プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【ゴシック〜ドゥーム〜アヴァンギャルド寄り】 RAM-ZET(ノルウェー)

Intra

Intra


(3rd『Intra』フル音源)'05

(4th『Neutralized』フル音源)'09

(5th『Freaks in Wonderland』フル音源)'12

'98年結成。ゴシックメタルのシーンで語られるバンドですが、メンバー当人としてはそちら方面に属している意識はあまりないようです。音楽性を一言でいえば「“MESHUGGAH+シンフォニック・ブラックメタル”を歌モノゴシックメタルに料理した感じ」。複雑な構造をすっきり聴かせてしまう作編曲能力は驚異的で、ボーカルをはじめとした演奏陣の技術&個性も一流です。広く注目されるべき素晴らしいバンドと言えます。

RAM-ZETは、MESHUGGAHの「4拍子系偶数小節(4or8or16)で一周する複雑なシンコペーション・リフ」スタイルを正しく受け継ぎ、しかも独自のやり方で発展させているという点において、ありそうでなかなかないバンドです。
MESHUGGAHの影響を強く受けたということで注目されがちなdjent(ジェント)のバンド達は、MESHUGGAHの『None』〜2nd『Destroy Erace Improve』あたり(上記のような「4拍子系の長いシンコペーション・リフ」が確立されていない時期)のスタイルを中途半端に受け継ぎ、細かく刻むリズム構成を音程変化の乏しい淡白なフレーズにしか仕上げられていないものが多いです。一方RAM-ZETは、MESHUGGAHが3rd『Chaosphere』以降で確立した上記のようなスタイルを正しく活用し、細かく刻むリズム構成に丁寧な音程変化を絡めることにより、複雑に切れ込むアクセント移動とメロディックなフレーズの“形の良さ”を両立することができています。しかも、その音遣い感覚はMESHUGGAHとは毛色の異なる“ゴシカルなブラックメタル〜インダストリアルメタル”風味のもので、MESHUGGAH(やその安直な影響下に留まるdjentら)とは一線を画す個性的な味わいを確立することができているのです。こうしたギター/ベースリフの部分をとってみても大変高度で興味深い音楽性を持っていると言えます。

RAM-ZETが凄いのは、こうした複雑で印象的なバッキングに強力な歌メロをのせ、渋くシンフォニックなアレンジを施して非常に聴きやすい形に仕上げてしまえている所です。小節線できっちり切れずにズレていくシンコペーション・リフに音程変化をつけ、しかもその上によく動くリードメロディを乗せると、フレーズの絡みが非常に複雑になってコントロールするのが難しくなるのですが(多くのdjent系バンドがリフの音程をあまり変化させないようにしている理由はそのあたりにあると思われます)、RAM-ZETはその絡みを完璧にやってのけ、しかも渋くきらびやかなシンフォニック・アレンジさえ施してしまうのです。このような層の厚い仕掛けを(余計なことを全く考えずに楽しめる)親しみやすい「歌モノ」として呑み込ませてしまう作編曲能力は驚異的で、同じ路線でここまでの完成度に達しているバンドは他に存在しません。(していたらぜひ教えてください。お願いします。)こうした構造を楽しむだけでも聴く価値が高いバンドです。

そしてさらに凄いのが卓越した演奏表現力です。RAM-ZETは男女ツインボーカルバンドなのですが、そのボーカルを務める2人がともに優れた技術と個性を備えています。特に素晴らしいのがメインを張る女声Sfinxで、派手な超高音などの飛び道具は一切使わないのですが、細かく丁寧な歌い回しと繊細な力加減のコントロールが本当に見事で、柔らかく逞しい声質と(ジャズ系のシンガーに通じる)渋く深みのある表現力を両立しているのです。(個人的にはメタルシーンに属する全女性ボーカリストの中で最もうまい人だと思っています。)また、脇を固める男声Zet(バンドのリーダーでギターも兼任)も強力で、“爬虫類系”の粘りある高音ガナリ声はなかなか比較対象の見当たらない個性を確立しています。この2人が絶妙の役割配分で交互に顔になる“歌モノ”アレンジが本当に見事で、そこに注目しているだけでも快適に聴き通すことができてしまうのです。それらを支えるバッキングも勿論非常に強力で、先述のような複雑なアレンジを、ただテクニカルなだけでない個性的なグルーヴを生みながら滑らかに形にしてくれています。あらゆる面において聴き込みがいのある、本当に優れた音楽性を持ったバンドです。

RAM-ZETはこれまでに5枚のフルアルバムを発表しています。どれも優れた作品なのですが、充実度の点では3rdアルバム以降が傑出しており、まずはこの3枚のうちどれかを聴いてみるのがいいのではないかと思います。

3rd『Intra』('05年発表)は、前作において確立されつつあった先述のような音楽性を完成させた一枚で、複雑なシンコペーション・リフと渋くキャッチーな歌メロとが「ブラックメタルとパワーメタルの中間」という感じの比較的ストレートに激しい曲調の中で美しく表現されています。1曲目などはDECAPITATED『Organic Hallucinosis』に通じる感じもありますし、勢いのあるものが好きな方はまずこれを聴くのがいいでしょう。アルバム全体の構成も完璧で、仄暗く蠱惑的な雰囲気に心地よく浸ることができます。わかりやすさの点でも代表作と言える一枚です。

4th『Neutralized』('09年発表)は他の作品と比べるとバラエティ豊かな一枚で、少し“振り回される”感じもなくはない構成になっているのですが、ひとたび慣れてしまえば非常にうまくまとめ上げられていることがわかります。このバンドの作品は、滑稽味をまといながらも基本的には真面目に沈むきらいがあるのですが、このアルバムでは(そういう感じをベースにしながらも)外連味あるチャーミングな印象が前面に出ているためか、沈みすぎず明るくもなりすぎない絶妙なバランスが生まれており、聴き通しても“もたれる”ことがありません。そういうこともあわせ、最も“長く付き合える作品”になっていると言うこともできそうです。個人的には特に好きなアルバムです。

現時点(2015年8月)の最新作である5th『Freaks in Wonderland』('12年発表)は、その点最も“沈み込む”傾向の強い作品で、聴き続けるには注意が必要な一枚かもしれません。
(導入部などユーモラスな部分もありますが、後半に行くにつれて沈み込む流れが強まります。全体的に暗めな3rdよりも“落ちる”感じは強いです。)
ただ、作編曲や演奏は相変わらず見事で、特有の音楽性を引き継ぎながら新しい味も加える(どこかDevin Townsendなどにも通じる)興味深い仕上がりになっています。前2作に勝るとも劣らない傑作であり、聴く価値は高いです。

以上のように、RAM-ZETはあらゆる点において稀有の実力を誇る素晴らしいバンドなのですが、なぜか充分な評価を得ることができていません。
(一般的なメタルファンからは注目されづらいゴシックメタルのシーンで語られ、しかもそうしたシーンの中では突出して“エクストリームメタルらしい”激しいスタイルを持っている(ゴシックメタルのファンからすれば落ち着いていなさすぎて合わない)ということも関係あるのかもしれません。)
これは非常にもったいないことです。上に挙げたようなバンドやジャンルが好きな方はぜひ聴いてみて頂きたいものです。

参考として、メイン2人の「好きなバンド」を挙げておきます。

Zet(リーダー:ギター・男声)
SAMAEL、MESHUGGAH、KING DIAMOND、QUEENSRYCHESLIPKNOTDREAM THEATERVAN HALEN
メタル以外ではMASSIVE ATTACKPINK FLOYDPeter GabrielBjörkなど多数
(2001年のインタビュー
より)

Sfinx(女声リード)
MESHUGGAH、PANTERA、NINE INCH NAILSSOILWORKSLIPKNOTMADDER MORTEM、FINNTROLL、LED ZEPPELINBLACK SABBATHほか多数
より)