたJavier Reyes(ギター)とNavene Koperweis(ドラムス)がメンバーとして正式加入。Tosin以外のパートを全て打ち込みでまかなっていた前作から一転し、(打ち込みも効果的に活用しつつ)個性の異なるギターと生ドラムを導入した録音が行われるようになります。そうして製作された2nd『Weightless』('11年発表)は、TosinがAdam Rogers(Michael Breckerのグループなどに参加)やKurt Rosenwinkelのような現代ジャズ・ギタリストのスタイルにのめり込み始め、メロディよりも(そちら方面の)コードを重視していたという時期の作品で、カラフルでわかりやすい印象のあった1stと比べると、少々くぐもり入り組んだ色合いのある作風になっています。しかし、展開に締まりきらない部分も散見された1stと比べ曲構成は格段に丁寧に仕上げられていますし、アルバム全体を通して共通したイメージを保ちながらも微細な陰翳を生み変化していく音遣い感覚も大変優れたもので、一枚モノとしての完成度は比べものにならないくらい高いと思われます。そしてなにより(本人が「コード志向だった」と言うわりに)非常に印象的なリード・メロディが多く、渋みと親しみやすさを両立した“歌モノ”としての出来が見事です。ファンの中でも賛否が分かれる作品のようですが(Tosinの知る範囲でも「好きでない」とはっきり言う人と「ずっとかけている」と言う人の両方がいるという)、一度慣れてしまえば離れがたくなる魅力を持った傑作です。聴いてみる価値はやはり高いです。

それから少し時間をおいて発表された3rd『The Joy of Motion』('14年発表:ドラムスがMatt Garstkaに交代)は、Tosinが“shred guitarist”(速く刻むタイプ:メタル系の“テクニック偏重”なギタリストを揶揄して言われる言葉)呼ばわりされるポジションを脱しようとして作ったという作品で、従来の作品に比べると音数を絞り、じっくり“歌う”ことに重点を置いています。
(といっても凄まじいテクニックで圧倒する場面も相変わらず多いです。)
2ndの製作時から引き続き、ブルース・カントリー・ジャズを融合させた音楽(R&B、ゴスペル、ネオソウルなどのプレイヤー:Jairus MozeeやIsaiah Sharkey、Jimmy Herringなど)を聴いて、ジャズよりもブルースのルーツに深く分け入っていった時期の作品で、重音奏法や半音階、それまで親しんでいたメロディック・マイナーと比べ全然慣れていなかったという)メロディック・メジャー〜ハーモニック・メジャースケールの“明るい暗黒浮遊感”が巧みに活かされています。
このアルバムでは「新たなことを一からやるのではなく、ANIMALS AS LEADERSの持ち味を精製することに努めた」ようで、それが結果として“1stのようなバラエティ豊かな作風を高度な楽理で強化した”ような感じに繋がっています。
隠微に濡れるマイナー寄りの音進行と明るく快活なメジャー寄りの音進行が絶妙に融合された音遣い感覚は他になかなかないもので、複雑なリズムトリックを面白く聴かせるアレンジもあわせ、“歌モノ”としての親しみやすさと音楽的革新を両立する作編曲が実に見事。アルバム全体としても、多彩な曲調を並べながらも散漫な感じにならない、まとまりの良い仕上がりになっています。個人的には現時点での最高傑作だと思います。ぜひ聴いてみてほしい一枚です。
なお、前掲のインタビューでは、具体的な音楽性・奏法がほぼ全曲にわたり解説されているほか、プロデューサーのMishaやエンジニアのNolly(Adam Getgood:PERIPHERYのベース)の貢献など、製作上のエピソードを非常に詳細に話してくれています。ファンの方は必読と言える充実の内容です。

ANIMALS AS LEADERSは、型にはまりがちな「プログレメタル」では聴けない高度で奥深い音楽性を、とても親しみやすい“歌モノ”のかたちで示してくれる素晴らしいグループです。また、他のジャンル(現代ジャズギターなど)の一流どころへの入門篇としても好ましく、これを取っ掛かりとして聴き広げていくためのものとしても良い音楽だと言えます。年齢的にもこのシーンをこれから引っ張っていくであろうグループですし、注目してみる価値はとても高いと思われます。


《備考》

Tosin Abasiの選ぶ10枚のギター・アルバム(2014.5.31)
について、各アルバムへのコメントの抄訳・Apple Musicへのリンクをあわせて掲載しておきます。
何かの参考になれば幸いです。

〈Tosin Abasiによる序説〉

R&Bやゴスペル、いわゆるネオ・ソウルのギタリストを沢山聴いていて、それが(メタル系のものなどとは)異なる物の見方を示してくれる。とはいうものの、メタル方面のギタリストであるYngwie MalmsteenやGreg Howe、John Petrucciなどにも影響を受けている。彼らは、作曲・メロディ・サウンド・総合的な創造性・楽器の演奏能力などの全てを網羅している。

〈Tosin Abasiの選ぶ10枚のギター・アルバム〉

Steve Vai『Passion & Warfare』('90)
:初めて買ったギターアルバムで、リードだけでなくリフなど、作編曲もサウンド面も総合的に素晴らしい。

Yngwie Malmsteen『The Yngwie Malmsteen Collection』('91・ベスト盤)
:(トレードマークである)ネオクラシカル・スタイルだけでなく、ブルースも素晴らしい。絶大な影響を受けた。

③Greg Howe『Introspection』('93)
:素晴らしいメロディック・シュレッダー。歌心と激テクを両立している。大きな影響を受けた。

DREAM THEATER『Awake』('94)
:激しいプログレメタルでありながらPINK FLOYDBEATLESのような(ポップな)こともできる。音楽的な深さは測り知れない。Petrucciのフレーズは些細なものでも素晴らしい。『Scenes from A Memory』も素晴らしいが、自分は『Awake』が最も好きだし、最も聴き込んでいる。

⑤Guthrie Govan『Erotic Cakes』('06)
:曲も演奏も圧倒的。
(このアルバムはApple Musicになし)

Allan Holdsworth『Secrets』('89)
:作品はどれも素晴らしいが、これが基本の一枚だと思う。自分が初めて聴いた作品でもある。ホールズワースの存在は世界の音楽にとっての祝福と言える。

⑦Jimmy Herring『Lifeboat』('08)
R&Bやブルース方面のプレイヤーだが、メロディの考え方は現代ジャズから来ているように思われる。ギタリストの間ではあまり語られないようだが、非常に素晴らしい。

Kurt Rosenwinkel『The Next Step』('01)
:現代のビバップをやっていると言われるギタリスト。和音の感覚は信じられないくらい凄く、作曲能力は極めて高い。明確な調性を避けるスタイルをとり、それを聴いて自分も、定型を超えたことをやりたいと動機付けられた。ジャズにのめり込むきっかけになったプレイヤー。

⑨Adam Rogers『Apparitions』('05)
:クラシックからも影響を受けた現代ジャズギタリスト。彼の作品は全て聴く価値があるが、中でもこのアルバムは必聴だと思う。

Jonathan Kreisberg『Shadowless』('11)
:演奏も作曲も極めて素晴らしく、全てのギタリストに各々がやってきたことを見返させるだけのものがある。どの作品も聴く価値があるが、自分はこのアルバムが好き。最初から最後まで驚異的な作品。
(このアルバムはApple Musicになし)