プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

はじめに(もくじ・リンク集)

【はじめに】

 
この稿では、いわゆる「ヘヴィ・メタルの様式美」から大きく外れた、高度で個性的なメタルについて紹介しています。
(各バンドについて詳述すると長くなるので、それは別の記事に分けます。)
 
ヘヴィ・メタル」というと、80年代初期に音楽メディアなどによって付けられた印象の名残から「ワンパターンで変化のない音楽」というイメージがありますが、実際は全くそんなことはありません。
ある種の硬く肉厚な音作り(特にギターやドラムスの質感)さえ備えていれば、どんな音楽性であっても「メタル」扱いされるものになり得ます。実際、「メタル」シーンで語られる音楽の中には、ハードコアパンク寄りの躍動感を持つ(体を突き動かす)ものから、アンビエントに流れていく瞑想向きの(フィジカルには殆ど作用しないがメンタルに効く)ものまで、ありとあらゆるスタイルのものが存在します。
そういう意味で、「メタル」シーン(特に'90年付近)の音楽的広がりは、「ロック」シーン全体の最盛期としてよく語られるプログレ('70年代)やオルタナ('80年代)のシーンにも匹敵します。技術と個性を高度に両立したバンドが数多く存在し、音楽史上においても屈指といえる傑作が量産されているのです。
 
また、特に「テクニカル・スラッシュメタル」「プログレッシヴ・デスメタル」と呼ばれるシーンは、ある意味「音楽的に成功したフュージョン」と言えるものでもあります。
 
70年代以前のいわゆる「モダン・ジャズ」のシーンで(Miles DavisJohn Coltraneなどによって)道筋のつけられた音楽理論は、それ以後のいわゆる「フュージョン」シーンにおいて、より高度で複雑なものに発展させられました。しかし、それを使う人の多くは、「複雑だが教科書的な」「“自分の頭で考えない”」ワンパターンな音楽しか生み出せず、音楽的必然性の伴わない衒学をこねくりまわすような傾向に陥ってしまいました。「フュージョン」が「凄いけど魂がない」「お洒落だけどつまらない」と言われがちなのは、そういうところに大きな理由があるのではないかと思われます。
 
そうした「フュージョン」のシーンが一通り発展し硬化した(限られたパターンの「様式美」を使い回す傾向に縛られるようになった)後に、全く別のところから現れたのが、先に述べたような「テクニカルスラッシュ」「プログレデス」の流れです。フュージョンプログレにおいて得られた音楽的収穫を、優れたアイデアをもって個性的に使いこなしているバンドが多く、ある意味、そうしたシーンの“正常進化”形とさえ言えるのです。
 
例えば、Ron Jarzombek(WATCHTOWERほか)は、John ColtraneMichael Breckerなどによって掘り下げられた複雑なコードワークを独創的なものに仕上げ、“教科書的なつまらなさ”のない個性的な音楽を生み続けています。
また、CYNICやMESHUGGAHのようなバンドは、Allan Holdsworthが殆ど独力で編み出した無調的な音遣い感覚を独自に発展させ、後進に大きな影響を与えるだけでなく、同じ方向性で超えることが不可能と思えるくらい傑出した作品を生み出しました。
このシーンにはそういう偉業を成し遂げたバンドが数多く存在し、「1バンド1ジャンル」といえる様相を呈しています。音楽的興味深さと表現力の豊かさをハイレベルで両立しているという点では、モダンジャズやブラジル音楽の全盛期にも劣りません。掘る価値の高い、金脈と言えるシーンなのです。
 
この稿では、「メタル」というジャンルの外からも中からも注目されづらいそうした優れたバンドについて、歴史的な流れを踏まえつつ網羅しようと試みています。
 
(全てのバンドについて参考音源(youtubeリンク)をつけています。細かいレビューなどは別記事で。)
 
 
 
【入門篇:この10枚】
 
(聴きやすさ・入手しやすさを鑑みて選びました。各シーンにおける「定番」に関しては、後の項をご参照ください。)
 
 
CYNIC『Focus』
(フル音源:本編は36分ほど)
 
OPETH『Ghost Reveries』
(フル音源)
 
IHSAHN『After』
(フル音源)
 
DIABLO SWING ORCHESTRA『Sing along Songs』
(フル音源プレイリスト)
 
MESHUGGAH『Destroy Erase Improve
(フル音源)
 
WALTARI『Blood Sample』
(フル音源プレイリスト)
 
ANIMALS AS LEADERS『Animals As Leaders』
(フル音源)
 
SOLEFALD『Norron Livskunst』
(フル音源プレイリスト)
 
GORGUTS『Colored Sands』
(フル音源)
 
WATCHTOWER『Control And Resistance』
 
 
 
《もくじ》
 
(解説を書いたバンドの名前は太字にしています。)
 
【直接的なルーツ】
 
CHICK COREA ELEKTRIC BAND
WEATHER REPORT
RUSH
YES
 
【参考:ハードコアパンクシーンの流れ】
 
BAD BRAINS
DISCHARGE
THE STALIN
DIE KREUZEN
AMEBIX
S.O.D.
LUDICHRIST
SPAZZTIC BLURR
ANGEL HAIR
HIS HERO IS GONE
DISCORDANCE AXIS
CONVERGE
 
【プレ・テクニカル・スラッシュメタル
 
MERCYFUL FATE
POSSESSED
AGENT STEEL
VOIVOD
 
【テクニカル・スラッシュメタル
 
Ron Jarzombek関連(WATCHTOWERSPASTIC INK〜solo〜BLOTTED SCIENCE
CORONER
BLIND ILLUSION
PSYCHOTIC WALTZ
TOXIK
HOLY TERROR
REALM
DYOXEN
PARIAH
DEATHROW
MEKONG DELTA
ANACRUSIS
SACRIFICE
OVERTHROW
THOUGHT INDUSTRY
DECISION D
NEVERMORE
VEKTOR
 
【初期デスメタル
 
DEATH
MORBID ANGEL
CARCASS
PESTILENCE
NOCTURNUS
XYSMA
CARBONIZED
diSEMBOWELMENT
SEPTICFLESH
PAN.THY.MONIUM
DEMILICH
CRYPTOPSY
 
プログレッシヴ・デスメタル
 
ATHEIST
CYNIC
MESHUGGAH
OBLIVEON
DISHARMONIC ORCHESTRA
GORGUTS
SADIST
EXTOLLENGSELMANTRIC
MARTYR
CAPHARNAUM
GOJIRA
DECAPITATED
AKERCOKE
ANTEDILUVIAN
 
 
Ihsahn関連(THOU SALT SUFFEREMPERORPECCATUMIHSAHN
SIGH
ULVER
ARCTURUS
VED BUENS ENDE…
VIRUS
DØDHEIMSGARD(DHG)
FLEURETY
SOLEFALD
FURZE
LUGUBRUM
ORANSSI PAZUZU
PESTE NOIRE
EPHEL DUATH
THOU
 
【ゴシック〜ドゥーム〜アヴァンギャルド寄り】
 
Thomas Gabriel (Warrior/Fischer)関連(HELLHAMMERCELTIC FROSTAPOLLYON SUNTRIPTYKON
CATHEDRAL
CONFESSOR
UNHOLY
THE 3RD & THE MORTAL
MISANTHROPE
MAUDLIN OF THE WELL
ATROX
RAM-ZET
UNEXPECT
AARNI〜UMBRA NIHIL
DIABLO SWING ORCHESTRA
ORPHANED LAND
 
【比較的メジャーなバンド・個人】
 
Devin Townsend
WALTARI
 
【ハードフュージョン・djent以降】
 
GORDIAN KNOT
SPIRAL ARCHITECT
COPROFAGO
TEXTURES
EXIVIOUS
ANIMALS AS LEADERS
PERIPHERY
Tigran Hamasyan
 
 
それでは、音源の紹介に入ります。
(ここから先は工事中です。埋め込みリンクへの差し替えと一言コメントの追加は
順次行います。)
 
この記事では解説部分のうちの導入部のみを載せています。その後の部分に関しては、別にまとめた詳説記事(各項のはじめにリンクあり)をご参照下さい。
(詳説を書くにあたっての参考資料集:http://closedeyevisuals.hatenablog.com/entry/2015/09/07/202231:英語記事の抄訳など)
 
 
【ルーツ(直接的なもの)】
 
 
詳説はこちら:
 
 
Allan Holdsworth(イギリス)
 
(『i.o.u.』フル音源)'82
 
 
CHICK COREA ELEKTRIC BAND(アメリカ)
 
(1st『The Chick Corea Elektric Band』フル音源プレイリスト)'86
 
 
THE BRECKER BROTHERS(アメリカ)
 
(『Heavy Metal Be-Bop』フル音源プレイリスト)'78
 
 
WEATHER REPORT(アメリカ)
 
(『Heavy Weather』フル音源)'77
 
 
RUSH(カナダ)
 
 
(8th『Permanent Waves』フル音源)'80
 
(9th『Moving Pictures』フル音源プレイリスト)'81
 
あらゆるジャンルにおいてカナダを代表するバンドのひとつであり、いわゆるプログレ・ハード(プログレ寄りハードロック)の代表格とされるバンドでもあります。複雑なアイデアをすっきり聴かせてしまう作編曲と卓越した演奏力、そして味わい深い歌詞。商業的成果と音楽的影響力を高いレベルで両立した、極めて稀な存在です。
 
 
KING CRIMSON(イギリス)
 
 
(『Starless And Bibleblack』から「Lament」)'74
 
(『Starless And Bibleblack』から「Fracture」)'74
 
いわゆる「プログレッシヴ・ロック」を代表する名バンド。'69年に発表された1stアルバム『In The Court of The Crimson King』はロック史全体を代表する大傑作です。英国流に希釈受容されたブルース感覚を下味に、雑多な要素(クラシック音楽、欧州フォーク・トラッド、ジャズからやや離れたフリー音楽など)を高度に統合。それまでのロックには稀だった(インプロの垂れ流しではなくしっかり構築された)長尺の構成と、曖昧ながら強い訴求力を持つモーダルな音遣い感覚により、多くの音楽家に絶大な影響を与えました。
 
 
YES(イギリス)
 
(『Close to The Edge』フル音源)'72
 
 
 
【参考:ハードコアパンクシーン】
 
 
詳説はこちら:
 
テクニカルスラッシュ〜プログレデスに関係する流れ(クロスオーバー〜カオティックハードコア周辺)についてのみ触れています。
(DISCHARGE〜クラスト〜欧州ハードコアも重要ですが、本稿で扱うシーンとは関係が薄いので、ここでは最低限しか触れていません。)
 
 
BLACK FLAG(アメリカ)
 
(1st『Damaged』フル音源)'81
 
(2nd『My War』フル音源)'83
 
 
BAD BRAINS(アメリカ)
 
(1st『Bad Brains』フル音源)'82
 
 
DISCHARGE(イギリス)
 
 
(EP『Why』フル音源:本編は14分半)'81
 
(1st『Hear Nothing, See Nothing, Say Nothing』フル音源:本編は27分ほど)'82
 
欧州ハードコアシーンの流れを決定的付けた最強のハードコア・パンクバンドであり、ハードロックやヘヴィメタルから大きな影響を受けた上でそれを素晴らしいオリジナルに昇華してしまったバンドでもあります。独特のリズム〜グルーヴスタイルは「D-Beat」と呼ばれ、それに様式美的にこだわるバンドを現在も量産し続けています。(というかそれがハードコアの世界における一つの主流です。)作品のアートワーク(白黒のモノトーン写真など)なども含め、後続への影響は絶大です。
 
 
THE STALIN(日本)
 
 
(1st『Trash』フル音源)'81
 
(2nd『Stop Jap』フル音源)'82
 
(3rd『虫』フル音源)'83
 
(4th『Fish Inn』の1曲目「廃魚」)'84
 
日本を代表するパンク・バンドのひとつ。遠藤ミチロウの個性的なボーカル&パフォーマンス、そして卓越した音楽性により、同時代以降の人々(ミュージシャンに限らない)に絶大な影響を与えました。ハードコアパンク創成期を代表するバンドのひとつでもあり、残した作品は、シーンが立ち上がる時期ならではの“定型に縛られない”音楽的広がりを持ったものばかりです。単に歴史的に重要というだけでなく、作品そのものの絶対的なクオリティという点でも、稀有の高みにあるバンドです。
 
 
G.I.S.M.(日本)
 
 
(1st『DETESTation』フル音源)'83
 
(3rd『SoniCRIME TheRapy』フル音源)'02
(リンク先の'95という表記は誤りです)
 
日本が世界に誇る最強のハードコアバンド。優れた音楽性と存在感により、世界中のバンドに絶大な影響を与えています。
(他ジャンルのファンはピンと来ないかもしれませんが、ハードコアの世界においては、日本はアメリカやイギリスに並ぶ音楽大国です。)
 
 
DIE KREUZEN(アメリカ)
 
(1st『Die Kreuzen』フル音源)'84
 
 
AMEBIX(イギリス)
 
(1st『Arise!』フル音源)'85
 
 
NOMEANSNO(カナダ)
 
(『Wrong』フル音源)'89
 
 
S.O.D.(アメリカ)
 
(1st『Speak English Or Die』フル音源)
 
 
LUDICHRIST(アメリカ)
 
(1st『Immaculate Deception』フル音源)'86
 
 
SPAZZTIC BLURR(アメリカ)
 
(『Before … And After』フル音源)'88
 
 
ANGEL HAIR(アメリカ)
 
ディスコグラフィ盤『Pregnant with The Senior Class』から)'97
 
 
HIS HERO IS GONE(アメリカ)
 
(2nd『Monuments to Thieves』フル音源)'97
 
 
THE DILLINGER ESCAPE PLAN(アメリカ)
 
(1st『Calculating Infinity』フル音源)'99
 
 
DISCORDANCE AXIS(アメリカ)
 
(3rd『The Inalianable Dreamless』フル音源)'00
 
 
CONVERGE(アメリカ)
 
(『Jane Doe』フル音源)'01
 
 
 
【プレ・テクニカル・スラッシュメタル
 
 
詳説はこちら:
 
 
MERCYFUL FATEデンマーク
 
 
(2nd『Don't Break The Oath』フル音源)'84
 
ヨーロッパの暗黒ヘヴィ・メタルを代表する偉大なバンド。King Diamondの独特すぎるボーカルとメイクばかりが取り上げられがちですが、作編曲も演奏のセンスも抜群で、後のテクニカルなメタルバンドの多くに絶大な影響を及ぼしています。同郷出身のLars Ulrichが率いるMETALLICAは11分にわたるカバー・メドレーを作りましたし(『Garage Inc.』収録)、MEGADETHのDave Mustainも「リフ作りのセンスに大きな影響を受けた」と言っています。ATHEISTやCORONERのような最高レベルのテクニカル・スラッシュメタルバンドも影響源の筆頭に挙げていますし(再発盤のライナーノートなどで言及)、メタルシーンの外をみても、クラストコア〜欧州ハードコアの流れに決定的な影響を及ぼしたAMEBIXなどは、MERCYFUL FATEから大きな影響を受けたことを告白しています。以上のようなバンドを通しての間接的影響はアンダーグラウンド・ロック・シーン全域に行き渡るもので、その広さ深さは計り知れません。
 
 
METALLICA(アメリカ)
 
 
(3rd『Master of Puppets』フル音源)'86
 
スラッシュメタルの尖った音進行と交響曲的な構成力の融合。この3rdアルバムでは、楽理を学んだCliff Burton(ベース)が編曲に貢献し、高度なオーケストレーションと荒削りな勢いを見事に両立しています。メタルシーン屈指の名盤であり、現代クラシックやヒップホップなど、他ジャンルにも愛好家の存在する大傑作です。
 
 
MEGADETH(アメリカ)
 
 
(1st『Killing Is My Business』フル音源)'85
 
初期のMETALLICAからクビになったDave Mustainが結成したバンド。この1stは、「テクニカル・スラッシュメタル」と言われるバンド群の出現時期よりも数年早く発表された作品ですが、実質的に殆ど「テクニカルスラッシュ」そのもの、というかその理想形を示すアルバムになっています。ロックンロール的なブルース感覚をベースに少しジャズ的な捻りを加えた作編曲が見事で、その上演奏も超強力。卓越した技術を完全に“道具”として扱い、初期衝動が爆裂するさまを描ききっています。
 
 
POSSESSED(アメリカ)
 
 
(1st『Seven Churches』フル音源)'85
 
後のデスメタルに甚大な影響を及ぼした名バンド。この1stの最後にはそのものズバリの「Death Metal」という曲が収められていますし(当時は特に過激なスラッシュメタルデスメタルと呼んだらしく、そこら辺の事情が先にあってこの名がつけられたのかもしれません)、そうした話題性はもちろん、音楽的にも後続にそのまま受け継がれている部分がたくさんあります。
 
 
AGENT STEEL(アメリカ)
 
 
(1st『Skeptics Apocalypse』フル音源)'85
 
スピード・メタルの先駆けとされるバンドです。
(スピード・メタルとは、「速さを重視したメタル」でなく「NWOBHM寄りのオーソドックスなメタルを速くしたもの」であり、スラッシュメタルに似てはいますが、成り立ちは微妙に異なります。)
メンバーは名人揃いで、後にHOLY TERRORを結成するKurt Kilfeltや、EVIL DEADを結成するJuan Garcia、多くの優れたバンドを渡り歩き自身もDISINCARNATEを結成したJames Murphyなど、シーンを代表するテクニカルなプレイヤーが多数在籍しています。加えて特徴的なのがボーカルのJohn Cyriisで、強力なハイトーン(ヘッドヴォイスメインの、中〜高帯域が目立つ発声)スタイルは同系統のバンドに絶大な影響を与えています。TOXIKやREALMといったシーン屈指のバンドも、このスピード・メタルの流れに位置付けられます。
 
 
VOIVOD(カナダ)
 
 
(1st『War And Pain』フル音源)'84
 
(3rd『Killing Technology』フル音源)'86
 
(13th『Target Earth』フル音源)'13
 
スラッシュメタルシーンに所属したバンドの中でも特に「プログレッシヴ」と言われるバンド。ギタリストPiggy(Denis D'Amour:2005年没)の天才的な音遣いセンスを駆使した大曲と、個性派揃いの素晴らしいアンサンブルにより、一部のスラッシュメタル〜ハードコアバンドに絶大な影響を与えました。
 
 
 
【テクニカル・スラッシュメタル
 
 
詳説はこちら:
 
ここでいう「テクニカル」は「プログレッシヴ」とほぼ同義です。演奏はもちろん、作編曲においても、優れた技術を(ひけらかし感なく)必要十分に使いこなせているものだけを挙げています。
 
 
Ron Jarzombek関連(アメリカ)
WATCHTOWERSPASTIC INK〜solo〜BLOTTED SCIENCE
 
 
(WATCHTOWER『Control & Resistance』フル音源)'89
 
あらゆるジャンルにおいて屈指の奇才を誇る超絶ギタリスト。常軌を逸した技術を“音楽的に”聴かせる作品群を発表し、ヘヴィ・メタル・シーンにおける演奏表現の概念を変えました。(一般的なメタルには影響を及ぼしていませんが、テクニカルなメタルにおける技術水準を大きく引き上げることに貢献しています。)「伝統的なメタルを殆ど通過していないメタルミュージシャン」の先駆けでもあり、そういう意味では(ノルウェー・シーン以降のブラックメタルなどと共に)90年代以前・以降における「メタルという言葉の意味の変化」を導いたキーパーソンの一人でもあります。
 
 
 
スイスが誇る世界最高のトリオ。著しく優れた演奏表現力と高度な音楽性を両立し、数々の個性的な傑作を残しました。“後期”の作品は発表当時あまり評価されず、歴史に埋もれる形になっていますが、このジャンルから生まれたあらゆる作品の中でもトップクラスに位置する深みを持っています。今こそ再評価されなければならないバンドです。
 
 
 
ヘヴィ・メタルの歴史が生み出した究極の珍味。ATHEISTと並ぶNWOBHM型メタルの最高進化形であり、“アメリカ人による欧州音楽の再解釈”という点でも興味深いバンドです。バカテクトリオとして名を馳せるPRIMUSのメンバーが2人も在籍していたことから「PRIMUSの前身バンド」とみなされることが多いようですが、実質的にはMark Biedermann(ギター・ボーカル・ベース)のソロプロジェクト。Markの奇妙なセンスと卓越した演奏表現力が全面的に活かされ、替えのきかない不思議な個性を生み出しています。
 
 
PSYCHOTIC WALTZ(アメリカ)
 
 
(2nd『Into The Everflow』フル音源)'90
 
'86年に結成('85年より活動していたASLANから改名)し、'97年に一度解散。その後'10年に再結成し、現在も活動を継続しているようです。
シーン的には「テクニカル・スラッシュメタル」ではなく「プログレッシヴ・メタル」の創成期に属するバンドなのですが(QUEENSRYCHE(前身は'81結成)やFATES WARNING(前身は'82結成)などの方が近い)、
演奏スタイルや本稿の構成の問題から、ここに区分しています。
DREAM THEATERと共演したことなどで知られているほかは殆ど無名のバンド。しかし、そうしたことが信じられないくらい素晴らしい作品を残しています。アメリカの地下シーンが生み出した音楽としては、あらゆるジャンルにおいて最も素晴らしいもののうちの一つです。
 
 
 
'84年結成(TOKYOから改名)、'92年に一度解散。スタイル的にはスピード・メタルの一種と言えますが、著しく高度な技術と音楽性は比すべきものがありません。本稿で扱うバンドの中では最高レベルの実力者で、極めて優れた作品を残しながら十分な知名度を得られていない不遇のバンドでもあります。
 
 
 
元AGENT STEELのギタリストKurt Kilfeltが結成した超絶テクニカル・スピード・メタルバンドです。AGENT STEELの名曲「Back to Reign」を倍速で滑らかにこなしてしまう「Debt of Pain」(歌詞も異なる)など、演奏力は凄いの一言ですが、そこに“ひけらかし”感は一切ありません。音進行は実に個性的で、NWOBHMの音遣い(というかパワーコード(Ⅰ・Ⅴの2和音)感覚)をベースに自然な“アウト”フレーズを聴かせるリードギターなど、他では聴けない極上の珍味に満ちています。
 
 
DBC(カナダ)
 
 
(1st『Dead Brain Cells』フル音源:3分ほど短い模様)'87年発表
 
(2nd『Universe』フル音源)'89
 
'85年結成(FINAL CHAPTERから'86年にDEAD BRAIN CELLSに名義変更)。ハードコアパンク影響下のスラッシュメタルとして最も優れたバンドの一つです。本活動中は十分な認知を得ることができませんでしたが、これまでに発表した2枚のフルアルバムはともに最高級の作品で、聴き込み酔いしれる価値の高い逸品です。本稿で扱う全てのものの中でも出色の傑作なので、ここで知った方にはぜひ聴いてみていただきたいです。
 
 
 
(EP『Killing Field』フル音源)'88
 
(2nd『Complicated Mind』1曲目)'88
 
(3rd『Incompetent…』1曲目)'89
 
(4th『Human Noise』フル音源プレイリスト)'91
 
(QUARTERGATE『Quartergate』フル音源)'92
 
(5th『Illegal Soul』フル音源プレイリスト)'92
 
日本のアンダーグラウンド・ヘヴィ・ロック・シーンを代表する実力者。70〜80年代の膨大な音楽要素を闇鍋状に掛け合わせた独特のスタイルと、著しく高度で個性的な演奏表現力により、同時代以降の日本のミュージシャンに大きな衝撃を与えました。所属したシーンや音楽的な特徴もあって“スラッシュメタル”の枠で語られることが多いですが、そうしたジャンルからの影響は実は少なく、「共通するルーツから新たなものを構築した結果たまたま似てしまった」ということのようです。スラッシュメタルの「技術と勢いの両方を大事にする気風」に倣いながら、既存の何かのコピーに終始せず、独自の個性的なものを生み出してしまう。そういった意味では【テクニカル・スラッシュメタル】の名バンドにも引けを取らない実力者。広く再評価されるべき存在です。
 
 
REALM(アメリカ)
 
 
(1st『Endless War』フル音源)'88
 
'85年結成、'92年解散。TOXIKとほぼ同期のバンドで(上のJosh Christianインタビューでも言及されています)、スピードメタル〜テクニカルスラッシュメタルを代表する強豪の一つです。'80年代の(NWOBHMというより正統派寄りの)メタルに'70年代のプログレッシヴ・ロックなどの要素(KING CRIMSON「One More Red Nightmare」のカバー音源あり)を加えたスタイルで強力な作品を残しました。
 
 
 
カナダの超絶テクニカル・スラッシュメタルバンド。このジャンルの歴史においても屈指の凄い作品を残しましたが、スラッシュメタルのシーンが廃れデスメタルがトレンドになる時期('87年頃)にぶつかってしまったこともあってか、十分な認知を得られず解散してしまいました。
解散は'90年とも'92年とも言われます。)
 
 
PARIAH(イギリス)
 
(2nd『Blaze of Obscurity』フル音源)'89
 
 
DEATHROW(ドイツ)
 
(3rd『Deception Ignored』)'88
 
 
MEKONG DELTA(ドイツ)
 
(3rd『The Principle of Doubt』フル音源)'89
 
 
SIEGES EVEN(ドイツ)
 
(3rd『A Sense of Change』フル音源)'91
 
 
ANACRUSIS(アメリカ)
 
(4th『Screams And Whispers』フル音源)'93
 
 
SACRIFICE(カナダ)
 
(4th『Apocalypse Inside』フル音源)'93
 
 
OVERTHROW(カナダ)
 
 
(『Within Suffering』フル音源)'90
 
カナダのテクニカル・スラッシュメタルバンド。同郷の名バンドと比べると知名度は低いですが、独自の路線のもと、そうしたバンドに勝るとも劣らない傑作を残しました。
 
 
THOUGHT INDUSTRY(アメリカ)
 
(1st『Songs for Insects』フル音源プレイリスト)'92
 
(2nd『Mods Carve The Pig』フル音源プレイリスト)'93
 
 
DECISION D(オランダ)
 
 
(1st『Razon De La Muerte』フル音源)'92
 
'86年結成、'95年に一度解散。「欧州を代表するクリスチャン・メタル・バンド」と言われたこともあるようですが、ネット上には殆ど情報がなく、その真偽を調べることは困難。殆ど無名のバンドですが、本稿で扱うものの中でも屈指の傑作を残した実力者集団です。
 
 
NEVERMORE(アメリカ)
 
(6th『This Godless Endeavor』フル音源)'05
 
 
VEKTOR(アメリカ)
 
(2nd『Outer Isolation』フル音源)'11
 
 
 
【初期デスメタル
 
 
詳説はこちら:
 
 
DEATH(アメリカ)
 

【初期デスメタル】 DEATH(アメリカ) - プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

 
(4th『Human』フル音源プレイリスト)'91
 
(5th『Individual Thought Patterns』フル音源プレイリスト)'93
 
(6th『Symbolic』フル音源プレイリスト)'95
 
デスメタルというジャンルの草分けにして「テクニカル(プログレッシヴ)・デスメタル」の立役者。天才Chuck Shuldiner(2001年没)の実質ワンマンプロジェクトで、数多くの名プレイヤーを世に知らしめる広告塔の役目も果たしました。達人を集め育成する“梁山泊”の主催者であり、その意味ではMiles DavisFrank Zappaなどに通じるものがあります。
 
 
MORBID ANGEL(アメリカ)
 
(1st『Alters of Madness』フル音源)'89
 
(5th『Formulas Fatal to The Flesh』フル音源)'98
 
 
CARCASS(イギリス)
 
 
(2nd『Symphonies of Sickness』フル音源)'89
 
(3rd『Necroticism - Descanting The Insalubrious』フル音源)'91
 
(4th『Heartwork』フル音源)'93
 
初期デスメタルを代表する名バンド。作編曲と演奏の両方で卓越した個性を発揮し、多くのバンドに絶大な影響を与えました。発表した作品の多くは歴史的名盤で、そこから幾つものジャンルが生まれています。'90年代以降のアンダーグラウンド・ロックシーンをみるにあたって最も重要なバンドの一つです。
 
 
PESTILENCE(オランダ)
 
 
(2nd『Consuming Impulse』フル音源)'89
 
(5th『Resurrection Macabre』フル音源)'09
 
(6th『Doctrine』フル音源)'11
 
初期デスメタルを代表する実力者にして、「プログレッシヴ・デスメタル」のオリジネイターの一つでもある名バンド。ジャズ〜フュージョン方面の高度な音遣い&演奏技術を巧みに取り込んだ音楽性により、後の「プログレデス」「テクニカルデスメタルバンドの多くに大きな影響を与えました。現役「プログレデス」バンドの中では最も興味深い音楽性をもつものの一つです。
 
 
NOCTURNUS(アメリカ)
 
(1st『The Key』フル音源)'90
 
 
XYSMAフィンランド
 
(5th『Girl on The Beach』フル音源プレイリスト)'98
 
'88年結成。フィンランドで最初にグラインドコアを演奏したと言われるバンドです。個性的な音楽性で当地のシーンを先導しただけでなく、スウェーデンストックホルム)のバンドと親交を結ぶことにより、両国の地下シーン間の交流を取り持つ役目を果たしました。(ENTOMBEDなどと仲が良かったようです。)
 
 
 
'88年結成。スウェーデンのシーンを代表する「プログレッシヴ」「アヴァンギャルド」なバンドで、グラインドコア寄りデスメタルにKING CRIMSON〜VOIVOD的な要素を加えて独自のスタイルを生み出すことに成功しました。残した3枚のアルバムはどれも非常に個性的で、このジャンル全体をみても屈指の傑作と言えるものばかりです。
 
 
diSEMBOWELMENT(オーストラリア)
 
 
(『Transcendence into The Peripheral』フル音源)'93
 
'89年結成、'93年解散。フューネラル・ドゥームと言われるスタイルを最も早く確立したと言われるバンドで、個性的で奥深い音楽性により後続に絶大な影響を与えました。唯一のフルアルバムは「デスメタル」の枠に留まらない大傑作で、90年代に生まれた音楽としてはあらゆるジャンルにおいても屈指の達成と言えます。本稿で扱う作品の中でも最高レベルの傑作。ゴシカルな雰囲気に抵抗のない方はぜひ聴いてみてほしい一枚です。
 
 
SEPTICFLESHギリシャ
 
 
(2nd『Esoptron』フル音源)'95
 
(3rd『Ophidian Wheel』フル音源)'97
 
(7th『Communion』フル音源)'08
 
(8th『The Great Mass』フル音源)'11
 
'90年結成。いわゆる「シンフォニック・デスメタル」「ゴシックデス」の代表格とされますが、そう呼ばれるものの中では突き抜けて高度な音楽性を持ったバンドです。80〜90年代エクストリーム・メタルの豊かな音楽的語彙が、正規の音楽教育によって培われたオーケストラ・アレンジの技法により個性的に強化される。作編曲能力も演奏表現力も圧倒的で、全ての面において極めて充実した音楽を聴かせてくれます。現在のメタルシーンにおいて最も優れたバンドのひとつです。
 
 
 PAN.THY.MONIUMスウェーデン
 
 
(EP『Dream Ⅱ』フル音源)'91
 
(1st『Dawn of Dreams』フル音源)'92
 
(2nd『Khaooos』フル音源)'93
 
(3rd『Khaooohs & Kon-Fus-Ion』フル音源)'96
 
'90年結成、'96年解散。当時のスウェーデンにおいて最も特異な音楽性を持ったバンドの一つで、初期デスメタルシーン特有の“なんでもありの混沌とした豊かさ”を最高度に体現する作品を残しました。長尺の不可思議な展開をすっきり聴かせる作編曲とダイナミックな演奏表現力はともに圧倒的で、変なものが好きな方には即座にアピールしうる魅力があります。無名なのが勿体ない実力者集団です。
 
 
DEMILICHフィンランド
 
 
(『Nespithe』フル音源:39分あたりまで)'93
 
フィンランドの初期デスメタルを代表するカルトな強者。一般には殆ど知られていませんが、このジャンル全体を見ても屈指と言える素晴らしい作品を残しました。巡り合わせの悪さのために正当な評価を得られなかったバンドの典型であり、場合によってはシーンのオリジネイターにもなり得た不運の実力者でもあります。再評価が待たれる優れたバンドです。
 
 
CRYPTOPSY(カナダ)
 
 
(2nd『None So Vile』フル音源)'96
 
(4th『And Then You'll Beg』フル音源)'00
 
いわゆる「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」を代表するバンド。そうした路線の先駆けとされるSUFFOCATIONなどを参考にしつつ、複雑な構成を超高速で演奏するスタイルを推し進め、多くのミュージシャンに大きな影響を与えました。この【初期デスメタル】の項で扱うものの中では現在の主流に最も近いバンドで、そうした意味でも、シーンの傾向が変化していくさまを体現していた存在と言えます。
 
 
 
【いわゆるプログレデス】
 
 
詳説はこちら:
 
(一般的なデスメタルのスタイルでは括れないものばかり)
 
 
ATHEIST(アメリカ)
 
 
(1st『Piece of Time』フル音源)'89
 
(2nd『Unquestionable Presence』フル音源)'91
 
(3rd『Elements』フル音源)'93
 
(4th『Jupiter』フル音源)'10
 
伝統的なヘヴィ・メタルのシーンが生み出した究極の音楽的成果。「プログレッシヴ・デスメタル」創成期を代表する名バンドであり、NWOBHM系メタルの最高進化形のひとつです。80年代メタルの旨みを色濃く残す数少ないテクニカル・メタル・バンドで、名声の大きさの割に、その持ち味を直接受け継いだものは殆ど存在しません。その意味では、BLIND ILLUSIONなどと並ぶ“時代のミッシング・リンク”と言えるバンドなのです。
 
 
CYNIC(アメリカ)
 
(1st『Focus』フル音源:本編は36分ほど)'93
 
(2nd『Traced in Air』フル音源)'08
 
(3rd『Kindly Bent to Free Us』フル音源)'14
 
 
MESHUGGAH(スウェーデン
 
(EP『None』フル音源(5曲)+ライヴ音源プレイリスト)'94
 
(2nd『Destroy Erace Improve』フル音源)'95
 
(Fredrik Thordendal『Sol Niger Within』フル音源:本編は約43分)'97
 
(4th『Nothing』フル音源プレイリスト)'02('06 remix/remaster)
 
(7th『Koloss』フル音源プレイリスト)'12
 
 
OBLIVEON(カナダ)
 
 
(1st『From This Day Forward』フル音源)'90
 
(2nd『Nemesis』フル音源)'93
 
(3rd『Cybervoid』から1曲目)'96
 
(4th『Carnivore Mothermouth』から6曲目)'97
 
'87年結成、'02年に一度解散。優れたバンドの多すぎるカナダのシーンにおいても屈指の実力者で、個性的な音楽の魅力はVOIVODやMARTYR、GORGUTSにも劣りません。レコード会社から十分なサポートを得られずに苦しみ続けたバンドで、「テクニカルスラッシュ」「プログレデス」の中でも最上級に位置すべき作品を残したのにもかかわらず、現在に至るまで無名であり続けています。こうした系統の音楽性が広く認知されるようになった今でこそ、再評価されなければならないバンドだと思います。
 
 
DISHARMONIC ORCHESTRA(オーストリア
 
(1st『Expositionsprophylaxe』フル音源プレイリスト)'90
 
(2nd『Not to Be Undimensional Conscious』フル音源プレイリスト)'92
 
(3rd『Pleasuredome』フル音源)'94
 
 
GORGUTS(カナダ)
 
 
(3rd『Obscura』フル音源)'98
 
(5th『Colored Sands』フル音源)'13
 
カナダを代表する最強のデスメタルバンド。いわゆる「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」の代表格と言われることもありますが、音楽的な出自は別のところにあり、そうしたスタイルを参考にしたことはないようです。初期デスメタルのシーンに深く入れ込みつつ、現代音楽寄りクラシック音楽にも大きな影響を受け、そのふたつを独自のやり方で融合。それにより生まれた5枚のアルバムはシーン屈指の傑作ばかりで、個性的で著しく高度な音楽性により、同時代以降のバンドに大きな影響を与え続けています。
 
 
SADIST(イタリア)
 
 
(1st『Above The Light』フル音源)'93
 
(2nd『Tribe』フル音源)'96
 
(3rd『Crust』フル音源プレイリスト)'97
 
(4th『Lego』から「A Tender Fable」)'00
 
(5th『Sadist』フル音源)'07
 
(6th『Season in Silence』フル音源)'10
 
(Tommy Talamanca『Na Zapad』フル音源)'13

(7th『Hyaena』から1曲目「The Lonely Mountain」)'15
 
'90年結成。デスメタルに本格的にキーボード/シンセサイザーを導入した最初のバンドの一つと言われます。しかし、作編曲や演奏のスタイルは一般的な「デスメタル」「シンフォニックメタル」と大きく異なるもので、他では聴けない高度で独創的な作品を生み続けています。カルトで神秘的な雰囲気はイタリア特有の空気感に満ちており、そうした味わいを口当たりよく吞み込ませてしまう音楽センスは驚異的。この稿で扱う他の「プログレデス」バンドと比べても見劣りしない実力の持ち主です。
 
 
EXTOLLENGSELMANTRICノルウェー
 
 
(EXTOLの2nd『Undeceived』フル音源プレイリスト)'01
 
(EXTOLの4th『The Blueprint Dives』フル音源プレイリスト)'05
 
(LENGSELの2nd『The Kiss, The Hope』1曲目)'06
 
(MANTRIC『The Descent』フル音源プレイリスト)'10
 
(5th『Extol』フル音源プレイリスト)'13
 
'93年結成、'07年に一度解散。「プログレッシヴ・デスメタル」の枠で語られるバンドですが、構成員のバックグラウンドはそうしたもの一般のそれとは大きく異なります。ハードコアやブラックミュージックの音遣い感覚をクラシカルなコードワークで発展させた音楽性はありそうでないもので、優れた演奏表現力とあわせて唯一無二の境地に達しています。広く注目されるべきバンドです。
 
 
MARTYR(カナダ)
 
 
(2nd『Warp Zone』フル音源)'00
 
(3rd『Feeding The Abscess』フル音源)'06
 
'94年結成。後期DEATHやCYNICに影響を受けた「プログレッシヴ・デスメタルの第二世代」と言えるバンドで、第一世代のバンドに勝るとも劣らない傑作を残しました。('12年から休止中。)複雑かつ明晰な作編曲により激情を表現する音楽性は圧巻で、メンバー全員が音楽学校で学んだ楽理・技術が完全に“道具”として使いこなされています。音楽的必然性のある“知的に感情的な”作品は多くの「テクニカル・デスメタル」「ブルータル・デスメタル」と一線を画すもので、そうしたバンドが陥りがちな“考えオチ”感や“アスリート的な味気なさ”とは無縁なのです。高度な技術と只ならぬ表現意欲を両立した、稀有の実力者と言えるバンドです。
 
 
CAPHARNAUM(アメリカ)
 
 
(『Fractured』フル音源)'05
 
MARTYR関連の作品として挙げておきます。アメリカのテクニカルデスメタルデスラッシュ(初期デスメタルではなくメロデス以降の意味での)バンド。'93年に結成した後'99年に一度解散し、'03年に再結成。その後'05年に出した2ndアルバムです。
 
 
GOJIRA(フランス)
 
 
(2nd『The Link』フル音源)'03
 
(3rd『From Mars to Siriusフル音源)'05
 
(5th『L'enfant Sauvaga』フル音源)'12
 
'96年結成('01年に権利関係の問題からGODZILLA→GOJIRAに名義変更)。ハードコア寄りエクストリームメタルとしては現代最強バンドのひとつです。驚異的な演奏表現力と卓越した作編曲能力を併せ持つ実力者集団で、結成以来ずっと同じメンバーで活動できている点でも稀有な存在。思想云々の好き嫌いにとらわれず聴く価値が高いグループです。
 
 
DECAPITATED(ポーランド
 
(4th『Organic Hallucinosis』フル音源)'06
 
 
AKERCOCKE(イギリス)
 
(『Antichrist』フル音源)'07
 
 
ANTEDILUVIAN(カナダ)
 
(1st『Through The Cervix of Hawaah』フル音源)'11
 
 
 
【いわゆるプログレブラック】
 
 
詳説はこちら:
 
ここではノルウェー・シーン以降のブラックメタル(いわゆる「The Second Wave of Black Metal」以降のもの)について触れています。
ブラックメタルというと「思想性が最も重視され音楽的な決まり事はない」という話になりがちですが、少なくともノルウェー産のものに関して言えば、ありとあらゆる音楽ジャンルに分化する一方で、音遣いなど明確に共通する要素を持っています。
そうした話についてはこちらの記事
で概説しています。併せて読んで頂ければ幸いです。
 
 
Ihsahn関連(ノルウェー
THOU SALT SUFFEREMPERORPECCATUMIHSAHN
 
 
(EMPERORの1st『In The Nightside Eclipse』フル音源)'94
 
(EMPERORの4th『Prometheus:The Discipline of Fire & Demise』フル音源)'01
 
(PECCATUMの3rd『Lost in Reverie』フル音源プレイリスト)'04
 
(IHSAHNの3rd『After』フル音源)'10
 
(IHSAHNの5th『Das Seelenbrechen』フル音源)'13
 
ノルウェーブラックメタルシーンを代表する早熟の天才('75.10.10生)。映画音楽(Jerry Goldsmith、Ennio Morriconeなど)やクラシック音楽方面の楽理を活かし、ノルウェー特有の“薄くこびりつく”引っ掛かり感覚(上記記事http://closedeyevisuals.hatenablog.com/entry/2015/03/27/050345 をご参照ください)と滑らかな進行感を融合しました。高い構築性と溢れる情熱を両立する作品は優れたものばかりで、その全てが“知的な勢い”を強力に備えています。EMPERORの初期作品は「シンフォニック・ブラックメタル」のルーツの一つになりましたし、EMPEROR解散後も、独特の音楽性をより高度に発展させ、前人未踏の境地を切り拓き続けています。今後のさらなる飛躍が楽しみな実力者です。
 
 
SIGH(日本)
 
(3rd『Hail Horror Hail』フル音源)'97
 
(5th『Imaginary Sonicscape』フル音源)'01
 
(9th『In Somniphobia』フル音源プレイリスト)'12
 
 
 
 
(2nd『Frost』フル音源)'94
 
(10th『Vertebrae』フル音源プレイリスト)'08
 
(11th『Axioma Ethica Odini』フル音源プレイリスト)'10
 
(13th『In Times』フル音源)'14
 
ノルウェー・シーンを代表する現役最強バンドのひとつ。北欧神話を題材とした歌詞もあって「ヴァイキング・メタル」の枠で語られることが多いのですが、一般的な「ヴァイキング・メタル」の定型的なスタイル(勇壮で扇情的な“クサメロ”の多用など)とは一線を画す、個性的な音楽性を持っています。豊かな音楽要素を親しみやすく融合させる作編曲・演奏表現力は素晴らしく、アルバム毎に最高到達点を更新し続ける“バンドとしての地力”も驚異的。現代ヘヴィ・メタルシーンにおけるトップランナーのひとつと言える存在です。
 
 
ULVERノルウェー
 
 
(1st『Bergtatt』フル音源)'95
 
(3rd『Nattens Madrigal』フル音源)'97
 
(5th『Perdition City』フル音源)'00
 
(11th『Childhood's End』フル音源)'12
 
(12th『Messe Ⅰ.X - Ⅵ.X』フル音源)'13
 
ノルウェーを代表するなんでもあり音楽集団(1993年結成)。「ULVERみたいな音を出すヤツはいない。ULVER自身ですらその例に漏れない」(“No one sounds like ULVER. Not even ULVER.” by PERIPHERYのギタリストMark Holcomb)というコメントのとおり、作品ごとに大きく異なるスタイルをとり、それらの全てで素晴らしい達成をしてきたバンドです。しかし、メタルシーンでは初期の数枚ばかりが賞賛され以降の作品は全く顧みられない、メタル以外のシーンでは殆ど知られる機会がないというように、“ジャンル間の溝に落ち込んでしまう”ことの悲哀を一身に体現している存在でもあります。なんとかして正当な評価を得てほしいバンドです。
 
 
ARCTURUSノルウェー
 
 
(1st『Aspera Hiems Symfonia』フル音源)'96
 
(2nd『La Masquerade Infernale』フル音源)'97
 
(3rd『The Sham Mirrors』フル音源)'03
 
(4th『Sideshow Symphoniesフル音源)'05
 
(5th『Arcturian』から1曲目「The Arcturian Sign」)'15
 
'91年結成。いわゆるシンフォニック・ブラックメタルの始祖の一つで、ノルウェー流の“引っ掛かり感覚”(こちらの記事http://closedeyevisuals.hatenablog.com/entry/2015/03/27/050345参照)を最も練度の高いかたちで大成したバンドでもあります。固有の渋い味わいをわかりやすい“歌モノ”スタイルで聴かせてしまう作編曲能力は抜群で、ノルウェー・シーンを代表する名プレイヤー達による演奏も超一流。エクストリームメタルに苦手意識のある方にも是非聴いてみてほしい素晴らしいバンドです。
 
 
VED BUENS ENDE…ノルウェー
 
 
(デモ『Those Who Caress The Pale』フル音源プレイリスト)'94
 
(『Written in Waters』フル音源)'95
 
いわゆるアヴァンギャルドブラックメタルを代表するバンド。唯一のフルアルバム『Written in Waters』は、ノルウェー・シーンが生み出した最高の達成の一つというだけでなく、90年代のあらゆる音楽ジャンルをみても屈指の傑作です。音楽性がマニアックなこともあって一般的な知名度は絶望的ですが、知っている人からは極めて高く評価されるバンド。そういう意味ではCONFESSORに通じますし、それに勝るとも劣らない実力者と言うことができます。
 
 
VIRUSノルウェー
 
 
(2nd『The Black Flux』フル音源)'08
 
(EP『Oblivion Clock』フル音源)'12
 
ノルウェー・シーンを代表する奇才Czral(Carl-Michael Eide)のリーダー・バンド。VED BUENS ENDEの後継ユニットとされるバンドで、Czralはギターとボーカルを担当しています。アヴァンギャルドな音遣いをお洒落に聴かせてしまう歌モノスタイルなのですが、そこで表現される重い空気はVED BUENS ENDE以上に凶悪です。ブラックメタルのシーンから生み出された音楽の中では最も強力なものの一つでしょう。
 
 
DØDHEIMSGARD(DHG)(ノルウェー
 
(3rd『666 International』フル音源)'99
 
 
FLEURETY(ノルウェー
 
(1st『Min Tid Skal Komme』フル音源+EP音源)'95
 
(2nd『Department of Apocalyptic Affairs』フル音源)'00
 
 
SOLEFALD(ノルウェー
 
(1st『The Linear Scaffold』フル音源)'97
 
(2nd『Neonism』フル音源)'99
 
(7th『Norron Livskunst』フル音源プレイリスト)'10
 
(8th『World Metal』フル音源)'15
 
 
FURZE(ノルウェー
 
(3rd『UTD』フル音源)'07
 
 
LUGUBRUM(ベルギー)
 
 
(1st『Winterstones』から1曲目「Embracing The Moolight Snowclouds」)'95
 
(7th『Heilige Dwazen』フル音源プレイリスト)'05
 
(8th『de ware hond』から1曲目「Opwaartse Hond」)'07
 
(10th『Face Lion Face Oignon』フル音源プレイリスト)'11
 
'92年結成。我が道を行くバンドの多いブラックメタルシーンにおいてもトップクラスの個性派で、2015年の現在までに11枚のフルアルバムを発表しています。一般的な知名度は殆どゼロですが、代替不可能な珍味をもつ作品群は熱心なファンを生み、カルトな評価を得つつ気長に活動することができています。多くのブラックメタルと比べ大分渋くドロドロした音楽性で、広く受け入れられるのは難しいかもしれないものではあるのですが、卓越した演奏表現力と飄々としたユーモア感覚は強い“つかみ”を持っており、その点においてはキャッチーで親しみやすい印象さえあります。波長や相性が合う人なら一発で引き込まれうる音楽であり、聴いてみる価値は高いと思います。
 
 
ORANSSI PAZUZUフィンランド
 
 
(1st『Muukalainen Puhuu』フル音源)'09
 
(2nd『Kosmonument』フル音源その他)'11
 
(3rd『Valonielu』フル音源)'13
 
(4th『Värähteijä』フル音源)'16
 
2007年結成。“ORANSSI”は“orange”(オレンジ)、“PAZUZU”はアッシリアやバビロンの神話における悪魔の名前を指すとのこと。70年代のサイケデリックプログレッシヴロックや90年代のオルタナティヴロックなど、膨大な音楽要素をシンフォニックなブラックメタルに溶かし込むスタイルを探求し続けており、高度で個性的な音楽性によりメタルシーンの内外から大きな注目を集めています。10年間で発表したアルバムは4枚のみですが、その全てが構造的強度と直情的な雰囲気表現力を両立する傑作です。ブラックメタルファンでない方も聴く価値が高いバンドです。
 
 
PESTE NOIRE(フランス)
 
(3rd『Ballade cuntre lo Anemi Francor』フル音源)'09
 
 
EPHEL DUATH(イタリア)
 
(『Through My Dog's Eyes』フル音源プレイリスト)'09
 
 
THOU(アメリカ)
 
(『Heathen』フル音源)'14
 
 
 
【ゴシック〜ドゥーム〜アヴァンギャルド寄り】
 
 
詳説はこちら:
 
 
Thomas Gabriel (Warrior/Fischer)関連(スイス)
HELLHAMMERCELTIC FROSTAPOLLYON SUNTRIPTYKON
 
 
(HELLHAMMERの2ndデモ『Triumph of Death』フル音源)'83
 
CELTIC FROST『Morbid Tails』フル音源:EP『Morbid Tails』とEP『Emperor's Return』を合わせて曲順を変えたもの)'84〜'85
 
CELTIC FROSTの1st『To Mega Therion』フル音源)'85
 
CELTIC FROSTの2nd『Into The Pandemonium』フル音源)'87
 
(APOLLYON SUN『Sub』から「Naked Underground」)'00
 
CELTIC FROSTの5th『Monotheist』フル音源)'06
 
(TRIPTYKONの2nd『Melana Chasmata』フル音源)'14
 
80年代のメタル〜ハードコアシーンを代表する天才。作編曲と演奏(ボーカル・ギター)の両面において世界中のミュージシャンに絶大な影響を与えました。デスメタルブラックメタルゴシックメタル〜フューネラルドゥームなどの直接的影響源であり、NIRVANAやMELVINSなどを通してアメリカの(ハードコア寄り)アンダーグラウンドシーンにも影響を与えています。雑多な音楽要素を単線のフレーズに落とし込んで聴かせてしまう音遣い感覚は唯一無二で、これを上回る旨みを獲得できたものは殆ど存在しません。そういう意味ではBLACK SABBATHやDISCHARGEにも劣らない、素晴らしい“オリジネイター”なのです。
 
 
PARADISE LOST(イギリス)
 
(『Gothic』フル音源)'91
 
(『draconian times』フル音源)'95
 
 
CATHEDRAL(イギリス)
 
(1st『Forest of Equilibrium』フル音源)'91
 
 
CONFESSOR(アメリカ)
 
 
(1st『Condemned』フル音源)'91
 
(2nd『Unraveled』フル音源プレイリスト)'05
 
アンダーグラウンドなメタルシーンが生み出した史上最強のカルト・バンド。本活動時に発表した唯一のフルアルバム『Condemned』('91)は文字通りの“他に類を見ぬ”傑作で、奇怪な音楽性と異常な演奏表現力により、聴くことのできた人々に大きな衝撃を与えました。常識を著しく逸脱した内容が災いしてか、今に至るまで一般的な評価を得ることは殆どできていないのですが、その実力は強力無比。本稿をここまで読んで頂けた方にはぜひ聴いてみてほしいバンドです。
 
 
UNHOLYフィンランド
 
 
(1st『From The Shadows』フル音源)'93
 
(2nd『The Second Ring of Power』フル音源)'94
 
(3rd『Rapture』プレイリスト:1曲欠け・曲順ばらばら)'98
 
(4th『Gracefallen』プレイリスト:3曲欠け・曲順ばらばら)'99
 
'90年結成(前身は'88年結成)。フィンランドの地下シーンを代表する“知る人ぞ知る”名バンドで、一般的には「フューネラル・ドゥーム・メタルの雛形のひとつ」とされることが多いようです。しかし、音楽的にはそうしたジャンルから逸脱する要素が多く、個性的な曲想と強靭な演奏表現力は他に比すべきものがありません。活動中に残した4枚のアルバムはどれも類稀な傑作で、このような音楽スタイルが比較的広く受け入れられるようになった今でこそ聴かれるものばかりです。本稿で扱う全てのものの中でもトップクラスに優れたバンドなので、ここで知られたような方には強くお勧めしておきたいです。
 
 
THE 3RD & THE MORTAL(ノルウェー
 
(1st『Tears Lain in Earth』フル音源)'94
 
Youtube上に(中期以降の)アルバム単位の音源がないので別記事で詳述します。個人的には最も優れたバンドの一つだと思います。)
 
 
MISANTHROPE(フランス)
 
(3rd『1666…Theatre Bizzare』フル音源)'95
 
 
MAUDLIN OF THE WELL(アメリカ)
 
(『Bath』フル音源)'01
 
(『Leaving Your Body Map』フル音源)'01
 
 
ATROX(ノルウェー
 
(4th『Orgasm』フル音源)'03
 
 
 
'98年結成。ゴシックメタルのシーンで語られるバンドですが、メンバー当人としてはそちら方面に属している意識はあまりないようです。音楽性を一言でいえば「“MESHUGGAH+シンフォニック・ブラックメタル”を歌モノゴシックメタルに料理した感じ」。複雑な構造をすっきり聴かせてしまう作編曲能力は驚異的で、ボーカルをはじめとした演奏陣の技術&個性も一流です。広く注目されるべき素晴らしいバンドと言えます。
 
 
UNEXPECT(カナダ)
 
(3rd『Fables of The Sleepless Empire』フル音源プレイリスト)'11
 
 
 
(1st『Bathos』フル音源)'04
 
UMBRA NIHIL(フィンランド
 
(1st『Gnoia』フル音源)'05
 
 
DIABLO SWING ORCHESTRA(スウェーデン
 
(1st『The Butcher's Ballroom』)'06
 
(2nd『Sing along Songs』フル音源プレイリスト)'09
 
(3rd『Pandra's Pinata』フル音源)'12
 
 
ORPHANED LAND(イスラエル
 
(3rd『Mabool:The Story of The Three Sons of Seven』フル音源)'04
 
 
 
【比較的メジャーなバンド・個人】
 
 
詳説はこちら:
 
 
QUEENSRYCHE(アメリカ)
 
(2nd『Rage for Order』フル音源プレイリスト)'86
 
(3rd『Operation:Mindcrime』フル音源プレイリスト)'88
 
 
DREAM THEATER(アメリカ)
 
(2nd『Images And Words』フル音源)'92
 
(5th『Metropolis PT.2』フル音源)'99
 
(7th『Train of Thought』フル音源)'03
 
 
 
(5th『Blackwarter Park』フル音源)'01
 
(7th『Damnation』フル音源)'03
 
(8th『Ghost Reveries』フル音源)'05
 
(10th『Heritage』フル音源)'11
 
 
Mike Patton(アメリカ)
 
(MR.BUNGLEの1st『Mr. Bungle』フル音源)'91
 
(MR.BUNGLEの2nd『Disco Volante』フル音源)'95
 
(FANTOMASの1st『Fantomas』フル音源)'99
 
(THE DILLINGER ESCAPE PLAN『Irony Is A Dead Scene』フル音源)'02
 
 
Devin Townsend(カナダ)
 
(STRAPPING YOUNG LAD名義の2nd『City』フル音源)'97
 
(OCEAN MACHINE名義『Biomech』フル音源)'97
 
(DEVIN TOWNSEND PROJECT名義の3rd『Deconstruction』フル音源)'11
 
 
 
(3rd『The Perfect Element PT.1』フル音源)'00
 
(5th『Be』フル音源)'04
 
 
WALTARI(フィンランド
 
(5th『Yeah! Yeah! Die! Die! Death Metal Symphony in Deep C』フル音源プレイリスト)'96
 
(10th『Blood Sample』フル音源プレイリスト)'05
 
 
 
【ハードフュージョン・djent以降】
 
 
詳説はこちら:
 
 
GORDIAN KNOT(アメリカ)
 
(1st『Gordian Knot』フル音源プレイリスト)'98
 
 
SPIRAL ARCHITECTノルウェー
 
 
(『A Sceptic's Universe』フル音源)'00
 
ノルウェーフュージョン寄りテクニカルメタルバンド。'93年頃から活動していたようですが、発表した作品はデモ('95)・フルアルバム('00)それぞれ一枚のみ。そのうち後者は、テクニカルスラッシュ〜プログレデスのシーンがある程度認知されるようになった時期のものということもあり、“プログレメタル”一般を好む人々の間でカルトな名盤として評価されています。
 
 
COPROFAGO(チリ)
 
(2nd『Genesis』フル音源)'00
 
(3rd『Unorthodox Creative Criteria』フル音源)'05
 
 
Sikth(アメリカ)
 
(1st『The Trees Are Dead & Dried Out, Wait for Something Wild』フル音源)'03
 
 
TEXTURES(オランダ)
1stは'03
 
(3rd『Silhouettes』フル音源)'08
 
 
EXIVIOUS(アメリカ)
 
(1st『Exivious』フル音源)'09
 
 
ANIMALS AS LEADERS(アメリカ)
 
 
(1st『Animals As Leaders』フル音源)'09
(3rd『The Joy of Motion』フル音源プレイリスト)'14
 
'09年活動開始。ナイジェリア系アメリカ人ギタリストTosin Abasiのソロ(インスト)プロジェクトで、現存するあらゆる「プログレメタル」バンドの中でも突出して優れた音楽性を誇るグループです。このジャンルは「プログレ」を謳いながらも同じようなスタイルに収まってしまうバンドが多く、影響源も一定のものに限られる傾向があるのですが、Tosinはそうしたものだけでなくジャズ〜ポップス〜R&Bなど様々な領域における超一流どころも参照し、定型に縛られない独自の音楽を作ることに成功しています。並べて語られることが多いdjent(ジェント)のバンドらとは音進行・リズム構成の両面で一線を画しており、高度で複雑な音遣いを親しみやすい“歌モノ”にまとめあげる作編曲能力も抜群。「8弦ギター&ドラムス」による(低域を分厚く塗り潰すベースを抜いてギターの軽めな音色で低音をカバーする)ヌケのよいサウンドも、卓越した機動力と開放感を非常に良い形で味あわせてくれます。現代のメタルシーンを代表する達人集団として注目されるべきグループです。
 
 
PERIPHERY(アメリカ)
 
(1st『Periphery』フル音源)'10
 
 
Tigran Hamasyan(アルメニア
 
(3rd『Shadow Theater』から「Erishta」)'13
 
 
 
【参考:個人的イチ押し10枚】
 
MESHUGGAH『Nothing』(remix)
THE 3RD AND THE MORTAL『In This Room』
MAUDLIN OF THE WELL『Leaving Your Body Map』
MORBID ANGEL『Alters of Madness』
ATHEIST『Unquestionable Presence』
TRIPTYKON『Melana Chasmata』
CORONER『Grin』
CYNIC『Focus』
GORGUTS『Colored Sands』
VED BUENS ENDE『Written in Waters』

参考資料集(記事と和訳)

この記事は
プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界」
の参考資料集です。
バンド・ミュージシャンの短評を書くにあたって参照した文献・ネット上の文章を列記し、英語記事に関しては抄訳として個人的に取ったメモをそのまま記載しています。
(ミュージシャンの精神論などわりとありきたりな話や、個人的に常識として知っている情報など、あえてメモとして訳していない部分もあります。)
短評の方には載せなかった興味深い情報も非常に多いので、よろしければ併せてご参照いただけると幸いです。



もくじ


(特に参考記事のあるバンドの名前は太字にしています。)

【直接的なルーツ】

CHICK COREA ELEKTRIC BAND
WEATHER REPORT
RUSH
YES

【参考:ハードコアパンクシーンの流れ】

BAD BRAINS
DISCHARGE
THE STALIN
DIE KREUZEN
AMEBIX
S.O.D.
LUDICHRIST
SPAZZTIC BLURR
ANGEL HAIR
HIS HERO IS GONE
DISCORDANCE AXIS
CONVERGE

【プレ・テクニカル・スラッシュメタル

MERCYFUL FATE
POSSESSED
AGENT STEEL
VOIVOD

【テクニカル・スラッシュメタル

Ron Jarzombek関連(WATCHTOWER〜SPASTIC INK〜solo〜BLOTTED SCIENCE)
CORONER
BLIND ILLUSION
PSYCHOTIC WALTZ
TOXIK
HOLY TERROR
REALM
DYOXEN
PARIAH
DEATHROW
MEKONG DELTA
ANACRUSIS
SACRIFICE
OVERTHROW
THOUGHT INDUSTRY
DECISION D
NEVERMORE
VEKTOR

【初期デスメタル

DEATH
MORBID ANGEL
CARCASS
PESTILENCE
NOCTURNUS
XYSMA
CARBONIZED
diSEMBOWELMENT
SEPTICFLESH
PAN.THY.MONIUM
DEMILICH
CRYPTOPSY

プログレッシヴ・デスメタル

ATHEIST
CYNIC
MESHUGGAH
OBLIVEON
DISHARMONIC ORCHESTRA
GORGUTS
EXTOLLENGSELMANTRIC
MARTYR
CAPHARNAUM
GOJIRA
SADIST
DECAPITATED
AKERCOCKE
ANTEDILUVIAN


Ihsahn関連(THOU SALT SUFFER、EMPEROR、PECCATUM、IHSAHN)
SIGH
ULVER
ARCTURUS
VED BUENS ENDE…
VIRUS
DØDHEIMSGARD(DHG)
FLEURETY
SOLEFALD
FURZE
LUGUBRUM
ORANSSI PAZUZU
PESTE NOIRE
EPHEL DUATH
THOU

【ゴシック〜ドゥーム〜アヴァンギャルド寄り】

Thomas Gabriel (Warrior/Fischer)関連(HELLHAMMER〜CELTIC FROST〜APOLLYON SUN〜TRIPTYKON)
CATHEDRAL
CONFESSOR
UNHOLY
THE 3RD & THE MORTAL
MISANTHROPE
MAUDLIN OF THE WELL
ATROX
RAM-ZET
UNEXPECT
AARNI〜UMBRA NIHIL
DIABLO SWING ORCHESTRA
ORPHANED LAND

【比較的メジャーなバンド・個人】

Devin Townsend
WALTARI

【ハードフュージョン・djent以降】

GORDIAN KNOT
SPIRAL ARCHITECT
COPROFAGO
TEXTURES
EXIVIOUS
ANIMALS AS LEADERS
PERIPHERY
Tigran Hamasyan


以下は参考資料・記事リンクを箇条書きにしたものです。
内容の説明・抄訳などは各分野の詳説記事をご参照ください。



【ルーツ(直接的なもの)】


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【参考:ハードコアパンクシーンの流れ】


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THE STALIN(日本)》


遠藤ミチロウインタビュー(音楽ナタリー:2012.3.16)

遠藤ミチロウインタビューototoy:2011.8.15のプロジェクト FUKUSHIMA!に際して)

遠藤ミチロウインタビュー(1997.8.6)

遠藤ミチロウインタビュー(2012.3.11)

遠藤ミチロウインタビュー(1994.6.8)

遠藤ミチロウインタビュー(1983.7.1.)

遠藤ミチロウインタビュー(2006年)

遠藤ミチロウインタビュー(2007.9.1.)

遠藤ミチロウインタビュー(2007.9.6.)




【プレ・テクニカル・スラッシュメタル


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【テクニカル・スラッシュメタル


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CORONER(スイス)》

Tommyインタビュー(2010.7.2.:再結成発表直後)

Markyインタビュー(2011.12.21)

Marquis Markyが2014年2月末に脱退
(アルバムの制作を拒否)したという声明

インタビュー(2014.10.18)


DBCDEAD BRAIN CELLS)(カナダ)》

Eddie Shahiniインタビュー(2005)


OVERTHROW(カナダ)》

Nick Sagiasインタビュー(2010.8.17)



【初期デスメタル


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MORBID ANGEL(アメリカ)》

Pete Sandovalインタビュー(『G』発表後)

Trey Azagthothインタビュー

Trey Azagthothインタビュー

Trey Azagthothインタビュー('03.9.23)

Trey Azagthothインタビュー(『G』の後:'00年?)


NOCTURNUS(アメリカ)》

Mike Browningインタビュー(2013.4.4)


 《PAN.THY.MONIUMスウェーデン)》

Benny Larssonインタビュー(1990:『…Dawn』発表後)

Dan Swanö(Day DiSyaah名義・ベース)インタビュー(2011.8.28)

Dan Swanö総論インタビュー
(2010.10.30)



DEMILICHフィンランド)》

再発盤『20th Adversary of Emptiness』ブックレットにおけるAntti Bomanロングインタビュー


CRYPTOPSY(カナダ)》

Jon Levasseurインタビュー(1998.4.13)

Flo Mounierインタビュー(2008.7.1:『The Unspoken King』に伴うツアー(“メタルコアに日和った”などと言われる音楽性の変化は不評)をうけて)

Flo Mounierインタビュー(『Cryptopsy』発売後:'12?)

Flo Mounierインタビュー(2012.9.24)

Flo Mounierインタビュー(『The Unspoken King』の頃:インドのメディア)



プログレッシヴ・デスメタル


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CYNIC(アメリカ)》

Paul Masvidalインタビュー(2014.3.6)

Paul Masvidalインタビュー(2014.5.31)


GORGUTS(カナダ)》

Luc Lemay(+他メンバー?)インタビュー(2013.7.13)

EXTOLLENGSELMANTRICノルウェー)》

LENGSEL(John Robert)インタビュー(2000.11)

LENGSEL(Tor Magne)インタビュー(1stの後)

LENGSEL(Tor Magne)インタビュー(2001.2〜3)

Christer Espevoll(EXTOL)インタビュー(2003)

Peter Espevoll(EXTOL)インタビュー(2005)

LENGSEL(Ole Halvard)インタビュー(2006)

LENGSEL(John Robert Mjåland)インタビュー(2006.12.27)

MANTRIC(Ole Halvard)インタビュー(2010.7.14)

MANTRIC(Ole Halvard)インタビュー(2010.8.23)

Ole Borud(EXTOL)インタビュー(2012.10.30)

David Husvik(EXTOL)インタビュー(2013.8.1)


SADIST(イタリア)》

Tommy Talamancaインタビュー
(2010.11.29)


Tommy Talamancaインタビュー(『Crust』発表後:'98年と思われる)

Tommy Talamancaインタビュー(2013.5.16:ソロアルバム『Na Zapad』発表後)






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SIGH(日本)》

インタビュー(1997.12)


ペキンパー第弐号(2011
ペキンパー第参号(2012

増田勇一によるインタビュー(2012.4.1)

SIDEMILITIA inc.によるインタビュー(2012

奥村裕司インタビュー(2012




奥村裕司インタビュー(2015

川嶋未来ブログ

日本のブラックメタルバンド・インタビュー(2015

『Scorn Defeat』20周年の回想



Grutle Kjellsonインタビュー(2008.4.11)


Ivar Bjørnsonインタビュー(2014.2.20)

Grutle Kjellsonインタビュー(2015.3.5)

Ivarインタビュー(2015.)


ULVERノルウェー)》

Kristoffer Rygg(Garm)インタビュー(2014.5.21)

ARCTURUSノルウェー)》


ICS Vortex(Simen Hestnaes)インタビュー(2015.5.27)



LUGUBRUM(ベルギー)》

インタビュー(オフィシャルサイトから)
Metal Maniacs zine(2007)
『De Ware Hond』発売時のインタビュー
Zero Tolerance zine(2012)
『Face Lion Face Oignon』発売後・Midgaarsインタビュー



【ゴシック〜ドゥーム〜アヴァンギャルド寄り】


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CONFESSOR(アメリカ)》

Steve SheltonBrian Shoafインタビュー(Earache)(Ivan Colonのトリビュート・ショウに前後して)

Scott Jeffreysインタビュー(2005)

Cary Rowells(ベース)インタビュー('05:『Unraveled』発表前)


Ismo Toivonenインタビュー
(2009.1.3:『Worm Gear #7』から再掲:『Rapture』発表直後?)

Ismo Toivonenインタビュー(1998.1.9:『Gracefallen』録音作業中)

Jan Kuhanen・Ismo Toivonenインタビュー(2012.1.18:2nd再発に際して)


MAUDLIN OF THE WELL(アメリカ)》

Tobias Driverによる回想(2005)

〈『Bath』『Leaving Your Body Map』再発盤:Blood Music 2012.4.13に掲載〉


RAM-ZETノルウェー)》
SflnXインタビュー(2011.2.15)



【比較的メジャーなバンド・個人】


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Mikael Åkerfeldインタビュー(2003.2.10)


Mikael Åkerfeldインタビュー(2014.8.22)


Mikael Åkerfeldインタビュー(2015.5.8:川嶋未来
日本語記事。VOIVODやBATHORYの影響がとても大きいという話など、非常に興味深い内容です。



【ハードフュージョン・djent以降】


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ANIMALS AS LEADERS(アメリカ)》

Wikipedia(Tosin Abasi)

Tosin Abasiインタビュー(2014.5.14)

【ブラックメタル出身】 ORANSSI PAZUZU(フィンランド)

Vaeraehtelijae [12 inch Analog]

Vaeraehtelijae [12 inch Analog]


(1st『Muukalainen Puhuu』フル音源)'09

(2nd『Kosmonument』フル音源その他)'11

(3rd『Valonielu』フル音源)'13

(4th『Värähteijä』フル音源)'16


2007年結成。“ORANSSI”は“orange”(オレンジ)、“PAZUZU”はアッシリアやバビロンの神話における悪魔の名前を指すとのこと。70年代のサイケデリックプログレッシヴロックや90年代のオルタナティヴロックなど、膨大な音楽要素をシンフォニックなブラックメタルに溶かし込むスタイルを探求し続けており、高度で個性的な音楽性によりメタルシーンの内外から大きな注目を集めています。10年間で発表したアルバムは4枚のみですが、その全てが構造的強度と直情的な雰囲気表現力を両立する傑作です。ブラックメタルファンでない方も聴く価値が高いバンドです。

ORANSSI PAZUZUはフィンランドの“シュルレアリスティックなロックバンド”KUOLLEET INTIAANIT(2000〜2007)のメンバーだったJun-His(ギター・ボーカル)がOntto(ベース)と創設したバンドで、結成のきっかけは2人が観たEMPERORのライヴだったようです。2013年のインタビューによれば、「メンバーは非常に多くのバンドや音楽スタイルにハマっていて、好みも一人一人違っている。その上で最も重要なものを挙げるとすれば、フィンランドのCIRCLE(註:同郷のWALTARIにも通じる超絶なんでもありミクスチャーバンド)、DARKTHRONE、CAN、KING CRIMSONSONIC YOUTH、ELECTRIC WIZARDなどが該当すると思う」というふうに、いずれ劣らぬ音楽マニアバンドたちを影響源として並べています。ORANSSI PAZUZUという名前は彼らの音楽の二元性を象徴するもので、“PAZUZU”は彼らの表現志向(闇・未知・神秘・未踏の音楽的領域)を、“ORANSSI”(=オレンジ)はブラックメタルの“伝統的な”色合いに通じつつも対極に位置する(「白黒フィルムにいろんな色を重ねたような」)サイケデリックな側面や宇宙のエネルギーを指すとのこと。そうした姿勢が示すように、スタジオにおいては「ジャムセッションを通した製作方法もカッチリした作曲に基づくやり方も両方採用し、その2つをできうる限りの様々なやり方で組み合わせている」ようです。創設メンバー2人が用意した書き譜をメンバー全員がアレンジし、予想外のヒネりを積極的に生み出すことで、精密に作り込まれた構造と小綺麗にまとまりすぎない勢いを併せ持つ作品が生まれるというわけです。

2009年に発表された1stフルアルバム『Muukalainen Puhuu』では、「初期のARCTURUSやMANES、LIMBONIC ARTといったシンフォニック・ブラックメタルにHAWKWINDや初期ASH RA TEMPELに通じる暗黒宇宙感覚を加えた」感じの雰囲気が、様々な曲調で表現されています。後の作品で主体になるアンビエント〜ドゥーム寄りの展開もありますが、フィンランドブラックメタル(BEHERITなど)に特徴的な(MOTÖRHEAD〜ハードコアパンクに通じる)爆走スタイルも多用されており、Jun-Hisの気合の入ったガナリ声も相まって、“高度で複雑”な音楽のつくりよりも“得体の知れないエネルギーに満ちている”勢いの凄さの方が前面に出ています。メロトロンや各種アナログシンセ音色をフィーチャーした攻撃的なシンフォニック・サウンドも魅力的で、耳の早いブラックメタルファンの間で大きな話題になりました。流通枚数の少なさのためか長らく現物を入手するのが難しいアルバムだったのですが、2017年の4月に再発が決定。後の作品にハマった方はぜひ聴いてみてほしい傑作です。

上記1stアルバムではまだ既存のブラックメタルを参照した形跡が各所に残っていましたが、2010年に発表されたCANDY CANEとのスプリット・アルバム(ORANSSI PAZUZUは4曲27分収録)ではそうした影響源の痕跡を同定するのが難しいくらい“溶かしほぐされた”音遣いが展開されています。長尺をゆったり語り継いでいく曲構成はだいぶアンビエントな感覚を増しており、聴き手をぼんやり没入させる力が確実に増しています。そうした意味で前作1stフルと次作2ndフルを繋ぐ作品と言えるのですが、他の作品にない興味深い要素(例えば4曲目「Farmakologisen kultin puutarhassa」におけるALICE IN CHAINS的リフなど)も多く、単体として楽しめる優れた内容になっています。

この翌年に発表された2ndフルアルバム『Kosmonument』は、以降に連なるORANSSI PAZUZUの“攻撃的なドゥーム&アンビエント”的スタイルが確立された大傑作です。反復するリフの背景で多彩なフレーズが微細に変化する複層アレンジは“モノトーンな没入感覚”と展開の豊かさを見事に両立しており、ELECTRIC WIZARDやCANなどに通じる“気の長い時間感覚”とあわせて強力な酩酊感をもたらしてくれます。既存のシンフォニックなブラックメタルに通じる要素(仮面舞踏会を想起させる荘厳なクラシカルフレーズなど)を含みつつそれらと一線を画してもいる音遣いは優れて個性的で、ノルウェーフィンランドにおける初期ブラックメタルの名バンドに通じる脱ジャンル的存在感を確立しています。朦朧としつつ宇宙の底に沈んでいくような暗黒浮遊感(初期ASH LA TEMPELのようなジャーマン・ロックに通じる)も実に味わい深く、このバンドの作品としてはやや落ち着き気味なテンションもあって、気疲れせず浸れる度合いではこのアルバムがベストだと思われます。個人的には最も肌に合う一枚です。

これに続く3rdアルバム『Valonielu』(2013年発表)では、1st・2ndと同様「全てのベーシック・トラックをライヴレコーディングした」上で、それまでになかった大量のオーバーダブ(重ね録り)が施されているようです。従ってそのぶん作編曲は分厚く緻密になっているのですが、直感的なノリは全く損なわれておらず、攻撃的な勢いはむしろ大きく増しています。10分を越える大曲も初めて収録されており(それまでは約9分が最長だったが本作には15分・12分の曲がある)、その長さをハイテンションで通しきる演奏表現力は大変なもの。構造的強度と直情的な雰囲気表現を高いボルテージで両立しているという点ではベストでしょう。カタログの中ではなんとなく地味な印象のある一枚ですが、非常に充実した作品です。

現時点での最新作『Värähteijä』(2016年発表)はバンドがこれまでに培ってきた全ての要素が最もバランスよくまとめ上げられた大傑作で、メタルシーンの内外で高い評価を集めました。(メタル系・非メタル系メディア双方の年間ベストトップクラスに入るなど。)70年代ジャーマン・ロックや90年代オルタナブラックメタルなどのエッセンスを独自の配合でまとめ上げたような音遣い感覚は正しくこれまでの延長線上にある感じですが、本作においてはそれらが強力なリズム構造の上で実に効果的に活用されています。「5拍子や7拍子の枠内で巧みなアクセント移動をするメインリフをひたすら反復し、そこに絡むフレーズが様々に変化していく」というふうな作りはTOOLにも通じる(しかも見劣りしない)もので、“テンションの高さと朦朧とした鎮静感覚を両立する”独特の演奏表現力との相性は抜群。全編を通しての緩急構成・ペース配分も申し分なく良く、トータルアルバムとしての完成度・洗練度はこれがベストでしょう。(この手の音楽性に慣れている方には)入門編としても良い一枚だと思います。

ORANSSI PAZUZUが何よりすごいのは「豊かな素養をベースにした高度な音楽性なのにペダンティックな感じが全くない」ところでしょう。徹底的に考え抜いて作っているのに小賢しい印象がなく、良い意味で“アタマの悪い”勢いが前面に出ている。ストレートな訴求力と神秘的な奥行きを両立する姿勢は、初期ブラックメタルシーンの精神性を正しく受け継ぐものと言えます。最近注目を集め始めたからか(DEAFHEAVENやALCESTなどと同じく)“ハイプな”扱われ方をする機会も増えてきているようですが、気にせず聴いてみてほしい優れたバンドです。

【ブラックメタル出身】 ULVER(ノルウェー)

 

The Assassination Of Julius Caesar

The Assassination Of Julius Caesar

 

 

 

(1st『Bergtatt』フル音源)'95
 
(3rd『Nattens Madrigal』フル音源)'97
 
(5th『Perdition City』フル音源)'00
 
(11th『Childhood's End』フル音源)'12
 
(12th『Messe Ⅰ.X - Ⅵ.X』フル音源)'13
 
ノルウェーを代表するなんでもあり音楽集団(1993年結成)。「ULVERみたいな音を出すヤツはいない。ULVER自身ですらその例に漏れない」(“No one sounds like ULVER. Not even ULVER.” by PERIPHERYのギタリストMark Holcomb)というコメントのとおり、作品ごとに大きく異なるスタイルをとり、それらの全てで素晴らしい達成をしてきたバンドです。しかし、メタルシーンでは初期の数枚ばかりが賞賛され以降の作品は全く顧みられない、メタル以外のシーンでは殆ど知られる機会がないというように、ジャンル間の溝に落ち込んでしまうことの悲哀を一身に体現している存在でもあります。なんとかして正当な評価を得てほしいバンドです。
 
【1. ブラックメタル(1993〜1997)】
 
ULVERはノルウェーの初期ブラックメタルを代表するバンドで、シーンを先導する強力なバンドが出揃った時期に革新的な傑作を発表して注目を浴びました。1st『Bergtatt』(1995年)は北欧フォーク〜トラッドとメロディアスなブラックメタルスタイルを融合した大傑作で、2010年代以降一つのトレンドをなしているポスト/シューゲイザーブラックメタルと言われるバンド(ALCESTやDEAFHEAVENなど)を先取りする優しく激しい音楽性により、ブラックメタルという音楽の持つイメージ(吹雪が荒れ狂うような陰鬱で攻撃的なスタイル)を拡張しつつ、SLINTのような初期ポストロックに通じる豊かな音遣い感覚を生み出しています。続く2nd『Kveldssanger』(1996年)でメタルはおろかロック色すら一切ないアコースティック・フォークをやった後に発表された3rd『Nattens Madrigal』(1997年)は90年代のアンダーグラウンド音楽を代表する歴史的傑作で、2ndの極めてメロディアスな音楽性が、緻密な対位法的アレンジを施された上で、極悪にこもったハーシュ・ノイズにまみれる“プリミティヴ・ブラックメタル”スタイルのもと表現されています。高域以外が極端に痩せた凶悪なサウンドプロダクションと絶叫一本槍の激しいボーカル(このスタイルを取るのはこのバンドでは本作のみ)で攻撃的な印象を前面に出してはいますが、作編曲や演奏は高度に洗練されており、1stや2ndで表現された豊かな音遣い感覚がさらに熟成されているのです。インパクトも深みも超一流と言えるこのアルバムは世界中のエクストリームメタル/ハードコアパンクに絶大な影響を与え、少なくともメタルシーンにおいては未だにこのバンドの代表作とみなされ続けています。
 
【2. 電子音楽路線への転換期(1998)】

以上の「初期3部作」の印象が強すぎるためにいつまでも“メタル扱い”されているULVERですが、「メタル要素がある」とはっきり言える作品は3枚しかありません。1st・3rdに続くその最後の1枚が4th『Themes from William Blake's The Marriage of Heaven And Hell』(1998年)です。「英国ゴシックメタルとインダストリアルメタルそしてトリップホップを足して北欧ブラックメタルの音遣い感覚で料理した」趣の本作では、2枚組の全編に渡ってスタイルの異なる曲調が無節操に並べられ、その上で素晴らしい統一感をもってまとめ上げられています。比較対象としてはNINE INCH NAILSPORTISHEADMASSIVE ATTACKPARADISE LOSTなどが挙げられますが、そうしたものに勝るとも劣らない存在感を発揮しつつ完全に独自の味を確立しており、ここでしか得られない旨みにどっぷり浸ることができます。即効性も奥行きも素晴らしいですし、上に挙げたようなバンドを好む方はぜひ聴いてみるべき傑作だと思います。

このような音楽性のシフトを導いたのは中心人物Kristoffer Rygg(通称Garm)の嗜好の変化によるところが大きいのでしょうが(コアなエクストリームメタルファンだった彼は、90年代末にはCOILやAUTECHRE、NURSE WITH WOUNDといったアヴァンギャルドなノイズ〜電子音楽にのめり込んでいきます)、それを支え音作りの主幹を担うTore Ylwizakerの存在も大きかったのではないかと思います。4thはこのToreと3rdまでの腕利き楽器陣がともに在籍した唯一のアルバムであり、上記のような音楽性(豊かな曲想と逞しいフィジカルの両立)はそうした狭間の時期だからこそ生まれたものだったのだと言えそうです。
 
【3. 電子音楽(1999〜2004)】

ULVERはこの後しばらく様々なスタイルの電子音楽を追求していくことになります。EP『Metamorphosis』(1999年:暗いエレクトロニカという感じで比較的凡庸な仕上がりだが、CDケース内に「最早ブラックメタルではないからそれを期待しても失望するだけ。我々はこれからも予測できない存在であり続ける」という声明あり)を経て発表された5th『Perdition City』(2000年)は“架空の映画のサウンドトラック”的な作品で、4thをアンビエントエレクトロニカに寄せたような音楽性のもと、アルバム一枚を通して明確な物語を描いていく構成が出来ています。フィールドレコーディング(アパートの5階にあるToreの部屋の窓からマイクを突き出し、夜の街の音を録ったとのこと)も効果的に活用された本作はKristofferとToreの2名だけで作られており、現在にまで至る音楽製作の体制がここで確立されることになりました。
電子音楽期のULVERは所属シーンの問題もあって触れられる機会が極めて少ないですが(初期3部作ばかりが語られるため、23年の歴史のなかでメタルをやっていた時期は5年に過ぎないのに、メタルシーン以外で言及されることは殆どない)、発表された作品はどれも優れたものばかりです。本物の映画のサウンドトラックとして製作された『Lyckantropen Themes』(6th・2002年)と『Svidd Neger』(7th・2003年)は単体でも楽しめるアンビエント〜テクノの傑作ですし、それに続いて発表されたEP『A Quick Fix of Melancholy』(2003年)も、前2作の時間/空間感覚を引き継ぎつつ印象的なフレーズを軸に据えた構成が見事で、何度でも繰り返し聴きたくなる魅力があります。そうした傑作群の中でもひときわ素晴らしいのが『Teachings in Silence』(インスタレーション用音源として製作され2001年と2002年に分けて発表された2つのEPを一つにまとめたもの)でしょう。アンビエントグリッチ寄りの電子音楽に最も接近した時期の作品なのですが、バンド自身が最大の影響源として挙げるCOILの「ミクロのフレーズに異常にこだわる」音響表現力が見事に引き継がれていて、淡々とした展開にいつまでも浸れてしまいます。(COILの名作『Angelic Conversation』と『Black Antlers』の間にある音楽性を北欧トラッド〜クラシックの洗練された構成力で整理したという趣もあります。)明確な泣きメロを含む最後の「Not Saved」はその中では異色のトラックですが、その素晴らしい仕上がりもあって、ファンからは名曲と評価されています。
 
【4. 歌モノスタイルへの回帰(2005〜2013)】

こうして何年ものあいだ電子音楽にこだわり続けていたULVERですが、2005年の8th『Blood Inside』からは歌モノのスタイルが全面的に復活しています。様々な電子音楽を通して培われた音響/時間感覚を、過去作よりもさらに熟成された北欧ゴシック的音遣い感覚と組み合わせ、唯一無二の個性と深い味わいを誇るKristofferのボーカルで引き締める…というスタイルは完璧で、一見地味なようでいて「聴きやすく、何度聴き返しても飽きない」渋く奇妙なポップミュージックの傑作になっているのです。インダストリアルメタル的な硬い音作りも魅力的で、メタルファンに非メタル期の作品を一枚だけお薦めするのなら本作か『The Assassination of Julius Caesar』(2017年・15th)がベストなのではないかと思います。
これに続いて発表された9th『Shadows Inside』(2007年)では、前作のインダストリアルメタル的音響は完全に排除され、Fennesz(実際に参加)やSIGUR RÓSのような柔らかく雄大な音響が主になっています。北欧の大自然が黄昏に包まれ、次第に闇に溶けていく…という趣の雰囲気描写は素晴らしく、同じ路線でこれを上回るものは殆どないのではないかとすら思えます。アンビエントながら印象的な歌モノとしても成り立っている作編曲も好ましく、BLACK SABBATH「Solitude」のカバーも自然に収まり見事な表現力を示しています。バンド自身も代表作として誇るアルバムで、ここ10年に渡る電子音楽路線の一つの完成形を示した傑作と言えます。

その9thで一つの区切りをつけたということなのか、以降のULVERは過去の様々な音楽を参照しつつ新境地を開拓する傾向を強めていきます。2011年の10th『Wars of The Roses』では80年代ニューウェーヴや90年代に至るインダストリアルもののような英国ゴシック音楽のエッセンスが強まり(「Norwegian Gothic」なんてそのものズバリの曲名もある)、COILメンバーとの共演も実現しています。
(Ian JohnstoneとStephan Throwerが最後のアンビエント/ポエトリーリーディングに参加:中心人物John BalanceとPeter Christophersonは亡くなった後)
また、マルチプレイヤーDaniel O'Sullivanが正式加入し楽器の演奏水準が向上したということもあってか、バンドのアンサンブルは生のダイナミズムを大幅に増すことになりました。Kristofferの素晴らしいボーカルも十分にフィーチャーされ、他では聴けない個性的な味わいが聴きやすく提供されている本作は、バンドの新たな黄金期の幕開けを告げるものになりました。

その翌年に発表された11th『Childhood's End』は60年代末〜70年代前半のサイケデリックロックのカバー集で、アメリカ〜英国のブルース/フォーク的な音遣い感覚が大幅に導入されています。
(北欧から英国に接近した10thの南下傾向の延長線上にあるとも言えるのかもしれません。)
その結果は実に素晴らしく、『Shadows of The Sun』などでとりわけ印象的だった美しくも冷たく厳しい雰囲気が、アメリカ〜英国的な程よく大雑把な空気感でときほぐされ、特有の湿り気を残しつつ深刻になりすぎない絶妙なバランス感覚を生んでいます。こうした仕上がりは、作品の内容自体がバンドの歴史における新境地になっているというだけでなく、どうしても暗く沈み込む方向にこだわりがちだったバンドの気の持ちようにある種の突破口を設けたという意味でも、とても得難く重要なものだったのではないかと思います。ULVERの歴史において最もコンパクトに洗練された歌モノに徹しており、素晴らしいボーカルを思う存分楽しめる…という意味でも貴重な傑作です。
その11th発表前に行われた同作のお披露目ライヴは録音され、『Live at Roadburn』(2013年)として発表されています。同作収録の歌モノから16曲中10曲を演奏し、最後に70年代ジャーマンロック風の長尺インプロヴィゼーション(「CANに捧げる」とのクレジットあり)をやって締める構成は、11thと最新13thをそのまま繋ぐものとみることもできます。非常に興味深いです。

翌2013年に発表された12th『Messe Ⅰ.Ⅹ-Ⅵ.Ⅹ』は、ULVERが作曲した楽曲にアレンジを施して室内オーケストラが演奏したのち、そこにULVER側がポストプロダクションを加えて電子音楽化した作品で、Alvo Part(アルヴォ・ペルトミニマリズム/古楽寄りスタイル)やJohn Travener(ジョン・タヴナーメシアンシュトックハウゼンに並ぶ神秘主義)といった作曲家に大きな影響を受けているといいます。これが極めて素晴らしい作品で、生演奏の繊細なダイナミクスが電子音響処理により一層緻密に強化されているだけでなく、生演奏単独でも電子音響単独でも成し得ない複雑で表情豊かな音色表現が生み出されていて、約45分の長さを興味深く浸り通すことができてしまうのです。作編曲だけとってみても実に見事で、5部からなるアルバム全体の構成が申し分なく素晴らしい。少し冷たい水の中に無心で漂うような居心地も好ましく、微妙な異物感を伴いながら潤いを与えてくれるような肌触りもあって、永遠に流し浸り続けていたいような気分にさせられてしまいます。仄暗く生温い音遣い感覚は確かに10th〜11thの流れに連なるものですし、あらゆる意味でこのバンドにしか作れない大傑作なのではないかと思います。
 
【5. 以上の展開を踏まえ現在に至るまで(2015〜)】

そこから2年半のブランクを経て発表された13th『ATGCLVLSSCAP』(2016年)は、以上のような流れをかなり意識的に総括するものになりました。2014年2月に行われた欧州ツアー12箇所の音源を加工して作られた本作では、常連サポートメンバーを含むライヴバンドとしての実力と個性が存分に発揮されています。
(ちなみに、アルバムタイトルは12星座(Aries・Taurus・Gemini・Cancer・Leo・Virgo・Libra・Scorpio・Sagittarius・Capricorn・Aquarius・Pisces)の頭文字を並べたもののようです)
音楽性を過去作と比べるならば、『Shadows of The Sun』『Wars of The Roses』『Childhood's End』の音楽性を完璧に溶け合わせ、いわゆるアトモスフェリック・スラッジに通じる迫力ある演奏で形にしていく、という感じでしょうか。SIGUR RÓSROVOを70年代ロックに寄せたような程よく粗いアンサンブルと、打楽器の音をほとんど入れずに淡々と漂う北欧アンビエントのパートとが、全く違和感なく並べられ、ジャスト80分の長さを過剰に思わせない滑らかな流れを作り出していきます。それぞれの曲は即興で生み出された部分を相当多く含んでいるはずなのですが、曲の展開・構成は過不足なくよく整理されたものばかりで、余計なことを考えず快適に浸り通すことができてしまうのです。
(1曲目「England's Hidden」(COILやNURSE WITH WOUND関連音源/書籍の名前でもある)は12thの「Glamour Box」を、3曲目「Moody Stix」は『A Quick Fix of Melancholy』の「Doom Sticks」を、10曲目「Nowhere」は5th最後の同曲をライヴでリアレンジしたものですが、他の曲はこのツアー用に準備された素材を現場で展開し構築した即興作曲だと思われます)
このような仕上がりは、ライヴならではの閃きや豊かな演奏表現力と、スタジオでのポストプロダクションを含む優れた整理能力を見事に両立するもので、バンドの音楽的引き出しをあらゆる面において申し分なく示していると思います。こうした成り立ちはたとえばCAN『Tago Mago』やKING CRIMSON『Starless And Bibleblack』に通じるものですし、音響や雰囲気だけみれば最近のANATHEMAやFenneszを連想させる部分も多いです。10thで掘り下げられた“ノルウェー+英国”的な音遣いに、11thのあたりで探求されたアメリカのサイケやジャーマンロックの要素が混ぜ合わされ、非常に豊かで複雑な味を構築している。こういう意味においても、これまでの活動全歴の集大成と言える一枚なのではないかと思います。
70年代ジャーマンロックやシンフォニックなポストロック、いわゆるジャムバンドやネオプログレアンビエントやドローンなど、気の長い時間感覚を持つダイナミックな音楽が好きな方なら抵抗なくハマれる傑作です。

同年末に発表された映画サウンドトラック『Riverhead』(14thアルバム)で静かで不穏な電子音響を探求したのちに発表された『The Assassination of Julius Caesar』(2017年・15th)は、バンド史上初めてオリジナルのオーソドックスな歌モノだけで占められた作品になりました。Kristofferの伸びやかな歌声が全曲でフィーチャーされた本作では、『Childhood's End』で切り拓かれた沈み込みすぎない雰囲気がさらに垢抜けたかたちで表現されており、過去作からは想像できないくらい気安く親しみやすい感じになっています。しかしその上で能天気で頭が悪そうな印象はありません。『Shadows of The Sun』にも通じる暗い叙情が常に仄かに漂っており、飄々としながら深い思索にふける優れたバランス感覚が生まれているのです。こうした雰囲気表現はもちろん、歌モノとしての構成の明快さとアレンジの層の厚さを兼ね備えた作編曲も最高で、全ての面において聴きやすさ と聴き飽きにくさが完璧に両立されています。徹底的に洗練されたプレゼンテーション能力のもと、自分のやりたいことを曲げずにわかりやすく伝えきる。ポップミュージックのスタイルでなければ作れない音楽ですし、その一つの理想形を示した大傑作と言えます。

本作において特に興味深いのがビート/グルーヴの作り方です。先述のようにULVERはロック周辺のあらゆる音楽を探求してきましたが、いわゆるブラックミュージックに関しては直接影響を受けた形跡が見当たりません。『Themes from William Blake's The Marriage of Heaven And Hell』でのトリップホップ、『Childhood's End』でのサイケ/アシッドフォーク(アメリカのルーツミュージック要素を多分に含む)など、ブラックミュージックの近傍を通ってきてはいるのですが、ブルースやヒップホップといったブラックミュージックそのものをしっかり咀嚼している様子は殆どないのです。
(『Perdition City』収録「Catalept」の黒っぽさゼロなブレイクビーツなどを聴くと特にそう思えます)
これはビートミュージックの世界においては不利な要素となる場合が多いのですが、本作ではむしろ完全に良い方向に働いているように思います。ブラックミュージックの“無限に割れつつ噛み合っている”緻密で高機動なものとは異なり、もっと勘や間に頼った上でたわみながらしっかり揃い密着する感じがある。『ATGCLVSSCAP』においてはこの感覚が締まりなくたわむ方向に寄っていて完全にうまく機能してはいなかったのですが、締まったビートとアンビエントの中間にあるような性格を示し、両方の曲調を違和感なく並べることに大きく貢献していました。本作『The Assassination of Julius Caesar』ではそうしたグルーヴがほどよく引き締められた形に仕上げられており、クラシックや欧州テクノなどを通ってこなければ生まれない非黒人音楽系ビートミュージックの一つの極みに達しているのではないかと思います。ブラックミュージック由来の定型BPMスタイルとクラシック周辺由来のアンビエント感を殆ど理想形な形で融合した本作のトラックは全篇素晴らしく、特に最終曲「Coming Home」3分35秒頃からのたっぷりタメるが全くモタらない4つ打ちキックは究極のビートの一つと言えるでしょう。(私が聴いてきた全ての音楽の中でもベストの一つです。)こうした演奏/音響面でも比類のない成果が示された逸品です。
DEPECHE MODEや80年代PINK FLOYDなどに通じつつ独自の世界を作り上げることに成功した本作は、個人的にはULVERの最高傑作だと思います。全ての音楽ファンに聴いてみてほしい一枚です。
 
この同年に発表されたEP『Sic Transit Gloria Mundi』(事前予告なしのダウンロード販売)には『The Assassination of Julius Caesar』を『Shadow of The Sun』に寄せたような仄暗く荘厳な歌モノが収録されています。連続して同じスタイルを採用することが少ないこのバンドのことですし、これからもさらに興味深い境地を切り拓いていくのではないかと思います。今後の活動が楽しみです。
 
 
以上、ULVERの活動全歴を簡単に俯瞰してきました。音楽スタイルを自在に変えながら持ち味を深めていった歴史は広く知られるべきですし、そうでなくとも、それぞれの作品がそれを最も楽しめる人のもとに届いてほしいものです。この稿がそうしたことの助けになれば幸いです。

【プログレッシヴ・デスメタル】 SADIST(イタリア)

ハイエナ

ハイエナ


(1st『Above The Light』フル音源)'93

(2nd『Tribe』フル音源)'96

(3rd『Crust』フル音源プレイリスト)'97

(4th『Lego』から「A Tender Fable」)'00

(5th『Sadist』フル音源)'07

(6th『Season in Silence』フル音源)'10

(Tommy Talamanca『Na Zapad』フル音源)'13

(7th『Hyaena』から1曲目「The Lonely Mountain」)'15

'90年結成。デスメタルに本格的にキーボード/シンセサイザーを導入した最初のバンドの一つと言われます。しかし、作編曲や演奏のスタイルは一般的な「デスメタル」「シンフォニックメタル」と大きく異なるもので、他では聴けない高度で独創的な作品を生み続けています。カルトで神秘的な雰囲気はイタリア特有の空気感に満ちており、そうした味わいを口当たりよく吞み込ませてしまう音楽センスは驚異的。この稿で扱う他の「プログレデス」バンドと比べても見劣りしない実力の持ち主です。

SADISTは「イタリアを代表するB級スラッシュメタルバンドNECRODEATHのリーダーPeso(ドラマー)によって結成されたバンド」と紹介されることが多いですが、音楽的なリーダーはギタリスト/キーボーディストTommy Talamancaの方です。10歳でクラシックギターを学び始め、15歳の時にエレクトリックギターに転向する一方でピアノも学び始めたというTommyは、まず70年代プログレッシヴ・ロックEL&PEmerson, Lake & Palmer)、YES、GOBLINなど)やRUSHなどに影響を受け、その後80年代後期のスラッシュメタルデスメタル(特に重要なのはSLAYERとANNIHILATORとのこと)に感化されたと言います。そうした音楽の要素を深く汲み取りつつ、“歌モノ”を重視するイタリア音楽の流儀、そして地中海(欧州〜中近東の中継地点)ならではの雑多な民族音楽のエッセンスを組み合わせ、奇妙でキャッチーな曲を生み出してしまう。こうした作編曲のセンスは「いろんなものから影響を受けながらも安易に真似をせず独自のものをイチから築き上げる」姿勢に支えられたもので、同じようなバックグラウンドを持つバンドとも異なる“他では聴けない”強い個性を勝ち得ているのです。現在までに発表した7枚のフルアルバムは(評価が分かれるものもありますが)全てが“このバンドにしか作れない”傑作で、一聴の価値があるものばかりです。

1st『Above The Light』('93年発表)は、いわゆる「プログレッシヴ・デスメタル」創成期を代表するカルトな名盤の一つです。音楽性を一言でいえば「初期DEATH+GOBLINやEL&P」というところでしょうか。クラシカルなリードフレーズ(YngwieなどのいわゆるネオクラシカルHR/HMとはメロディもコード進行も質が異なる)を積極的に繰り出すギター&キーボードはTommyが一人で弾き分けているもので(ライヴでも今に至るまで「2つを同時に演奏している」ようです)、強烈な主張をし合いながらもどちらかが浮いてしまうことがありません。多様なリードフレーズを活かすためのアレンジがよく練られており(後の作品と比べると“崩れた”印象はありますが)、いわゆるメロディックデスメタルの「派手なメロディばかりでバッキングはつまらない」所を嫌うデスメタルファンもそんなに抵抗なく楽しめるのではないかと思います。
また、このアルバムで特徴的なのがPesoによるドラムスで、スラッシュメタルブラックメタル的に暴れる“崩壊型”のフレージングにより、音楽全体に雑で威勢のよい印象を加えています。これは上品で整ったものを好む人からすると食いづらい要素なのですが、神秘的で強力な音楽性に良い意味での猥雑さを付加することができていて、アルバムの独特の雰囲気作りに大きく貢献しているのではないかと思います。この時代のこのシーンからしか生まれなかった個性的な傑作で、当時の空気感を味わうために聴いてみる価値も高い作品と言えます。

2nd『Tribe』('96年発表)は、バンド全員が集まって作曲したという1stとは異なり、Tommyが全曲を作ってそれを全員でアレンジするという方針が取られた作品です。19世紀後半のクラシック音楽に通じるコードワークが主だった1stに対し、この2ndでは地中海音楽や20世紀初頭のクラシック音楽バルトークストラヴィンスキーなど)に通じる複雑な音遣いが全面的に導入されており、しかもそうした要素を印象的なリードフレーズにより耳当たりよく提示することができています。展開の多い曲構成を勢いよく形にするテクニカルな演奏も好ましく、「中期DEATH〜CYNICをSEPTIC FLESHと混ぜ合わせた」ような感じになるところもあります。その上で全曲が他では聴けない味を持っていて、優れた個性に満ちたアルバムになっているのではないかと思います。このバンドを代表する傑作であり、いわゆるプログレデスの歴史においても屈指の名作の一つです。インパクトと聴き飽きなさを併せ持った作品で、聴いてみる価値は非常に高いです。

続く3rd『Crust』('97年発表)は、初期からのドラマーPesoと前作のみに参加したシンガー&ベーシストが脱退し、一時的に抜けていたオリジナルベーシストAndyが復帰した作品です。選任ボーカリストとして加入したTrevorはエクストリームメタルの歴史全体をみてもトップクラスの実力者で、個性的で豊かな響きと巧みなトーンコントロールにより、音楽の“顔”としての圧倒的な存在感と表現力を発揮しています。そうした人材を得たことで、作編曲も必然的に「歌を活かす」ものになり、「魅力的なリードフレーズを大量に投入しながら曲全体としてはコンパクトで聴き通しやすい」洗練された仕上がりになっているのです。音遣いは前作を引き継ぎつつさらに深化しており、「シンフォニックなインダストリアルメタル」というようなスタイルの上で「CYNICをファンタジー系RPGの劇伴に仕立て上げた」ような印象もあります。他では聴けない怪しく魅力的な音進行を気軽に楽しめる「歌」作りは見事の一言で、アルバムとしての構成は多少そっけない部分もありますが、極めて聴きやすく“伝わりやすい”傑作なのではないかと思います。入門編に最も適した一枚です。

3rdから3年の間をおいて発表された4th『Lego』('00年)は、バンド自身も認める「問題作」です。前作までのアグレッシヴなエクストリームメタル路線から一転、「ゴシカルなディスコ風味のあるインダストリアルメタル」という感じのスタイルに変化した一枚で、メロディアスな歌(いわゆるクリーン・ボーカル)を前面に押し出す4分位の「歌モノ」が15曲収められています。楽器のソロパートなどで複雑に展開するパートをばっさりカットし、ミステリアスで攻撃的な印象も引っ込めたこの作品は、それまでのファンからは強く批難され、一般的な音楽ファンの注目を集めることもできないという「中庸路線をとってどちらにも引っ掛からない」ものになってしまいました。レビューや評価も悪いものばかりで、バンド内の雰囲気は険悪になっていたようです。それをうけた話し合いの結果、バンドは活動休止を決定。長く沈黙することになりました。
しかし個人的には、この作品自体は決して悪いものではないと思います。それまでの作品にあったような雰囲気を求めると肩透かしを食うというだけで、各曲のフレーズはそれまで以上に冴えています。「同じ地中海出身のSEPTIC FLESH(ギリシャ)にディスコ〜インダストリアルメタル風味をつけてコンパクトにまとめた」感じの曲は全て良い仕上がりで、約60分あるアルバム全体の流れはやや平坦になってしまっているものの、他では聴けない優れた歌モノの魅力に浸ることができるのです。慣れさえすればいくらでも楽しんで聴き込める作品で、個人的にはSADISTのカタログ中でも上位(3〜4番目くらい)に入る傑作だと思っています。他の作品に感銘を受けた方はぜひ聴いてみてほしい作品です。

問題作『Lego』に伴う7年の活動休止を挟んで発表された5th『Sadist』('07年)は、自身の名を冠したタイトル通り、バンドメンバーも誇りに思う仕上がりの作品です。「はじめの3枚の良いところを集約した内容にしたかった」という発言通りの音楽性なのですが、2ndあたりの音進行を独自に熟成させたような音遣い感覚が優れた“仮想の民族音楽”を生んでいて、他では聴けないこのバンド特有の味わい(“ダシ”の感覚)が改めて確立されています。このアルバムはリズム構成も強力で、過去の4枚にはなかった複合拍子を滑らかに繋げるアレンジが見事です。そしてそれを形にする演奏も素晴らしい。前作で加入したドラマーAlessioとオリジナルのベーシストAndyはともにこのジャンルを代表する名人で、“無駄撃ちせず隙間を活かす”多彩なフレージングがどこまでも興味深いですし、ボーカルのTrevorは先述のような圧倒的な表現力を、奇妙な“字余り”を伴う独特の譜割のもとで個性的に提示してくれます。Tommyのギターはその3人と比べると技術的には冴えない感じがありますが、きっちりカッティングしきらず滑らかにぬめりまとわりつくタッチは他にありそうでない味を持っていて、優れたフレーズを面白く聴かせてくれるのです。こうした演奏を美味しく聴かせるサウンドプロダクションも極上の仕上がりで、全ての要素が申し分なく優れたアルバムになっていると思います。個人的にはちょっと“際立ったリードフレーズが少ない”淡白な印象も受けますが、完成度の高さでは全作品中一・二を争う傑作です。イタリアのプログレ/劇伴音楽を代表するバンドGOBLINのClaudio Simonettiによる「Sadist」(1st収録曲)アレンジも良い仕上がりで、アルバムの末尾を神秘的に締めくくっています。

続く復帰第2作『Season in Silence』(6th:'10年発表)は、他では聴けないSADISTの個性が真の意味で確立され始めた作品と言えるでしょう。キャリアの総括と言える自信作『Sadist』で一つの区切りをつけ、それまでに手を出していなかった新たな領域に踏み出したような印象のある一枚で、過去作の暗くミステリアスなイメージに縛られない音遣いが豊かに開発されているのです。アルバムのコンセプトは「冬の寒さにまつわる様々な感情・雰囲気」で、それが(北欧のような“元々寒い”場所でない)イタリアならではの光度感覚(光と影のコントラストがはっきりしていて両者が鮮明という感じ)や空気感のもと、「雪原の上で白昼夢をみる」ような独特の世界観が描かれています。従来の“仮想の民族音楽”的な音遣いは影響源の特定がさらに難しいものになり、他のバンドに容易に真似できない個性が強力に確立されています。一つ一つのフレーズの“切れ味”(インパクト)と“切れ込みの深さ”(手応え・聴き飽きなさ)はともに過去最高で、卓越した演奏とあわせて終始興味深く聴き入ることができます。アルバムの流れは多少生硬く、滑らかな流れを損なっているように思えてしまう並びもあるのですが、全体の構成バランスは悪くなく、繰り返し聴き込み楽しめる内容になっていると思います。同年に発表されたCYNICの2ndなどと並べても見劣りしない傑作です。

SADIST名義の作品ではないですが、リーダーTommy Talamancaのソロアルバム『Na Zapad』('13年発表)も並べて語るべき傑作です。「ここ15〜16年の間にSADIST用に書いたけれどもメタル度が少なくて採用しなかったもの」を主体にして作られたアルバムで、SADISTの“仮想の民族音楽”的な音遣い感覚が、より豊かな広がりをもって柔らかく表現されています。ドラムス以外の全楽曲(ギターやベース、ブズーキなどの弦楽器、キーボードやタブラほか)をTommy一人で演奏し6ヶ月ほどの期間をかけて(他の音楽活動や仕事の合間に)製作したというこのアルバムは、「ギタリストのインスト作品」にありがちな「無駄に弾きまくりたがるテクニカル志向」とは無縁の、口ずさめるくらい印象的なメロディに満ちた「歌モノ」になっています。Pat Metheny風の音色やフラメンコを独自に解釈したような音進行が冴える場面もある各曲は興味深いものばかりで、全体の構成も非常に整っており、豊かな音楽性を快適に楽しめる一枚と言えます。SADISTの傑作群と並べても見劣りしない充実作で、機会があればぜひ聴いてみてほしいアルバムです。

このソロアルバムを挟んで5年ぶりに発表された7th『Hyaena』('15年)は、25年にわたるSADISTの活動が最高の形で結実した大傑作です。2〜3年の時間をかけて丁寧にアレンジされたという各曲はその全てが超強力なフレーズに満ちていて、複合拍子を連発する複雑なリズム構成
(例えば4曲目「The Devil Riding The Evil Steed」における〈18+11拍子→8拍子→5拍子→6拍子→4拍子→7+8拍子→…〉など)
も、慣れて俯瞰できるようになると「これがベストの形なんだ」とわかります。全ての曲が独自のロジックで鍛え上げられた“美しい畸形”で、繰り返し聴き込むほどに深い
納得感が得られるのです。アルバム全体の構成も“一線を越えて”完璧で、異なる風景を描く各曲が申し分なく優れたバランスで並べられ、一枚を通して美しい均整を描いていきます。前作で確立された独自の音遣い感覚もさらに成熟されたものになっていて、他では聴けない個性を快適に聴き込むことができます。もちろん演奏も見事の一言。特有の“ファンタジックで薄気味悪い”雰囲気を魅力的に描き出してくれています。
このアルバムは正直言って過去作とは“ものが違う”大傑作で、いわゆるプログレデスの歴史においても屈指の出来栄えを誇る作品なのではないかと思います。海外サイトなどでは悪い評価も見られますが、気にせず聴いてみてほしい素晴らしい作品です。

SADISTのメンバーはNadir Musicという会社を運営しており、TommyはNadirの支配人としてプロデューサー・エンジニアを、Trevorはライヴプロモーターと広報を担当しているようです。メンバー全員が「音楽だけで食えている」ようで(AndyとAlessioについては具体的な活動をつかめませんでしたが、スタジオミュージシャンとしても食いっぱぐれのない超絶技巧の持ち主ですし、そちらで活動しているのでしょう)、そういうところもバンド本体に良い影響を与えているのではないかと思われます。
興味深い活動をしているわりにあまり注目されてこなかったバンドですが、大傑作『Hyaena』を出して再び活発なライヴツアーも行うようですし(SADISTは元々イタリア国外の欧州を精力的にツアーし続けてきたバンドです)、これを機に正当な評価を得てほしいものです。

【ゴシック〜ドゥーム〜アヴァンギャルド寄り】 UNHOLY(フィンランド)

Second Ring of Power by Unholy (2011-11-08) 【並行輸入品】

Second Ring of Power by Unholy (2011-11-08) 【並行輸入品】


(1st『From The Shadows』フル音源)'93

(2nd『The Second Ring of Power』フル音源)'94

(3rd『Rapture』プレイリスト:1曲欠け・曲順ばらばら)'98

(4th『Gracefallen』プレイリスト:3曲欠け・曲順ばらばら)'99

'90年結成(前身は'88年結成)。フィンランドの地下シーンを代表する“知る人ぞ知る”名バンドで、一般的には「フューネラル・ドゥーム・メタルの雛形のひとつ」とされることが多いようです。しかし、音楽的にはそうしたジャンルから逸脱する要素が多く、個性的な曲想と強靭な演奏表現力は他に比すべきものがありません。活動中に残した4枚のアルバムはどれも類稀な傑作で、このような音楽スタイルが比較的広く受け入れられるようになった今でこそ聴かれるものばかりです。本稿で扱う全てのものの中でもトップクラスに優れたバンドなので、ここで知られたような方には強くお勧めしておきたいです。

UNHOLYはフィンランドで初めてコープスペイント(いわゆる白塗り骸骨メイク)をしたバンドのひとつで(BEHERITやIMPALED NAZARENEなどと並び)、初期はブラックメタルとして扱われることも多かったようです。曲のテンポ設定はドゥームメタル的に遅いのですが、ギターなどの音作りは“霧のように薄く漂う”軽いもので、伝統的なドゥームメタルの“重く量感のある”スタイルとは一線を画します。これはブラックメタルの多くが持つサウンド面の特徴でもあったため、コープスペイントを施し黒衣を身にまとう演劇的な出で立ちもあわせ、当時のファンジンはUNHOLYを「ブラック・ドゥーム」と形容することが多かったようです。
(前身のHOLY HELL名義で出した1stデモのタイトル『Procession of Black Doom』も、そういった形容をされる一因になっていると思われます。)

UNHOLYのこうした“肉体の重みを感じさせない”音作りは、同郷のTHERGOTHON('90年結成)やSKEPTICISM('91年結成)、そしてオーストラリアのdiSEMBOWELMENT('89年結成)といったバンド達も同時多発的に用いだしたものです。こういう音作り自体は地下シーンの低予算録音にありがちなものだったのですが、ドゥームメタル的な極端に遅いテンポで用いることにより得られる音楽的効果は新鮮で、それを肯定的に受け入れ活用する後続を生んでいきます。そうしたバンドの多くはブルース的な音楽要素を濃く備えておらず、クラシックや古楽寄りの“引っ掛かりの薄い”音進行を特徴としており、それを引き継ぐ後続の音遣い感覚も自然にそういうものになっていくのでした。また、こうしたバンドの音遣い感覚や“肉体の重みを感じさせない”音作りには荘厳で“葬送的な”雰囲気が似合うため、歌詞も含め、哲学的で厭世的な世界観がどんどん強調されていくことになります。このようにして生まれたのがいわゆる「フューネラル・ドゥーム」のバンド群で、ESOTERIC('92年結成)やMOURNFUL CONGREGATION('93年結成)のような強力なバンドの貢献もあって、BLACK SABBATHやPENTAGRAMからELECTRIC WIZARDやSLEEPに連なる(ブルース・ベースの)ドゥームメタルとは異なる音楽的傾向を形作っていくのでした。
ちなみに、こうした“葬送的な”雰囲気はいわゆる「デプレッシヴ・ブラックメタル」に通じるものでもあり、音作りにも共通点があるため、両ジャンルのファン層は重複する傾向があるようです。
そういう意味でも、UNHOLYの「ブラック・ドゥーム」的なスタイルは(BEHERITの名作『Drawing Down The Moon』('93年発表)などと並び)ある種の先駆けと言えるのではないかという気がします。

ただ、その「ブラック・ドゥーム」の先駆けとなったUNHOLYそのものは、活動当時に正当な評価を得ることができなかったようです。速いブラックメタルを求めて来た観客は遅いテンポに失望するばかりだったようですし、アルバムは常に賛否両論でした。2nd『The Second Ring of Power』('94年発表)などは、大手音楽雑誌『Rumba』で酷評されたばかりか、そのレビューを書いた担当者がSpinefarm Records(当時のフィンランドでメタルの流通を担っていた唯一の会社)の従業員で、UNHOLYの作品を取り扱わないように手を回したため、フィンランド国内では輸入盤でなければUNHOLYの作品が手に入らない、というような状況に陥ったことすらあるようです。そうした苦境もあってか、バンドは'94年に一度解散。'96年の復活までしばらく潜伏することになったのでした。

この解散期を挟んで、UNHOLYの活動は音楽的にも二分されます。前半('88〜'94年)は創設者Jarkko Toivonen(ギター)のワンマン期。そして後半('96〜'02年)が、Ismo Toivonen(ギター・キーボード)を中心とした、Jan Kuhanen(ドラムス)ともう一人の創設者Pasi Äijö(ベース・ボーカル)の3人による共同製作期です。

1st『From The Shadows』('93年発表)と2ndの曲は殆どがJarkkoの書いたリフからなるもので、それをバンドで繋ぎ合せて曲としての体裁に整える、というアレンジ方法をとっていたようです。
(1stはJarkkoとPasiの2人でアレンジ、2ndは4人全員でアレンジ。)
対して、3rd『Rapture』('98年発表)と4th『Gracefallen』('99年発表)の復活期にはJarkkoが参加しておらず、他の3人で長時間の即興演奏を通して「その場で曲を構築していく」やり方をとっていたとのことです。
従って、前半と後半ではメインの作曲者が異なるため、音遣いや曲調などの質もかなり異なることになります。

インタビューで表明されている影響源はそれぞれ

Jarkko:
初期CELTIC FROST、VOIVOD、POSSESSED、KREATOR、SLAYER、BLACK SABBATH(最初の4枚)、György Ligetiや“奇妙な”クラシックなど


ということなのですが、前半も後半も、こうした「影響源」から直接連想できるような要素は殆どありません。そうしたものを“ダシ”のレベルまで嚙み砕き、その上でイチから個性を構築したというような、奥深く練度の高い味わいが生まれているのです。UNHOLYの遺した4枚のアルバムではそうした味わいがそれぞれ異なるスタイルで示されていて、その上で「他では聴けない」全体としてのバンドカラーも強固に保持されています。全てが音楽史上に残るべき稀有の傑作で、こうした音楽性が広く受け入れられるようになってきた今でこそ、聴き込み再評価されなければならない金脈と言えるのです。

1st『From The Shadows』('93年発表)は、一言で言えば
CELTIC FROST『To Mega Therion』『Into Pandemonium』の間の路線を、個性派スラッシュメタルや現代音楽寄りクラシックの奇妙な音遣い感覚で強化し、徹底的に遅く演奏した」
感じの音楽性です。CELTIC FROSTの生硬く引っ掛かるリフ進行がクラシック寄りの学理で滑らかに解きほぐされており、スムースな進行感と異様な暗黒浮遊感が両立されています。こうした音遣い感覚は、いわゆる「フューネラル・ドゥーム」の“わりとストレートに泣き濡れる”“意外と色の数が少ない”音遣いとは一線を画すもので、後のそうしたものに通じる要素を含んではいますが、“溶けているもの”の豊かさは比べものにならないくらい上です。キーボードなどをあまり多用しないギターリフ主体のスタイル、そして“闇の奥で何かもぞもぞやっている”ようなアンダーグラウンドな音作りのせいもあって、一聴すると単調に思えてしまいがちな仕上がりでもあるのですが、よく聴き込むと非常に緻密なアレンジがなされており、シンプルに印象的なリフと巧みにひねられた構成に惹き込まれていきます。遅いテンポをじっくりこなしながらも“勢いよく弾け飛ぶ”アタック感を発揮する演奏も強力で、「ゆっくりしているのに獰猛」とでも言うべき只ならぬ迫力に満ちています。全ての点において著しく充実した傑作で、ギターリフ主体のスタイルが生む“モノトーン感”を好む方には最も歓迎されるだろう一枚です。「PARADISE LOSTとVOIVODの中間の音楽性をドゥームメタル化した」ような場面もあり、初期のカルトなゴシックメタルが好きな方にも強くお勧めできるアルバムです。

上記の1stは9曲中8曲がデモで発表済みの曲を再利用したもので、活動開始直後(IsmoとJan加入前)のスタイルを受け継ぐ所の多い作品になっていました。これに対し、翌年発表された2nd『The Second Ring of Power』('94年)は1曲を除く全曲が新たに作られたもので、メインリフは引き続きJarkkoの手によるものの、アレンジの段階で他メンバーのアイデアが大量にインプットされています。このアルバムではIsmoがエレクトリックギターを弾くのをやめ(全てJarkkoが担当)、キーボードの演奏に専念(一部で出てくるバイオリンやアコースティックギターも担当)。それにより、奇怪で個性的なシンフォニック・アレンジが一気に花開くことになりました。音楽要素は前作に繋がるものが多いのですが、テンポ設定は全体的に速めになっており(と言っても最速でいわゆるミドルテンポというくらい)、手際よく印象的なフレーズを連発する構成もあって、初めてUNHOLYの音楽を体験する人にとっては最も「わかりやすい」一枚になっているのではないかと思われます。ただ、他に類を見ないアイデアが炸裂しまくったシンフォニック・アレンジは、容易に納得させてくれない得体の知れない混沌に満ちていて、アルバム全体を通しての聴き味は滑らかとは言えません。優れた構成を通して聴き手に疑問を与え続けるようなアクの強さがあって、バンドの代表作として扱われるわりには例外的な要素を多く含んでいます。堂々とした振舞いで圧迫感を与えるような演奏感覚も強めに出ていて、この点では確かにVOIVODに通じるところもあるのではないかと思います。(音遣いなどは全く異なるのですが。)diSEMBOWELMENTや後のフューネラル・ドゥームに直接つながる「Lady Babylon」の次に気怠くパワフルな「Neverending Day」を持ってくるなど、緩急のつけ方も一筋縄でいかない所が多く、咀嚼にコツは要りますが、慣れると替えのきかない珍味になる一枚と言えます。いきなり聴くのは注意が要るアルバムですが、90年代のアンダーグラウンドシーンを代表すべき大傑作です。

このような前半2枚に対し、ワンマン体制から脱した後半の2枚は語られる機会がさらに少なく、アンダーグラウンドシーンにおいても殆ど黙殺されているように思われます。しかし、得体の知れない深みと著しく滑らかな進行感を両立する作編曲と、遅いテンポを完璧にタメながらほどよい荒々しさを生み出してしまうアンサンブルは、ともに超一流といえる驚異的なもので、少し傾向が異なるものの、前半の2枚にも勝るとも劣らない傑作揃いです。アンダーグラウンドなメタルの雑な勢いを好まない方にはむしろこちらの方がお勧めできるので、こうしたジャンルが苦手な方にもぜひ聴いて頂きたいと思います。

3rd『Rapture』('98年発表)はJarkko以外の3人による共作体制が確立された初のアルバムで、活動休止期間('94〜96年)に各自が書いた曲をバンドで仕上げたものも含まれているようです。長いリハーサルを重ね、ジャムセッションにおける即興を通してアイデアを蓄積、その上でアレンジを仕上げていくという作編曲方式は、一見すると「なんだか単純で捻りのないものができそう」なのですが、出来上がった曲はいずれもクラシック音楽交響曲にも匹敵するような驚異的に緻密な構築美を誇っています。その代表例が4曲目を飾る15分余の大曲「Wunderwerck」で、「長さを気にせず作ったらこうなった」という構成は無理なく堂に入ったペース感覚を持っており、「なんとなく聴いていたらいつの間にか終わっている」ような、非常に聴きやすい仕上がりになっています。このアルバムは全曲がそういう優れた“語り口”を持っていて、一枚を通しての流れまとまりも完璧です。UNHOLYの作品中最も完成度の高い一枚と言えますし、長尺のアルバムが多い「フューネラル・ドゥーム」「ドゥームメタル」のジャンルにおいてもトップクラスの傑作なのではないかと思います。前半の2枚と比べると非・現代音楽寄りのクラシカルな音進行が主で、それが(メタルというより)70年代のハードロックに通じるフレーズ感覚で薫り高く装飾された音遣いは、フィンランドの音楽によくある“歌謡曲的な引っ掛かり”溢れる臭みが薄く、そうしたものが苦手な方にも気軽に味わえるものになっています。(そしてそれでいて、フィンランド以外の音楽では味わえない薫りを豊かに備えています。)UNHOLY入門に最も相応しい傑作と言えるので、長い曲がいける方はぜひここから聴いてみてほしいと思います。

続く4th『Gracefallen』は、前作で確立した「ジャムセッションを通しての緻密な作編曲」を通して様々なスタイルを開拓した作品で、一般的な「フューネラル・ドゥーム」のフォームに比較的近かった前作とは異なる、挑戦的で興味深い捻りをもつアイデアがたくさん試されています。遅いテンポの中で複合拍子(7+6など)やポリリズミックなリズム構成(3拍×4のキーボードに対し4拍×3で一巡する遅いリフを重ねるなど)を試みるアレンジは、いわゆる「ドゥームメタル」の枠内に留まらないものなのですが、それが(前作以上に優れた)最高のドゥーム・グルーヴによって形にされることにより、他では全く聴けない生理的快感を生み出します。実際、このアルバムの音作りと演奏はこの手のジャンルの頂点をいくもので、どんな曲を演奏しようと深く酔わせてくれる極上の機能性を獲得しているのです。アルバム一枚としての流れは少しいびつに思えなくもないですが、どんな曲調を試してもUNHOLYとしての統一感あるイメージを損なわない作編曲はさすがで、慣れれば何も気にせず没入しきることができます。「1stと2ndの間の路線を高度な楽理と演奏力で再構築した」ような趣もあり、このバンドならではの“豊かな混沌”はここに至っても損なわれていません。前作と比べるとクセの強い一枚ですが、やはり聴き込む価値の高い傑作と言えます。OPETHファンにお勧めできるような曲もありますし、機会があればぜひ聴いてみてほしいです。

このアルバムを発表した後、UNHOLYは長く付き合ったAvantgrade Musicを離れ(商業性に欠けるわりに製作費用のかかる音楽性を持て余したレーベル側と意見が合わなくなった模様)、メジャーレーベルとの契約を進めようとしたのですが、交渉を始めたアメリカのレーベル(Relapseらしい)との話がいつまで経ってもまとまらず、自信作だった『Gracefallen』の売上が過去最低だったことや、ブッキングマネージャーなどの問題によりライヴの機会が得られなかったことなどもあって、次第に疲弊し、遂には活動を諦めてしまうことになります。こうしてUNHOLYは'02年に解散。メンバーは音楽から離れ、“普通の”生活をしていくことになったのでした。

ただ、何かのきっかけでUNHOLYの音楽に辿りつき魅了される人も増え続けていたようで、そういう人達からの再発・再結成の願いは解散後もバンド側に届いていたようです。そうした声に応える形で、'11年には初期のデモ全てがRusty Crowbar Recordsから再発。また、Avantgrade Musicから版権を買った名レーベルPeacevilleが全フルアルバムを再発し、UNHOLYの音楽がささやかながら再評価される機会が生まれます。(この再発盤は現在も容易に買えます。)それに応じてか、バンドはリハーサルを重ね、Jarkkoも含む4人の“オリジナル”編成での再結成を果たします。2012年の夏に単独公演を数回、フェスティバルへの出演なども成し遂げて、Jarkko脱退後の曲を含むセットリスト(15分に及ぶ「Wunderwerck」などもやった模様)で素晴らしいパフォーマンスを披露したUNHOLYは、新しい曲を発表することなどはせず、再び解散を選択。こうしてバンドの歴史に幕が下ろされることになったのでした。

以上のように、UNHOLYの音楽は、いわゆる「フューネラル・ドゥーム」に通じる要素を多分に持ちながらも、何か一つのジャンルに回収しきれない混沌とした豊かさを備えたもので、それを形にする驚異的な作編曲・演奏表現力もあわせ、他に類を見ない凄いものであり続けていました。活動していた当時は残念ながら正当な評価を得ることができませんでしたが、その作品は今でも容易に手に入れることができ、現在のシーンと比べてもなお先を行くものとして興味深く聴き込むことができます。カルトで“食いづらい”ところがあるのは否定できませんが、慣れて波長が合えばいつまでも聴き続けられる最高の珍味になり得ます。
機会があればぜひ聴いてみてほしい、超一流のバンドです。

なお、UNHOLY関連の資料として、この記事の参考資料集http://closedeyevisuals.hatenablog.com/entry/2015/11/02/201247にメンバーのインタビューを5本訳して載せています。どれも非常に興味深い内容なので、読み比べてみて頂けると幸いです。

【テクニカル・スラッシュメタル】 DBC(カナダ)

Universe

Universe


(1st『Dead Brain Cells』フル音源:3分ほど短い模様)'87

(2nd『Universe』フル音源)'89

'85年結成(FINAL CHAPTERから'86年にDEAD BRAIN CELLSに名義変更)。ハードコアパンク影響下のスラッシュメタルとしては最も優れたバンドの一つです。本活動中は十分な認知を得ることができませんでしたが、これまでに発表した2枚のフルアルバムはともに最高級の作品で、聴き込み酔いしれる価値の高い逸品です。本稿で扱う全てのものの中でも出色の傑作なので、ここで知った方にはぜひ聴いてみていただきたいです。

DBCの音楽性は「初期VOIVOD・OBLIVEON・初期DEATHなどの間にある音遣い感覚を、スピードメタル寄りクロスオーバー・スラッシュの超絶技巧で展開する」という感じのものです。
SLAYERやハードコアパンク、RUSHやVOIVODを聴いて育った達人たちが、そうしたもののエッセンスを噛み砕いて融合し、独自の深い滋味を持った“引っ掛かり”感覚を作り出す。そしてそれを、ダイナミックで緻密なアンサンブルにより勢いよく展開する。曲の構成はわりと入り組んでいて、安易に目立つ“わかりやすいメロディ”のようなものも少ないため、一聴しただけでは地味に思える部分も多いのですが、そこには常に個性的なセンスの裏付けがあり、他の音楽にはできないやり方で聴き手のツボを深く突き続けてくれます。何度か繰り返し聴いていくと、そうしたツボの付き方に対応する“回路”が聴き手のなかに新たに開発され、他にない酔い口をもたらしてくれるようになるのです。聴けば聴くほど手応えが増していく作品の成り立ちは極上で、これほどの耐聴性(聴き込みに耐える強度)を持つものはそうありません。
ネットなどでこのバンドについての評価を調べると、極少数の絶賛と少数の「上手いがピンとこない」反応がみられるのですが(2015年10月現在)、これは〈うまく波長が合って聴き込むことができた〉人と〈聴き流して済ましてしまった〉人との違いを表しているのだと思われます。初期スラッシュメタルやハードコアパンクに慣れ親しみその“ダシ”の感覚を体でつかんでいないと即座に反応するのが難しい系統の音遣いなのですが、経験を積みそうした味わいを噛み分けるられるようになれば、この上なく豊かで深い滋味として効いてくれるようになるのです。時間をかけて何度か聴いてみてほしいタイプの音楽です。

1stフルアルバム『Dead Brain Cells』('87年発表)は、初期VOIVODがハードコアパンクやスピードメタルのエッセンスとともに複雑に煮込まれたような作品で、その点において初期DEATHの作品を拡張深化させたような味を持っています。入り組んだ曲展開を構成するフレーズは捻りが効いたものばかりですが、過剰にこねくりまわして“考えオチ”になってしまうことは一切なく、単発でも映える“形のよさ”を備えています。演奏も大変優れており、間の活かし方が素晴らしいドラムスを土台に、凄まじい勢いと安定感を両立させた極上のアンサンブルを終始みせつけてくれます。ドラムス以外のメンバーにとっては初めてのプロフェッショナルなレコーディング作業だったようですが、Randy Burns(MEGADETHの2ndやDEATHの1stなどこのジャンルの重要作を数多く担当)のプロデュースにより、録音・音質も含めとても良い仕上がりになっています。

2nd『Universe』('89年発表)は、「世界初のメタル・コンセプトアルバム(PINK FLOYD『The Wall』のような)を作ろうと試みた」作品で
(こちらのインタビューhttp://allabouttherock.co.uk/interview-with-dbckill-of-rights-guitarist-eddie-shahini/参照:ちなみに、世界初のメタル・コンセプトアルバムと言われるQUEENSRYCHE『Operation:Mindcrime』はちょうど一年前の発表)、
「全体のテーマは科学的事実に基づいていて、最後の曲のみフィクションとし、未来の人類がどうなっているか描こうとした」という歌詞の面だけでなく、各曲〜アルバム全体が優れた構成のもと豊かな表現力を発揮しています。
VOIVOD(3rd・4thあたり)〜OBLIVEON(3rdあたり)ラインの暗黒浮遊感をスピードメタル〜ハードコアパンクの感覚で料理した、という感じの音遣いはもちろん、めまぐるしく変化しながらもとっちらかった印象が全くない作編曲が素晴らしい。バンドのリーダーEddie Shahiniは「各自が大量のパートを憶えられることがわかっていたため、アルバムは極めてテクニカルな仕上がりになった。1曲のなかでどれだけ多くのリフを演奏できているかということや、バンドがこういうジャズやクラシックの要素を持ったメタルスタイルに進化していったことを、人々に見せつけたかった」と言っていますが、テクニックの顕示欲が先立ってバランスが崩れてしまっている箇所は皆無で、どの曲も複雑になりすぎない美しい仕上がりになっています。そうした作編曲をかたちにする演奏は前作以上に見事で、どんなテンポでも極上のまとまりを示してくれています。しかもこのアルバムは音質が圧倒的に素晴らしい。80年代のハードロック・ヘヴィメタル全てをみても最高レベルのプロダクションがなされていて、もともと良い各パートの出音が驚異的な艶とクリアさをもって捉えられています。全ての面において完璧といえる作品。聴いたことのない方はぜひ手に取ってみることをお勧めします。

このような傑作を続けて発表し、それについて満足もしていたDBCですが、レビューなどで好ましい反応を得つつも、レコード会社のサポート不足などもあって売り上げは芳しくなかったようで、アメリカ合衆国へのプロモーションは不十分、ヨーロッパツアーは遂に実現しないという状況に苦しんでいたようです。
'90年にはCombat Recordsのためにデモを3曲録音し、それに納得しなかった会社の指示でさらに3曲を録音。その同時期に、当時人気が出てきたフォーマットであるミュージックビデオを作るために、契約した額以上の資金をレコード会社に要求したのですが、北アメリカの経済状況が良くなくなっていたこともあり、会社は契約を解除します。その後いくつかのレコード会社と話はしたものの、どれも実を結ばず、結局'91年に解散することになるのでした。

この時に録音された6曲のデモ音源は'02年に『Unreleased』として発表されています。
('94年に亡くなったオリジナル・ギタリストGerry Ouellete(持病の血友病のために輸血した血液からHIVに感染、AIDSを発症して逝去)の追悼盤という扱い。
版元のGaly Recordsはこのアルバムを出すために作られた会社で、
その後はMARTYRなどカナダ
アンダーグラウンドメタルの実力者を多く取り扱っています。)
バンド自身は『Universe』の内容に満足していたものの、それに対する評価を鑑みた上で「もっとわかりやすく印象的なものを作った方がいいのではないか」と考えたようで、2ndで培った複雑な音遣い感覚(OBLIVEONや初期GORGUTSなどに通じる薫りもある)を引き継ぎつつリズム構成などは幾分ストレートになっています。音作りはさすがにデモという感じで前2作と比べると見劣りしますが、曲や演奏はやはり見事で、Eddie自身も「いくつかの曲はバンド史上最も優れたものだと思う。自分はこの方向性が好きだった」と言っています。聴く価値のある作品です。

'91年の解散後、バンドは長く沈黙していましたが、'03年の大晦日にDaniel Mongrain(MARTYR・VOIVOD)を迎えた4人編成で単発のライヴをしたり、'05年からはマイペースなライヴ活動を続けており、新たな録音作品を発表してはいないものの、再結成をして順調に存続しているようです。2ndの一曲目「The Genesis Explosion」は携帯電話(“cell” phone)のCMに使われたりもしたようで(オリジナルのドラムスJeffのツテで、この曲を好きな広告代理店の担当者が話をもってきて決まったとのこと)、その携帯電話の名前を冠したショウもやるなど、意外なかたちでプロモーションする機会も得られている模様。仕事の傍ら行う活動としては、本活動時よりもむしろ恵まれているのかもしれません。この調子で新しい音源を製作してくれることを期待したいです。

なお、傑作である2枚のフルアルバムは、日本はおろか海外のamazonなどでも廃盤状態にあり、そこから買うことは難しいのですが、Eddie Shahiniが運営するバンド自身のホームページから容易に買うことができます。
http://www.dbcuniverse.com/merchandise/merchandise.html:それぞれ送料込みで20ドル、封筒にはEddie自身のサインが付きます)
また、そこまでしなくてもiTunesApple Musicで聴けるので、そこで何度か試し聴きしてみるといいでしょう。どちらも素晴らしい傑作です。