プログレッシヴ・アンダーグラウンド・メタルのめくるめく世界

記事量が膨大になったので分割独立させました

【テクニカル・スラッシュメタル】 DBC(カナダ)

Universe

Universe


(1st『Dead Brain Cells』フル音源:3分ほど短い模様)'87

(2nd『Universe』フル音源)'89

'85年結成(FINAL CHAPTERから'86年にDEAD BRAIN CELLSに名義変更)。ハードコアパンク影響下のスラッシュメタルとしては最も優れたバンドの一つです。本活動中は十分な認知を得ることができませんでしたが、これまでに発表した2枚のフルアルバムはともに最高級の作品で、聴き込み酔いしれる価値の高い逸品です。本稿で扱う全てのものの中でも出色の傑作なので、ここで知った方にはぜひ聴いてみていただきたいです。

DBCの音楽性は「初期VOIVOD・OBLIVEON・初期DEATHなどの間にある音遣い感覚を、スピードメタル寄りクロスオーバー・スラッシュの超絶技巧で展開する」という感じのものです。
SLAYERやハードコアパンク、RUSHやVOIVODを聴いて育った達人たちが、そうしたもののエッセンスを噛み砕いて融合し、独自の深い滋味を持った“引っ掛かり”感覚を作り出す。そしてそれを、ダイナミックで緻密なアンサンブルにより勢いよく展開する。曲の構成はわりと入り組んでいて、安易に目立つ“わかりやすいメロディ”のようなものも少ないため、一聴しただけでは地味に思える部分も多いのですが、そこには常に個性的なセンスの裏付けがあり、他の音楽にはできないやり方で聴き手のツボを深く突き続けてくれます。何度か繰り返し聴いていくと、そうしたツボの付き方に対応する“回路”が聴き手のなかに新たに開発され、他にない酔い口をもたらしてくれるようになるのです。聴けば聴くほど手応えが増していく作品の成り立ちは極上で、これほどの耐聴性(聴き込みに耐える強度)を持つものはそうありません。
ネットなどでこのバンドについての評価を調べると、極少数の絶賛と少数の「上手いがピンとこない」反応がみられるのですが(2015年10月現在)、これは〈うまく波長が合って聴き込むことができた〉人と〈聴き流して済ましてしまった〉人との違いを表しているのだと思われます。初期スラッシュメタルやハードコアパンクに慣れ親しみその“ダシ”の感覚を体でつかんでいないと即座に反応するのが難しい系統の音遣いなのですが、経験を積みそうした味わいを噛み分けるられるようになれば、この上なく豊かで深い滋味として効いてくれるようになるのです。時間をかけて何度か聴いてみてほしいタイプの音楽です。

1stフルアルバム『Dead Brain Cells』('87年発表)は、初期VOIVODがハードコアパンクやスピードメタルのエッセンスとともに複雑に煮込まれたような作品で、その点において初期DEATHの作品を拡張深化させたような味を持っています。入り組んだ曲展開を構成するフレーズは捻りが効いたものばかりですが、過剰にこねくりまわして“考えオチ”になってしまうことは一切なく、単発でも映える“形のよさ”を備えています。演奏も大変優れており、間の活かし方が素晴らしいドラムスを土台に、凄まじい勢いと安定感を両立させた極上のアンサンブルを終始みせつけてくれます。ドラムス以外のメンバーにとっては初めてのプロフェッショナルなレコーディング作業だったようですが、Randy Burns(MEGADETHの2ndやDEATHの1stなどこのジャンルの重要作を数多く担当)のプロデュースにより、録音・音質も含めとても良い仕上がりになっています。

2nd『Universe』('89年発表)は、「世界初のメタル・コンセプトアルバム(PINK FLOYD『The Wall』のような)を作ろうと試みた」作品で
(こちらのインタビューhttp://allabouttherock.co.uk/interview-with-dbckill-of-rights-guitarist-eddie-shahini/参照:ちなみに、世界初のメタル・コンセプトアルバムと言われるQUEENSRYCHE『Operation:Mindcrime』はちょうど一年前の発表)、
「全体のテーマは科学的事実に基づいていて、最後の曲のみフィクションとし、未来の人類がどうなっているか描こうとした」という歌詞の面だけでなく、各曲〜アルバム全体が優れた構成のもと豊かな表現力を発揮しています。
VOIVOD(3rd・4thあたり)〜OBLIVEON(3rdあたり)ラインの暗黒浮遊感をスピードメタル〜ハードコアパンクの感覚で料理した、という感じの音遣いはもちろん、めまぐるしく変化しながらもとっちらかった印象が全くない作編曲が素晴らしい。バンドのリーダーEddie Shahiniは「各自が大量のパートを憶えられることがわかっていたため、アルバムは極めてテクニカルな仕上がりになった。1曲のなかでどれだけ多くのリフを演奏できているかということや、バンドがこういうジャズやクラシックの要素を持ったメタルスタイルに進化していったことを、人々に見せつけたかった」と言っていますが、テクニックの顕示欲が先立ってバランスが崩れてしまっている箇所は皆無で、どの曲も複雑になりすぎない美しい仕上がりになっています。そうした作編曲をかたちにする演奏は前作以上に見事で、どんなテンポでも極上のまとまりを示してくれています。しかもこのアルバムは音質が圧倒的に素晴らしい。80年代のハードロック・ヘヴィメタル全てをみても最高レベルのプロダクションがなされていて、もともと良い各パートの出音が驚異的な艶とクリアさをもって捉えられています。全ての面において完璧といえる作品。聴いたことのない方はぜひ手に取ってみることをお勧めします。

このような傑作を続けて発表し、それについて満足もしていたDBCですが、レビューなどで好ましい反応を得つつも、レコード会社のサポート不足などもあって売り上げは芳しくなかったようで、アメリカ合衆国へのプロモーションは不十分、ヨーロッパツアーは遂に実現しないという状況に苦しんでいたようです。
'90年にはCombat Recordsのためにデモを3曲録音し、それに納得しなかった会社の指示でさらに3曲を録音。その同時期に、当時人気が出てきたフォーマットであるミュージックビデオを作るために、契約した額以上の資金をレコード会社に要求したのですが、北アメリカの経済状況が良くなくなっていたこともあり、会社は契約を解除します。その後いくつかのレコード会社と話はしたものの、どれも実を結ばず、結局'91年に解散することになるのでした。

この時に録音された6曲のデモ音源は'02年に『Unreleased』として発表されています。
('94年に亡くなったオリジナル・ギタリストGerry Ouellete(持病の血友病のために輸血した血液からHIVに感染、AIDSを発症して逝去)の追悼盤という扱い。
版元のGaly Recordsはこのアルバムを出すために作られた会社で、
その後はMARTYRなどカナダ
アンダーグラウンドメタルの実力者を多く取り扱っています。)
バンド自身は『Universe』の内容に満足していたものの、それに対する評価を鑑みた上で「もっとわかりやすく印象的なものを作った方がいいのではないか」と考えたようで、2ndで培った複雑な音遣い感覚(OBLIVEONや初期GORGUTSなどに通じる薫りもある)を引き継ぎつつリズム構成などは幾分ストレートになっています。音作りはさすがにデモという感じで前2作と比べると見劣りしますが、曲や演奏はやはり見事で、Eddie自身も「いくつかの曲はバンド史上最も優れたものだと思う。自分はこの方向性が好きだった」と言っています。聴く価値のある作品です。

'91年の解散後、バンドは長く沈黙していましたが、'03年の大晦日にDaniel Mongrain(MARTYR・VOIVOD)を迎えた4人編成で単発のライヴをしたり、'05年からはマイペースなライヴ活動を続けており、新たな録音作品を発表してはいないものの、再結成をして順調に存続しているようです。2ndの一曲目「The Genesis Explosion」は携帯電話(“cell” phone)のCMに使われたりもしたようで(オリジナルのドラムスJeffのツテで、この曲を好きな広告代理店の担当者が話をもってきて決まったとのこと)、その携帯電話の名前を冠したショウもやるなど、意外なかたちでプロモーションする機会も得られている模様。仕事の傍ら行う活動としては、本活動時よりもむしろ恵まれているのかもしれません。この調子で新しい音源を製作してくれることを期待したいです。

なお、傑作である2枚のフルアルバムは、日本はおろか海外のamazonなどでも廃盤状態にあり、そこから買うことは難しいのですが、Eddie Shahiniが運営するバンド自身のホームページから容易に買うことができます。
http://www.dbcuniverse.com/merchandise/merchandise.html:それぞれ送料込みで20ドル、封筒にはEddie自身のサインが付きます)
また、そこまでしなくてもiTunesApple Musicで聴けるので、そこで何度か試し聴きしてみるといいでしょう。どちらも素晴らしい傑作です。