プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【テクニカル・スラッシュメタル(便宜上)】 DOOM(日本)

illegal soul (イリーガル・ソウル)

illegal soul (イリーガル・ソウル)


(1st『No More Pain』フル音源プレイリスト)'87

(EP『Killing Field』フル音源)'88

(2nd『Complicated Mind』1曲目)'88

(3rd『Incompetent…』1曲目)'89

(4th『Human Noise』フル音源プレイリスト)'91

(QUARTERGATE『Quartergate』フル音源)'92

(5th『Illegal Soul』フル音源プレイリスト)'92

日本のアンダーグラウンド・ヘヴィ・ロック・シーンを代表する実力者。70〜80年代の膨大な音楽要素を闇鍋状に掛け合わせた独特のスタイルと、著しく高度で個性的な演奏表現力により、同時代以降の日本のミュージシャンに大きな衝撃を与えました。所属したシーンや音楽的な特徴もあって“スラッシュメタル”の枠で語られることが多いですが、そうしたジャンルからの影響は実は少なく、「共通するルーツから新たなものを構築した結果たまたま似てしまった」ということのようです。スラッシュメタルの「技術と勢いの両方を大事にする気風」に倣いながら、既存の何かのコピーに終始せず、独自の個性的なものを生み出してしまう。そういった意味では【テクニカル・スラッシュメタル】の名バンドにも引けを取らない実力者。広く再評価されるべき存在です。

DOOMの音楽性は、非常に簡単に言うと
「VENOM+KING CRIMSON(第3期)+ニューウェーブ(ゴシック・ロック寄り)を超絶テクニカルなMOTORHEADが演奏している」
という感じです。

(メンバーの音楽的背景はこのページhttp://www.geocities.co.jp/Broadway/1331/doom/doom1.htmlでだいたい網羅されていますが、それに加え、
雑誌『ヘドバン』Vol.5(シンコー・ミュージック・2014年10月刊)で、リーダーの藤田タカシさんが
NWOBHMなどもチェックしてはいたが、SEX PISTOLSやDISCHARGEのようなパンクのアプローチ(音の壁)にやられた」
「“爆発”“プラス志向”を求める一方で、KILLING JOKEやBAUHAUSのようなニューウェーブの“自虐”“マイナス志向”にもやられた」
「当時の日本の、グランギニョルやグンジョーガクレヨン、灰野敬二さんや裸のラリーズリザードのモモヨさんなど、“秘めてるんだけど、爆発する”というようなもの、隠れた怖さがあるものに惹かれる。単純に威圧感があって怖いんじゃなくて、謎めいていて、何かを秘めていて、そこに食い込むと爆発する、みたいな」
という言及をされています。)

70年代のハードロック〜プログレッシヴロック、MC5やSTOOGESからMOTORHEADやハードコアに連なる荒々しいガレージロック〜パンク、JAPAN・POLICE・KILLING JOKE・BAUHAUSのような高度で個性的なニューウェーブなど。そうした要素を、「メタル版Jaco Pastorius」と呼ばれた諸田コウ氏(ベース:'99年に逝去)をはじめとする達人の演奏力により、圧倒的な“うつむき加減に爆発する勢い”をもって統合する。先述のような「VENOM+KING CRIMSONニューウェーブ」という印象はあくまで前面に出ている要素の形容で、それを肉付けする“背景”の部分では、膨大な滋養が複雑に溶け合い、他では聴けない独自の構造を形作っています。そして、その成り立ちは作品単位で様々に変化し、統一感あるイメージを保ちながらも決してワンパターンなものにはなりません。こうした奥深く得体の知れない味わいがハイパーなヘヴィ・ロックスタイルで提示される音楽性は理屈抜きに“ガツンと来る”もので、小難しいことを考えず“豊かな混沌”に浸らせてくれます。諸田氏が亡くなる前(“本活動”期)に発表された作品はいずれも圧倒的な傑作で、こうしたスタイルが比較的受け入れられるようになってきた今だからこそ聴かれるべきものばかりです。

最初のEP『Go Mad Yourself!』('86年発表)と『No More Pain』('87年発表)ではかなりストレートな疾走感が前面に出ていて、スラッシュメタルという枠で言えば最もそれに近い仕上がりになっていると思います。ボーカルの声質などもあってVENOM(〜初期BATHORY)的な印象もありますが、音進行(〈Ⅰ→Ⅰ#→Ⅰ〉なども多用)はDISCHARGEの方に近く、同じくそれをベースに複雑な進化をしたVOIVODに似た雰囲気が漂っています。(DOOMの方がニューウェーブ成分が多い感じ。)音作りはあまり良いとは言えませんが、音楽全体のアングラ感を絶妙に高めている面もありますし、慣れれば肯定的に受け入れられる要素なのではないかと思います。プリミティブ・テクニカル・スラッシュメタルの傑作とも言える2枚で、(権利関係の問題などにより長く廃盤であり続けているため)再発が待たれる作品です。
(こちらのインタビューhttp://www.metallization.jp/columns/198によれば、再発の可能性は低くないようです。)
(2015.10.15追記:12/16に2枚組(LPミックスとCDミックスの両方収録+EP&ソノシート音源)で再発されることが決定しました。)

続くEP『Killing Field』から4th『Human Noise』まではメジャーレーベルに所属していた時期の作品で、日和らない個性的な音楽性と比較的良好なプロダクションがうまく両立されています。'07年に全て再発されたこともあり、現在でもそこまで入手は難しくありません。どれか一つ聴いてみるのであれば、この中から選ぶのがよいのではないかと思います。

EP『Killing Field』('88年発表)では、これ以前の2枚における比較的直線的なリズム構成から一転し、よく“躓く”変拍子(7拍子など)が沢山導入されています。音遣いの面ではゴシック・ロック寄りニューウェーブの要素が増え、それがハードロック〜プログレッシヴロック的な整った音進行によりうまく解きほぐされ、欧州のアンダーグラウンドなメタル(例えばAT THE GATESのゴシカルな部分)にも通じる興味深い味わいが生まれています。メジャーだからといって妙な配慮をすることもない演奏の勢いも素晴らしく、5曲28分という比較的コンパクトな仕上がりではありますが、とても密度が濃く楽しめる内容になっています。
(個人的には、メジャー期の作品ではこれが一番気に入っています。)

この次に製作された2ndフルアルバム『Complicated Mind』('88年発表)は、一般的に代表作とされる傑作です。全編にわたって第3期KING CRIMSONの要素が導入されており(本稿の【ルーツ】で触れた2曲「Lament」「Fracture」の音進行が殆どそのまま骨格になっています)、個人的にはちょっと“やりすぎ”“素直すぎる”と感じてしまいますが、こうした音遣いのもつ神秘的な暗黒浮遊感がガレージ・パンク的な荒い勢いのもとで実に効果的に提示されており、こうした要素に抵抗のない人を強く惹きつける魅力を勝ち得ていると思います。リズム構成も、変拍子(7拍子や5拍子など)を多用しながらもとてもうまくまとめられたものになっており、聴き手を小難しく振り回す印象はありません。DOOMの作品では最も滑らかな構成がなされている一枚で、入門編としても聴きやすくて良いアルバムなのではないかと思います。VOIVODが好きな方などは特に必聴です。
(VOIVODと比べると、ロックンロール〜ブルース的な引っ掛かり感覚がだいぶ強めに残っています。)

2ndに引き続きアメリカで製作された3rd『Incompetent…』('89年発表)では、スタイルを絞りすぎたきらいのある前作とは対照的に、70年代のハードロックや80年代頭のニューウェーブなど、雑多な要素が様々なかたちで前面に出てきています。そのぶんアルバムとしては(ストレートで滑らかという意味での)締まった構成がなされていない感があるのですが、慣れてくればこれはこれでゆったり浸れる良いものになっています。音作り的には最も(海外の)テクニカル・スラッシュメタル一般のそれに近い仕上がりで、ガレージロック的なプロダクションが苦手な方はここから聴く方がしっくりくるかもしれません。DOOMの作品の中では最も地味な印象がある一枚ですが、非常に充実した作品です。

4th『Human Noise』('91年発表)は、前作までのドラマー廣川錠一氏が脱退し、代わりにPAZZ氏(GASTUNKなどで活躍)が加入して製作された作品で、PAZZ氏のジャズ〜ハードコアパンク的な“重く締まった”タッチもあって、硬く弾け飛ぶアタック感の強い一枚になっています。
(錠一氏の“一打一打の踏み込みが比較的浅く、軽くラフな感じがある”タッチに対し、PAZZ氏は“きっちり芯を打ち抜き、手数と重さを両立する”タッチになっています。技術的にはPAZZ氏の方が上だと思いますが、諸田さんのベースサウンドが映える(響きの隙間をうまく残す)という点では、錠一氏のスタイルの方が相性が良かったのではないかと思います。)
このアルバムでは、ストレートに走るパートとフリージャズ的に暴れまわる“捻り”あるパートが交互に繰り出される展開が多く、PAZZ氏のタイトで瞬発力あるドラムスがそれを非常に滑らかに融合させています。“こもっているのが気になる”と言われる音作りも、よく聴けば細部まで非常に緻密に作り込まれたもので、隠微な潤いに満ちた独特の雰囲気を効果的に盛り立てていると思います。再びKING CRIMSON的なフレーズ遣いが前面に出てきた音進行など好みが分かれる部分もありますが、アルバム全体としての完成度はDOOMの作品中随一の仕上がりだと思います。これを代表作とみる人も多い傑作です。

DOOMは『Human Noise』発表後に再びインディーズに戻ることになり、'92年に2枚の関連作を製作しています。ひとつはBAKI(GASTUNKなど)との合体バンドQUARTERGATE唯一のアルバム『Quartergate』(1月発表)。そしてもうひとつはDOOMの5thフルアルバム『Illegal Soul』(11月発表)です。この2枚は長く廃盤になっており、中古でも高めの価格で取引されていることもあってなかなか聴かれる機会がないのですが、『Human Noise』までの作品で少し固まりつつあったスタイルを見直して一気に“化けた”作品で、既存のものの影が見えづらい強力なオリジナリティが確立されています。

『Quartergate』では、これまでの作品の多くに濃厚に漂っていたKING CRIMSON色がほぼ完全に排除され、ニューウェーブ(東南アジア〜中近東寄り)と70年代ハードロックの要素を高度に統合した音遣いが展開されています。その上で、BAKI由来と思しき歌謡曲寄りフォークの要素がとてもうまく溶け合わされており、DEAD ENDやPINKといった同系統の名バンドをも上回る興味深い個性が生まれているのです。これ以前のDOOMの作品に(「過剰なKING CRIMSON色に抵抗を感じる」などの理由から)のめり込めなかった人はぜひ聴いてみてほしい傑作です。

そして、これとほぼ同時期に製作されたと思われる『Illegal Soul』は、KING CRIMSON的な音進行が再び全面的に用いられているのにも関わらず「KC色が強すぎて気になる」という感想を抱かせないものになっています。KC的な音遣いを完全に自分のものにした上で独自のやり方で活用できるようになっており、(諸田氏由来と思われるインド音楽的な要素などの)他の音楽要素が絶妙なバランスで組み合わされています。どこかLED ZEPPELIN『Presence』に通じる大陸的なおおらかさが加わっているのも好ましく(これまでの隠微な湿り気も損なわれていません)、前任者に寄せた感のある軽やかなドラム・サウンドのせいもあってか、怪しく神秘的な雰囲気と風通しの良い空間感覚が両立されています。5曲目「Those Who Race Toward Death」などはDISHARMONIC ORCHESTRAの3rd『Pleasuredome』('94年発表)に通じる味がありますし、そのようなテクニカルスラッシュ〜プログレデスの名バンドと並べても全く見劣りしない格を持った作品です。個人的にはDOOMの最高傑作だと思っています。再発は難しいようですが、なんとか実現してほしい一枚です。

この後DOOMは諸田コウ氏の休止〜脱退('94年)を経て凍結状態に入り、諸田氏が亡くなった'99年にインダストリアルメタル寄りの音楽性になった『Where Your Life Lies!?』(DOOMの従来の音遣い感覚がついに独自の個性として完成した大傑作で、CORONER『Grin』やAPOLLYON SUNが好きな方は必聴です)を発表したりするなどの動きはありましたが、長く沈黙状態にありました。しかし、'14年5月に亡くなったUNITEDの横山明裕氏への追悼イベントとして開かれたYOKO Fest The Final「ヨコちゃん逝ったよ〜全員集合!!」@川崎Club Citta('14年9月12日にオールナイト開催:40組が15分ずつ休みなく演奏し続ける)への出演を機に再結成し、翌年1月のイベントVIOLENT ATTITUDEのトリを飾るフルセット・ライヴで完全復活。諸田氏の後任として加入した古平氏も含め、素晴らしいパフォーマンスをみせてくれました。今後の活動に期待が高まります。
(ちなみに、このイベントの転換BGMではKING CRIMSONの『Red』『Lizard』『Starless And Bibleblack』がこの順でかかり、KCへの熱烈な思い入れが表明されていました。詳しくはこちらをご参照ください。

DOOMは、人脈(例えばリーダー藤田タカシ氏のJなどへのサポート)や音楽的バックグラウンドの広さなどもあって、80年代の日本のメタル・ハードコアやヴィジュアル系(外からは軽く見られがちですが素晴らしく豊かな世界です)のシーンに大きな影響を与えています。作品だけみても圧倒的に優れたものばかりですし、再結成が実現した今だからこそ再び評価されなければならないバンドです。ぜひ聴いてみることをおすすめします。