プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【プログレッシヴ・デスメタル(便宜上)】 OBLIVEON(カナダ)

Carnivore Mothermouth

Carnivore Mothermouth


(1st『From This Day Forward』フル音源)'90

(2nd『Nemesis』フル音源)'93

(3rd『Cybervoid』から1曲目)'96

(4th『Carnivore Mothermouth』から6曲目)'97

'87年結成、'02年に一度解散。優れたバンドの多すぎるカナダのシーンにおいても屈指の実力者で、個性的な音楽の魅力はVOIVODやMARTYR、GORGUTSにも劣りません。レコード会社から十分なサポートを得られずに苦しみ続けたバンドで、「テクニカルスラッシュ」「プログレデス」の中でも最上級に位置すべき作品を残したのにもかかわらず、現在に至るまで無名であり続けています。こうした系統の音楽性が広く認知されるようになった今でこそ、再評価されなければならないバンドだと思います。

OBLIVEONの音楽性を一言で説明するのは殆ど不可能です。「DBCやSEPULTURAのような微妙にハードコアがかったスラッシュメタルを、欧州クラシックの楽理を援用しつつ暗くスペーシーな感じに仕上げた」ような感じはありますし、後のバンドでいうならMARTYRやVEKTORなどは似た要素を持っているのですが、独特の暗黒浮遊感を伴う音遣いはここでしか聴けないもので、リードフレーズもコードワークも代替不可能な旨みに満ちています。演奏も雰囲気表現力も素晴らしく、“指が回る”という意味でのテクニックはそこまで圧倒的でないものの、他では聴けないトーンと独特の“冷たく飄々とした空気感”が魅力的。こればかりは実際に聴いていただかないと何とも言えません。

OBLIVEONが発表した4枚のアルバムは、全てが「テクニカルスラッシュ」「プログレデス」シーンを代表すべき傑作です。

1st『From This Day Forward』('90年発表)は最もスラッシュメタル色の強い1枚で、先述の「DBCやSEPULTURAのような微妙にハードコアがかった」質感が前面に出ています。それを極めて個性的なコードワーク&リードフレーズで装飾した作編曲は見事の一言で、淡々としたテンションを保ちながら勢いよく突っ走る演奏も独特の雰囲気に満ちています。

2nd『Nemesis』('93年発表)は1stのメカニカルな質感を強めた作品で、変拍子を効果的に絡めつつ淡々と押し続ける語り口もあって、冷たく燃え上がる雰囲気が更に熟成されています。また、他では聴けない音色のリードギターがより前面に押し出されるようになり、天才的なフレージング・センスで蠱惑的な魅力を醸し出しています。このバンドの作品の中では最も認知度の高い作品で、アメリカのインスト・プログレッシヴメタルバンCANVAS SOLARISのドラマーHunter Ginnなどは、「“テクニカル・メタルってどんなもの?”と聞かれたら『Nemesis』のような音だと答える」という発言を残しています。
(Jeff Wagner「Mean Deviation:Four Decades of Progressive Heavy Metal」2010年刊より)
当時所属していたレーベルActive Records(イギリス)はこの作品のリリース直後に破産。その後バンドが自費出版した分も即完売したため、Prodiskレーベルが'07年に再発するまでは、この作品が公式に広く売られることはありませんでした。最も認知度の高い作品ですらこの有様。レコード会社に恵まれなかったこのバンドの苦労が伺われます。

続く3rd『Cybervoid』('95年7月録音完了・翌年4月に発表:カナダとフランス以外では発売されず)はこれまでの音楽性をさらに成熟させつつ整った構成にまとめあげた傑作で、全編が強力なギターフレーズで埋め尽くされています。リフも見事なものばかりですが、それ以上にリードギターが素晴らしい。独特の暗黒浮遊感と美しく印象的な“かたち”が魅力的なものばかりで、「テクニカルスラッシュ」「プログレデス」枠で語られるあらゆる作品の中でも最上級に位置すべき名フレーズを聴くことができます。また、このアルバムでは強力な専任ボーカリストが加わっていて(前作まではベーシストが兼任していて格好良い“吐き捨て”型の歌唱を披露している)、アンサンブル全体の完成度を高めています。

現時点での最終作4th『Carnivore Mothermouth』('99年)は、前作・前々作において少しずつ増えてきていたインダストリアル・メタル色が前面に押し出された作品で、KILLING JOKEやMINISTRY、FEAR FACTORYを意識したような曲が多くを占めています。これまでの作品において“看板”になっていた魅力的なリードギターは大胆にカットされ、多彩なリフと強力なボーカルをコンパクトに聴かせる“歌モノ”メインの作風に変化。こうした大幅な転身もあって、昔からのファンには問題作扱いされることがあるようです。しかしこれは素晴らしい作品で、独特の高度な音遣い感覚を巧みに整理したリフはどれも見事な仕上がりです。凄まじい作り込みをすっきり聴かせてしまうアレンジも驚異的で、ドラムスのフレーズ構成&演奏、そして“柔らかく尖った”ボーカルが、唯一無二の魅力を生み出しています。独特の暗黒浮遊感に妙な明るさが加わった雰囲気や、メタルにはあまり例のない“高域に焦点をおいた”音作り(ベースやバスドラよりもシンバルやボーカルに注目することでアンサンブルの魅力が見えるようになる作り)など、少し慣れが要る箇所もありますが、アルバムの完成度としては本作がベストでしょう。個人的には最高傑作だと思っています。
この4thアルバムは高度な音楽性と“わかりやすさ”を最高度に両立した大傑作だったのですが、そもそもまともな流通を得られなかったこともあり、やはり十分な評価を得ることができませんでした。こうした苦労もあってかバンドは'02年に解散。15年に渡る活動にひとたび終止符を打つことになりました。

なお、OBLIVEON解散後、ギターのPierre Rémillard(2nd以降の録音・ミキシングを担当)はスタジオ・エンジニアとしてのキャリアを本格化。活動範囲はカナダのメタルシーンに限られるようですが、当地の優れたバンドの傑作の多くに関わっています。
(CRYPTOPSYの2nd〜4th、GORGUTSの3rd〜5th、MARTYRの2nd・3rd、VOIVODの13th『Target Earth』など。)
陰ながらこのジャンルに大きく貢献し続ける重要人物であり、「テクニカルスラッシュ」「プログレデス」のファンであれば、名前を知らなかったとしても関連作を聴いたことはあるのではないかと思います。

本活動時は不遇をかこつカルトバンドに留まってしまっていたOBLIVEONですが、なんと2014年に再結成し、現在(2015年)も活動中とのことです。こうした系統の音楽性が広く認知されるようになった今ならば、そして、作品に触れてもらえる機会さえ得られれば、多くのファンを獲得することも夢ではないはずです。
今からでも遅くありません。この素晴らしいバンドが正当に評価されることを願います。