プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【プレ・テクニカル・スラッシュ・メタル】 VOIVOD(カナダ)

Killing Technology

Killing Technology


(1st『War And Pain』フル音源)'84

(3rd『Killing Technology』フル音源)'86

(13th『Target Earth』フル音源)'13

スラッシュメタルシーンに所属したバンドの中でも特に「プログレッシヴ」と言われるバンド。ギタリストPiggy(Denis D'Amour:2005年没)の天才的な音遣いセンスを駆使した大曲と、個性派揃いの素晴らしいアンサンブルにより、一部のスラッシュメタル〜ハードコアバンドに絶大な影響を与えました。

VOIVODの音楽的背景として最も重要なのはKING CRIMSON(の第3期ラインナップ:'73〜'74)とDISCHARGEでしょう。そこにプログレッシヴ・ロックVAN DER GRAAF GENERATORPINK FLOYDなど)や激しいロックンロール(MOTORHEAD・VENOMなど)のエッセンスを加え、独自の解釈により強烈な個性を築き上げてしまった、という感じです。
1stアルバムではDISCHARGEの『Why』がかなりはっきりとした下敷きになっていて、そこに様々な英国ロックのエッセンスを加えることにより、初期BATHORYをプログレ的にひねったような“複雑かつストレートな”仕上がりを生んでいます。2ndではこれがテンポアップし、複雑な味わいと初期衝動的な勢いをともに強化したぐちゃぐちゃのスラッシュメタルになりました。そして、それをうけての3rdアルバムでは、第3期KING CRIMSONの独特のフレーズ進行をNWOBHM的なパワーコード感覚で“重ねて”肉付けしたような音遣いが開花し、以後のこのバンドを象徴する「不協和音リフ」を多用した大曲が作られるようになります。4thアルバム以降はスラッシュメタル的な尖った切れ味が引っ込められるようになるのですが、個性的な音遣いのセンスには更に磨きがかかっていき(5th『Nothingface』あたりが完成形でしょう)、アンダーグラウンドシーンにおける一部のバンドに“烙印”と言えるほどの決定的な影響を与えるようになります。こうした音遣いは好みの分かれるものでもありますが、波長が合ってしまえば一生モノの珍味であり、他では得られない手応えをもたらしてくれます。そういう意味では全作品が必聴に値します。

そして、このバンドにはもう一つ、他では聴けない強力な持ち味があります。Piggy(Denis D'Amour:ギター)・Away(Michel Langevin:ドラムス)・Snake(Denis Belanger:ボーカル)、そしてBlacky(Jean-Yves Thériault:ベース:加入〜脱退を繰り返している)といった個性派が織りなす極上のバンドアンサンブルです。Piggyの“ロックンロール+プログレ”といった趣のギター、Awayの“柔らかくめり込む”“ハードコア+プログレ”というふうな質感のドラムス、Snakeの飄々とした(ふてぶてしさと親しみやすさを感じさせる)強靭なボーカル。そして、Blackyの“バキバキはりつく”弾力を持った素晴らしいベース。この4人の(音楽的な)相性は最高で、メタル〜ハードコアシーンに所属する全てのバンドの中で最も完成度の高い個性を確立していると思います。(特に5th・6th。)たとえ作編曲が好みでなかったとしても、この演奏の味わいは体験する価値がある。そう断言できます。残念ながらPiggyは2005年に亡くなってしまいましたが、後任として招き入れられたChewy(Daniel Mongrain:MARTYR / ex. GORGUTS, CRYPTOPSY)は現代のテクニカル〜プログレッシヴメタルシーンを代表する天才で、VOIVOD固有の優れたカラーを引き継ぎつつ、KING CRIMSON的な要素に縛られるきらいのあったこのバンドの音楽性を巧く拡張することに成功しています。Chewy加入後に発表された13thアルバム『Target Earth』はそうした“顔見せ”が絶妙のバランスで行われた傑作であり、今後の活動を楽しみにさせてくれるだけのポテンシャルが示されていました。

“影響の流れ繋がり”という点では本稿中での主流と言えないバンドなのですが、言葉本来の意味における“プログレッシヴな”メタルバンドを聴きたいのであれば、VOIVODを無視する手はありません。ぜひ体験してみてください。