プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【ブラックメタル出身】 LUGUBRUM(ベルギー)

De Ware Hond

De Ware Hond


(1st『Winterstones』から1曲目「Embracing The Moolight Snowclouds」)'95

(7th『Heilige Dwazen』フル音源プレイリスト)'05

(8th『de ware hond』から1曲目「Opwaartse Hond」)'07

(10th『Face Lion Face Oignon』フル音源プレイリスト)'11

'92年結成。我が道を行くバンドの多いブラックメタルシーンにおいてもトップクラスの個性派で、2015年の現在までに11枚のフルアルバムを発表しています。一般的な知名度は殆どゼロですが、代替不可能な珍味をもつ作品群は熱心なファンを生み、カルトな評価を得つつ気長に活動することができています。多くのブラックメタルと比べ大分渋くドロドロした音楽性で、広く受け入れられるのは難しいかもしれないものではあるのですが、卓越した演奏表現力と飄々としたユーモア感覚は強い“つかみ”を持っており、その点においてはキャッチーで親しみやすい印象さえあります。波長や相性が合う人なら一発で引き込まれうる音楽であり、聴いてみる価値は高いと思います。

LUGUBRUMはオランダ人Midgaars(ギターやバンジョーを扱うマルチ奏者)とベルギー人Barditus(ボーカル・初期作品ではドラムスも演奏)の2人により結成されたバンドで、初期はノルウェーのシーンに通じるプリミティブ寄りブラックメタルをやっていました。しかし、作品を発表するほどに独特な要素が増えていき、2000年代に入る頃には、70年代のジャーマン・ロックやTHE GRATEFUL DEADのような長尺ジャムセッション・ロック、70年代頭頃のMiles Davis(いわゆる電化マイルス)などのような、アンビエントで混沌とした演奏感覚が形成されていきます。バンド自身はこうした音楽スタイルの影響源を明かそうとせず(「共感を持つものの多くは70年代の音楽」と言っている)、「音楽的には他の何にも似ていないと思うし、そしてそれは鼻にかけることでもない。様々なスピードでブルースを演奏しているだけ」と述べています。実際、LUGUBRUMの音楽は(アメリカ寄りブルースの“鈍くドロリとした喉ごし”を除けば)他の何かと容易に比較できないものですし、形容表現としてよく用いられる「アウトサイダー・アート」という言葉が(「狂ってるさまを装う」浅ましさを漂わせない、気取りなくねじれている自然体の佇まいもあわせ)よく合っているものなのです。

LUGUBRUMの音楽における最大のテーマは飲酒で、アルコールへの思い入れには並々ならぬものがあるようです。
(オフィシャルサイトhttp://lugubrum.com/index.htmlに掲載されている2007年のインタビューでは、「ベルギー・ビールは素晴らしく、普通の銘柄で満足できる」「観光客みたいにわざわざ特別なものを飲む必要はない」というふうに、かなりの尺をとって酒の話をしています。)
LUGUBRUMの音楽を聴くと、こうしたアルコールによる酩酊感覚・二日酔いの“アタマが重い”気分などが確かに表現されていて、それが(一般的なブラックメタルと比べると“濃いめ”の引っ掛かりをもつ)ブルース的な濁りの感覚と絶妙に組み合わされていることがわかります。それは作編曲だけでなく演奏によっても生み出されているもので、ほろ酔いで楽しそうにしているような親しみやすい様子と、突然暴れ出して自滅しそうになるような手に負えない様子とが、滑らかに繋ぎ合わされて表現されているのです。

このような独特の音楽表現を、バンド自身は“Brown Metal”(褐色のメタル)と呼んでいるようです。この“Brown”は“brown note”(「可聴域外の超低周波音で、人間の腸を共鳴させて行動不能に陥らせる」とされる、実在が証明されていない音)を意識したものでもあるようなのですが、実際のところはよくわかりません。ブラックメタルを強く意識しつつ、そこから距離をおき自分達を差別化しようとする、という考えの現れなのかもしれません。
(先のインタビューでは、
ブラックメタルは無限の可能性を持つ最も興味深い音楽ジャンルの一つだと思う。他のジャンルでは、自分の好きな音楽全ての影響を組み込むことはできなかった。自分達は、同じ方向性を突き進み(横道に逸れず)、その上で周囲にあるものを詳細に吟味し取り入れ続けている。その結果、作品毎に違った仕上がりになる。常にブラックメタルに関連付けられることをやってはいるが、その手法は我々独自のものだ」
と答えています。)

LUGUBRUMの作品をなにか一つ聴いてみるのなら、8th『de ware hond』('07年発表)か9th『Albino de Congo』('08年発表)、10th『Face Lion Face Oignon』('11年発表)のうちどれかを選ぶのがいいのではないかと思います。先に述べたような豊かな音楽性が洗練された構成力のもと発揮されるようになった時期(7th『Heilige Dwazen』('05年発表)以降)の作品で、複雑に熟成された滋味をとても快適に体験することができます。

8th『de ware hond』は、70年代ジャーマン・ロックやTHIRD EAR BANDのような密教アンビエント感覚を土着的なブルースロックに寄せたようなスタイルで、幾つかのテーマフレーズを用意した上での(ほぼ)一発録りで製作されています。録音場所は2箇所で、それぞれの音源から前半・後半ができています(ともに約14分+約8分の2曲構成)。このバンドの圧倒的な演奏表現力&対応力・展開力が申し分なく発揮されており、アルバム一枚を通してのまとまりも完璧。ブラックメタル・シーンから生まれた作品として出色であるだけでなく、いわゆるジャム・バンド一般が好きな方にもおすすめできる優れものです。
9th『Albino de Congo』ではMiles Davis『in a silent way』的なトロピカルな響きが加わり、そして10th『Face Lion Face Oignon』は9thのブルース成分を少しだけ濃くしたような(8thよりは薄い)仕上がりになっていて、こちらもとても味わい深い内容になっています。聴きやすさではこの2枚の方が上だと思われるので、入門編としてはこちらの方がいいのかもしれません。

こうした最近の作品と比べると、初期作品はあまりわかりやすく“変”な仕掛けが前面に出ていないぶん取っつき辛く思えるかもしれませんが、味わい深さでは決して最近のものに劣っていません。特に1st『Winterstones』('95年発表)は素晴らしい内容です。スタイルとしてはわりとオーソドックスなプリミティブ・ブラックメタルなのですが、DØDHEIMSGARDの1stやULVERの1stに通じる(初期ノルウェー特有の)薫り高い空気感が、それほど絶望に泣き濡れない独特のバランス感覚のもと、見事に個性的に仕上げられているのです。入手はかなり困難だと思われますが、ブラックメタル一般やこのバンドのマニアには是非聴いて頂きたい傑作です。
知名度が高くなれば名盤扱いされうる一枚だと思います。)

スタジオ録音の作品ではありませんが、ライヴアルバム『live in Amsterdam』('06年発表)も大変優れた作品です。SUNN O)))の前座として出演した2005年6月28日のアムステルダム(オランダ:ベルギーの隣国)公演が収録されており(約46分)、初期〜中期のアルバムからまんべんなく選んだ代表曲が、2004年に固まったラインナップの卓越した演奏表現力により大きく強化されています。正直言って全曲このアルバムのバージョンの方が良い仕上がりですし、一枚モノとしての構成も非常に良く、バンドの代表作とみてもいい傑作だと思います。結成からの20年間で20回程しかライヴをしてこなかったというこのバンドの実力を体験できる貴重な作品でもありますし、機会があれば聴いてみてほしい一枚です。

個人的に、このバンドの作品は2nd『Gedachte & geheugen』('97年発表)を除き(スプリットも含め)ほぼ全て聴いていますが、どの音源も、他では聴けない味わい深い個性に満ちた逸品ばかりだと思います。飄々とした粘りをもって細かいニュアンスを“バンド全体で”表現し分ける演奏力などは達人の域ですし、メタル的でない“たわみ”がある質感は、いわゆるジャム・バンドやハードロック〜プログレッシヴロックのファンにもアピールするのではないかと思います。今年(2015年)は(LP限定とはいえ)新譜を発表しましたし、この機会に少しでも注目されてほしいものです。