プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【テクニカル・スラッシュメタル】 OVERTHROW(カナダ)

Within Suffering (Definitive Edition)

Within Suffering (Definitive Edition)


(『Within Suffering』フル音源)'90

カナダのテクニカル・スラッシュメタルバンド。同郷の名バンドと比べると知名度は低いですが、独自の路線のもと、そうしたバンドに勝るとも劣らない傑作を残しました。

活動中に発表した作品はデモ『Bodily Domination』('89年発表)とフルアルバム『Within Suffering』('90年発表)のみで、これは後者の再発盤でまとめて聴くことができます。欧州スラッシュメタルに微妙にハードコア〜クロスオーバースラッシュを加えたようなテクニカルスラッシュメタル路線で、硬く跳ねる演奏にはどこかインダストリアルメタル的な質感も備わっています。
(中心人物Nick Sagiasの2010年インタビュー
では、バンド全体としてはジャーマン・スラッシュ(DESTRUCTION、SODOM、KREATOR、HOLY MOSES、KREATOR)、ベイエリアのバンド(POSSESSED、VIO-LENCE)、カナダのバンド(SACRIFICE、VOIVOD)、SLAYERなどの影響が大きく、Nick個人としてはインダストリアル寄り音楽(SWANS、Einstuerzende Neubauten、MINISTRYなど)の影響もある、と表明されています。)
随所に“字余り”複合拍子を仕込みながら勢いよく走り回る演奏は素晴らしく、名サイト「Thrash or Die!」などでも「超極上の作品であり、バイブルクラスのthrash album!」と評されています。
(こちらのページhttp://www.geocities.co.jp/MusicStar/4935/re.O.htmlの最下段参照)
勢いを全開にしながらも常に不思議な落ち着きが伴う“冷徹な熱さ”はカナダ特有のもので、DBCや初期OBLIVEONなどに通じる味わいもあります。抽象的で目まぐるしく変化する曲構成は(こういうスタイルに慣れていないと)はじめは戸惑わされるものかもしれませんが、慣れて勘所を掴むと素晴らしい“効き目”に酔いしれることができます。POSSESSEDやMORBID ANGELのパンク的な部分が好きな方などにもおすすめできる傑作です。

この『Within Suffering』を発表した後、中心人物であるNick(ベース・ボーカル)がPESTILENCEへの加入(『Consuming Impulse』発表後に脱退したMartinの代役)を決めたことをきっかけに、OVERTHROWは解散することになります。
(それ以前から「OBITUARYなどの遅いデスメタル志向とSLAYERやMEGADETHなどのスタイルにならう志向」「チューニングを下げるか否か」「ボーカルスタイルをスラッシュ寄りのままにするかデスメタル寄りのものに変えるか」など、音楽的方向性の違いために新曲の製作が進まなかったことも解散の原因になったようで、同様の理由から、再結成の可能性は殆どないとのことです。)

ちなみに、NickはPESTILENCEと4曲入りのデモ『Out of The Body』を録音し、デスメタル制作スタジオの名門として名を馳せたMorrisound Studioで録音された3rdアルバムにも関わる予定だったのですが、テクニカル志向から雰囲気表現志向に移りつつあった自身の音楽的方向性のもと、PESTILENCEからの脱退を決定。ちょうど当時Morrisoundで2ndアルバムの録音作業に入っていたATHEISTのベーシストTony Choyを紹介し、その結果、TonyがPESTILENCEの3rdに参加することになったようです。
(上記のインタビューでその経緯が語られています。)

OVERTHROWの音楽には一見地味なところもありますが、演奏の凄さも音楽性の興味深さも“ありそうでない”ポジションをついていて、とても味わい深く聴き込むことができます。このジャンルが好きで意識的に掘り下げていきたいという方にはぜひ聴いてみてほしいバンドです。