プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【初期デスメタル】 diSEMBOWELMENT(オーストラリア)

Disembowelment

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(『Transcendence into The Peripheral』フル音源)'93

'89年結成、'93年解散。フューネラル・ドゥームと言われるスタイルを最も早く確立したと言われるバンドで、個性的で奥深い音楽性により後続に絶大な影響を与えました。唯一のフルアルバムは「デスメタル」の枠に留まらない大傑作で、90年代に生まれた音楽としてはあらゆるジャンルにおいても屈指の達成と言えます。本稿で扱う作品の中でも最高レベルの傑作。ゴシカルな雰囲気に抵抗のない方はぜひ聴いてみてほしい一枚です。

diSEMBOWELMENTの音楽性は「THE CUREJOY DIVISIONDEAD CAN DANCEあたりに初期NAPALM DEATHの音遣い感覚を加え、アンビエントデスメタルスタイルで演奏した」感じのものです。リーダーであるRenato Gallina(全ての作詞作曲を担当)は中東音楽に深く入れ込んでおり(diSEMBOWELMENT解散後にはそうした方向性を前面に押し出したフォーク / アンビエントユニットTRIAL OF THE BOWを結成します)、そこから得た音遣い感覚が初期NAPALM DEATHのようなグラインドコアの要素と混ざり合うことにより、イギリスのゴシック・ロックに通じる暗黒浮遊感が生まれた、ということのようです。全7曲(約60分)の半分以上は10分程度の大曲ですが、緻密で巧みな構成力と卓越した演奏表現力もあって、冗長な感じは全くありません。正統派デスメタルの“ドロドロした”感じのない音遣いは、クラシック音楽というよりはそれ以前の古楽バロック以前:16世紀以前)やビザンティン音楽(ギリシャ〜地中海発祥:9〜15世紀)に通じるもので、滑らかな湿り気を伴いながらも感傷的になりすぎない、独特のバランス感覚を持っています。また、音作りはノルウェー以降のブラックメタルにおける“霧のような”トレモロ・スタイルに近く、一般的なデスメタルの“重く密な”質感がないこともあり、“肉体の重みから解放された”感じを生んでいます。こうした要素が複雑に絡み合うことにより現れる雰囲気は唯一無二の薫り高いもので、苦しみに悶える激しいパートでも“聴き手に噛みつく”悪意は殆ど感じられず、高貴で厳粛な品の良さを常に伴っているのです。

このような雰囲気や音楽性は後のバンドに絶大な影響を与えており、「フューネラル・ドゥーム」と呼ばれるスタイルの原型にもなりました。特に、ブルース的な引っ掛かりの少ない音進行と、遅いパートでも重みを感じさせない“霧のような”“肉感の薄い”音作りは、BLACK SABBATH方面から派生したドゥームメタル(ELECTRIC WIZARDやSLEEPなど)とは一線を画すもので、CANDLEMASSやUNHOLYのような北欧のバンドとあわせて、SABBATH寄りドゥームと異なる流れを生む原動力となりました。また、NILEのKarl Sandersなど、ドゥームメタルとは別方面のミュージシャンにも多くの影響を与えています。
(Karlは、'97年のインタビュー http://www.darkages.org.uk/nile.html で影響源を問われた際、Graeme Revelle(ニュージーランドの映画音楽家)・Peter GabrielGENESIS出身のあの人)に続けてdiSEMBOWELMENTとTRIAL OF THE BOWの名前を挙げています。)
本活動中('89〜'93)は十分な認知を得られなかったバンドですが、他に類を見ない大傑作を残したことにより、しっかり歴史に残り、いまだに影響力を発揮し続けているのです。

diSEMBOWELMENTの作品は、現在Relapseレーベルから出ている2枚組CD『diSEMBOWELMENT』により、デモも含めた全音源をまとめて聴くことができます。全ての収録曲が比類のない名曲で、シーンの流れを押さえるという意味でも、単純に音楽を楽しむという点でも、他では聴けない素晴らしいものばかりです。初期デスメタルの枠で言えばMORBID ANGEL『Alters of Madness』やGORGUTS『Obscura』と並ぶ大傑作ですし、現代のシーンをみても、MOURNFUL CONGREGATION('93年結成)やULCERATEのようなオーストラリア〜ニュージーランドバンドを理解するにあたって外すことのできない存在だと考えられます。ぜひ聴いてみることをおすすめします。