プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【ハードフュージョン・djent以降】 ANIMALS AS LEADERS(アメリカ)

Joy of Motion

Joy of Motion


(1st『Animals As Leaders』フル音源)'09
(3rd『The Joy of Motion』フル音源プレイリスト)'14

'09年活動開始。ナイジェリア系アメリカ人ギタリストTosin Abasiのソロ(インスト)プロジェクトで、現存するあらゆる「プログレメタル」バンドの中でも突出して優れた音楽性を誇るグループです。このジャンルは「プログレ」を謳いながらも同じようなスタイルに収まってしまうバンドが多く、影響源も一定のものに限られる傾向があるのですが、Tosinはそうしたものだけでなくジャズ〜ポップス〜R&Bなど様々な領域における超一流どころも参照し、定型に縛られない独自の音楽を作ることに成功しています。並べて語られることが多いdjent(ジェント)のバンドらとは音進行・リズム構成の両面で一線を画しており、高度で複雑な音遣いを親しみやすい“歌モノ”にまとめあげる作編曲能力も抜群。「8弦ギター&ドラムス」による(低域を分厚く塗り潰すベースを抜いてギターの軽めな音色で低音をカバーする)ヌケのよいサウンドも、卓越した機動力と開放感を非常に良い形で味わわせてくれます。現代のメタルシーンを代表する達人集団として注目されるべきグループです。

このバンドについては
Tosin AbasiのWikipedia
Tosin Abasiの選ぶ10枚のギター・アルバム(2014.5.31)
の3つの記事が非常に充実しており、影響源・奏法・理論面などを詳細に知ることができます。ここではそこから特に注目すべき部分を抄訳するに留めますが、興味をお持ちの方は直接全文読むことをお勧めします。

ANIMALS AS LEADERSは、メタルコアバンドREFLUXに所属していたTosin AbasiにProsthelic Recordsが注目し、ソロアーティストとしての契約を申し出たことから生まれたプロジェクト・グループです。Tosinはその申し出を一度は断り、Atlanta Institute of Musicに入学したのですが、卒業後に自分から「これから契約することは可能か」持ちかけることになります。これを機に誕生したのがANIMALS AS LEADERS(小説『Ishmael』からとった名前)なのでした。

1stアルバム『Animals As Leaders』('09年発表)は、他メンバーの名前もクレジットされていますが、基本的にはTosinとMisha Mansoor(PERIPHERY)の2人だけで製作されています。
(Tosinがギターを弾き、Mishaがドラム・プログラミングと全体のプロデュースを担当。)
Wikipediaで挙げられている影響源(Steve VaiAllan Holdsworth、Fredrik Thordendal、RADIOHEADのThom Yorke、APHEX TWINSQUAREPUSHER、MESHUGGAH、DREAM THEATERなど)、そしてYngwie MalmsteenやGreg Howeなどからの影響を巧みに消化した音遣いは非常にメロディアスで、捻りのある暗黒浮遊感の中で艶めかしく輝くリード・フレーズは、奇数拍子を連発する複雑なリズム構造(Ron JarzombekのBLOTTED SCIENCEなどをさらに入り組ませ整えた感じ)を親しみやすく聴かせることに成功しています。静と動の緩急構成もとてもはっきりしており、難しいことがわからなくても楽しめてしまうダイナミックな“わかりやすさ”がある一枚で、発表当時は大きな驚きを持って歓迎されました。現在でも代表作とされるアルバムで、「とりあえず聴いてみる」価値は高いと思われます。

この1stアルバム製作後、ツアー要員として起用されたJavier Reyes(ギター)とNavene Koperweis(ドラムス)がメンバーとして正式加入。Tosin以外のパートを全て打ち込みでまかなっていた前作から一転し、(打ち込みも効果的に活用しつつ)個性の異なるギターと生ドラムを導入した録音が行われるようになります。そうして製作された2nd『Weightless』('11年発表)は、TosinがAdam Rogers(Michael Breckerのグループなどに参加)やKurt Rosenwinkelのような現代ジャズ・ギタリストのスタイルにのめり込み始め、メロディよりも(そちら方面の)コードを重視していたという時期の作品で、カラフルでわかりやすい印象のあった1stと比べると、少々くぐもり入り組んだ色合いのある作風になっています。しかし、展開に締まりきらない部分も散見された1stと比べ曲構成は格段に丁寧に仕上げられていますし、アルバム全体を通して共通したイメージを保ちながらも微細な陰翳を生み変化していく音遣い感覚も大変優れたもので、一枚モノとしての完成度は比べものにならないくらい高いと思われます。そしてなにより(本人が「コード志向だった」と言うわりに)非常に印象的なリード・メロディが多く、渋みと親しみやすさを両立した“歌モノ”としての出来が見事です。ファンの中でも賛否が分かれる作品のようですが(Tosinの知る範囲でも「好きでない」とはっきり言う人と「ずっとかけている」と言う人の両方がいるという)、一度慣れてしまえば離れがたくなる魅力を持った傑作です。聴いてみる価値はやはり高いです。

それから少し時間をおいて発表された3rd『The Joy of Motion』('14年発表:ドラムスがMatt Garstkaに交代)は、Tosinが“shred guitarist”(速く刻むタイプ:メタル系の“テクニック偏重”なギタリストを揶揄して言われる言葉)呼ばわりされるポジションを脱しようとして作ったという作品で、従来の作品に比べると音数を絞り、じっくり“歌う”ことに重点を置いています。
(といっても凄まじいテクニックで圧倒する場面も相変わらず多いです。)
2ndの製作時から引き続き、ブルース・カントリー・ジャズを融合させた音楽(R&B、ゴスペル、ネオソウルなどのプレイヤー:Jairus MozeeやIsaiah Sharkey、Jimmy Herringなど)を聴いて、ジャズよりもブルースのルーツに深く分け入っていった時期の作品で、重音奏法や半音階、それまで親しんでいたメロディック・マイナーと比べ全然慣れていなかったという)メロディック・メジャー〜ハーモニック・メジャースケールの“明るい暗黒浮遊感”が巧みに活かされています。
このアルバムでは「新たなことを一からやるのではなく、ANIMALS AS LEADERSの持ち味を精製することに努めた」ようで、それが結果として“1stのようなバラエティ豊かな作風を高度な楽理で強化した”ような感じに繋がっています。
隠微に濡れるマイナー寄りの音進行と明るく快活なメジャー寄りの音進行が絶妙に融合された音遣い感覚は他になかなかないもので、複雑なリズムトリックを面白く聴かせるアレンジもあわせ、“歌モノ”としての親しみやすさと音楽的革新を両立する作編曲が実に見事。アルバム全体としても、多彩な曲調を並べながらも散漫な感じにならない、まとまりの良い仕上がりになっています。個人的には現時点での最高傑作だと思います。ぜひ聴いてみてほしい一枚です。
なお、前掲のインタビューでは、具体的な音楽性・奏法がほぼ全曲にわたり解説されているほか、プロデューサーのMishaやエンジニアのNolly(Adam Getgood:PERIPHERYのベース)の貢献など、製作上のエピソードを非常に詳細に話してくれています。ファンの方は必読と言える充実の内容です。

ANIMALS AS LEADERSは、型にはまりがちな「プログレメタル」では聴けない高度で奥深い音楽性を、とても親しみやすい“歌モノ”のかたちで示してくれる素晴らしいグループです。また、他のジャンル(現代ジャズギターなど)の一流どころへの入門篇としても好ましく、これを取っ掛かりとして聴き広げていくためのものとしても良い音楽だと言えます。年齢的にもこのシーンをこれから引っ張っていくであろうグループですし、注目してみる価値はとても高いと思われます。


《備考》

Tosin Abasiの選ぶ10枚のギター・アルバム(2014.5.31)
について、各アルバムへのコメントの抄訳・Apple Musicへのリンクをあわせて掲載しておきます。
何かの参考になれば幸いです。

〈Tosin Abasiによる序説〉

R&Bやゴスペル、いわゆるネオ・ソウルのギタリストを沢山聴いていて、それが(メタル系のものなどとは)異なる物の見方を示してくれる。とはいうものの、メタル方面のギタリストであるYngwie MalmsteenやGreg Howe、John Petrucciなどにも影響を受けている。彼らは、作曲・メロディ・サウンド・総合的な創造性・楽器の演奏能力などの全てを網羅している。

〈Tosin Abasiの選ぶ10枚のギター・アルバム〉

Steve Vai『Passion & Warfare』('90)
:初めて買ったギターアルバムで、リードだけでなくリフなど、作編曲もサウンド面も総合的に素晴らしい。

Yngwie Malmsteen『The Yngwie Malmsteen Collection』('91・ベスト盤)
:(トレードマークである)ネオクラシカル・スタイルだけでなく、ブルースも素晴らしい。絶大な影響を受けた。

③Greg Howe『Introspection』('93)
:素晴らしいメロディック・シュレッダー。歌心と激テクを両立している。大きな影響を受けた。

DREAM THEATER『Awake』('94)
:激しいプログレメタルでありながらPINK FLOYDBEATLESのような(ポップな)こともできる。音楽的な深さは測り知れない。Petrucciのフレーズは些細なものでも素晴らしい。『Scenes from A Memory』も素晴らしいが、自分は『Awake』が最も好きだし、最も聴き込んでいる。

⑤Guthrie Govan『Erotic Cakes』('06)
:曲も演奏も圧倒的。
(このアルバムはApple Musicになし)

Allan Holdsworth『Secrets』('89)
:作品はどれも素晴らしいが、これが基本の一枚だと思う。自分が初めて聴いた作品でもある。ホールズワースの存在は世界の音楽にとっての祝福と言える。

⑦Jimmy Herring『Lifeboat』('08)
R&Bやブルース方面のプレイヤーだが、メロディの考え方は現代ジャズから来ているように思われる。ギタリストの間ではあまり語られないようだが、非常に素晴らしい。

Kurt Rosenwinkel『The Next Step』('01)
:現代のビバップをやっていると言われるギタリスト。和音の感覚は信じられないくらい凄く、作曲能力は極めて高い。明確な調性を避けるスタイルをとり、それを聴いて自分も、定型を超えたことをやりたいと動機付けられた。ジャズにのめり込むきっかけになったプレイヤー。

⑨Adam Rogers『Apparitions』('05)
:クラシックからも影響を受けた現代ジャズギタリスト。彼の作品は全て聴く価値があるが、中でもこのアルバムは必聴だと思う。

Jonathan Kreisberg『Shadowless』('11)
:演奏も作曲も極めて素晴らしく、全てのギタリストに各々がやってきたことを見返させるだけのものがある。どの作品も聴く価値があるが、自分はこのアルバムが好き。最初から最後まで驚異的な作品。
(このアルバムはApple Musicになし)

【ゴシック〜ドゥーム〜アヴァンギャルド寄り】 RAM-ZET(ノルウェー)

Intra

Intra


(3rd『Intra』フル音源)'05

(4th『Neutralized』フル音源)'09

(5th『Freaks in Wonderland』フル音源)'12

'98年結成。ゴシックメタルのシーンで語られるバンドですが、メンバー当人としてはそちら方面に属している意識はあまりないようです。音楽性を一言でいえば「“MESHUGGAH+シンフォニック・ブラックメタル”を歌モノゴシックメタルに料理した感じ」。複雑な構造をすっきり聴かせてしまう作編曲能力は驚異的で、ボーカルをはじめとした演奏陣の技術&個性も一流です。広く注目されるべき素晴らしいバンドと言えます。

RAM-ZETは、MESHUGGAHの「4拍子系偶数小節(4or8or16)で一周する複雑なシンコペーション・リフ」スタイルを正しく受け継ぎ、しかも独自のやり方で発展させているという点において、ありそうでなかなかないバンドです。
MESHUGGAHの影響を強く受けたということで注目されがちなdjent(ジェント)のバンド達は、MESHUGGAHの『None』〜2nd『Destroy Erace Improve』あたり(上記のような「4拍子系の長いシンコペーション・リフ」が確立されていない時期)のスタイルを中途半端に受け継ぎ、細かく刻むリズム構成を音程変化の乏しい淡白なフレーズにしか仕上げられていないものが多いです。一方RAM-ZETは、MESHUGGAHが3rd『Chaosphere』以降で確立した上記のようなスタイルを正しく活用し、細かく刻むリズム構成に丁寧な音程変化を絡めることにより、複雑に切れ込むアクセント移動とメロディックなフレーズの“形の良さ”を両立することができています。しかも、その音遣い感覚はMESHUGGAHとは毛色の異なる“ゴシカルなブラックメタル〜インダストリアルメタル”風味のもので、MESHUGGAH(やその安直な影響下に留まるdjentら)とは一線を画す個性的な味わいを確立することができているのです。こうしたギター/ベースリフの部分をとってみても大変高度で興味深い音楽性を持っていると言えます。

RAM-ZETが凄いのは、こうした複雑で印象的なバッキングに強力な歌メロをのせ、渋くシンフォニックなアレンジを施して非常に聴きやすい形に仕上げてしまえている所です。小節線できっちり切れずにズレていくシンコペーション・リフに音程変化をつけ、しかもその上によく動くリードメロディを乗せると、フレーズの絡みが非常に複雑になってコントロールするのが難しくなるのですが(多くのdjent系バンドがリフの音程をあまり変化させないようにしている理由はそのあたりにあると思われます)、RAM-ZETはその絡みを完璧にやってのけ、しかも渋くきらびやかなシンフォニック・アレンジさえ施してしまうのです。このような層の厚い仕掛けを(余計なことを全く考えずに楽しめる)親しみやすい「歌モノ」として呑み込ませてしまう作編曲能力は驚異的で、同じ路線でここまでの完成度に達しているバンドは他に存在しません。(していたらぜひ教えてください。お願いします。)こうした構造を楽しむだけでも聴く価値が高いバンドです。

そしてさらに凄いのが卓越した演奏表現力です。RAM-ZETは男女ツインボーカルバンドなのですが、そのボーカルを務める2人がともに優れた技術と個性を備えています。特に素晴らしいのがメインを張る女声Sfinxで、派手な超高音などの飛び道具は一切使わないのですが、細かく丁寧な歌い回しと繊細な力加減のコントロールが本当に見事で、柔らかく逞しい声質と(ジャズ系のシンガーに通じる)渋く深みのある表現力を両立しているのです。(個人的にはメタルシーンに属する全女性ボーカリストの中で最もうまい人だと思っています。)また、脇を固める男声Zet(バンドのリーダーでギターも兼任)も強力で、“爬虫類系”の粘りある高音ガナリ声はなかなか比較対象の見当たらない個性を確立しています。この2人が絶妙の役割配分で交互に顔になる“歌モノ”アレンジが本当に見事で、そこに注目しているだけでも快適に聴き通すことができてしまうのです。それらを支えるバッキングも勿論非常に強力で、先述のような複雑なアレンジを、ただテクニカルなだけでない個性的なグルーヴを生みながら滑らかに形にしてくれています。あらゆる面において聴き込みがいのある、本当に優れた音楽性を持ったバンドです。

RAM-ZETはこれまでに5枚のフルアルバムを発表しています。どれも優れた作品なのですが、充実度の点では3rdアルバム以降が傑出しており、まずはこの3枚のうちどれかを聴いてみるのがいいのではないかと思います。

3rd『Intra』('05年発表)は、前作において確立されつつあった先述のような音楽性を完成させた一枚で、複雑なシンコペーション・リフと渋くキャッチーな歌メロとが「ブラックメタルとパワーメタルの中間」という感じの比較的ストレートに激しい曲調の中で美しく表現されています。1曲目などはDECAPITATED『Organic Hallucinosis』に通じる感じもありますし、勢いのあるものが好きな方はまずこれを聴くのがいいでしょう。アルバム全体の構成も完璧で、仄暗く蠱惑的な雰囲気に心地よく浸ることができます。わかりやすさの点でも代表作と言える一枚です。

4th『Neutralized』('09年発表)は他の作品と比べるとバラエティ豊かな一枚で、少し“振り回される”感じもなくはない構成になっているのですが、ひとたび慣れてしまえば非常にうまくまとめ上げられていることがわかります。このバンドの作品は、滑稽味をまといながらも基本的には真面目に沈むきらいがあるのですが、このアルバムでは(そういう感じをベースにしながらも)外連味あるチャーミングな印象が前面に出ているためか、沈みすぎず明るくもなりすぎない絶妙なバランスが生まれており、聴き通しても“もたれる”ことがありません。そういうこともあわせ、最も“長く付き合える作品”になっていると言うこともできそうです。個人的には特に好きなアルバムです。

現時点(2015年8月)の最新作である5th『Freaks in Wonderland』('12年発表)は、その点最も“沈み込む”傾向の強い作品で、聴き続けるには注意が必要な一枚かもしれません。
(導入部などユーモラスな部分もありますが、後半に行くにつれて沈み込む流れが強まります。全体的に暗めな3rdよりも“落ちる”感じは強いです。)
ただ、作編曲や演奏は相変わらず見事で、特有の音楽性を引き継ぎながら新しい味も加える(どこかDevin Townsendなどにも通じる)興味深い仕上がりになっています。前2作に勝るとも劣らない傑作であり、聴く価値は高いです。

以上のように、RAM-ZETはあらゆる点において稀有の実力を誇る素晴らしいバンドなのですが、なぜか充分な評価を得ることができていません。
(一般的なメタルファンからは注目されづらいゴシックメタルのシーンで語られ、しかもそうしたシーンの中では突出して“エクストリームメタルらしい”激しいスタイルを持っている(ゴシックメタルのファンからすれば落ち着いていなさすぎて合わない)ということも関係あるのかもしれません。)
これは非常にもったいないことです。上に挙げたようなバンドやジャンルが好きな方はぜひ聴いてみて頂きたいものです。

参考として、メイン2人の「好きなバンド」を挙げておきます。

Zet(リーダー:ギター・男声)
SAMAEL、MESHUGGAH、KING DIAMOND、QUEENSRYCHESLIPKNOTDREAM THEATERVAN HALEN
メタル以外ではMASSIVE ATTACKPINK FLOYDPeter GabrielBjörkなど多数
(2001年のインタビュー
より)

Sfinx(女声リード)
MESHUGGAH、PANTERA、NINE INCH NAILSSOILWORKSLIPKNOTMADDER MORTEM、FINNTROLL、LED ZEPPELINBLACK SABBATHほか多数
より)

【初期デスメタル】 PAN.THY.MONIUM(スウェーデン)

III Khaooohs & Kon-Fus [Analog]

III Khaooohs & Kon-Fus [Analog]


(EP『Dream Ⅱ』フル音源)'91

(1st『Dawn of Dreams』フル音源)'92

(2nd『Khaooos』フル音源)'93

(3rd『Khaooohs & Kon-Fus-Ion』フル音源)'96

'90年結成、'96年解散。当時のスウェーデンにおいて最も特異な音楽性を持ったバンドの一つで、初期デスメタルシーン特有の“なんでもありの混沌とした豊かさ”を最高度に体現する作品を残しました。長尺の不可思議な展開をすっきり聴かせる作編曲とダイナミックな演奏表現力はともに圧倒的で、変なものが好きな方には即座にアピールしうる魅力があります。無名なのが勿体ない実力者集団です。

PAN.THY.MONIUMは、スウェーデンを代表するプロデューサー〜マルチプレイヤーDan Swanö(このバンドではDay DiSyaah名義・ベース)により結成された録音プロジェクトで、DanのメインバンドだったEDGE OF SANITYにはそぐわない奇妙なアイデアを試すための場だったようです。当初はライヴで再現可能なシンプルなスタイルだったのが、Robert Ivarsson(Mourning名義・リズムギター)と「BOLT THROWER『World Eater』のパクリのようなリフをジャムしていた」時から方向性が変わり、「CELTIC FROSTやHELLHAMMERのようなスラッジーなものを好む」Benny Larsson(Winter名義・ドラムス:EDGE OF SANITYでのDanの同僚)が加入して、後の複雑な音楽性が育っていったとのことです。
(2011年のDanのインタビュー
より。)
バンド全体としてはBOLT THROWERやNOCTURNUSの影響が大きかったようですが、Danが「ちょうどプログレデスメタル両方に一番のめり込んでいた時期だった」こともあり、曲想はどんどん長く複雑なものになっていきました。
3枚のフルアルバムにおいては、
「70年代プログレ〜ハードロックに中東風の音遣いを加えたような神秘的な長尺曲を、CARCASSをスラッジコア化したようなマッシヴなグルーヴで演奏する」
というような音楽が繰り広げられています。もう少し具体的に例えるなら
「アラビア風KING CRIMSONをCATHEDRALが演奏している」
ような感じでしょうか。しかしそうしたバンドよりも演奏力は格段に上で、グラインドデスメタル津波のようなグルーヴと、ドゥームメタルのどっしりした重たいグルーヴとが、滑らかに解きほぐされた美しいアンサンブルにより、汗臭くも整然と両立されています。(少し趣は異なりますが)OPETHをダイナミックにしたような感じもあり、土着的で薫り高い暗黒浮遊感が素晴らしい。ぜひ体験してみてほしい強力なバンドです。

上に挙げたインタビューにはPAN.THY.MONIUMの全作品についてDan Swanö自身の自己評価(5点満点)が掲載されています。
それによると
『…Dawn』(デモ・'90):4点
『Dream Ⅱ』(EP・'91):5点
『Dawn of Dreams」(1st・'92):3.5点
『Khaooos』(2nd・'93):2点
『Khaooos & Kon-Fus-Ion』(3rd・'96):3.7点
とのことで、大曲志向が強まったフルアルバムについては点が辛くなる傾向があるようです。しかし、一枚モノとしての完成度や演奏表現力の深さなどは後期に近づくほど増していきますし、こうした評価を気にせず聴いて頂けるのがいいと思います。
個人的には3rd『Khaooos & Kon-Fus-Ion』('96年発表)が最もわかりやすく・深く“刺さる”力を持っていると思います。2015年にLP再発されており、フィジカルメディアでは最も入手しやすい作品でもあります。
(デモ以外は過去に全てCDで発売されていますが、現在は廃盤で入手困難です。ただ、デジタルデータならば全フルアルバムをiTunesなどで購入可能です。)
1st『Dawn of Dreams』('92年発表)はもちろん、上で失敗作扱いされている2nd『Khaooos』('93年発表)も素晴らしい内容で、ハードロック〜ストーナーロック的な味わいを好む方には最もお薦めできる配合になっています。全ての作品に聴く価値があると思います。

PAN.THY.MONIUMというバンド名には「place of all evil」の意味があり、扱うテーマは「Raagoonshinnah(闇の神)とAmaraah(光の神)との戦い」だということです。ただ、ボーカルから歌詞を聴き取ることはほぼ不可能で、そもそも具体的な歌詞自体存在しないのではないかとも言われています。(メンバー自身が「歌詞に大した意味はない」と答えています。)こういう“神秘的に見せようとする”姿勢も含め、どうしてもカルトな印象がつきまとってしまうバンドなのですが、こじんまりした感じ(B級感)とか取っつきづらい雰囲気は不思議とありません。妖しくも親しみやすい、得体の知れない魅力に満ちた音楽で、複雑な成り立ちを気軽に呑み込ませてしまう妙な“聴きやすさ”があります。機会があればぜひ触れてみてほしいバンドです。


【ブラックメタル出身】 ARCTURUS(ノルウェー)

Arcturian

Arcturian


(1st『Aspera Hiems Symfonia』フル音源)'96

(2nd『La Masquerade Infernale』フル音源)'97

(3rd『The Sham Mirrors』フル音源)'03

(4th『Sideshow Symphoniesフル音源)'05

(5th『Arcturian』から1曲目「The Arcturian Sign」)'15

'91年結成。いわゆるシンフォニック・ブラックメタルの始祖の一つで、ノルウェー流の“引っ掛かり感覚”(こちらの記事http://closedeyevisuals.hatenablog.com/entry/2015/03/27/050345参照)を最も練度の高いかたちで大成したバンドでもあります。固有の渋い味わいをわかりやすい“歌モノ”スタイルで聴かせてしまう作編曲能力は抜群で、ノルウェー・シーンを代表する名プレイヤー達による演奏も超一流。エクストリームメタルに苦手意識のある方にも是非聴いてみてほしい素晴らしいバンドです。

ARCTURUSの音遣いは、上の記事で述べたようなノルウェー特有の“薄くこびりつく”進行感を少し濃くし、北欧のクラシック音楽シベリウスなど)にも通じる荘厳な歌謡感覚で彩った、というようなものです。シンフォニック・ロックの壮麗なメロディ感覚と(アメリカのブルースにも通じる)鈍く引っ掛かる進行感とが、北欧特有の底冷えする空気感のもとで描かれる。華やかに変化するリードメロディと(彩り豊かではあるけれども)意外と色の種類が変化しないモノトーンなコード感とが両立されていて、展開がはっきりしている歌モノなのに“同じような雰囲気に浸り続ける”感覚を与えてくれます。きびきび流れる構成を持っていながらアンビエントな聴き味があるこうした音楽性はありそうでなかなかないもので、歌モノのファンにも電子音楽や70年代ジャーマンロックなどのファンにもアピールするものではないかと思われます。ブラックメタル特有の味わいや“気の長い”時間感覚を抵抗なく身につけられる素材としても好ましく、そうしたものの入門編としては最適なバンドなのではないかと思います。

ARCTURUSがこれまでに発表した5枚のフルアルバムはどれも大傑作で、他の音楽では得られない固有の味わいをそれぞれ違ったかたちで提供してくれます。どれか一つが気に入ったならば他の全作品を聴き込む価値があるので、入りやすいと思ったところから手を出して、ぜひ全て聴いてみてほしいと思います。

1st『Aspera Hiems Symfonia』('96年発表)は最も一般的なブラックメタルのスタイルに近い作品で、EMPERORやLIMBONIC ART、初期のMANESなどとともに「シンフォニック・ブラックメタル」の雛形として後続に大きな影響を与えました。先に述べたようなこのバンド特有の音遣い感覚は既にかなり出来上がっていて、ボーカルを務めているGarmのメイン・バンドであるULVERの初期作品に程よいハッタリ感を加えたような、高貴で妖しい雰囲気がよく出ています。このバンドの売りは何と言ってもSverd(ブラックメタルシーンを代表するキーボーディストで、バンドの音楽的方向性を殆ど決定)による演奏&オーケストレーションですが、他のパートもシーンを代表する名人揃いです。特にHellhammer(ドラムス)とSkoll(ベース)の組合せはノルウェー・シーン最高のリズムセクションの一つと言ってよく、わりとストレートな場面であってもジャズ的な捻りを加えるなどして、曲全体に巧みな引っ掛かりを付け加えてくれています。気軽に聴き通せるのに聴き込むほどに味が増す素晴らしい仕上がりで、名実ともにブラックメタルというジャンルを代表する傑作の一つです。

2nd『La Masquerade Infernale』('97年発表)は、わりとストレートだった前作の捻りある部分を強調したような作品で、メタル・リフで押す場面は減り、オペラ風のアブノーマルな歌モノが引っ張っていく構成が前面に出ています。印象的なフレーズが小刻みに連発される前作と比べると少々間延びしているようにも感じられるスタイルで、音作り的にもわかりやすい刺激が少ないということもあって、一般的なメタルファンには取っつき辛く思えるところが多いかもしれません。しかし、これはこれで非常に完成度の高い作品で、前作で提示された独自の音遣い感覚が、メタル・リフの反復に縛られない自由度の高い展開のもとで巧みに表現されているのです。メタル的に“ガツンとくる”刺激の少ない音作りも、例えばゴシックロック〜ゴシックメタルなどを聴くつもりで接してみれば、何の違和感もなく受け入れることができ、むしろ心地よく浸れるのではないかと思われます。このバンドの作品の中では(メタルファンからすれば)最もとっつきにくく感じられるだろう一枚ですが、コアなファンは最高傑作に挙げることも多いようです。他の作品にハマったら是非聴いてみてほしいアルバムです。

入門編として最適なのが3rd『The Sham Mirrors』('03年発表)でしょう。前2枚の作風をうまく混ぜた上で両者のいいとこ取りをしたような仕上がりで、自在に展開する曲構成の全てが強力なフレーズで彩られ、間延びした感じを受けずに聴き通せるように作られています。アルバム冒頭を飾る大名曲「Kinetic」をはじめ収録曲は印象的なものばかりで、J-POPやメロディック・パワーメタルなどのファンにも訴えかける“わかりやすさ”とノルウェーブラックメタルならではの渋さとが絶妙に両立されているのです。前作に引き続き歪み声を完全封印したGarmのボーカルも心地よく、エクストリームメタルが苦手な方も抵抗なく聴けるようになっていると思われます。まずはここから聴いてみてほしいアルバムです。

続く4th『Sideshow Symphonies』('05年発表)では、Garmが脱退し、同じくノルウェーブラックメタルシーンを代表するクリーン・ボーカリストSimen Hestnaes(BORKNAGAR / ex.DIMMU BORGIR)が加入しています。作編曲の方向性は再び2nd的な“気の長い”時間感覚を強調したものになっていて、多彩な場面転換をしながらもメタル的なわかりやすい畳み掛けのあった3rdに比べ、だいぶゆったりした流れが生まれています。Simenの(オペラ〜民謡的な“こぶし”の効いた)一見無表情にも感じられる飄々とした歌い回しもあってか、少し聴いただけでは「間延びしていてかったるい」と感じられるものになっているとも言えるのですが、先に述べたような音遣い感覚やアンビエントな居心地はこれ以前とは比べものにならないくらい高度に熟成されていて、慣れて抵抗なく聴き入れるようになれば、他では得られない極上の聴き味にどっぷり浸かることができるようになります。緻密なキーボード・オーケストレーションの各パートを繊細に聴かせ分ける音作りも素晴らしい仕上がりで、メタル的なエッジは引っ込んだものの、サウンドプロダクションの出来は完璧と言えます。一般的な評価はかなり低いようですが(特に前作のようなわかりやすいものを好むファンからすると取っつき辛く感じられるようです)、個人的には、ノルウェー流シンフォニック・ブルース・ロックの名盤として歴史に残るべき大傑作なのではないかと思います。

ARCTURUSはこの後バンド内での諍いなどもあって'07年に解散することになりますが、冷却期間をおくことによって再び良好な関係を取り戻すことができたようで、'11年には活動を再開しています。音楽をあくまで“趣味”と捉え(メンバーはみな昼間の仕事を持っている)、ギターのKnut所有のスタジオで時間を気にせず製作を続けていた、ということにより新作の発表は何度も遅れましたが、'10〜'14年に録り貯めた素材をもとに、ついに5thフルアルバム『Arcturian』を完成。'15年に無事発表することになりました。
(このあたりの経緯はSimenのインタビューhttp://heavymetal.about.com/od/arcturus/fl/Arcturus-Interview.htmに詳しいです。Sverdのキーボードが'92年からずっと使い続けているもので、そのおんぼろキーボードがARCTURUSのサウンドの代替不可能な特徴になってしまっている、ということなど、興味深いエピソードが多いです。)
この『Arcturian』は本当に素晴らしい作品で、2ndと3rdの中間前者寄りというような作風が、4thを通過することによって得られた高度な音遣い感覚を用いて仕上げられています。緻密で複雑な作り込みを滑らかな“歌モノ”として聴かせてしまう作編曲も演奏も極上で、アルバム一枚を通しての構成も完璧。1st〜4thのどの時期が好きなファンも納得させる出来だと思いますし、この手の音楽性では前人未到の領域に達している作品なのではないかと思います。個人的にはこれが最高傑作なのではないかと思っています。広く聴かれてほしいアルバムです。

ARCTURUSは、ブラックメタルの歴史の中で重要なポジションを占めながらもそこに留まらず独自の進化を遂げたバンドで、「ブラックメタル」として一般的に認識されているスタイルとは(初期を除いて)かけ離れた音楽性を持っています。(その点ULVERやMANESなどと同じような立ち位置にいるバンドです。)しかし、個性的に熟成された音遣い感覚はやはりノルウェーブラックメタルシーンからしか生まれ得ないもので、そしてその中にあっても最高の完成度を誇るものの一つと言えるのです。この【プログレッシヴ・ブラックメタル】の項で触れている他のバンドと比べると「あからさまに変」なものではないかもしれませんが、この“音遣い感覚”とそれを活かす作編曲能力・演奏表現力の面ではむしろ頭一つ抜けたところにいる実力者。エクストリームメタルが苦手な方(特にプログレ(非メタル)ファンやブルース要素のある音楽のファンなど)にもぜひ聴いてみてほしいバンドです。

【プログレッシヴ・デスメタル(便宜上)】 GOJIRA(フランス)

From Mars to Sirius

From Mars to Sirius


(2nd『The Link』フル音源)'03

(3rd『From Mars to Siriusフル音源)'05

(5th『L'enfant Sauvaga』フル音源)'12

'96年結成('01年に権利関係の問題からGODZILLA→GOJIRAに名義変更)。ハードコア寄りエクストリームメタルとしては現代最強バンドのひとつです。驚異的な演奏表現力と卓越した作編曲能力を併せ持つ実力者集団で、結成以来ずっと同じメンバーで活動できている点でも稀有な存在。思想云々の好き嫌いにとらわれず聴く価値が高いグループです。

GOJIRAの音楽性を非常に簡単にまとめると「MORBID ANGEL+NEUROSISをGroove Metal化したもの」という感じです。
(「Groove Metal」は日本でいう「モダン・ヘヴィネス」のようなスタイルで、PANTERAやSEPULTURAをいわゆるラウドロックに寄せたような、ミドルテンポで細かい刻みを連発するアレンジをハードコアの“跳ねる”質感をもつ演奏形式で形にした、というふうな音です。)
バンドが影響源として挙げているのはSLAYER・SEPULTURA・DEATH・MORBID ANGEL・MESHUGGAH・TOOL・METALLICA・PANTERA・NEUROSISなどで
そうしたものの音遣い感覚を複雑に発展させた高度な音進行を、ギターソロなどの“大きく変化していく”リードフレーズを殆どはさまないリフ・オリエンテッドなアレンジで展開していきます。そうしたスタイルで壮大な世界を描いていく構成力は相当なもので、Devin Townsendなどにも通じる音響もあわせ、いわゆる「ポストメタル」「アトモスフェリック・スラッジ」というようなスタイルにも通じる作風になっています。そちら方面を好む方も強くアピールしうる音楽なのではないかと思います。
そうしたスタイルのバンドと異なるのは、演奏スタイルが(ハードコアの“跳ねる”質感を持ちながらも)ブルータル・デスメタル寄りの激しく速いものだというところでしょうか。どんなに細かい刻みにも繊細なアクセントをつけて滑らかに表現してしまう超絶的なドラムスに、豊かな音色表現力を持ちながらも微妙に歪んだリズム処理をするギター・ベースが絡む。そうしてできるアンサンブルは、さながら「軸の傾いた超電磁嵐が荒れ狂う」ようなもので、長く同じラインナップで継続できている実力者集団でなければ成し得ない“癖のある密着感”が確立されています。これは他のどんな超一流バンドにも真似できない極上の珍味で、GOJIRAの音楽におけるかけがえのない売りのひとつになっていると思います。
このようなアンサンブルに乗るボーカルも非常に強力で、SEPULTURAの各ボーカルをDevin Townsend的な発声で強化したような逞しいエネルギーに満ちています。このラフな感じはメタルというよりやはりハードコア的で、知的で高度な音楽性に良い感じの“青臭さ”を加えていると思います。

そうしたボーカルの印象とも関係する要素なのですが、このバンドの歌詞のテーマはいわゆるニューエイジ思想に色濃く染まったものになっています。
生命の樹エコロジーなど“スピリチュアルな”題材にかぶれてる感が強い:そういえばバンド名の元ネタであるゴジラ自体、ニューエイジ云々の危うさはないものの、そちら方面から好まれ得るテーマを持つ作品でもあります)
シーシェパードなどとの関係もそちら方面への興味から来ているものなのだろうと思われます。
(2010年に「利益をそちらに寄付する」と発表して製作開始したEPは2015年現在も発売されていません。)
個人的には(シーシェパード云々はどうでもいいとしても)そういう過剰に“深刻に考え込む”様子と“無防備にかぶれている”危うい感じとが両立されている雰囲気がどうも苦手で(ボーカルの印象だけでなく音進行などにもそういう感じが出ています)、あまり素直にのめり込むことができないのですが、超絶的に優れた演奏表現力と作編曲のために、そうした雰囲気も唯一無二の味わい深い個性になっていると言うことはできます。波長の合う方はこの上なく楽しめるものにもなり得るのではないかと思います。

GOJIRAの発表した5枚のアルバムはどれも類稀な傑作ですが、その中から代表作を選ぶのであれば、2nd『The Link』('03年発表)か3rd『From Sirius to Mars』('05年発表)になるのではないかと思います。
2ndは上記のような“青臭く危うい”雰囲気があまり出ていなく、MORBID ANGELやMESHUGGAHに通じる要素が濃いめに残る作風になっています。過剰にシリアスな雰囲気を好まない方はこのアルバムから聴くのがベストでしょう。上記2バンドにも遅れをとらない圧倒的な音楽性を、あまり余計なことを考えず、存分に楽しむことができます。
3rdからは上記のような“意識の高い”雰囲気が濃くなっていき、それが苦手な方は多少辛いところがあるかもしれません。しかし、演奏表現力や音遣いに関していえばこのバンドにしか生み出せない卓越した個性を更に確立していき、作品としての深みもどんどん増していきます。その中でも3rdは“一枚モノ”としてベストな完成度をもつ作品で、この路線に踏み入っていくにあたっては、まずはこれを聴いてみるのがいいのではないかと思います。他の作品もまとまりが悪いわけではありません。MORBID ANGELの『F』『G』やブルータルデスメタルが好きな方などは4th『The Way of All Flesh』('08年発表)が一番接しやすいでしょうし、どの作品も聴く価値が高いです。

GOJIRAは(日本に関係のある名前を持ちながら)日本での知名度は低いままでしたが、2015年10月10日に開催されるLoud Park初日にブッキングされ、初来日公演が実現することが決定しています。現存する全てのエクストリーム・ロック・バンドの中でも群を抜いて優れた演奏表現力を持つ実力者集団ですし、生で体験する価値は極めて高いと思われます。音源を聴いてみてそこまで拒否反応が出なかったのであれば、ぜひ観に行かれることをおすすめしたいです。(私も未体験ではありますが)度肝を抜かれることを保証します。


〈追記〉
SLAYER・GOJIRA@新木場STUDIO COASTライヴレポ

【ブラックメタル出身】 LUGUBRUM(ベルギー)

De Ware Hond

De Ware Hond


(1st『Winterstones』から1曲目「Embracing The Moolight Snowclouds」)'95

(7th『Heilige Dwazen』フル音源プレイリスト)'05

(8th『de ware hond』から1曲目「Opwaartse Hond」)'07

(10th『Face Lion Face Oignon』フル音源プレイリスト)'11

'92年結成。我が道を行くバンドの多いブラックメタルシーンにおいてもトップクラスの個性派で、2015年の現在までに11枚のフルアルバムを発表しています。一般的な知名度は殆どゼロですが、代替不可能な珍味をもつ作品群は熱心なファンを生み、カルトな評価を得つつ気長に活動することができています。多くのブラックメタルと比べ大分渋くドロドロした音楽性で、広く受け入れられるのは難しいかもしれないものではあるのですが、卓越した演奏表現力と飄々としたユーモア感覚は強い“つかみ”を持っており、その点においてはキャッチーで親しみやすい印象さえあります。波長や相性が合う人なら一発で引き込まれうる音楽であり、聴いてみる価値は高いと思います。

LUGUBRUMはオランダ人Midgaars(ギターやバンジョーを扱うマルチ奏者)とベルギー人Barditus(ボーカル・初期作品ではドラムスも演奏)の2人により結成されたバンドで、初期はノルウェーのシーンに通じるプリミティブ寄りブラックメタルをやっていました。しかし、作品を発表するほどに独特な要素が増えていき、2000年代に入る頃には、70年代のジャーマン・ロックやTHE GRATEFUL DEADのような長尺ジャムセッション・ロック、70年代頭頃のMiles Davis(いわゆる電化マイルス)などのような、アンビエントで混沌とした演奏感覚が形成されていきます。バンド自身はこうした音楽スタイルの影響源を明かそうとせず(「共感を持つものの多くは70年代の音楽」と言っている)、「音楽的には他の何にも似ていないと思うし、そしてそれは鼻にかけることでもない。様々なスピードでブルースを演奏しているだけ」と述べています。実際、LUGUBRUMの音楽は(アメリカ寄りブルースの“鈍くドロリとした喉ごし”を除けば)他の何かと容易に比較できないものですし、形容表現としてよく用いられる「アウトサイダー・アート」という言葉が(「狂ってるさまを装う」浅ましさを漂わせない、気取りなくねじれている自然体の佇まいもあわせ)よく合っているものなのです。

LUGUBRUMの音楽における最大のテーマは飲酒で、アルコールへの思い入れには並々ならぬものがあるようです。
オフィシャルサイトhttp://lugubrum.com/index.htmlに掲載されている2007年のインタビューでは、「ベルギー・ビールは素晴らしく、普通の銘柄で満足できる」「観光客みたいにわざわざ特別なものを飲む必要はない」というふうに、かなりの尺をとって酒の話をしています。
LUGUBRUMの音楽を聴くと、こうしたアルコールによる酩酊感覚・二日酔いの“アタマが重い”気分などが確かに表現されていて、それが(一般的なブラックメタルと比べると“濃いめ”の引っ掛かりをもつ)ブルース的な濁りの感覚と絶妙に組み合わされていることがわかります。それは作編曲だけでなく演奏によっても生み出されているもので、ほろ酔いで楽しそうにしているような親しみやすい様子と、突然暴れ出して自滅しそうになるような手に負えない様子とが、滑らかに繋ぎ合わされて表現されているのです。

このような独特の音楽表現を、バンド自身は“Brown Metal”(褐色のメタル)と呼んでいるようです。この“Brown”は“brown note”(「可聴域外の超低周波音で、人間の腸を共鳴させて行動不能に陥らせる」とされる、実在が証明されていない音)を意識したものでもあるようなのですが、実際のところはよくわかりません。ブラックメタルを強く意識しつつ、そこから距離をおき自分達を差別化しようとする、という考えの現れなのかもしれません。
先のインタビューでは、
ブラックメタルは無限の可能性を持つ最も興味深い音楽ジャンルの一つだと思う。他のジャンルでは、自分の好きな音楽全ての影響を組み込むことはできなかった。自分達は、同じ方向性を突き進み(横道に逸れず)、その上で周囲にあるものを詳細に吟味し取り入れ続けている。その結果、作品毎に違った仕上がりになる。常にブラックメタルに関連付けられることをやってはいるが、その手法は我々独自のものだ」
と答えています。

LUGUBRUMの作品をなにか一つ聴いてみるのなら、8th『de ware hond』('07年発表)か9th『Albino de Congo』('08年発表)、10th『Face Lion Face Oignon』('11年発表)のうちどれかを選ぶのがいいのではないかと思います。先に述べたような豊かな音楽性が洗練された構成力のもと発揮されるようになった時期(7th『Heilige Dwazen』('05年発表)以降)の作品で、複雑に熟成された滋味をとても快適に体験することができます。

8th『de ware hond』は、70年代ジャーマン・ロックやTHIRD EAR BANDのような密教アンビエント感覚を土着的なブルースロックに寄せたようなスタイルで、幾つかのテーマフレーズを用意した上での(ほぼ)一発録りで製作されています。録音場所は2箇所で、それぞれの音源から前半・後半ができています(ともに約14分+約8分の2曲構成)。このバンドの圧倒的な演奏表現力&対応力・展開力が申し分なく発揮されており、アルバム一枚を通してのまとまりも完璧。ブラックメタル・シーンから生まれた作品として出色であるだけでなく、いわゆるジャム・バンド一般が好きな方にもおすすめできる優れものです。
9th『Albino de Congo』ではMiles Davis『in a silent way』的なトロピカルな響きが加わり、そして10th『Face Lion Face Oignon』は9thのブルース成分を少しだけ濃くしたような(8thよりは薄い)仕上がりになっていて、こちらもとても味わい深い内容になっています。聴きやすさではこの2枚の方が上だと思われるので、入門編としてはこちらの方がいいのかもしれません。

こうした最近の作品と比べると、初期作品はあまりわかりやすく“変”な仕掛けが前面に出ていないぶん取っつき辛く思えるかもしれませんが、味わい深さでは決して最近のものに劣っていません。特に1st『Winterstones』('95年発表)は素晴らしい内容です。スタイルとしてはわりとオーソドックスなプリミティブ・ブラックメタルなのですが、DØDHEIMSGARDの1stやULVERの1stに通じる(初期ノルウェー特有の)薫り高い空気感が、それほど絶望に泣き濡れない独特のバランス感覚のもと、見事に個性的に仕上げられているのです。入手はかなり困難だと思われますが、ブラックメタル一般やこのバンドのマニアには是非聴いて頂きたい傑作です。
知名度が高くなれば名盤扱いされうる一枚だと思います。)

スタジオ録音の作品ではありませんが、ライヴアルバム『live in Amsterdam』('06年発表)も大変優れた作品です。SUNN O)))の前座として出演した2005年6月28日のアムステルダム(オランダ:ベルギーの隣国)公演が収録されており(約46分)、初期〜中期のアルバムからまんべんなく選んだ代表曲が、2004年に固まったラインナップの卓越した演奏表現力により大きく強化されています。正直言って全曲このアルバムのバージョンの方が良い仕上がりですし、一枚モノとしての構成も非常に良く、バンドの代表作とみてもいい傑作だと思います。結成からの20年間で20回程しかライヴをしてこなかったというこのバンドの実力を体験できる貴重な作品でもありますし、機会があれば聴いてみてほしい一枚です。

個人的に、このバンドの作品は2nd『Gedachte & geheugen』('97年発表)を除き(スプリットも含め)ほぼ全て聴いていますが、どの音源も、他では聴けない味わい深い個性に満ちた逸品ばかりだと思います。飄々とした粘りをもって細かいニュアンスを“バンド全体で”表現し分ける演奏力などは達人の域ですし、メタル的でない“たわみ”がある質感は、いわゆるジャム・バンドやハードロック〜プログレッシヴロックのファンにもアピールするのではないかと思います。今年(2015年)は(LP限定とはいえ)新譜を発表しましたし、この機会に少しでも注目されてほしいものです。

【ハードコアパンク(便宜上)】 THE STALIN(日本)

虫 (SHMCD)

虫 (SHMCD)


(1st『Trash』フル音源)'81

(2nd『Stop Jap』フル音源)'82

(3rd『虫』フル音源)'83

(4th『Fish Inn』の1曲目「廃魚」)'84

日本を代表するパンク・バンドのひとつ。遠藤ミチロウの個性的なボーカル&パフォーマンス、そして卓越した音楽性により、同時代以降の人々(ミュージシャンに限らない)に絶大な影響を与えました。ハードコアパンク創成期を代表するバンドのひとつでもあり、残した作品は、シーンが立ち上がる時期ならではの“定型に縛られない”音楽的広がりを持ったものばかりです。単に歴史的に重要というだけでなく、作品そのものの絶対的なクオリティという点でも、稀有の高みにあるバンドです。

リーダーであるボーカリスト遠藤ミチロウさんは、ジャックスに衝撃を受けて音楽を志し、THE DOORSPatti Smithに連なるニューヨーク・パンクに大きな影響を受けたといいます。
(このインタビューなどに詳しいです。http://natalie.mu/music/pp/stalin?nosp=1
そうしたものに特有な、うつむき加減で仄暗い雰囲気が、もう一方のルーツである日本のフォークの要素と絡み合うことで、“冷たく甘い”“汗で湿った”空気感が生まれる。そしてそれが勢いのある演奏と組み合わされることにより、“ダウナーながら荒々しい”類稀な感覚が得られるのです。単独でそうしたニュアンスを生み出すミチロウさんのボーカルも素晴らしく、音楽全体に唯一無二の味を加えています。

スターリン」という名義はミチロウさんの一時期までのバンド活動一般を表すもので(「バンドをやるんだったらどういう音楽性であろうとスターリンという名前を使おうと考えていた」という発言があります)、本格的に活動していた期間だけをみても
ザ・スターリン('80〜'85)
ビデオ・スターリン('86〜'88)
(新生)スターリン('89〜'93)
という3つのユニットが存在します。そのうち、本稿にはっきり関係があるハードコアパンク期と言えるのは最初の「ザ・スターリン」のみなので、ここではそれについてのみ触れることにします。

この時期に残した4枚のスタジオ・フルアルバムはどれも大変な傑作で、歴史的意義云々に興味がなくても聴く価値があります。

1st『Trash』('81年12月発表)は、ニューヨークパンクに影響を受けたミチロウさんの好みと、前作『Stalinism』('81年4月発表のEP)で脱退したギタリスト金子あつしさん(RAMONESやTHE GERMSなどオーソドックスなパンク寄りのバックグラウンドがあった)のインプットが反映された作品で、THE CONTORTIONSなどのNo Wave勢に通じる不協和音〜無調的な音遣いが非常にうまく活用された傑作です。アルバムの前半(LPでいうA面)がスタジオ録音、後半(B面)がライヴ録音(法政大学と京都礫礫)からなる構成なのですが、全体の流れは実に滑らかで、先述のような“ダウナーながら荒々しい”雰囲気に快適に浸ることができます。メンバーの演奏表現力も素晴らしく、個人的には、このバンドの歴史の中では最も完成度が高いラインナップだったのではないかと思います。後の作品で様々に表現される“静”“動”の2要素がバランスよく溶け合っている点でもベストで、血中パンク濃度を急上昇させる刺激と不思議な落ち着きとが両立されています。諸事情により再発されないカルトな名盤でもあるのですが、そうした話題性を超えて重要な、音楽的に極めて優れた傑作です。

メジャーデビュー作となった2nd『Stop Jap』('82年発表)は、当時のシーン(二ューウェーブ寄り)に意外と少なかったロンドン・パンクのスタイルを狙って作られたというアルバムで、収録曲の多くはこれ以前からのレパートリーの再録なのですが、ストレートに押し切る勢いが強化されています。SEX PISTOLSの分厚いギター多重録音サウンドを意識したという音作りはバンドの作品中最も“硬く尖った”もので、同時期の英国ハードコアに通じる攻撃力が生まれています。曲の流れつながりなどは他の作品と比べ少しぎこちないですが、特有の湿った空気感は健在で、それがアルバム全体に不思議な統一感を生んでいます。次作とあわせ、日本の地下音楽史に大きな影響を与えた歴史的名盤です。

一般的に代表作とされるのが3rd『虫』('83年発表)でしょう。ミチロウさんがDISCHARGEやG.B.H.にのめり込み始めた頃の作品で、そうしたものに影響を受けながらも、独自の音遣いと演奏感覚によって代替不可能なスタイルを完成させてしまっています。1〜3分で駆け抜ける高速ハードコア11曲とラストを飾る約10分のドゥーム曲からなる構成で、滑らかに突っ走る勢いと、甘い霧がまとわりつくような寒々しい空気感とが、どんなテンポにおいても強力に両立されています。特に高速ハードコア曲の“躓きながらぶっ飛ばす”疾走感は驚異的で、ハードコアパンク〜スラッシュメタルの歴史全体を見渡しても最高レベルとして扱われるべき勢いがあります。本稿の文脈で言えば最も重要な作品ですし、入門編としても最適な傑作と言えます。ぜひ聴いてみることをおすすめします。

この後に製作したソロ音源『ベトナム伝説』('84年発表)の辺りからミチロウさんはJOY DIVISIONやBAUHAUSに強く惹きつけられ始めていて、『Stop Jap』や『虫』のハードコアパンク的な世界とは決別したくなっていたようです。その流れから製作されたのが4th『Fish Inn』('84年発表)で、「自分の中ではTHE DOORSPatti SmithJOY DIVISIONはつながっている」というニューヨークパンク〜英国ゴシックロック的な雰囲気が、『虫』の最後を飾るドゥーミーな同名曲の路線を引き継ぐかたちで掘り下げられています。これがまた素晴らしい内容で、前作までのわかりやすく勢いあるスタイルを求めるファンには不評なようですが、独特の音遣い感覚や空気感はさらに味わい深いものに鍛え上げられています。
このアルバムは'84年発表のオリジナル盤と'86年発表のBill Laswellによるリミックス盤が存在するのですが(現在手に入りやすいのは後者)、オリジナル盤の尖り気味の音質(ミチロウさんはこれが気に入らなくてリミックスを依頼したとのこと)もリミックス盤のくぐもった音質もともに説得力のある表現力を発揮しており、どちらも優れた出来になっていると思います。ゴシカルな音遣い〜雰囲気が好きな方には最もアピールするものではないかと思われますし、そうでなくとも聴く価値の高い傑作です。

本稿ではここまでしか触れませんが、スターリン解散後のバンドや、メインとなっているソロ(性格・主義的に「独り」が重要とのこと)での弾き語り=アコースティック・パンクスタイルなどでも、先述のような独特の感覚は常に保持されています。ミチロウさんだけみても、一音聴けばそれとわかる素晴らしい声は健在ですし、上記の作品が引っ掛かった方はぜひ掘り下げて聴いてみることをおすすめします。日本の地下音楽史における最重要人物の一人というだけでなく、単に「個性的で優れたミュージシャン」としてだけみても稀有の存在です。