プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【ゴシック〜ドゥーム〜アヴァンギャルド寄り】 CONFESSOR(アメリカ)

Condemned

Condemned


(1st『Condemned』フル音源)'91

(2nd『Unraveled』フル音源プレイリスト)'05

アンダーグラウンドなメタルシーンが生み出した史上最強のカルト・バンド。本活動時に発表した唯一のフルアルバム『Condemned』('91)は文字通りの“他に類を見ぬ”傑作で、奇怪な音楽性と異常な演奏表現力により、聴くことのできた人々に大きな衝撃を与えました。常識を著しく逸脱した内容が災いしてか、今に至るまで一般的な評価を得ることは殆どできていないのですが、その実力は強力無比。本稿をここまで読んで頂けた方にはぜひ聴いてみてほしいバンドです。

CONFESSORの音楽性を簡潔に言い表すのは困難です。メンバーによれば、影響源はTROUBLE・BLACK SABBATH・NASTY SAVAGE・KING DIAMOND・DESTRUCTIONあたりらしいのですが、確かに頷ける部分もあるものの、そうしたバンドをそのまま成長させたらこうなるとはとても言えない仕上がりです。
CELTIC FROSTに英国ブルースロックの旨みをたっぷり含ませたようなリフを土台に、独創的すぎるフレーズを連発するドラムスが絡み、その上を漂う高音ボーカルが異常な不協和音を描き続ける。感覚的に例えるならば「MESHUGGAHをアメリカン・ゴシック・メタル化したもの」という感じもあり(リズム構成などは全然異なります)、その音遣いは得体の知れない滋味に満ちています。作編曲も演奏表現も最高レベルの個性を備えているため、理解するためにはこのバンドそのものをひたすら聴き込むしかないのですが、それにより得られる手応えに比肩するものはありません。“BLACK SABBATHに連なるヘヴィ・ロック・シーンが生み出した究極の珍味”とすら言える音楽なのです。

CONFESSORの音楽は、基本的にはギター&ベースのリフを土台に構成されているようです。
ベースのCary Rowellsがインタビュー('05年:http://metalchaos.co.uk/Confessor%20Interview.htm)で答えたところによると、作編曲の流れは
・誰か(主にギター2人のうちどちらか)が持ってきた1つか2つのリフに全員で取り組み、それを変化させたり他のリフを繋げたりして、全体の構造を作っていく
・それを繰り返し演奏して概形を作ったら、そこにドラムス・ベース・リードギターを加えていく
・それにより大体の構造が出来上がったら、ボーカリストScottのアイデアも積極的に取り入れて、歌メロを付けていく
というふうになっているとのことです。
つまり、ギター&ベースのリフで音遣い・リズム構成の概形を作ってしまった上でそれを装飾していくのです。従って、全体のコード感や拍子の構成はギター&ベースのリフにほぼそのまま対応しますから、リフさえ聴いていれば全体の流れをつかむことができます。このバンドの音楽においてはどうしてもSteve Sheltonの「脳みそが4分割ぐらいされていて両手両足を好き勝手に動かせるんだろうな」(©Thrash or Die!)という複雑なドラムス・フレーズが目立ちますが、それはあくまでリフを装飾するもので、全体の構造においては“オマケ”に過ぎないわけです。例えば、1stのタイトルトラック「Condemned」で“5拍子リフとバスドラで同期しつつ3拍ループのシンバルを絡める”ような場面では、ドラムスだけ聴いているとわけがわからなくなりますが、(入り・切りのはっきりした)リフに注目しつづければ、展開を見失わずに聴き通すことができます。実のところ、リズム構造はかなり“割り切り”やすく、奇数拍子と4拍子系の交錯する構成にも“聴き手を振り回す”無理矢理さはありません。ひとたび慣れてしまえば、滑らかでゆったりした展開に落ち着いて聴き浸ることができてしまうのです。そして、このようにして聴き込んでいけば、奇怪な印象に満ちた楽曲も、よく整理された“かたちの良い”仕上がりになっていることがわかります。独自の方向性を突っ走りながらも、明晰な語り口を持つ洗練された仕上がりになっているのです。

こうした音楽性に加え、このバンドはメンバー全員が異次元レベルの名人です。
先に述べたドラムスのSteve Sheltonなどは「John BonhamLED ZEPPELIN)〜Neil Peart(RUSH)ラインの究極進化系」といえる達人で、凄まじい重みをもって“芯”を打ち抜くタッチと完璧なリズム処理だけみても最高級のプレイヤーなのに、フレーズのセンスと引き出しの多さに関しても他の追随を許しません。(あらゆるジャンルをみてもトップクラスの打楽器奏者だと思います。)
また、ボーカルのScott Jeffreysも信じ難い実力者です。スピードメタル〜パワーメタル系統のいわゆる“ハイトーン”スタイルなのですが、低域から高域まで完璧に充実した力みのない発声も、異様な不協和音の中でブレずに目的の音程をヒットする音感も素晴らしく、一見淡白なようでいて巧みなフレージングもあって、音楽全体の雰囲気に完璧に溶け込んでいます。
この2人に比べると地味なギター・ベースも超絶的な腕前の持ち主で、リズムカッティングもリードで出てくるところも“丁寧な勢い”に溢れています。他にありそうでない個性的な音色も、音楽全体の個性に大きく貢献していると思われます。
そして、以上のようなメンバーが演奏技術を“ひけらかす”ことなく息を合わせるアンサンブルが何より素晴らしく、その豊かで幅のある表現力が、スタジオ録音においても見事に捉えられているのです。
1st『Condemned』('91年発表)は、'88・'89・'90年に制作された3つのデモ(計9曲)の中から8曲が採用され、それに新曲1曲を加えた形で構成されています。何年もかけてやり込んだ上でのテイクは(「スタジオ録音で発表した新曲をライヴで作り込んでいく」というのとは異なる)熟成された“完成品”であり、このバンドの実力が申し分なく発揮されたものと言えます。本当にあらゆる面で充実した大傑作なのです。

ただ、このような大傑作も、発表当時は正当な評価を得ることができませんでした。当時のアンダーグラウンドシーンはデスメタル全盛で、ボーカルも含めスピードと低音を極める音楽が好まれていました。そういうところにこのような“ハイトーン&スローテンポ”の複雑な音楽を発表しても、「なんだか異様なものを聴いた」という以上の反応を得ることは難しく、充分な人気を集めることはできなかったようです。(1stの売り上げは当時で35000枚ということなので、こういうジャンルのものとしてはそこまで悪くなかったのではないかとも思いますが。)
ライヴに関しても、North Carolina(輩出した有名バンドはCORROSION OF COMFORMITYのみ)の小さなシーンを本拠地にしていたこともあってか、うまく活動範囲を広げることができなかったようです。所属レーベルEaracheが主催した欧州ツアー「Gods of Grind」(CARCASS・CATHEDRAL・ENTOMBEDとのパッケージ・ツアー)は成功したものの、NOCTURNUSなどと回った北米ツアーでは十分なサポートを得られなかったという話で、ライヴを通してプロモーションをしていくという面においても、満足のいく活動ができなかったのでした。
結局CONFESSORは2ndアルバムの制作途中に空中分解('94年)。ひとたび活動を停止することになったのでした。

その後、ベースのCaryとドラムスのSteveはFLY MACHINEやLOINCLOTHを結成し、常に演奏を続けていたようです。ギターのBrian Shoafも一時期FLY MACHINEに参加していましたが、ほどなくして脱退、数年間演奏をしていなかったとのこと。また、ボーカルのScottはDRENCHというバンドに少しの間在籍したのち脱退、学業に専念していたという話です。

こうして凍結されていたCONFESSORですが、'02年になって話が動き始めます。1stから参加したギターのIvan Colonが心臓関係の合併症で逝去。7ヶ月の闘病を経てIvanの奥様に残った医療費の負債を援助するため、共通の友人がCaryに「CONFESSORを復活させてベネフィット・ショウをしないか」と進言し、Ivanの前任者だったGraham Fryも含めた全メンバーがこれを快諾。再結成ライヴが実現することになったのでした。(負債を返してお釣りがくるほどの収益が得られたようです。)このライヴで手応えを得たことによりメンバーの意欲に火がついたようで、CaryとSteveは(再結成ライヴの半年後に)FLY MACHINEを解散し、そこでの同僚Shawn McCoyを引き連れ、5人編成のCONFESSORを復活させたのでした。
こうして活動を再開させたCONFESSORは、'09年にボーカルのScottが仕事の関係で離脱したのち再び凍結状態に陥っているのですが('09年に解散→'11年にScottが復帰したものの仕事の関係で中国に住んでいるため簡単には集まれない)、'05年に2ndアルバム『Unraveled』を完成させ、発表しています。1stの音楽性をより成熟させ歌モノに寄せたような仕上がりはどこかALICE IN CHAINSを渋く抽象的にしたような趣があり(Scottは'05年のインタビューhttp://www.metal-rules.com/metalnews/2005/01/20/confessor-vocalist-scott-jeffreys/で「歌い方に影響を受けた」と言っています)、1stとはまた別の素晴らしい味わいを生んでいます。人によってはこちらの方が気に入るかもしれません。ぜひ聴いてみてほしい大傑作です。

この2ndの発売時に行われたインタビューでは、各メンバーがそれぞれ「過去を振り返るつもりはないから1stの再発はしない」と言っており、このアルバムを長く入手しづらいものにし続けていました。(こうしたこともあって、1stの“カルトな名盤”としての名声が高まり続けていました。)しかし、'15年になって突然再発が実現。現在では入手が可能な状況になっています。これを機に再び活動を本格化するのか否かはわからないのですが、この再発だけみても相当の快挙。再び廃盤にならないうちに手に入れることをおすすめします。持っていて損はない素晴らしい作品です。

CONFESSORの音楽は、そのあまりにも複雑かつ高度な音楽性もあって、衝撃を与える一方で殆どフォロワーを生んできませんでしたが(真似すること自体が困難なため)、メタルシーンの大物達にも確かに影響を与えています。2ndのプラスチックケースに貼られた宣材ラベルには「CONFESSORはLAMB OF GOD誕生のサウンドトラックだった」というChris Adler(LAMB OF GODのドラマー・リーダー)のコメントが載っていますし、その下にはPhilip H. Ancelmo(DOWN・PANTERA)とKarl Sanders(NILE)の「最高級品」「神がかってる」という賛辞が並んでいます。このような(業界屈指の音楽マニアでもある)実力者が口を揃えて絶賛するというだけでも、その音楽性の凄さを感じて頂けるのでないかと思います。
また、そんなことは置いてみても、ALICE IN CHAINSやPSYCHOTIC WALTZ、NEVERMOREやMAUDLIN OF THE WELLなどと並べて語られるべき“アメリカン・ゴシック”メタルの名バンドでもあります。
音楽性と演奏表現の両面において余人の追随を許さない驚異的な実力者。この素晴らしいバンドが正当に評価される日が来ることを心より願う次第です。