プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【プレ・テクニカル・スラッシュメタル】 MERCYFUL FATE(デンマーク)

Don't Break the Oath

Don't Break the Oath


(2nd『Don't Break The Oath』フル音源)'84

ヨーロッパの暗黒ヘヴィ・メタルを代表する偉大なバンド。King Diamondの独特すぎるボーカルとメイクばかりが取り上げられがちですが、作編曲も演奏のセンスも抜群で、後のテクニカルなメタルバンドの多くに絶大な影響を及ぼしています。同郷出身のLars Ulrichが率いるMETALLICAは11分にわたるカバー・メドレーを作りましたし(『Garage Inc.』収録)、MEGADETHのDave Mustainも「リフ作りのセンスに大きな影響を受けた」と言っています。ATHEISTやCORONERのような最高レベルのテクニカル・スラッシュメタルバンドも影響源の筆頭に挙げていますし(再発盤のライナーノートなどで言及)、メタルシーンの外をみても、クラストコア〜欧州ハードコアの流れに決定的な影響を及ぼしたAMEBIXなどは、MERCYFUL FATEから大きな影響を受けたことを告白しています。以上のようなバンドを通しての間接的影響はアンダーグラウンド・ロック・シーン全域に行き渡るもので、その広さ深さは計り知れません。

音楽スタイルは、一言でいえば「IRON MAIDENのようなNWOBHMNew Wave of British Heavy Metal)が畸形的な進化を果たしたもの」という感じです。音進行の軸はNWOBHMですが、70年代のJUDAS PRIEST(『Sad Wings of Destiny』〜『Killing Machine』あたり)やロックンロールに通じる音遣いも頻出します。そうしたものが、欧州的なゴシック感覚によって禍々しく捻じ曲げられ、なんともカルトな滋味を生んでいるのです。
こうした作編曲だけみても個性的なのですが、それをかたちにする演奏がまた凄いです。Hank ShermannとMichael Dennerの強力なツインリードギターをはじめバッキングが巧者揃いな上に、そこに乗るKing Diamondのボーカルが凄まじい。中低音(ミドルヴォイス寄り地声)と超高音(ヘッドヴォイス寄り裏声)を頻繁に行き来する歌メロは無茶なものばかりで、いきなり1オクターブ上に飛ぶフレーズも当たり前のように連発されます。コーラス(多重録音)のつけ方も大変奇妙で(PROBOTというプロジェクトでKingにボーカル録りを依頼したDavid Grohl(FOO FIGHTERS)は、送られてきたものを聴いて「数十トラックの隅から隅までKingの声が入っていて圧倒された」と言っていました)、もともと奇怪な暗黒メタルをさらに異常なものにしています。

テクニカル・スラッシュメタルの分野で言えば、最も影響力の大きい要素は“字余り複合拍子”の部分でしょうか。例えば上記2ndの1曲目「A Dangerous Meeting」序盤の6+8(=14=7×2)拍子など。こうしたリズム構成は、同じく変拍子をうまく使ったRUSHの諸作などとあわせ、後続に大きな影響を与えました。METALLICAの“字余り複合拍子”(すぐ後の項を参照)なども、MERCYFUL FATEを意識したものなのではないかと思われます。

MERCYFUL FATEの1st・2ndと、King Diamondが後に結成したKING DIAMOND(ギタリストAndy LaRocqueはDEATHの5thにも客演した名人です)の初期作品は、そのどれもがヘヴィ・メタルの歴史を代表する名盤です。テクニカル・スラッシュメタル云々に興味がなくても楽しめる最高の珍味であり、強くおすすめできる逸品ばかりです。