プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【プレ・テクニカル・スラッシュメタル】 POSSESSED(アメリカ)

Seven Churches

Seven Churches


(1st『Seven Churches』フル音源)'85

後のデスメタルに甚大な影響を及ぼした名バンド。この1stの最後にはそのものズバリの「Death Metal」という曲が収められていますし(当時は特に過激なスラッシュメタルデスメタルと呼んだらしく、そこら辺の事情が先にあってこの名がつけられたのかもしれません)、そうした話題性はもちろん、音楽的にも後続にそのまま受け継がれている部分がたくさんあります。

POSSESSEDは高校生が集まって作られたバンドで、「学校の授業があるからツアーに出られなかった」という逸話でも有名です。技術的に問題のあるメンバーも在籍し、ドラムスなどは素人に毛が生えた程度の力量しかありません(リズムキープすらあやしい)。しかし、ギター2人の技術水準は非常に高く、特にLarry Lalondeは、Joe Satrianiが「自分の弟子の中で最も注目している」と言ったほどの腕前を持っていました。
(後にBLIND ILLUSIONに参加し、そこでの同僚Les ClaypoolとともにPRIMUSを結成します。)
したがって、このバンドはギターが完璧に安定しており、それを土台として、不安定なドラムスがハシったりモタったりしながら絡みつくようになっています。(9曲目「Fallen Angel」の極めて危なっかしいシンバルカウントを聴けばその不安定さは瞭然です。)そうしたコンビネーションが功を奏し、滑らかな突進力と足元のもつれるスリリングさが両立されているのです。
そして、そこにのるJeff Becerraのボーカルがまた凄い。暴力的に歪んだ発声は元祖デス・ヴォイスと言えるもので、DEATHのChuck Shuldinerをはじめとした多くの名ボーカリストの雛形になっています。

こうした演奏面の魅力に加え、このバンドは作編曲の面でも多大な影響力を持っています。SLAYERにパンク風味を加えた上で正統派暗黒メタルに漬け込んだような音進行が軸になっているのですが、おそらくLarry(Joe Satrianiの弟子なのでそれなりに楽理に通じているはず)のインプットにより、所々に独特の捻りが加わっていて、それ以前の同系統のメタルにはない奇妙なフレーズが随所に仕込まれているのです。こうした(メタルとジャズ寄り楽理の中間と言える?)個性的な音遣いは、DEATHやAUTOPSY、そしてMORBID ANGELのような初期デスメタルの強豪に大きな影響を与えました。実際、MORBID ANGELの超名盤1st『Alters of Madness』などは、POSSESSEDの1stと聴き比べると思わず笑ってしまうくらい似た箇所があります。(その上で超高度に発展されており、差別化は完璧なのですが。)こうした歴史的な流れ(初期デスメタルシーンの成り立ち)を見るにあたっては、最も重要なバンドのひとつと言えます。

テクニカルスラッシュ〜プログレデスのラインを見る上では(BLIND ILLUSION人脈という点を除けば)無視しても構わないのですが、このアルバムにおける「安定しつつ崩壊するアンサンブルの妙味」は他では得られないもので、バンドの演奏表現というものに対する理解力や経験値を高める大きな助けになってくれるはずです。一聴の価値がある音楽です。