【初期デスメタル】 DEMILICH(フィンランド)
- アーティスト: Demilich
- 出版社/メーカー: Imports
- 発売日: 2014/02/25
- メディア: CD
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(『Nespithe』フル音源:39分あたりまで)'93
フィンランドの初期デスメタルを代表するカルトな強者。一般には殆ど知られていませんが、このジャンル全体を見ても屈指と言える素晴らしい作品を残しました。巡り合わせの悪さのために正当な評価を得られなかったバンドの典型であり、場合によってはシーンのオリジネイターにもなり得た不運の実力者でもあります。再評価が待たれる優れたバンドです。
DEMILICHが残した唯一のアルバム『Nespithe』('93年発表)は、「初期デスメタル」と「テクニカルデスメタル」の良いところを組み合わせたような大傑作です。既存の何かを真似せずに自分の手で“一から作り上げた”複雑な音楽性と、効率化に走らない“熱さ”に満ちた優れた演奏表現力が両立されていて、音楽的にも雰囲気表現の面でも他にない個性が生まれています。MORBID ANGELやPESTILENCEなどと比べても見劣りしない格があり、アルバムとしての構成も完璧です。
この作品の印象を一言で表すならば「VOIVOD+クトゥルー系正統派デスメタル(MORBID ANGELなど)+後期DEATH」という感じなのですが、音遣いの“ダシ”の部分は少し異なっていて、そこにVOIVOD〜KING CRIMSON的な味わいはありません。
音楽性のほぼ全てを先導するリーダーAntti Boman(ギター・ボーカル)は、全音源収録盤『20th Adversary of Emptiness』用のインタビューで
・NAPALM DEATHの『Scum』('87年発表・1st)に衝撃を受けてこのジャンルに入り、BOLT THROWER・PESTILENCE・CARCASS・NAPALM DEATHなどに惚れ込んでいた
・カバーは好まない:自分は常に自分独自のものを作ろうと努めてきた(コピーは二流のやること)
と語っており、ここに挙げられているようなバンドのエッセンスを参考にしつつ自分の手で“一から作り上げる”ことにより、こうした複雑な音楽性ができてしまったということのようです。
特殊な浮遊感を漂わせながら妙な引っ掛かりを生むフレーズがあまりコード付けされずに放り出されているスタイルなのですが、BOLT THROWERやPESTILENCEを聴いてその音遣い感覚を知ることにより、このようなフレーズの“基準点”“座標軸”のようなものを感覚的に把握することができ、奇妙な作編曲を全編にわたって納得できるようになります。他にあまりない“ダシ”からなる音楽性なため、はじめは掴みづらい部分も多いのですが、上のようにして勘所を知ってしまえば、淡白にドロドロした独特の味わいに酔いしれることができるようになるのです。非常に印象的なメロディ揃いのギターソロもノンエフェクトの超低音ボーカル(リバーブ以外は一切加工していない)も素晴らしく、リードパートの存在感は強力無比。ジャズ・ロック的な機動力と“間”の表現力を両立したドラムスなど、他のパートも手練揃いで、作編曲だけでなく演奏面においても、只ならぬ強力な雰囲気を楽しむことができます。全ての点において充実した「初期デスメタル」「テクニカルデスメタル」の大傑作です。
ただ、こうした作品をモノにしたのにもかかわらず、このバンドがリアルタイムで正当に評価されることはありませんでした。数多くのレコード会社にデモ音源を送りながらも、複雑な音楽性が災いしてか、多くの場合まともな反応を得ることはできず、契約に至ったNecropolis Recordsもアメリカの弱小レーベルで、上記フルアルバムのために与えられた制作費は乏しく(6日以内に全作業をこなさざるを得なかったようです)、プロモーションも殆どなし。本活動中はアメリカはおろかヨーロッパツアーさえ組むことができず、上記フルアルバムの発表1週間後に行われたスウェーデン・ストックホルムでのライヴ(友人関係にあったCRYPT OF KERBEROSに招かれ、DEMIGOD・ETERNAL DARKNESS・UTUMNO・NEZGAROTHらと一夜のみのイベントを行った)を除けば、'95年の活動停止まで一度もフィンランド国外でライヴをすることはできなかったようです。
こうした巡り合わせの悪さや、「サブジャンルの間ですら相互扶助のあったシーンが、ブラックメタルやその他のクソガキどもにより分断され、あらゆることに疲れてしまい、何のインスピレーションも得られなくなってしまった」というシーンへの失望などもあってか、メンバーは『Nespithe』発売直後(2週間後あたりとのこと)から徐々に活動意欲を低下させていったようです。そこですぐに解散したわけではなく、デスメタル以外の音楽を演奏したりしていたようですが、次第にその機会も減っていき、リハーサル場所を失う頃には全くやらないようになってしまったとのこと。その後は、ベーシストがポップ・ロックプロジェクトの方に向かったのを除けば、Anttiを含む他のメンバーは(音楽的には)何もせずに暮らしていくことになったのでした。
しかし、こうした状況は'98年頃から少しずつ変わっていくことになります。『Nespithe』を後追いで発見し、当時の常識(「テクニカルデスメタル」の現役バンドなど)との比較から新鮮な衝撃を受けた若い世代の声が増えてきたことにより、Anttiは一度失った意欲を少しずつ回復することになったのです。'02年にはテスト運転を始め、'05年〜'06年には数曲の録音とツアー(アメリカ含む)〜“1回目の最終ギグ”を、'10年には“最後の最終ギグ”を行い、その後も、かつてリハーサル場所に使っていた建物が取り壊されるということで'13年2月に行った“完全非公式のさよならリハーサル場所ギグ”など、断続的に活動を継続。そして、'14年には正式に再結成し、'15年3月にはフェスティバル出演を実現するなど、「確約はできないが(はっきりした約束はしたくない)、今後もやっていく可能性は十分ある」という考えのもと、マイペースな活動を続けているようです。
他の項で触れているBLIND ILLUSIONやCONFESSORなどもそうなのですが、アンダーグラウンドな音楽シーンにおいては、こうした“不運の実力者”が少なからず存在します。シーンの歴史全体を見渡しても屈指の大傑作を残したのに、狭いシーンの中ですら十分な認知を得られないために、誰にも知られず活動を停止していってしまう。そうしたバンドは一部のマニアの間で細々と語り継がれ、「カルトな名盤を残した実力者」としての名声を得ることはできるのですが、ニッチなジャンルの外から評価される機会を得ることは殆どありません。こういう“歴史の闇に埋もれた大傑作”はメタルに限らずどんな世界にも存在し、後の世代による発掘を待ち続けています。このような発掘はアンダーグラウンドシーンを掘り下げるにあたっての最大の楽しみと言えますが、そんな(熱意と労力の要る)作業は本来不要なものです。誰もが容易にこうした大傑作に触れられる環境こそが“あるべき”状況なのです。
DEMILICHの音源は、その全て(リマスタ前)が彼らのホームページにアップされており、無料でダウンロードすることができます。
ぜひ聴いてみることをおすすめします。
【プログレッシヴ・デスメタル】 GORGUTS(カナダ)
- アーティスト: Gorguts
- 出版社/メーカー: Century Media
- 発売日: 2015/04/07
- メディア: CD
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(3rd『Obscura』フル音源)'98
(5th『Colored Sands』フル音源)'13
カナダを代表する最強のデスメタルバンド。いわゆる「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」の代表格と言われることもありますが、音楽的な出自は別のところにあり、そうしたスタイルを参考にしたことはないようです。初期デスメタルのシーンに深く入れ込みつつ、現代音楽寄りクラシック音楽にも大きな影響を受け、そのふたつを独自のやり方で融合。それにより生まれた5枚のアルバムはシーン屈指の傑作ばかりで、個性的で著しく高度な音楽性により、同時代以降のバンドに大きな影響を与え続けています。
GORGUTSの音楽的バックグラウンドは、リーダーであるLuc Lemayのインタビュー記事(2013.7.13:http://steelforbrains.com/post/55691852677/gorguts)で非常にはっきり表明されています。「何歳の頃にどんなものから影響を受けたか」ということをとても具体的に語ってくれている興味深い内容なので、ファンの方はぜひ読まれることをおすすめします。
少々長くなりますが、GORGUTSの音楽(それ単体を聴いているだけでは成り立ちを読み解きづらい)を理解するための最高の資料と言えるものなので、重要だと思われる部分をかいつまんでまとめておきたいと思います。
・父親はカントリーミュージックを演奏しており、自分も2年生の時にアコースティックギターを与えられてギター教室に通っていたりした。しかし、それにはあまりのめり込めず、ピアノで音楽の構造を解析したりすることの方に惹きつけられていた。
・同世代の多くの子供達と同様「Star Wars」の大ファンで、同作のサウンドトラックや、John Williams(アメリカを代表する映画音楽家)の作品などを愛好していた。
・8年生(日本の高校2年生に相当)のとき観た「Amadeus」に衝撃を受け、Mozartに興味を持った。学校はキリスト教系で、先生を通してMozartのBoxセットや、Paul Abraham Dukasの「The Sorcerer's Apprentice」など、大量のレコードを借りた。
・メタルに関しては、IRON MAIDEN『Maiden:Live in Japan』収録の「Running Free」、VAN HALEN『1984』、旧い友人(Frank)達が演奏していたMETALLICA「Jump in The Fire」、それと同時期に発表された『Master of Puppets』、DIO『Last in Line』というような感じでのめり込んで行った。
・こうしたことにより、クラシック音楽とメタル(VOIVOD『War And Pain』('84)やIRON MAIDEN『Powerslave』('84)など)の双方を好む嗜好が出来上がっていった。
・8年生のある日(たしか11月)、別の市に住む大学生の友達に会いに行ったところ不在で、その時出会ったあるバンドの人々にリハーサルルームを見せてもらうことになった(バンドの本格的な機材を見たのはその時が初めて)。その時、POSSESSEDやCELTIC FROSTの話になり、DEATH『Scream Bloody Gore』('87年発表)のテープを「POSSESSEDの『Seven Churches』は好き?俺はこれ嫌いだから5ドルで譲ってやるよ」と言われ、即購入した。帰り道にウォークマンでそれを聴いたとき、人生が変わった。「自分もChuckのように歌ったりギターを弾いたりしたい!」と思った。それを機に自室で作曲を始めたのだが、その時点ではエレクトリックギターは持っていなかった。
・9年生の時にはエレクトリックギターを購入。文通やテープトレード(デモテープの郵送交換)も開始した。この頃SEPULTURA『Beneath The Remains』やOBITUARY『Slowly We Rot』を発見したし、ENTOMBEDのUffeなど、欧州アンダーグラウンドの構成員とも既に文通をしていた。
・「Slayer Magazine」(スウェーデン人Metalionが編集するこの世界を代表するファンジンで、北欧アンダーグラウンドシーンの紹介に大きく貢献)のフライヤーをもらったことをきっかけに、自分の録音していた2曲(「Calamitous Mortification」と「Haematological Allergy」)を「GORGUTSというバンドのテープを入手したから聴いてみてくれ」と書き添えてそこに送った。自分の音源のレビューが載った最初のメディアはそれで、これが「アンダーグラウンドに本当に足を踏み入れた瞬間」だったのだと思う。
・7年生の時には、Stephane Provencher(ドラムス:ともにGORGUTSを結成)やSteve Cloutier(ベース:3rdや4thで共演)などとも知り合いになっていた。「Slayer Magazine」の存在を教えてくれた友人Frankは彼らと3ピースのバンドを組んでいて、自分はそこに加入したかったが「3人組だから」ということで認められず、自分のバンドを組むことにした。StephanがFrankのバンドを脱退した後、'89年夏(高校卒業・17歳の時)に一緒にGORGUTSを結成することになる。
・こうした活動と並行して、クラシック音楽も学んでいた。6年生の時にピアノのレッスンを始め、2nd発表直前(21歳)にはバイオリンも学び始めた。その時、ShostakovichやProkofievのようなロシアの作曲家を知ることになる。これにはDEATHの1stと同じくらい衝撃を受けた。
・自分はヘヴィ・ミュージックにおいて“美学”を表現している。デスメタルというスタイルは、PendereckiやShostakovichをメタルの世界で演っているようなものだ。IRON MAIDENなども独自の美学のある非常に素晴らしいものなのだが(絵画におけるルネサンス期に例える)、その形では自分のやりたいことは表現できない。実際、『Colored Sands』はクラシック音楽的に書かれている。
・Pendereckiには完全5度(パワーコード)の少ない暗い雰囲気(マイナー寄りの音遣い)がある。デスメタルもそれに通じる音楽スタイルで、自分が惹かれる理由はそこにあると考える。デスメタルはクリシェにとらわれない実験精神と美学に満ちたジャンルであり、自分はそれを愛する。
以上を読むだけでGORGUTSの音楽的な成り立ちはあらかた掴めるのではないかと思います。
・DEATH、POSSESSED、CELTIC FROST、SEPULTURA、OBITUARYなど
・PendereckiやShostakovich
(20世紀を代表するクラシック音楽家で、無調の技法を通過しつつそれに留まらない個性的な世界を描きました)
という2つの方向性を、双方に共通する音遣い感覚をベースに融合させ、デスメタルの音作り&演奏スタイルで表現してしまう。GORGUTSの音楽性は非常に複雑で、その作品は簡単には読み解けないものばかりなのですが、上のようなキーワードを知ったうえで聴くと、その方向性はむしろ非常に明快で、ブレずに探求し続けられているものだということがわかります。5枚のスタジオアルバムは、この2つの方向性が次第に前者寄りから後者寄りになっていく過程を描いたものとして、それぞれとても興味深く聴くことができるものなのです。
このバンドの作品の中で最も有名なのは3rd『Obscura』('98年発表)でしょう。前作までの「初期DEATHを高度な楽理で肉付けした」ようなスタイルから一気に複雑化した作品で、難解なフレーズ・コード遣いと入り組んだリズム構成は、(少なくともメタルの世界では)このバンドでしか聴けないものになっています。しかし、そこに“無闇に複雑にしようとした”“こけおどししてるだけで中身がない”“考えオチな感じ”は全くなく、奇怪なアレンジの全編に表現上の必然性を伴っています。演奏も実に凄まじく、クラシック音楽の厳格なスタイルに影響を受けたと思しき音色&響きのコントロールなどは完璧という他ありません。速いパートでも遅いパートでも繊細な表現力を発揮する演奏が、緻密な音響処理によって絶妙な分離感をもちながら溶け合わされているのです。他に類を見ない音楽性のために暫くはとっつきづらく思えるかもしれませんが、あらゆる点において最高級の仕上がりになっている大傑作なので、ぜひ聴いてみることをおすすめします。
(長く廃盤でしたが、'15年4月にめでたく再発されました。)
実はこの3rd、作編曲は'93年(2ndの発表直後)に全て完了していたようで(デモ音源集『…And Then Comes Lividity / Demo Anthology』で聴くことができます)、レコード会社の判断で'98年まで発表が延期されることになっていた「時代の先を行きすぎていた」作品でもあります。これが'93年に無事発表されていたらシーンの流れはどのくらい変わっただろうか…と考えさせられてしまう話ではありますが、'98年の時点でもジャンルの常識を圧倒的に超越していたわけで、早く発表されたところで「カルト名盤」としての位置付けはあまり変わらなかったのかもしれないとも思えます。現在の“アヴァンギャルドな”「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」に大きな影響を及ぼしている作品ですし(GIGANやULCERATE、ブラックメタル寄りですがDEATHSPELL OMEGAなどもよく比較されます)、シーンの最先端にある音楽性と比べてもなお先を行っている強力な内容です。そういう観点からも興味深いのではないかと思います。
この後に発表された4th『From Wisdom to Hate』('01)ではカナダのメタルシーンを代表する(Lucに迫る)天才Daniel Mongrain(MARTYR、VOIVOD / ex.CRYPTOPSY)が参加しており、こちらも音楽学校でしっかり学んだ高度な楽理により、GORGUTSの強力な音楽性にうまく異なる味を加えています。3rdをコンパクトにしたような仕上がりもあって、とても興味深く聴ける内容。こちらもおすすめできる作品です。
この後GORGUTSは'05年に一度解散し、Lucは、ギターのSteeve Hurdleが主導するバンドNEGATIVAに参加することになります。しかし、Steeveの即興多めのスタイルに満足できず(先のインタビューで「自分は緻密に構築された作編曲が好き」と言っています)、また、Steeveが持ちかけた「そろそろGORGUTSも20周年。ファンのために新しいレコードを作ってそれを祝わないか?」という話に乗せられたこともあって、一気に再結成を実現させることになります。
(「自分も参加したい」と言っていたSteeveは加入させませんでしたが、良い友人関係を保っていたようです。Steeveはその後'12年に(手術後の合併症で)亡くなりました。)
そして'13年に発表されたのが5th『Colored Sands』です。これまでの高度な音楽性がより解きほぐされた形でまとめられた大傑作で、達人揃いのメンバー(DYSRHYTHMIAやORIGINなどにも所属)による演奏も、緻密でダイナミクス豊かな音響処理も、ともに最高の仕上がり。個人的にはこのバンドの最高傑作だと思います。
('14年11月の来日公演も信じられないくらい凄いパフォーマンスをしてくれました。その時のライヴレポートはこちら:https://twitter.com/meshupecialshi1/status/531071229864595456)
このアルバムの製作時、LucはOPETHやSteven Wilson関連作(PORCUPINE TREE『The Incident』)などにハマっていたようで、アルバムのデモ演奏を聴いた友人の指摘なども合わせて、“長いスパンで展開していく時間感覚”“静と動の双方を生かした緩急表現”に意識的に取り組んでいたようです。『Colored Sands』ではそうした試みが見事に活かされており(音遣いなどの要素に関しては先の2者にはっきりした影響は受けていない:そもそも楽理などの知識ではLucの方が遥かに上でしょう)、ゆったりした緊張感をもって約63分の長尺を聴かせきる構成が出来ています。難解で抽象的な雰囲気にとても快適に浸らせてしまえるという点でも出色の作品であり、本稿で扱う全ての作品の中でも、「入門編」として特におすすめできる一枚です。ぜひ聴いてみることをおすすめします。
以上のように、GORGUTSは、作編曲・演奏表現・音響処理(スタジオ・ライヴともに)の全てにおいて最高レベルと言える凄いバンドです。作品そのものの魅力においても、このシーンの最先端をいく“エクストリームな”バンドへの影響力という点においても、比類なき存在感を誇る実力者でもあります。多少難解なところはありますが、聴いてみる価値は高いと思います。
【初期デスメタル】 CRYPTOPSY(カナダ)
- アーティスト: Cryptopsy
- 出版社/メーカー: Hammerheart
- 発売日: 2012/10/19
- メディア: CD
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(2nd『None So Vile』フル音源)'96
(4th『And Then You'll Beg』フル音源)'00
いわゆる「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」を代表するバンド。そうした路線の先駆けとされるSUFFOCATIONなどを参考にしつつ、複雑な構成を超高速で演奏するスタイルを推し進め、多くのミュージシャンに大きな影響を与えました。この【初期デスメタル】の項で扱うものの中では現在の主流に最も近いバンドで、そうした意味でも、シーンの傾向が変化していくさまを体現していた存在と言えます。
「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」は、「初期デスメタル」がより“extreme”で“brutal”なインパクトを目指し、“速く”“重たい”体感的側面を強調していくことで生まれたスタイルです。速く細かいフレーズを完璧に滑らかに同期させ、極端に低音を厚くした音作りで手応えを与える。そうした方向性は、抽象的で得体の知れない雰囲気よりもわかりやすい刺激を求めるもので、精神に訴えかけることよりも(数値で計測できるような)肉体的なインパクトを生み出すことを重視しています。例えば、CARCASSのKen Owen(ドラムス)のような“なりふりかまわず暴れる”崩れた演奏よりも、その倍の音数を完璧に整ったフォームでこなすような、ストレートに滑らかな演奏を目指す、という感じです。こうした傾向は、メタル・シーンにおけるメカニカルな意味での技術水準を大きく引き上げることに貢献しました。(特にドラムス。)しかしその一方で、先のKen Owenのようなやり方でなければ表現できない“衝動”や“切迫感”はないがしろにされ、淡白に整った“スポーティな”演奏が注目される風潮を生むことにもなったのです。
このような傾向は、「初期デスメタル」の混沌とした豊かさ(そしてブラックメタルなどにも通じる“精神に訴えかける何か”)を愛するファンからは全く歓迎されないもので、“複雑にすることそれ自体が目的になっている”ような曲作り(雰囲気表現のための素材というよりも演奏の難度のみを意識した、“運指の練習”の域を出ないような、“考えオチ”感の強いフレーズなど)もあわせ、そうしたファンから避けられる大きな理由になっています。また、その一方で、わかりやすいインパクトに欠けたり、“こもった”“rawな”音質のためにとっつきづらくなっていたりする「初期デスメタル」も、はっきりした刺激を求める「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」のファンからは敬遠されることが多く、両者の間にはある種の溝が生まれています。
現在のデスメタルシーンは、このような「テクニカル」「ブルータル」寄りのバンドが大勢を占めつつ、そうしたスタイルの“味のなさ”を嫌って「初期」に回帰しようとする「初期デスメタルリバイバル」のバンドが増えてきている状況にあります。一時期は前者のスタイルが持て囃され、“インパクトはあるが淡白”な作品ばかりが目立っていましたが、「初期デスメタル」の混沌とした豊かさを意識しつつ独自の路線を切り拓くバンドや、両方のスタイルをあわせて個性的な傑作を生み出すバンドも増えてきており、作品そのものの“深み”を意識する方へ揺り戻しが起きているようです。個人的にはとても良い傾向だと思います。
CRYPTOPSYは、「初期デスメタル」と「テクニカルデスメタル」「ブルータルデスメタル」の間に位置する(前者から後者を生み出していった)バンドの代表格です。フィジカルなインパクトを重視する傾向はありますが、メンタルに訴えかける姿勢もある程度は残っています。
2nd『None So Vile』('96年発表)はそうした方向性が完璧なバランスをもって結実した大傑作で、複雑ながらすっきりまとめられた作編曲も、圧倒的な技術をもって凄まじい勢いを描き出す演奏表現力も、最高の仕上がりと言っていいのではないかと思います。シーンを代表する「ハイスピード&ハードヒット」の達人ドラマーFlo Mounierだけでなく全メンバーが素晴らしく、特にボーカルLord Wormの異常なパフォーマンスは、単体ではやや淡白なところもある楽曲に良い感じに猟奇的な雰囲気を加えています。(SLAYERの『Reign in Blood』と同じような意味で)このジャンルの歴史的名盤と言える作品なのではないかと思います。
4th『And Then You'll Beg』('00年発表)は、複雑化する音楽性が明晰な語り口によってうまくまとめられたアルバムで、無味乾燥になっていない「テクニカルデスメタル」の範疇では最高位に位置すべき作品です。「デスメタルに限らず様々な音楽を聴く」「デスメタルにつきまとう悪魔崇拝とか血みどろのイメージには辟易している」というメンバーの“純粋に勢いのあるものを求める”姿勢が、デスメタルのサウンドスタイルを援用しつつ見事に発揮された作品で、密度の濃さと爽快な聴き味とが見事に両立されています。3rdから加入したボーカルMlke DiSalvoのハードコア〜グラインドコア寄りの歌い回しも好ましく、様々な意味でクリーンになってきた音楽性によく合っていると思います。聴き込む価値のある作品です。
(3rd発表前の'98年4月に行われたJon Levasseur(ギター)のインタビューhttp://www.chroniclesofchaos.com/articles.aspx?id=1-162では、そういう姿勢が表明されているほか、音楽的な影響源が具体的に示されています。
'92年の結成当時はメンバー全員がデスメタルの大ファンで、NAPALM DEATH、SUFFOCATION、CANNIBAL CORPSE、MORBID ANGEL、ENTOMBED、DISMEMBER、特にMALEVOLENT CREATIONなどに影響を受けていたようです。
(Jonは、SUFFOCATION『Effigy of The Forgotten』(1st・'91)とMALEVOLENT CREATION『Retribution』(2nd・'92)を2大ベストアルバムに挙げ、INTERNAL BLEEDINGやDYING FETUS、AUTUMN LEAVESなどの「テクニカルデスメタル」バンドがSUFFOCATIONの1stに影響を受けていないと言っているのは「信じられない」と語っています。)
また、それ以後は様々な音楽を聴くようになり、DREAM THEATERやPRIMUS、DEAD CAN DANCEのようなバンドはメンバー全員が大好きだということです。
他のインタビューも、「4thまでの作品では一切クリック・トラック(ヘッドホンから聴くメトロノームのようなもの)を使っていない」「Floが特に影響を受けたドラマーはDennis ChambersやDave Weckelsだ」ということなど、興味深い情報が満載です。一読の価値があるものが多いです。)
この4thアルバム以降、CRYPTOPSYは少々迷走することになりますが(Flo以外の全メンバーが交代したり、音楽性に賛否両論が起きたり)、個性的で強力な演奏表現力や、独特の妄念を感じさせる豊かな音楽性という点では、相変わらず他になかなかない魅力を保ち続けています。
【ゴシック〜ドゥーム〜アヴァンギャルド寄り】 CONFESSOR(アメリカ)
- アーティスト: Confessor
- 出版社/メーカー: Earache
- 発売日: 2015/03/23
- メディア: CD
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(1st『Condemned』フル音源)'91
(2nd『Unraveled』フル音源プレイリスト)'05
アンダーグラウンドなメタルシーンが生み出した史上最強のカルト・バンド。本活動時に発表した唯一のフルアルバム『Condemned』('91)は文字通りの“他に類を見ぬ”傑作で、奇怪な音楽性と異常な演奏表現力により、聴くことのできた人々に大きな衝撃を与えました。常識を著しく逸脱した内容が災いしてか、今に至るまで一般的な評価を得ることは殆どできていないのですが、その実力は強力無比。本稿をここまで読んで頂けた方にはぜひ聴いてみてほしいバンドです。
CONFESSORの音楽性を簡潔に言い表すのは困難です。メンバーによれば、影響源はTROUBLE・BLACK SABBATH・NASTY SAVAGE・KING DIAMOND・DESTRUCTIONあたりらしいのですが、確かに頷ける部分もあるものの、そうしたバンドをそのまま成長させたらこうなるとはとても言えない仕上がりです。
CELTIC FROSTに英国ブルースロックの旨みをたっぷり含ませたようなリフを土台に、独創的すぎるフレーズを連発するドラムスが絡み、その上を漂う高音ボーカルが異常な不協和音を描き続ける。感覚的に例えるならば「MESHUGGAHをアメリカン・ゴシック・メタル化したもの」という感じもあり(リズム構成などは全然異なります)、その音遣いは得体の知れない滋味に満ちています。作編曲も演奏表現も最高レベルの個性を備えているため、理解するためにはこのバンドそのものをひたすら聴き込むしかないのですが、それにより得られる手応えに比肩するものはありません。“BLACK SABBATHに連なるヘヴィ・ロック・シーンが生み出した究極の珍味”とすら言える音楽なのです。
CONFESSORの音楽は、基本的にはギター&ベースのリフを土台に構成されているようです。
ベースのCary Rowellsがインタビュー('05年:http://metalchaos.co.uk/Confessor%20Interview.htm)で答えたところによると、作編曲の流れは
・誰か(主にギター2人のうちどちらか)が持ってきた1つか2つのリフに全員で取り組み、それを変化させたり他のリフを繋げたりして、全体の構造を作っていく
・それを繰り返し演奏して概形を作ったら、そこにドラムス・ベース・リードギターを加えていく
というふうになっているとのことです。
つまり、ギター&ベースのリフで音遣い・リズム構成の概形を作ってしまった上でそれを装飾していくのです。従って、全体のコード感や拍子の構成はギター&ベースのリフにほぼそのまま対応しますから、リフさえ聴いていれば全体の流れをつかむことができます。このバンドの音楽においてはどうしてもSteve Sheltonの「脳みそが4分割ぐらいされていて両手両足を好き勝手に動かせるんだろうな」(©Thrash or Die!)という複雑なドラムス・フレーズが目立ちますが、それはあくまでリフを装飾するもので、全体の構造においては“オマケ”に過ぎないわけです。例えば、1stのタイトルトラック「Condemned」で“5拍子リフとバスドラで同期しつつ3拍ループのシンバルを絡める”ような場面では、ドラムスだけ聴いているとわけがわからなくなりますが、(入り・切りのはっきりした)リフに注目しつづければ、展開を見失わずに聴き通すことができます。実のところ、リズム構造はかなり“割り切り”やすく、奇数拍子と4拍子系の交錯する構成にも“聴き手を振り回す”無理矢理さはありません。ひとたび慣れてしまえば、滑らかでゆったりした展開に落ち着いて聴き浸ることができてしまうのです。そして、このようにして聴き込んでいけば、奇怪な印象に満ちた楽曲も、よく整理された“かたちの良い”仕上がりになっていることがわかります。独自の方向性を突っ走りながらも、明晰な語り口を持つ洗練された仕上がりになっているのです。
こうした音楽性に加え、このバンドはメンバー全員が異次元レベルの名人です。
先に述べたドラムスのSteve Sheltonなどは「John Bonham(LED ZEPPELIN)〜Neil Peart(RUSH)ラインの究極進化系」といえる達人で、凄まじい重みをもって“芯”を打ち抜くタッチと完璧なリズム処理だけみても最高級のプレイヤーなのに、フレーズのセンスと引き出しの多さに関しても他の追随を許しません。(あらゆるジャンルをみてもトップクラスの打楽器奏者だと思います。)
また、ボーカルのScott Jeffreysも信じ難い実力者です。スピードメタル〜パワーメタル系統のいわゆる“ハイトーン”スタイルなのですが、低域から高域まで完璧に充実した力みのない発声も、異様な不協和音の中でブレずに目的の音程をヒットする音感も素晴らしく、一見淡白なようでいて巧みなフレージングもあって、音楽全体の雰囲気に完璧に溶け込んでいます。
この2人に比べると地味なギター・ベースも超絶的な腕前の持ち主で、リズムカッティングもリードで出てくるところも“丁寧な勢い”に溢れています。他にありそうでない個性的な音色も、音楽全体の個性に大きく貢献していると思われます。
そして、以上のようなメンバーが演奏技術を“ひけらかす”ことなく息を合わせるアンサンブルが何より素晴らしく、その豊かで幅のある表現力が、スタジオ録音においても見事に捉えられているのです。
1st『Condemned』('91年発表)は、'88・'89・'90年に制作された3つのデモ(計9曲)の中から8曲が採用され、それに新曲1曲を加えた形で構成されています。何年もかけてやり込んだ上でのテイクは(「スタジオ録音で発表した新曲をライヴで作り込んでいく」というのとは異なる)熟成された“完成品”であり、このバンドの実力が申し分なく発揮されたものと言えます。本当にあらゆる面で充実した大傑作なのです。
ただ、このような大傑作も、発表当時は正当な評価を得ることができませんでした。当時のアンダーグラウンドシーンはデスメタル全盛で、ボーカルも含めスピードと低音を極める音楽が好まれていました。そういうところにこのような“ハイトーン&スローテンポ”の複雑な音楽を発表しても、「なんだか異様なものを聴いた」という以上の反応を得ることは難しく、充分な人気を集めることはできなかったようです。(1stの売り上げは当時で35000枚ということなので、こういうジャンルのものとしてはそこまで悪くなかったのではないかとも思いますが。)
ライヴに関しても、North Carolina(輩出した有名バンドはCORROSION OF COMFORMITYのみ)の小さなシーンを本拠地にしていたこともあってか、うまく活動範囲を広げることができなかったようです。所属レーベルEaracheが主催した欧州ツアー「Gods of Grind」(CARCASS・CATHEDRAL・ENTOMBEDとのパッケージ・ツアー)は成功したものの、NOCTURNUSなどと回った北米ツアーでは十分なサポートを得られなかったという話で、ライヴを通してプロモーションをしていくという面においても、満足のいく活動ができなかったのでした。
結局CONFESSORは2ndアルバムの制作途中に空中分解('94年)。ひとたび活動を停止することになったのでした。
その後、ベースのCaryとドラムスのSteveはFLY MACHINEやLOINCLOTHを結成し、常に演奏を続けていたようです。ギターのBrian Shoafも一時期FLY MACHINEに参加していましたが、ほどなくして脱退、数年間演奏をしていなかったとのこと。また、ボーカルのScottはDRENCHというバンドに少しの間在籍したのち脱退、学業に専念していたという話です。
こうして凍結されていたCONFESSORですが、'02年になって話が動き始めます。1stから参加したギターのIvan Colonが心臓関係の合併症で逝去。7ヶ月の闘病を経てIvanの奥様に残った医療費の負債を援助するため、共通の友人がCaryに「CONFESSORを復活させてベネフィット・ショウをしないか」と進言し、Ivanの前任者だったGraham Fryも含めた全メンバーがこれを快諾。再結成ライヴが実現することになったのでした。(負債を返してお釣りがくるほどの収益が得られたようです。)このライヴで手応えを得たことによりメンバーの意欲に火がついたようで、CaryとSteveは(再結成ライヴの半年後に)FLY MACHINEを解散し、そこでの同僚Shawn McCoyを引き連れ、5人編成のCONFESSORを復活させたのでした。
こうして活動を再開させたCONFESSORは、'09年にボーカルのScottが仕事の関係で離脱したのち再び凍結状態に陥っているのですが('09年に解散→'11年にScottが復帰したものの仕事の関係で中国に住んでいるため簡単には集まれない)、'05年に2ndアルバム『Unraveled』を完成させ、発表しています。1stの音楽性をより成熟させ歌モノに寄せたような仕上がりはどこかALICE IN CHAINSを渋く抽象的にしたような趣があり(Scottは'05年のインタビューhttp://www.metal-rules.com/metalnews/2005/01/20/confessor-vocalist-scott-jeffreys/で「歌い方に影響を受けた」と言っています)、1stとはまた別の素晴らしい味わいを生んでいます。人によってはこちらの方が気に入るかもしれません。ぜひ聴いてみてほしい大傑作です。
この2ndの発売時に行われたインタビューでは、各メンバーがそれぞれ「過去を振り返るつもりはないから1stの再発はしない」と言っており、このアルバムを長く入手しづらいものにし続けていました。(こうしたこともあって、1stの“カルトな名盤”としての名声が高まり続けていました。)しかし、'15年になって突然再発が実現。現在では入手が可能な状況になっています。これを機に再び活動を本格化するのか否かはわからないのですが、この再発だけみても相当の快挙。再び廃盤にならないうちに手に入れることをおすすめします。持っていて損はない素晴らしい作品です。
CONFESSORの音楽は、そのあまりにも複雑かつ高度な音楽性もあって、衝撃を与える一方で殆どフォロワーを生んできませんでしたが(真似すること自体が困難なため)、メタルシーンの大物達にも確かに影響を与えています。2ndのプラスチックケースに貼られた宣材ラベルには「CONFESSORはLAMB OF GOD誕生のサウンドトラックだった」というChris Adler(LAMB OF GODのドラマー・リーダー)のコメントが載っていますし、その下にはPhilip H. Ancelmo(DOWN・PANTERA)とKarl Sanders(NILE)の「最高級品」「神がかってる」という賛辞が並んでいます。このような(業界屈指の音楽マニアでもある)実力者が口を揃えて絶賛するというだけでも、その音楽性の凄さを感じて頂けるのでないかと思います。
また、そんなことは置いてみても、ALICE IN CHAINSやPSYCHOTIC WALTZ、NEVERMOREやMAUDLIN OF THE WELLなどと並べて語られるべき“アメリカン・ゴシック”メタルの名バンドでもあります。
音楽性と演奏表現の両面において余人の追随を許さない驚異的な実力者。この素晴らしいバンドが正当に評価される日が来ることを心より願う次第です。
【テクニカル・スラッシュメタル】 CORONER(スイス)
- アーティスト: Coroner
- 出版社/メーカー: Noise
- 発売日: 1993/05/27
- メディア: CD
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(3rd『No More Color』フル音源)'89
(5th『Grin』フル音源)'93
スイスが誇る世界最高のトリオ。著しく優れた演奏表現力と高度な音楽性を両立し、数々の個性的な傑作を残しました。“後期”の作品は発表当時あまり評価されず、歴史に埋もれる形になっていますが、このジャンルから生まれたあらゆる作品の中でもトップクラスに位置する深みを持っています。今こそ再評価されなければならないバンドです。
CORONERの音楽性は他の何かに容易になぞらえることのできないものなのですが、その成り立ちをある程度具体的に分析することはできます。
〈2〉クラシック音楽の楽理を援用した滑らかなコードワーク
〈3〉LED ZEPPELINやBLACK SABBATH、THE BEATLES、THE DOORSなどを経由して獲得した(希釈・変容された)ブルース感覚
CORONERの音楽では、以上の要素が高度に複合され、独自のかたちで熟成されることにより、他に類を見ない深い味わいが生まれています。
たとえば、CELTIC FROSTから間接的に獲得したハードコアの“ルート進行”感。そして、70年代ハードロックや80年代ジャーマンロック(ニューウェーブ〜エレクトリック・ボディ・ミュージック)の音遣い感覚。こうしたものは単体では生硬い印象をもたらすことが多いのですが、それらがクラシック音楽的なフレーズ・コード感覚により肉付けされることで、複雑な味わいをうまく溶かし込んだ滑らかな音進行を生み出します。CORONERの残した5枚のフルアルバムでは、それぞれ異なるスタイルが志向されている一方で、こうした独自の音進行の開発に取り組んでいる点では一貫しているため、その質や傾向をつかんでしまえば、全ての作品に興味深く聴き浸ることができます。(作品を重ねるに従って〈3〉や〈4〉の要素が現れてくる。)圧倒的に素晴らしい演奏表現力もあいまって、理屈抜きの生理的快感と深い精神的手応えを得ることができるのです。
CORONERの作品は一聴の価値がある傑作ばかりですが、個人的には上記の2枚を特におすすめします。
3rd『No More Color』('89年発表)はバンドの最高傑作と言われることの多い一枚です。1st・2ndで多用されていたクラシカルなコードアレンジを控えめにし、装飾の少ない優れたリフを連発するスタイルに徹した作品で、CELTIC FROSTをクラシカルにしたような“豊かなモノトーン”感が素晴らしい。(その点DEATHの5thなどに通じる感じがあります。)異常に手数が多いのに“無駄撃ち”している印象がないリフは強力なものばかりで、それを余裕でこなしきるアンサンブルは驚異的です。CELTIC FROSTのTom G.を意識しながらも独自の形に仕上がっている“吐き捨て”ボーカルも格好良く、クールに燃え上がる音楽性に合っています。各曲の出来もアルバムの構成も完璧。「テクニカル・スラッシュメタル」の枠では最高位に位置するアルバムの一つでしょう。
そして、それ以上におすすめしたいのが、フルアルバムとしては現時点の最終作である5th『Grin』('93年発表)です。この作品では上記の〈1〉〜〈4〉が見事なバランスで配合され(前作4thの路線を推し進めた感じ)、他に類を見ない蠱惑的な音遣いが生まれています。加えて、演奏もサウンドプロダクションも最高レベルの仕上がり。Conny Plankばりの極上の音作りにより“小気味よく張り付く”タッチが強調されたドラムスなどは特に好ましく、スネアドラムやバスドラムの一打一打が堪らない手応えを感じさせてくれます。これはギターやベースにも言えることで、どのパートに注目しても理屈抜きの生理的快感を与えてくれるのです。RUSH的な複合拍子を巧みに活かしたリズム構成も効果的で、適度な集中状態を自然に引き出す“効き目”を生んでいます。アルバムとしての構成も完璧。全ての要素がこの上なく素晴らしい作品で、個人的には、似たような雰囲気を持つTOOLの諸作よりも更に優れていると思います。MESHUGGAHやCYNICの代表作と比べても一歩も引けを取らない大傑作であり、今こそ再評価されなければならない作品なのです。
このような傑作群を残したCORONERが解散した理由としては、所属レーベルのサポート不足に加え、変遷を続ける音楽性が一般の理解を越えた所に行ってしまったと自覚した、ということが大きいようです。
(ドラムスMarquis Markyのインタビュー(2011.12.21)http://m.thrashhead.com/coroner-marky.htmlに詳しいです。CORONERおよび自身の音楽活動(ハウスのユニットKnallKidsやAPOLLYON SUNほか)、スイスのメタルシーンの成り立ちなど、非常に読み応えのある内容です。全て訳し起こしてもいいくらいなのですが、長くなりすぎるのでそれは控えます。)
『Grin』の発表後、CORONERは実質的に解散していたようで、活動を続けさせようとするレーベルの動きに反発。契約問題をクリアするために制作したコンピレーションアルバム『Coroner』('95:新曲・旧曲のリミックスなど収録の優れた内容)の発表後、それに伴うツアーを消化し、'96年に公式に活動停止することになったのでした。
その後は、ギター(作曲面の柱)のTommyは「New Sound Studio」(スイス最大のスタジオの一つ)の経営とプロデュース業、ベース・ボーカルのRonは会社勤め、ドラムスのMarquis(歌詞やコンセプト面の柱)はアートコレクターの手伝いなど現代美術寄りのアシスタント業をして生活しており、KREATORに参加したTommyはともかく、RonとMarquisは楽器の演奏から完全に離れていたようです。ただ、その間もTommyは時折CORONERの再活動を(公式には否定しつつ)呼びかけていたようで、Marquisの「再び自分の手でドラムスをやってみようと思うまでには、4年ほどの時間を要した」という逡巡なども経て、'10年のHellfest(フランスの大規模メタル・フェスティバル)で遂にライヴでの復帰を表明。翌年のHellfest出演を皮切りに、当初は「ライヴを少しやるだけ、アルバムは(本業や家庭との兼ね合いで時間がとれないから)作れない」という合意のもと散発的なツアーを繰り返していました。しかし、「ライヴを繰り返しているうちにやる気になった」ことから活動を本格化させ、「再びアルバムを制作する」という意思を固めることに。そこで当初の考えを譲らなかったMarquisは残念ながら脱退してしまいましたが('14年の2月末)、後任のドラマーを加入させ、活動を続けているようです。順調にいけば'15年には新作が発表されるとのこと。どんな内容になるか予測できないぶん不安もありますが、とても期待できる話でもあります。
CORONERは本稿で扱うものの中で最も優れたバンドの一つです。心技体を完璧に並立する音楽性は全ての面で耳を悦ばせてくれます。過去作品が少し入手しづらいのが残念ですが、上に挙げた2枚(特に5th)だけでもなんとか聴いてみて頂きたいものです。
【ブラックメタル出身】 VIRUS(ノルウェー)
- アーティスト: Virus
- 出版社/メーカー: Season of Mist
- 発売日: 2008/11/11
- メディア: CD
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(2nd『The Black Flux』フル音源)'08
(EP『Oblivion Clock』フル音源)'12
ノルウェー・シーンを代表する奇才Czral(Carl-Michael Eide)のリーダー・バンド。VED BUENS ENDEの後継ユニットとされるバンドで、Czralはギターとボーカルを担当しています。アヴァンギャルドな音遣いをお洒落に聴かせてしまう歌モノスタイルなのですが、そこで表現される重い空気はVED BUENS ENDE以上に凶悪です。ブラックメタルのシーンから生み出された音楽の中では最も強力なものの一つでしょう。
VIRUSの音楽的コンセプトはかなりハッキリしています。Czral本人が「TALKING HEADS+VOIVODと言われることが多い」と述べているのに近いスタイルで、「KING CRIMSON〜VOIVODラインの音遣いを濃いめのブルース感覚に溶かしこみ、ジャズ的なエッセンスを振りかけた上で、ディスコやレゲエ方面のテクニカルなベースラインを加えた」ような音楽性が、曲によって様々に配合を変えながら表現されていきます。よく動くベースと余計なことをしないタイトなドラムス、そして複雑なコードをかき鳴らし続けるギターの対比は、「FRICTIONやSONIC YOUTHのようなノーウェーブ寄りバンドをブラックメタル化した」ような感じもあり、そちら方面の“オルタナ”ファンも楽しめるものなのではないかと思います。
(実際、Czral自身も「VIRUSは“avant-grade heavy rock”であり、ブラックメタルとは繋げて考えたくない。(そもそも何かの一部として扱われたくない。)メタルファンにもオルタナファンにもアピールし得る音楽性だと考えている」と発言しています。
:'08年のインタビューhttp://www.avantgarde-metal.com/content/stories2.php?id=88より。網羅的で興味深い内容です。)
こうした音楽性は、様々な映画(Andreï Tarkovsky、Federico Fellini、Peter Greenaway(『コックと泥棒、その妻と愛人』)、David Lynchなど)に影響を受けたものでもあるようです。上記のような瞬発力溢れる演奏スタイルが、重く停滞するアンビエントな空気感のもとで展開される。このようにして表現される雰囲気は、VED BUENS ENDEに含まれる無自覚の毒性を抽出し濃縮したものでもあり、社交的に洗練された殺人的ユーモア感覚を漂わせることもあって、さながら「精製された呪詛」というような趣すらあります。“第3期”KING CRIMSONの独特の暗黒浮遊感とノルウェーのブラックメタルを掛け合わせ、アメリカ寄りのブルース感覚でずぶ濡れにしてしまった、という感じの味わいは何ともタチの悪いもので、それが歌モノの聴きやすい形で提供されることにより、聴き手を手際よく中毒症状に陥れる“効き目”を獲得しているのです。
このような音楽性は、VED BUENS ENDEの要素をはっきり受け継いではいるものの、構成要素のバランスに関して言えば異なる部分も多いです。KING CRIMSONになぞらえるならば、VED BUENS ENDEが1st『In The Court of The Crimson King』、VIRUSが“第3期”と“第4期”の中間というところでしょうか。リーダー格のメンバーが複数集まることにより複雑な配合が生まれた1stと、一名のリーダーがはっきりしたコンセプトをもって先導していった“第3期”以降とでは、混沌とした豊かさが(無自覚に)活かされる度合いがどうしても異なります。VED BUENS ENDEとVIRUSの関係は概ねこんな感じに対比できるもので、そうした“成り立ち”の違いを踏まえて聴くと、とても興味深く読み込めるようになっているように思います。
VIRUSの作品から1枚だけ選ぶなら、2nd『The Black Flux』('08年発表)が良いと思われます。Czralの転落事故('05.5.26:ビルの4階から落ちたことで足の自由を失い、ドラマーとしてはリタイアすることになった)以後の初作品で、そうしたことにも関連する心境が反映された「世界の終わりのような音(アーマゲドンのようなものではなくもっと個人的なもの)」という仕上がりになっています。1st('03年発表)で提示された諸要素を洗練して上記のようなスタイルを完成させた作品でもあり、淡々とした暗い雰囲気のもとで勢いよく突き進む演奏は圧巻。再結成VED BUENS ENDE('06年:アルバム制作中に決裂)のために書かれた素材からなる曲が多いという点でも非常に興味深い作品です。
ただ、個人的な感覚で選ぶならば、3rd('11)の翌年に発表された『Oblivion Clock』('12)が最も好ましく思えます。同年制作のEP(新録4曲)と未発表だった3曲を合わせた7曲入りで、新曲であるタイトルトラックは再結成VED BUENS ENDEのセッションで部分的に録音されていた素材から作られているとのことです。ここに収められた新録4曲では、KING CRIMSON〜VOIVOD的な音遣いの使用が幾分控えられていて、ノルウェー・ブラックメタル寄りの“薄くこびりつく”エッセンスが(VIRUSの作品の中では例外的に)すっきりした形で活かされています。こちらの方が“他の何かを連想させる”雑味が少ないぶんCzral本来の持ち味が出ていると感じますし、先述のようなアンビエント感覚がより純度の高い形で示されているという点でも、現時点での到達点を表しているのではないかと思います。非常に優れた作品です。
VIRUSの音楽はどうしても(音楽性はもちろんそれ以上に雰囲気表現の面で)マニアックと言わざるを得ないものですし、広い認知を得られないのも無理もない面はあります。しかし、そうしたマニアックな要素をとても伝わりやすい形で示すことができているものでもあります。VED BUENS ENDEと併せ、ぜひ聴いてみてほしいバンドです。
【ルーツ】 KING CRIMSON(イギリス)
Starless And Bible Black by King Crimson
- アーティスト: King Crimson
- 出版社/メーカー: E.G. Records
- 発売日: 2000/10/17
- メディア: CD
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(『Starless And Bibleblack』から「Lament」)'74
(『Starless And Bibleblack』から「Fracture」)'74
いわゆる「プログレッシヴ・ロック」を代表する名バンド。'69年に発表された1stアルバム『In The Court of The Crimson King』はロック史全体を代表する大傑作です。英国流に希釈受容されたブルース感覚を下味に、雑多な要素(クラシック音楽、欧州フォーク・トラッド、ジャズからやや離れたフリー音楽など)を高度に統合。それまでのロックには稀だった(インプロの垂れ流しではなくしっかり構築された)長尺の構成と、曖昧ながら強い訴求力を持つモーダルな音遣い感覚により、多くの音楽家に絶大な影響を与えました。
このような「黒人音楽に留まらない豊かなバックグラウンドを」「しっかりした楽理の知識や演奏技術を用いて」「独自の形で構築する」姿勢は、同時代の様々なバンドとあわせて「プログレッシヴ・ロック」と呼ばれ、世界各地のシーンに受け継がれています。クラシック〜現代音楽やジャズはもちろん、各地の民俗音楽のような(イギリス・アメリカなどメインストリームでは用いられることが少なかった)“辺縁の”要素を巧みに用いるバンドを数多く輩出。無数の傑作が生み出される契機になったのです。特にドイツ・イタリア・フランス・日本のシーンは個性的な傑作の宝庫で、そのうち一つの地域に的を絞って作品を掘り続けるマニアも多数存在します。
こうした「プログレ」の動きは70年代中期に一度勢いを失うのですが、80年代頭の「ニューウェーブ」の動きとともに新たな境地を開拓したり、「RIO(Rock In Opposition)」('78年〜)やそれに連なるアヴァンギャルド・ポップス(いわゆる「レコメン(Recommended Records)」系)の流れを生むなど、その“先進的な”姿勢は様々な形で受け継がれています。
本稿で扱うバンドも、基本的には、こういう姿勢を表す意味での「プログレッシヴ」という表現が相応しいものばかりです。「ヘヴィ・メタル=ワンパターンで変化のない音楽」という偏見のために注目の機会を得られないけれども、「プログレ本流」とされるもの以上に優れている。本稿は、そうした優れたバンドを紹介し、広く評価されるきっかけを作りたい、という願いをもって書かれています。「プログレ本流」や「現代ジャズ」のシーンにおいてもこうしたバンドに影響されている音楽家は存在しますし(MESHUGGAHに惚れ込み共演まで求めたTigran Hamasyanなど)、双方のシーンをより深く理解するためにも必要な情報なのではないかと思います。
以上のようなことを踏まえた上でKING CRIMSONの話に戻ります。
KING CRIMSONというのは、「プログレ」の外からはかなり都合よく名前を出されるバンドで、「プログレっぽい」と判断された音楽(変拍子を多用する長尺の曲など)を評価する際に「KING CRIMSONやPINK FLOYDの影響を受けている」と安易に言われることがとても多いです。
しかし、KING CRIMSONの影響というのは非常にわかりやすく現れるもので、全期にわたって聴き込み消化している希少なバンド(OPETHや人間椅子など)を除けば、大きな影響を受けているか否かは「特定の音進行の有無」を見るだけで即座に判定できてしまいます。
その「特定の音進行」がはっきり現れているのが冒頭に挙げた2曲。'73年〜'74年の(一般的には最強のラインナップと言われる)“第3期”の傑作『Starless And Bibleblack』に収録された「Lament」と「Fracture」です。この2曲において確立された独特のフレーズ・ルート進行は、VOIVODやDOOM(日本)のような名バンドに非常に明確に受け継がれており、そこからさらに影響を受けたバンドを通して、アンダーグラウンド・シーンの広範囲に行き渡っています。テクニカルな初期デスメタルからいわゆるカオティック・ハードコアまで、上記のような音進行は様々に形を変えながら受け継がれ続けているため、KING CRIMSONそのものを聴いたことがなくてもその影響を受けているバンドも存在するほどです。本稿においてはこの流れにあるバンドをあまり扱っていませんが(この音進行は“主張”が強すぎるため、よほどうまく使わないと音楽全体の個性を損なってしまう)、「エクストリームな」地下音楽を聴き進めていけば頻繁に出会う要素なので、上の2曲だけでも聴いておくことは決して損にならないはずです。
(なお、「レコメン系」と言われる方面の「プログレ本流」のバンドにもKING CRIMSONから大きな影響を受けているものが存在します。X-LEGGED SALLYなどが好例です。)
この2曲以外に影響力の大きいものを挙げるなら、『Larks' Tongues in Aspic』('73年)収録の「Larks' Tongues in Aspic Part.2」や『Red』('74年)収録の全曲あたりでしょうか。どれも“第3期”の作品で、この3枚のアルバムは「プログレ」史上においても最高クラスの傑作と名高いものばかりです。Robert Frippの暴力的で儚いギターなど、メタルやハードコアに慣れた耳でも衝撃を受ける名演が満載ですし、激しい音楽が好きな方であれば抵抗なく聴き入ることができるのではないかと思います。
KING CRIMSONの作品は、80年代以降のものについては「プログレ」ファンからはあまり評価されない傾向があるのですが、『Discipline』('81年発表)に始まり今に至るスタイルも、DON CABALLEROなどに端を発する“Math Rock”方面のポストロックや、TOOL(KING CRIMSONをゲストに招いたツアーを敢行)のような強力なバンドなどに広く大きな影響を与えています。本稿の流れからは外れるのでここでは述べませんが、活動の全期を追う価値のある重要なバンドです。興味をお持ちの方はぜひ聴かれることをおすすめします。